みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0002「いつか、あの場所で…」

2024-01-31 16:34:50 | 連載物語

 「初めの一歩(いーっぽ)」2
 彼女の噂は同級生の間ですぐに広がった。都会から美少女現る。好奇心いっぱいで他のクラスからも覗きに来る。それを追い返すのがゆかりの役目になってしまった。手際よくさばいていく。
 僕も他のクラスの奴につかまって、あんまりしつこく聞いてくるからつい…、「そんな騒ぐほどじゃないよ。あれは性格悪いかもな。勉強が出来て、可愛いっていうのを自慢しているだけさ。それに、ゆかりの機嫌取って上手く利用して、なに考えてるのか…」
「なんで、なんでそんなこと言うの。私はそんなこと考えてない!」
「……!!」彼女の突然の出現に、僕もつい口にしてしまった。心にもないことを…。
「なんだよ、転校生のくせに…」
 彼女は目を潤ませて僕を見つめる。僕は、言ってはいけないことを言ってしまった。
 彼女はそのまま走り去る。一部始終を見ていたゆかりが追いかける。僕に最後の一撃を喰らわせて。「あんたって最低!」
 すごい後悔。僕は完全に嫌われてしまった。何度か謝ろうとしたんだけど、まったく受け付けてくれなかった。<話し掛けないで。顔も見たくない>彼女の目が、そう訴えているように思えた。
 友達になる糸口もつかめないまま、時間だけが過ぎていく。そしてついに来てしまった。それは僕たちをさらに引き裂いた。席替え…。今まで隣同士だったのに、同じ班だったのに…。クジ引きという理不尽な方法で、僕は運にも見放された。彼女は窓側、僕は廊下側。彼女との距離は銀河系よりも遙か遠くに感じた。
 それから何日かして、僕は知ってしまった。とんでもないことを…。
 学校からの帰り道、彼女とゆかりが僕の前を歩いていた。ふとひらめいた。彼女が一人になったときがチャンスだ。彼女にちゃんと謝って…。
 僕は距離をとってついて行く。突然、ゆかりが振り向いた。慌てて帽子で顔を隠す。…見つかってしまったのは確かだ。僕はなおも後を追う。彼女たちは何か笑っているようだ。きっと僕のことだ。ここまで来て諦めるのは…。僕は迷っていた。その時、二人が立ち止まった。とっさに物陰に入る。…彼女がゆかりから離れていく。ゆかりは僕を見つけると、にやりと笑って手を振った。そして自分の家の方へ歩いていく。
 僕はまだ迷っていた。あのゆかりの笑顔が気になった。あいつがあんな顔をするときは絶対何かあるからだ。彼女の歩いていった道は僕の家の方だった。もう迷っている時間はなかった。どんどん彼女が離れていく。見失うわけにはいかなかった。
 僕は、思い切って走り出した。
<つぶやき>取り返しのつかないことって誰にもありますよ。そういう私にも…。
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1444「征服者」

2024-01-27 18:16:05 | ブログ短編

 私は遠(とお)い星(ほし)からこの地球(ちきゅう)を征服(せいふく)するためにやって来た。私が来てから、もう三百年過(す)ぎてしまった。本来(ほんらい)ならとっくに征服が完了(かんりょう)しているはずだった。それが、どうしてこんなことに…。
 我々(われわれ)は他(ほか)の生物(せいぶつ)に寄生(きせい)して生き延(の)びてきた。この地球でも、人間(にんげん)に寄生して種族(しゅぞく)を増(ふ)やして行く計画(けいかく)だった。それがどういうわけか、ちょっとした手違(てちが)いで別(べつ)の生物に寄生してしまった。そして、ほとんどの時間(じかん)を土の中で暮(く)らすはめになった。それが最近(さいきん)になって、ようやく地上(ちじょう)に出ることができたのだ。
 私は地上に出て驚(おどろ)いた。まったく様変(さまが)わりしているのだ。この星の環境(かんきょう)はどうなってしまったのか? 初めて見た地球はパラダイスに思えたのに、今は何の魅力(みりょく)も感(かん)じない。これは人間たちの仕業(しわざ)なのか。もしそうなら、人間はこの星で滅(ほろ)びる運命(うんめい)なのだろう。
 私は仲間(なかま)を捜(さが)すことにした。人間に寄生した仲間がどこかにいるはずだ。きっとそいつらはこの環境を戻(もど)すために働(はたら)いているに違(ちが)いない。私も早く合流(ごうりゅう)して…。
 しかし、この四つ足というのはどうにも動きにくい。早くなれないと他の生きものに食われてしまいそうだ。その時、私は上から押(お)さえ付けられ、何かが身体(からだ)に突(つ)き刺(さ)さった。そして、身体が宙(ちゅう)に浮(う)くのを感じた。次(つぎ)は、どうやら空(そら)を飛(と)ぶ生きもののようだ。
<つぶやき>少しずつ人間に近づいているかもね。仲間を見つけることができるといいね。
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0001「伝説・寿椅子」

2024-01-23 18:02:49 | 超短編戯曲

   ある会社の給湯室。新入社員の理恵に仕事を教えている女子社員の綾佳。
綾佳「ここが給湯室ね。お茶の葉とかコーヒーはこの棚にあって、湯呑みとかカップは後ろの食器棚に入ってるから」
理恵「はい」
綾佳「あと、分かんないことがあったら、いつでも訊いて。教えてあげるから」
理恵「あの…。私、何かしましたか?」
綾佳「何かって?」
理恵「だって、私の前に座ってる先輩が、怖い顔で私を見てるんです」
綾佳「ああ、お局様ね。(あたりを気にして小声で)亀山先輩に逆らっちゃダメよ。あの人に睨まれたら、地獄の底に突き落とされるから」
理恵「ええっ…、そんな。私、ちゃんと挨拶もしたし、なにも…」
綾佳「私が思うに、あなたの使ってる椅子が原因かもね」
理恵「椅子?」
綾佳「この会社には、寿椅子っていう伝説があってね。その椅子に女子社員が座ると、三ヶ月以内に恋人ができて、一年以内に寿退社できるって言われているの」
理恵「ほんとですか? そんなことあるはずないですよ」
綾佳「だって、一年くらい前にこの部署に来た子がね、昨日、寿退社したのよ。来週、結婚式を挙げるんだって」
理恵「え? でも、それは…」
綾佳「その子の椅子。いま、あなたが使ってるやつよ」
理恵「ええっ…」
綾佳「亀山先輩は、あなたの椅子を寿椅子だと思ってるのよ。きっと、狙ってたんだわ。今朝だって、いつもよりも早く出社してたし。でも…、どうして椅子を取り替えなかったのかな?」
理恵「あっ! 私、今朝、早く来すぎて、まだ誰もいなかったから、あの椅子に座って…」
綾佳「それ、ほんと?」
理恵「ええ。そしたら、亀山先輩が走り込んできて…。なんか、すごい顔で…」
綾佳「ああ、やっちゃったわね」
理恵「どうしよう…」
     突然、亀山が給湯室を覗き込んで、
亀山「いつまでかかってるの。早く仕事に戻りなさい。(理恵を睨んで)佐々木さん、早く一人前になってよね。でないと、私…」
     亀山、薄笑いをうかべて立ち去る。
理恵(慌てて)「私、今から椅子を取り替えてもらってきます」
綾佳「もう遅いわよ。伝説では持ち主になった人が寿退社しない限り、次の持ち主にはなれないらしいから」
理恵「そんなあ…」
<つぶやき>こんな椅子があったら、私も…。でも、これって神頼みですよね。
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1443「気になる娘」

2024-01-19 18:09:31 | ブログ短編

 僕(ぼく)には気になっている娘(こ)がいる。その娘(こ)のことがどうやら好(す)きになってしまったようだ。でも、彼女には彼氏(かれし)がいるのか? もしそうなら、告白(こくはく)なんてできない。さり気なく、彼女と親(した)しい同僚(どうりょう)に訊(き)いてみたが、どうもよく分からない。彼女はあまり自分(じぶん)のことを話さないようだ。
 そこで、これはいけないことと思いつつ、僕は会社(かいしゃ)を出た彼女をつけてみることにした。今日は金曜日(きんようび)だ。もし、彼氏がいるならデートの約束(やくそく)をしているはずだ。最悪(さいあく)、空振(からぶ)りだとしても、彼女が住(す)んでるところが分かるはずだ。別(べつ)に…、僕はよこしまなことなど考(かんが)えてはいない。彼女のことが知(し)りたいだけだ。
 彼女は駅(えき)の方へ向かっているようだ。人通(ひとどお)りが多くなると見失(みうしな)いかねない。僕は彼女との距離(きょり)を縮(ちぢ)めた。彼女が脇道(わきみち)に入った。僕は慌(あわ)てて追(お)いかけた。しかし、脇道に入ってみると彼女はどこにもいない。いったいどこへ消(き)えたのか?
 その辺(あた)りにはお店(みせ)などなかった。僕は目の前にある雑居(ざっきょ)ビルのプレートを見た。いくつかある会社名(かいしゃめい)の中に知っているものがあった。それは競合(きょうごう)している会社で、去年(きょねん)からいくつも顧客(こきゃく)を奪(うば)われていた。まさか、こんな近くに支店(してん)があるなんて…。
 僕はある考えが頭に浮(う)かんだ。そういえば、顧客が減(へ)り始めたのは彼女が入社(にゅうしゃ)してからだ。まさか、彼女が会社の情報(じょうほう)を流(なが)してたのか? 不意(ふい)に、彼女が僕の腕(うで)を強(つよ)くつかんだ。
「わたしもドジね。あんたにつけられるなんて…。ちょっと来て。話しがあるの」
<つぶやき>これはまずいんじゃないの? いったい彼はどうなってしまうのでしょう。
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0001「バー・マイロード」

2024-01-15 18:12:15 | 読切物語

 静かなジャズが流れるバーの店内。初老のマスターとアルバイトの孫娘が働いていた。ほとんどが常連の客ばかりで、落ち着ける雰囲気のある、隠れ家のような店である。
 今日は暇なようで、孫娘の真奈がカウンターの隅の席に座って、分厚い本を読んでいた。マスターは最後の客にウーロン茶を出すと、
「そろそろ、店仕舞いにしようか」と孫娘に声をかけた。
「はーい。じゃあ、表の看板、片付けてくるねぇ」真奈はそう言うと外へ出ていった。
「ちょっと見ないうちに、ずいぶんきれいになったね」ぽつりと客がつぶやいた。
「そうですかね。まだまだ子供ですよ」マスターはそう言って微笑んだ。
「僕が最後に会ったときは、まだ高校生じゃなかったかな」
「今は大学で、小難しい勉強をしているみたいですよ」
「そうか…。もうそんなに…」客は昔のことを思い出そうとしているのか、店内をぐるりと見回して、「もう三年か…。でも、この店はちっとも変わりませんね」
「そうですね。私とおなじで、変えようがありませんから」マスターは笑いながらそう言うと、一枚の写真を客の前に差し出した。
 写真を見て客の顔色が一瞬変わった。客はそっとその写真を手に取り、「幸恵…」とつぶやいて、「この写真は、あの時の…」
「はい。最後に奥さんとお見えになったとき、記念にと、お撮りしたものです。ずっと、お渡しすることができなくて」
「いつ来るか分からないのに、残しておいてくれてたんですか?」
「ええ、記念ですから」マスターはそう言うと、「また、お二人でおいで下さい」
 客は顔をくもらせて、「幸恵は、もういないんですよ」写真のなかで微笑んでいる妻をいとおしそうに見つめながら、「病気だったんです。この日は、入院する前の日で…」
「そうだったんですか。それは、失礼しました」
「入院して、一ヶ月もたたないうちに逝ってしまいました。また、この店に来ようって、約束してたんですがね」客は、悲しそうに笑みをうかべた。
 真奈が表の片付けを終えて戻ってくると、「おじいちゃん、今夜はきれいな月が出てるよ」そう言って、屈託のない笑顔をふりまいた。マスターは困り顔で、
「お客さんの前では、マスターと呼びなさい」と注意をして、カクテルを作り始めた。
真奈は「はーい。ごめんなさーい」と言って、客に笑顔を向けて、また本を読み始めた。
 客はしばらく写真を見つめていたが、残っていたウーロン茶を飲みほすと、「そろそろ、帰ろうか」とつぶやいて、立ち上がった。マスターは「もう少しだけ」と言って客を呼び止めて、カウンターにグラスを二つ並べて、作っていたカクテルを注ぎ入れた。
「僕は、アルコールは…」客がそう言うと、
「これは、店からのサービスです。奥さんのお気に入りでしたから…。ゆっくりしていって下さい。まだ、時間はありますから」
 心地よいジャズが流れる店内で、二人ですごした思い出が、心にあふれだしていた。
<つぶやき>心にしみる思い出をいっぱい残して、逝きたいものです。
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