みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0731「借りたがる女」

2019-11-30 18:18:19 | ブログ短編

「わぁ、その帽子(ぼうし)、素敵(すてき)じゃない。あなたにとっても似合(にあ)ってるわ」
「そお? ありがとう。そんなに良いかなぁ」
 友だちにほめられるのは、ちょっと嬉(うれ)しいよね。でも、その友だちは――。
「ちょっと、あたしにもかぶらせて。ねえ、いいでしょ?」
 私は言われるままに彼女に帽子を渡(わた)してしまった。彼女はまるでモデルにでもなったようにポーズをとりながら、「どお? 似合ってるかしら?」
「ええ、とっても。すごく良いと思うわ」
「ありがとう! じゃあ…、これ、あたしに貸(か)してくれない? ねえ、いいでしょ」
「ええ…。でも、それ買ったばかりだし…」
「いいじゃない、あたしたち友だちでしょ。ねえ、おねがい!」
 彼女は懇願(こんがん)するよに私を見つめた。そして私が迷(まよ)っていると見ると、すり寄(よ)ってきて、
「じゃあ、今日はあなたが使っていいわ。明日は、あたしね。その帽子に似合うお洋服(ようふく)を着てくるから、楽しみにしてて」
 こんなことまで言われたら、ますます断(ことわ)れなくなってしまった。彼女は帽子を私に返すと、私の方を見てニッコリ笑ってさらに続けた。
「昨日、一緒(いっしょ)にいたのってあなたの彼氏(かれし)よね。とっても素敵な人じゃない。あたし――」
「ダメよ、ぜったいダメだからね! 私の大切(たいせつ)な人なんだから」
<つぶやき>友達だから何でも貸(か)し借(か)りできる、ってわけじゃないよね。こればかりは…。
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0730「しずく61~存在削除」

2019-11-29 18:46:15 | ブログ連載~しずく

 神崎(かんざき)つくねは学校では友だちを作ることはしなかった。同じ場所(ばしょ)に何時(いつ)までいられるか分からないし、それに友だちがいるとそれが足かせになる場合(ばあい)があるからだ。それだからだろう、つくねが教室(きょうしつ)に入ってきても声をかける生徒(せいと)は誰(だれ)もいない。
 教室の中はいつもと変わらなかった。生徒(せいと)の一人が焼死(しょうし)していることになっているのに、悲(かな)しんでいる様子(ようす)は微塵(みじん)も感じられない。さらに、しずくが使っていた机(つくえ)は水木涼(みずきりょう)が使っていた。さり気なく、つくねは涼に聞いてみた。すると涼は、
「しずくってだれ? 私、ずっとこの席(せき)だったでしょ。変なこと言わないでよ」
 こう言われてしまっては、つくねもそれ以上(いじょう)は何も訊(き)けなかった。同じことが職員室(しょくいんしつ)でもあった。柊(ひいらぎ)あずみが手にした出席簿(しゅっせきぼ)にはしずくの名前(なまえ)が消(き)えていて、在校(ざいこう)していた記録(きろく)すら残(のこ)ってはいなかった。
 昼休みになって、校舎(こうしゃ)の屋上(おくじょう)にあずみとつくねの姿(すがた)があった。つくねがため息(いき)まじりに呟(つぶや)いた。
「しずくのこと、誰(だれ)も覚(おぼ)えてないみたい。いないことにされちゃうなんて…」
「能力者(のうりょくしゃ)の仕業(しわざ)ね。記憶(きおく)が操作(そうさ)されているんだわ。ここまでやるなんて、あいつらはしずくを完全(かんぜん)に消したがっているんだわ。今のうちに何か手を打たないと」
「あたし、ちょっと気になる娘(こ)がいるんだけど、あの石(いし)で確(たし)かめてみてもいいかしら?」
「それはいいけど…。でも、あなた一人では危険(きけん)よ。私も一緒(いっしょ)の方がいいわ」
<つぶやき>気になる娘って誰でしょう? 敵(てき)の姿(すがた)をつかむことができるのでしょうか。
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0729「願望」

2019-11-28 18:24:40 | ブログ短編

 心地(ここち)よい眠(ねむ)りから私は目覚(めざ)めた。朝日(あさひ)がさんさんと射(さ)し込んで――。私はぎょっとして枕元(まくらもと)の目覚(めざ)まし時計をつかんだ。何でこんな時間に! 私は思わず叫(さけ)んだ。階段(かいだん)を転(ころ)がるように駆(か)け下りると、妹(いもうと)が美味(おい)しそうに朝食を食べていた。私は妹に言った。
「何で、起こしてくれなかったのよ。もう、遅刻(ちこく)しちゃうじゃない!」
 妹はトーストを頬張(ほおば)りながら、「声はかけたわよ。お姉ちゃんが起きなかったんじゃない」
 私はあたふたとしながら気がついた。そうだ、私にはあれがあったんだ。それを使えば遅刻することは絶対(ぜったい)にあり得(え)ない。――私は優雅(ゆうが)に食卓(しょくたく)についた。そんな私を見て妹は、
「のんびりしてていいの? 今度遅刻したら…」
「あら、大丈夫(だいじょうぶ)よ。私にはタイムストッパーがあるから。時間を止めてる間に学校へ行けば、何の問題(もんだい)も無(な)いわ」
「そう。でも、時間を止めるってことは電車(でんしゃ)も止まっちゃうってことだよね。どうやって学校まで行くのかしら? 大変(たいへん)そう…、あたしにはムリだわ」
 私はハッとした。妹は食べ終わって、カバンを手に出かける姿勢(しせい)。私は妹の腕(うで)をつかんで、「ちょっと待った! 一人で行くなんてずるいわよ。10分だけ待ってて!」
「いやよ。電車に間に合わなかったらどうすんのよ。お姉ちゃんと一緒(いっしょ)に遅刻なんて――」
「大丈夫よ。私には奥(おく)の手があるんだから。瞬間移動(しゅんかんいどう)すれば、あっという間(ま)よ」
<つぶやき>意味(いみ)分かんないです。でも、もしそんなことができたら、良いと思いません?
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0728「ここで言う?」

2019-11-27 18:21:55 | ブログ短編

 ベッドの中で男が呟(つぶや)いた。「ほんとまいるよ。娘(むすめ)にあんなこと言われちゃ」
 隣(となり)に寝(ね)ていた女がうんざりした顔で答えた。「なに言われたのよ?」
「お父(とう)さんの下着(したぎ)と一緒(いっしょ)にしないで、だって。それに俺(おれ)がちょっと近づこうものなら、それ以上(いじょう)そばに来ないで。もしハグとかしたら口利(くちき)かないからね」
「ああ、それ分かる気がする。あたしも、そうだったかも…」
「小さい頃(ころ)はさ、俺(おれ)にしょっちゅう抱(だ)きついて来てたのにさ。ほんと、へこむよ」
「あのさ、ここで、そういうこと言わないでほしいんだけどなぁ」
「あ、ごめん。もう、どうしていいか分かんなくてさ。年頃(としごろ)の娘とどう接(せっ)したら――」
「だから、やめてよ。あたしは、あなたの奥(おく)さんじゃないんだからね」
「でも歳(とし)は近いじゃないか。だから、そこんとこ、どうなのかなって…」
 女は突然(とつぜん)ベッドから出ると男に言った。「今日は帰って、お願(ねが)いだから」
 男は起き上がると困(こま)った顔をして、「えっ、どうしたんだよ。今日は出張(しゅっちょう)だって言ってあるから、こんな時間に帰ったらうちの奴(やつ)が変に思うだろ。なあ、機嫌直(きげんなお)してくれよ。そうだ、君が欲(ほ)しがってたあれ、買ってあげるからさぁ。なあ、頼(たの)むよ」
「それ、ほんと…。ほんとに買ってくれるの? 嬉(うれ)しい! ありがとう」
「そうだ。うちの娘にも同じのを買ってやろう。そしたら、きっと――」
<つぶやき>これはダメでしょ。そんなことしてると、娘さんにますます嫌(きら)われちゃうぞ。
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0727「営業の人」

2019-11-26 18:18:50 | ブログ短編

 私の前に座(すわ)っている人。この人、私が勤(つと)めてる所で、最近取引(とりひき)を始めた会社の営業(えいぎょう)の人なんだけど――。どういうわけか、あちこちで顔を合わせることがあって…。それも、プライベートのとき。スーパーとか、行きつけのお店(みせ)、それに駅(えき)のホームとか…。まるで、私のことつけてるみたいに。今日だって、喫茶店(きっさてん)でお茶(ちゃ)してるとき声をかけられた。
 その人は、人なつっこい笑顔(えがお)で私の前の席(せき)にするりと座(すわ)り込んで、私にこう言ったの。
「よくお目にかかりますね。私、この辺(あた)りを営業(えいぎょう)で回っておりまして」
 私は〈あっちへ行ってよ〉とも言えなくて、「ああ、そうなんですか…」と答(こた)えた。
「これも何かの縁(えん)ですね。もし、何かお困(こま)りごとがありましたら何時(いつ)でもおっしゃって下さい。私共(わたくしども)では、企業(きぎょう)だけでなく個人(こじん)のご依頼(いらい)も承(うけたまわ)っておりますので」
 その人は名刺(めいし)を私に差(さ)し出して、「もちろん秘密厳守(ひみつげんしゅ)です。どんなことでもお引き受け致(いた)します。あ、でも法律(ほうりつ)に触(ふ)れることはお断(ことわ)りすることになりますが」
「ああ、そうですか…。でも、私は別に、そういうのは…」
「そうですか、それは何よりです。私共では、女性の方からのご依頼もけっこうありまして。もしものときはご連絡(れんらく)下さい。私共では、アフターサービスを重視(じゅうし)しておりまして、最後(さいご)まで責任(せきにん)を持ってやらせていただきます。きっとご満足(まんぞく)していただけると…」
 私は、その人に見つめられて、思わず言ってしまった。「実(じつ)は、私、困ってることが…」
<つぶやき>見つめるだけで仕事(しごと)を取るなんてすごいです。でも、何の営業なんでしょ?
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