彼が目を覚(さ)ますと、海(うみ)の上にいた。なぜこんなところに…。彼は考えた。そういえば、昨夜(ゆうべ)、酔(よ)っ払ってボートに乗り込んだのをかすかに覚(おぼ)えている。きっと、乗り込んだ時にとも綱(づな)が外(はず)れて、沖(おき)へ出てしまったのかもしれない。しかし、そんなことあり得(え)るのか?
回りを見回しても陸地(りくち)は見えない。どこまでも海が広がっている。太陽(たいよう)は容赦(ようしゃ)なく照(て)りつけ、彼は無性(むしょう)に喉(のど)の渇(かわ)きを感じていた。水が飲(の)みたい!
彼は鞄(かばん)の中からペットボトルを取り出した。しかし、中身(なかみ)は入っていなかった。喉の渇きはますます激(はげ)しくなってきた。彼は、海水をペットボトルに汲(く)み取った。彼の理性(りせい)は完全(かんぜん)に失(うしな)われていた。彼は汲み取った水を口にした。
だが、どうだろう。その水は塩辛(しおから)いはずなのに、彼には甘(あま)く感じてしまった。彼の身体(からだ)がおかしくなってしまったのか――。彼は、汲んだ水を一気(いっき)に飲み干(ほ)した。
彼は満(み)ち足(た)りたのか、いつの間(ま)にかまた眠(ねむ)り込んでしまった。
次に目覚(めざ)めたとき、彼は大きな水槽(すいそう)の中にいた。辺(あた)りを見回すといろんな魚(さかな)が泳(およ)ぎ回っている。これは、一体(いったい)どういうことなのか…。彼は、自分も魚のように泳いでいるのに気がついた。俺(おれ)は、魚になってしまったのか――。
彼はパニックになって、めったやたらに泳ぎ回った。回りの魚を蹴散(けち)らして、とうとう彼は水槽に激突(げきとつ)した。薄(うす)れていく意識(いしき)の中、彼は水槽の向こう側に自分の姿(すがた)を見つけた。
<つぶやき>これは夢かうつつか…はたまた幻(まぼろし)か…。彼はどこへ流れ着くのでしょうか?
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