みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0558「偽りの仮面8」

2019-05-31 19:04:03 | ブログ短編

 主人(しゅじん)は息子(むすこ)のえり首(くび)をつかむと言った。「お前は、この女と、どういう関(かか)わりがあるんだ」
 息子はその手を振(ふ)りほどき、「あんたには関係(かんけい)ないだろ。この人は、俺(おれ)を助(たす)けてくれたんだ。真面目(まじめ)に働(はたら)けって言ってくれた。それに、借金(しゃっきん)だって肩代(かたが)わりしてくれて――」
「借金だと…、お前もか。何だってこの女に!」
 女は立ち上がって、息子の背(せ)を押(お)すようにして言った。
「さあ、もう行きなさい。時間に遅(おく)れたら大変(たいへん)よ。せっかくあなたを雇(やと)ってくれたのに」
「ああ、そうだね。めぐみさんには感謝(かんしゃ)してるよ。俺、ちゃんとやり直(なお)すから」
 息子はそう言うと、後ろを振り向くこともなく、バッグを抱(かか)えて家を飛(と)び出していった。主人は怒(いか)りで身体(からだ)を震(ふる)わせて女を睨(にら)みつける。女は平然(へいぜん)としてソファに座(すわ)ると、
「さあ、これでゆっくりお話しができるわ。どうぞ、お座りになって」
 主人は女の前に座ると、「お前は一体(いったい)、何なんだ。何のためにこんなことを…。俺に何の恨(うら)みがあるって言うんだ。派遣(はけん)社員でうちへ来たとき、目をかけてやったのは俺だぞ。愛人(あいじん)にしたのだって、お前のほうから誘(さそ)ってきたんじゃないか。それなのに――」
「そうね。――あたし、あなたに会ったことあるのよ。もう、十年前になるかしら」
 女は口元(くちもと)に微笑(ほほえ)みを浮(う)かべたが、その視線(しせん)は震(ふる)え上がるほど冷(つめ)たいものだった。
<つぶやき>この二人は過去(かこ)に何があったのでしょう。そして、この家族(かぞく)の運命(うんめい)はいかに。
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0557「偽りの仮面7」

2019-05-30 18:31:00 | ブログ短編

 主人(しゅじん)は苦虫(にがむし)をかみつぶしたような顔をした。妻(つま)は立ち上がりキッチンの方へ駆(か)け込んで行く。――しばしの沈黙(ちんもく)。女は何を考えているのか、窓(まど)から庭(にわ)の方を眺(なが)めていた。その時、二階から階段(かいだん)を駆け下りて来る足音(あしおと)が聞こえた。どうやら、ここの息子(むすこ)のようだ。
 息子はリビングに父親(ちちおや)が立っているのを見て、思わず立ち止まった。そしてふて腐(くさ)れるように呟(つぶや)いた。「何だ、まだいたのかよ」
 父親は息子に八つ当(あ)たりするように、「何だ、その言い方は! 毎日ぶらぶらして、大学(だいがく)へは行ってるのか? 今度留年(りゅうねん)したら、もう金は出してやらんぞ」
 息子は、持っていた大きなバッグを床(ゆか)に放(ほう)り出して言った。
「もういいよ。俺(おれ)、この家を出て行くんだ。仕事(しごと)も自分(じぶん)で見つけたから」
「何だと…。ふん、お前みたいな怠(なま)け者を雇(やと)ってくれるところがあるとはな。出て行きたければ出てけ。せいぜいクビにならないように――」
 息子はソファで背(せ)を向(む)けて座(すわ)っている女に気がついて、ちょっと驚(おどろ)いた顔をする。それを見た父親は、「お前、この女を知ってるのか?」
 今まで外(そと)を見ていた女が振(ふ)り返った。その顔には慈愛(じあい)の微笑(ほほえ)みが浮(う)かんでいた。息子は女の方へ駆け寄って言った。「めぐみさん、どうしてここに?」
「あなたのことが心配(しんぱい)になってね。もう大丈夫(だいじょうぶ)よ。お父(とう)さまにちゃんとお話ししたから」
<つぶやき>この女、息子とも関係(かんけい)があるのか? 一体(いったい)これは、どうなってるんでしょう。
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0556「偽りの仮面6」

2019-05-29 18:40:01 | ブログ短編

 主人(しゅじん)は女の顔を睨(にら)みつけて、ゆっくりとソファに座(すわ)った。そして、女を脅(おど)すように、
「お前の目的(もくてき)は何だ? 何のためにここへ来たんだ!」
 女は主人を睨み返して艶(なま)めかしい声で、「すぐに分かるわ。そんなに慌(あわ)てないで」
「どいつもこいつも、女って奴(やつ)は…。お前もそうだ。俺(おれ)が、お前にどれだけ金を使ったか分かってるのか。それを――」
「そのお金は、有効(ゆうこう)に使わせてもらったわ」女は妻(つま)の方を見て言った。
「まさか、そのお金をこいつに…。まったくお前って女は――」
「あなたも楽(たの)しんだじゃありませんか。何人もの女性と夜を共(とも)にして…」
 主人は怪訝(けげん)そうな顔をする。すかさず女が笑(わら)いながら言った。
「あなた、まさか自分(じぶん)が女性に好(す)かれてるなんて思ってないでしょうね。おかしいわ、そんなはずないじゃありませんか。あたしが、後腐(あとくさ)れの無(な)い女をあてがってあげたのよ」
「何を言ってるんだ。――あれは全部(ぜんぶ)、お前が仕向(しむ)けたって…」
「そうよ。あなた好(ごの)みの女性を探(さが)すのは大変(たいへん)だったのよ。おかげでずいぶん稼(かせ)がせていただいたわ。でも、そろそろ限界(げんかい)なんじゃない。会社(かいしゃ)の――」
「黙(だま)れ! 俺をよくも欺(だま)してくれたな。このままですむと思うな。訴(うった)えてやる」
「あら、あたし、お金を要求(ようきゅう)したことなんて一度もないわよ。これって罪(つみ)になるのかしら」
<つぶやき>一体(いったい)、何人の愛人(あいじん)にお金を貢(みつ)いだのでしょう。お金で愛なんて買えないのに。
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0555「しずく26~帰宅」

2019-05-28 18:29:47 | ブログ連載~しずく

 夜中(よなか)の十二時をまわっていた。月島(つきしま)しずくはどこをどう歩いたのか、やっと家の前までたどり着(つ)いた。家の中は電気(でんき)が消えていて真っ暗(くら)である。玄関(げんかん)の外の電灯(でんとう)が小さく灯(とも)っているだけ。
 しずくは小さなため息(いき)をつくと、玄関の鍵(かぎ)を開けて家の中へ入った。こんなに遅(おそ)くなったのだ。両親(りょうしん)に怒(おこ)られることは覚悟(かくご)していたが、誰(だれ)も私のことを待ってないなんて…。
 靴(くつ)を脱(ぬ)いで上がろうとしたとき、玄関の電気がついた。まぶしさに、しずくは目を細(ほそ)める。目の前に立っていたのは、不機嫌(ふきげん)そうな顔をした神崎(かんざき)つくね。しずくは驚(おどろ)いて、
「えっ、どうして…。何で、私が帰ってきたの…。あっ、待っててくれてたの?」
「そんなわけないじゃない。ずいぶん遅かったのね。今まで何してたの?」
「それは…。ちょっとね、いろいろあって…」
「そう。別に、あたしにはどうでもいいことだけど。明日も学校があるんだから、早く寝ないと起きられないわよ。遅刻(ちこく)しても知らないから」
 つくねはそのまま自分の部屋へ行ってしまった。しずくは、ひとり呟(つぶや)いた。
「なに怒ってるのよ。いやな感じ。――もう、今日は何て日なの…」
 その夜、しずくはなかなか眠れなかった。ベッドの中で何度も寝返(ねがえ)りをうちながら、いろんなことが頭の中を駆(か)けめぐっていた。それでも、明け方ごろにはウトウトとしたようだ。でも、弟(おとうと)に手荒(てあら)く起こされて、いつも通りの朝を迎(むか)えた。
<つぶやき>遅くなる時は、ちゃんと家の人に連絡(れんらく)をいれましょう。心配(しんぱい)してるんだから。
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0554「偽りの仮面5」

2019-05-27 18:24:45 | ブログ短編

「一千万?!」主人は顔を真っ赤にして言った。「そんな金、何に使ったんだ! お前は、俺(おれ)が拾(ひろ)ってやったのに、その恩(おん)を仇(あだ)で返すとは――」
 主人(しゅじん)は妻(つま)を殴(なぐ)り倒(たお)した。妻は叩(たた)かれた頬(ほお)を押(お)さえながら、
「何よ! あなたは、私のことなんか愛(あい)してないじゃない。お金にものをいわせて、私のことを…。それでも私、あなたのために尽(つ)くしてきた。だけど――」
「尽くすのは当たり前だろ。俺の足を引っぱるようなまねをするんじゃない!」
 女は二人のやり取りを、無表情(むひょうじょう)な顔で傍観(ぼうかん)していた。止める気などまったくないようだ。妻は、やけになり夫(おっと)をソファに押し倒して、
「あなたには、家族(かぞく)なんてどうでもいいのよ! 私、知ってるのよ。――あなた、若い女を囲(かこ)ってるんでしょ。忙(いそが)しいと言いながら、よその女と…」
「うるさい! 俺が外(そと)で何をしようと、お前が口を出すことじゃない」
 女がぼそりと呟(つぶや)いた。「そうですね。あちこちにお付き合いがおありのようですから」
 夫婦(ふうふ)は、ここに他人(たにん)がいることに改(あらた)めて気がついた。妻は首(くび)をかしげながら女に言った。
「どうして? あなた、どうして、そんなことを知ってるの?」
 女はわずかに微笑(ほほえ)むと、「あら、意外(いがい)だわ。もうご存知(ぞんじ)だとばかり思ってたのに。あたし、この人の愛人(あいじん)のひとりなんです」
 妻はその場にへたり込んだ。まさか、愛人からお金を借(か)りているなんて…。
<つぶやき>この女はどこまでこの家族と絡(から)んでるのよ。最初に出てきた女子高生も…。
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