みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0586「無料サービス」

2019-06-30 18:18:43 | ブログ短編

 一子(いちこ)はベッドに座(すわ)って電話を掛(か)けていた。やっとつながったらしく、彼女はまくしたてるようにしゃべり始めた。「ねえ、聞いてよ。あのね、陽介(ようすけ)のやつ、浮気(うわき)してるのよ。もう、ひどいと思わない――」
 相手(あいて)の声が、「その話、長くなるかな…。今、手が離(はな)せなくて、ごめん」
 唐突(とうとつ)に電話が切られた。これで、四人目だ。友達(ともだち)の誰(だれ)一人、彼女の話を親身(しんみ)になって聞いてくれる人はいなかった。一子は泣(な)きそうになった。
 その時だ。突然(とつぜん)、携帯(けいたい)が鳴(な)り出した。彼女は反射的(はんしゃてき)に電話に出た。電話の向こうからは聞き憶(おぼ)えのない男の声が、「あの、私でよかったら、お話、お聞きしますよ」
 一子は一瞬(いっしゅん)、息(いき)を呑(の)んだ。「あなた…、どなたですか? おかけ間違(まちが)えじゃ…」
「いえ、ちょっと聞こえちゃったもんですから。彼、浮気してるんですか?」
「ど、どうして…。あなた、まさか…、ストーカー? 盗聴(とうちょう)してるの!」
 彼女は部屋の中を見回(みまわ)した。電話の声は、「違(ちが)いますよ。盗聴なんか…。申(もう)し遅(おく)れましたが、私、あなた方に電波(でんぱ)と呼(よ)ばれているものです。今、あなたの携帯の中に――」
 一子は携帯を投(な)げ捨(す)てた。でも、彼女の頭の中に男の声が、
「ひどいなぁ。――もしよかったら、彼のことお調(しら)べしましょうか? もちろん、これは無料(むりょう)サービスになっております。ぜひ、ご利用(りよう)ください」
<つぶやき>あなたは利用しますか? でも電波が相手じゃ、何をされるか分かりません。
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0585「しずく32~イメージ」

2019-06-29 18:48:24 | ブログ連載~しずく

 神崎(かんざき)つくねは教室(きょうしつ)を飛び出すと、誰(だれ)にも悟(さと)られないように生徒(せいと)たちでざわついている廊下(ろうか)をすり抜(ぬ)けた。月島(つきしま)しずくが今どこにいるのか、つくねにもはっきりしたことは分からない。でも、彼女に危険(きけん)が迫(せま)っているという核心(かくしん)が、つくねにはあった。
 階段(かいだん)を駈(か)け降りて下駄箱(げたばこ)のところまで来ると、遅刻(ちこく)しそうで慌(あわ)てて駆け込んでくる数人の生徒に出くわした。つくねは彼らをやり過(す)ごすと、自分の靴(くつ)を持って――。
 このまま正門(せいもん)から出れば先生(せんせい)に見つかってしまう。学校から抜(ぬ)け出すためには…。この手のことは、つくねには容易(たやす)いことだった。この学校の間取(まど)りは、転校(てんこう)した時にすべて頭に入れてある。つくねは、何食(なにく)わぬ顔で職員室(しょくいんしつ)の前を通り過(す)ぎる。この時間、先生たちは授業(じゅぎょう)の準備(じゅんび)などで忙(いそが)しく、廊下を歩く生徒を気にするものは誰(だれ)もいない。
 つくねは誰にも見られないように、廊下の端(はし)にある美術室(びじゅつしつ)へ入って行った。ここの窓(まど)から外へ出れば、先生に見つかることなく学校の裏手(うらて)にある雑木林(ぞうきばやし)に抜(ぬ)けられる。つくねは美術室の窓(まど)を開けると外(そと)を見回した。誰もいないのを確認(かくにん)すると、持っていた靴(くつ)を外へ放(ほう)り投(な)げた。そして、窓の下に手をかけて飛び出ようとしたとき――。突然(とつぜん)、あの頭痛(ずつう)が始まった。つくねは窓の前で、うずくまってしまった。
 それは、一瞬(いっしゅん)のことだった。つくねの頭の中に浮(う)かんだイメージは、苦痛(くつう)でゆがんだしずくの顔――。つくねは思わず、しずくの名を呼(よ)んだ。
<つぶやき>しずくの身に、これから何が起こるのか…。つくねは彼女を助(たす)けることが…。
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0584「海賊島16」

2019-06-28 18:33:16 | ブログ短編

 三日後、連絡船(れんらくせん)の船上(せんじょう)に三人はいた。結局(けっきょく)、ずっと砂(すな)と格闘(かくとう)することになってしまった。今、いちばんホッとしているのは林田(はやしだ)である。やっとこれで帰ることができる。
 久美子(くみこ)は船の上から桟橋(さんばし)にいるケンちゃんに叫(さけ)んでいた。
「卒業(そつぎょう)したら戻(もど)ってくるから、それまで頼(たの)んだわよ!」
 あれからどうなったのか、伊集院(いじゅういん)も林田も教えてもらえなかった。まあ、恋(こい)の話など全く興味(きょうみ)のない伊集院にとってはどうでもいいことなのだが。
 船の汽笛(きてき)が鳴(な)って、ゆっくりと連絡船は桟橋を離(はな)れて行く。久美子も林田も、見送りに来ていた若者(わかもの)たちに手を振(ふ)っていた。短い間だったが、二人とも胸(むね)に込み上げてくるものがあった。伊集院だけは、手を振るでもなく、離れていく島を見つめていた。――いつまでも島を見つめている伊集院に、林田は言った。
「そんなに落(お)ち込むなよ。仕方(しかた)ないさ。お宝(たから)なんか、そう簡単(かんたん)に――」
「落ち込む? どうして落ち込まなきゃいけないんだ。この旅(たび)の目的(もくてき)は達成(たっせい)した」
「えっ? じゃ、お宝を…。まさか、見つけたんじゃないだろうな!」
「もちろん、見つけたさ。すごいお宝だったよ」
「どこにあるんだ。俺(おれ)にも見せてくれよ。その権利(けんり)は、俺にもあるはずだ」
「あのお宝は、あの島にあるからお宝なんだ。あそこから持ち出したら価値(かち)はなくなるよ」
<つぶやき>どういうこと。いつ見つけたのよ? こんな結末(けつまつ)なんて…。納得(なっとく)できない。
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0583「海賊島15」

2019-06-27 18:37:28 | ブログ短編

「あのさ、ちょっと黙(だま)っててくれないかな。俺(おれ)は久美(くみ)ちゃんと…」
 リーダーは伊集院(いじゅういん)に向かって言った。伊集院は両手(りょうて)を上げてそれに答える。この頃(ころ)には、リーダーの後ろの方に若者(わかもの)たちがぞろぞろと姿(すがた)を現(あらわ)していた。
 伊集院は、彼らに向かって叫(さけ)んだ。「オイ、君(きみ)たち! ちょっと手伝(てつだ)ってくれないか。ここを平(たい)らにしたいんだ――」
 伊集院はそう言いながら、若者たちの方へ歩いて行った。残(のこ)された林田(はやしだ)は、久美子(くみこ)と見知らぬ男の顔を見比(みくら)べて…。いくら林田でも、ここにいちゃいけないことは理解(りかい)したようだ。伊集院の後を追(お)いかけて駆(か)け出した。久美子はスコップを手に取ると砂(すな)をかきながら、
「ねえ、ケンちゃん。約束(やくそく)、覚(おぼ)えてる? あたしがこの島を出るとき…」
「もちろん、覚えてるさ。だから、この島で待ってたんじゃないか」
「うそよ。じゃあ、これはなに?」久美子は砂浜(すなはま)を見渡(みわた)して、「こんなにしちゃって…。あたし、言ったよね。戻(もど)ってくるまで、この美しい島を守(まも)ってねって。それなのに…」
「それは…。でも、この島を守るには金がいるんだ。金を稼(かせ)ぐには――」
「それは分かるけど、あなたのやり方じゃ…。全然(ぜんぜん)、ダメでしょ!」
 伊集院は、離(はな)れた場所(ばしょ)から二人の様子(ようす)を見つめていた。林田が呟(つぶや)いた。
「あの二人、どういう関係(かんけい)なんだ? お前、いいのかよ。二人だけにして」
「だから、俺とあの娘(こ)とは何の関係もない。何度も言ってるだろ。いい加減(かげん)――」
<つぶやき>何かをなしとげるためには努力(どりょく)が必要(ひつよう)だよね。でも、やり方を間違(まちが)えると…。
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0582「海賊島14」

2019-06-26 18:58:51 | ブログ短編

 リーダーは久美子(くみこ)の前まで来ると言った。「なあ、お前って、久美(くみ)ちゃんだろ?」
 久美子は立ち上がって、しばらく黙(だま)っていたが、「そうよ。やっと気づいた?」
 二人の様子(ようす)を窺(うかが)っていた伊集院(いじゅういん)が口を挟(はさ)んだ。
「なるほど。これでやっとわかったよ。どうして君(きみ)が、俺(おれ)のことを誘(さそ)ったのか」
「ちょっと待てよ」林田(はやしだ)は話が分からずに、「どういうことだ? お前ら、やっぱり――」
 久美子と伊集院は同時に答えた。「付き合ってません!」「付き合ってないよ!」
 林田は口を閉(と)ざすしかなかった。伊集院は話を続けた。
「君がなぜ、俺をこの旅行(りょこう)に連れ出したのか。ずっと疑問(ぎもん)だったんだ」
 久美子は、「あたしは、そんなことしてないわ。変なこと言わないで」
「でも君は、俺にこの島の観光案内(かんこうあんない)のパンフレットを見るように仕向(しむ)けた。俺が、いろんな財宝(ざいほう)について調(しら)べていることを知ってね。俺がパンフレットを手にしたとき、君の方から声をかけてきたんだ。『わぁ、きれいな海ねぇ。あたしも、行ってみたいぃ』ってね」
「あたし、そんなふうに言ってないでしょ。それじぁ、まるで――」
「そうだ。君はそんな尻軽(しりがる)女じゃないはずだ。いくら同じ大学の学生(がくせい)でも、俺みたいな変人(へんじん)に声をかけるはずがない。だから、俺は君の誘(さそ)いに乗(の)ってみることにしたんだ」
<つぶやき>えっ、そうなの? 何か急に話の展開(てんかい)が…。いよいよ最終回へと舵(かじ)を向け…。
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