みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0850「しずく85~洞窟」

2020-03-31 18:14:14 | ブログ連載~しずく

 暗い洞窟(どうくつ)の中――。誰(だれ)もいないのにランプの灯(あか)りがともっていく。洞窟の入口の方から声が響(ひび)いてきた。それは、あの双子(ふたご)の姉妹(しまい)だ。男たちがやって来たのに気づいて、そっと家を抜(ぬ)け出して来たのだ。二人は洞窟に灯りがついているのに気づいて声をひそめた。
「灯りがついてるわ。誰かいるんだわ。アキ、私から離(はな)れないで…」
「ハル…、さっきの連中(れんちゅう)の仲間(なかま)かな? どうしてここが分かったのよ」
 二人は足音(あしおと)を忍(しの)ばせて、ゆっくりと注意深(ちゅういぶか)く洞窟の奥(おく)へ入って来た。いつも彼女たちがベンチとして使っていた岩(いわ)の上、そこにランプに照(て)らされて白いものが――。二人は目をこらして、それが何なのか確(たし)かめようとした。ふと、アキが呟(つぶや)いた。
「あれ…、お姉(ねえ)さんじゃない? きっとそうよ」
 アキは思わず駆(か)け出した。ハルが止める間(ま)もなかった。仕方(しかた)なくハルも後を追(お)った。二人が駆け寄ると、確(たし)かにそれは姿(すがた)を消(け)したしずくだった。ハルはしずくの身体(からだ)に触(ふ)れてみる。アキは、訳(わけ)が分からず騒(さわ)ぎ出して言った。
「どうして、どうしてここにいるのよ。誰が連(つ)れて来たの? これは、どういうことよ」
 ハルはアキの手をつかんで、「静(しず)かにして。大丈夫(だいじょうぶ)よ、お姉さんは寝(ね)てるだけだから。何も心配(しんぱい)ないわ。でも、良かったわ。あの家には置(お)いておけないもの」
 二人は、しずくの顔を覗(のぞ)き込んだ。その時、かすかにしずくの口元(くちもと)が動いたようだ。
<つぶやき>しずくが目を覚ますのか? そろそろ起きてもらわないと、次の展開(てんかい)へ…。
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0849「どんな味?」

2020-03-30 18:21:40 | ブログ短編

 彼は、彼女に言った。「お願(ねが)いだ。一度、試(ため)してみたいんだ。いいだろ?」
 彼女は突然(とつぜん)のことに動転(どうてん)したが、きっぱりと断(ことわ)った。彼は諦(あきら)めきれないようで、
「どうしてだい? そんなに難(むずか)しいことじゃないだろ。一度でいいんだ、頼(たの)むよ」
「何で、あたしにそんなこと頼むのよ。あたし、そんな、軽(かる)い女じゃないわ」
「いや、僕(ぼく)は、君が軽い女だなんて思ってないよ。ただ、どんな味(あじ)がするのか確(たし)かめてみたいんだ。僕が調(しら)べた限(かぎ)りでは、今はイチゴ味らしいんだよね」
「そ、そんなこと知らないわよ。それに、あたしたち、付き合ってるわけじゃないでしょ」
「別に付き合ってなくても…。ほら、外国では挨拶(あいさつ)みたいなもんだろ?」
「はぁ? なに言ってるのよ。ここは日本です」
「ほんとにダメなの? そうか…、なら、誰(だれ)か他の人に…」
「それはダメでしょ。――ならいいわよ。あたしのこと、好きって言ってくれたら…」
「えぇ…、どうしても言わなきゃダメ?…分かった。僕は、君が…好きだ。大好きだ!」
 彼女は速攻(そっこう)で、彼にキスをした。彼は、一瞬(いっしゅん)、我(われ)を忘(わす)れたようだ。彼女は彼に訊(き)いた。
「どう? あたしの、キスの味は…。イチゴ味だった?」
 彼はしばらく考えていたが、「これは…、イチゴというよりも、餃子(ギョーザ)…かな?」
 彼女は顔を赤くして、「なに言ってんのよ。もう、二度としてあげないから!」
<つぶやき>彼女の昼食は中華(ちゅうか)だったのかも。でも、この二人、好意(こうい)を持ってますよね。
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0848「押しかけ」

2020-03-29 18:20:08 | ブログ短編

 昨夜(ゆうべ)は一睡(いっすい)もできなかった。原因(げんいん)は、今、ソファーで寝息(ねいき)をたてている女の子だ。
 ――昨日(きのう)のことだ。僕(ぼく)は行きつけのお店(みせ)で夕食をとり自分のアパートに戻(もど)ってきた。部屋に入りドアを閉めようとしたとき、誰(だれ)かがドアを押(お)さえて思いっ切り引っ張(ぱ)った。僕はあやうく倒(たお)れそうになってしまった。
 ドアの外(そと)にいたのが彼女で、僕のまったく知らない人だ。彼女はにっこり微笑(ほほえ)むと、
「あたし、さっきのお店でたまにあなたを見かけるのよ。あなたって、とっても真面目(まじめ)そうで、優(やさ)しい人って感じがしたから、ついて来ちゃった」
 突然(とつぜん)こんなことを言われて、僕は慌(あわ)ててしまった。しどろもどろになっている僕を押しのけて、彼女は部屋に上がり込んで行く。僕は彼女を止めようと追(お)いかけた。
「ちょっと待ってよ。えっ、誰(だれ)なの? 勝手(かって)に…」
 彼女はソファーにどっかり座(すわ)ると、ホッとしたような小さな溜息(ためいき)をついて、
「いいじゃない、一晩(ひとばん)だけ泊(と)めてよ。朝になったら出て行くから…。あなたって、そういうことしないタイプでしょ。あたし、そういうの分かっちゃうんだ」
「いや、でも…。それは…」僕はどうしたらいいのか、こんなこと初めてで…。
「彼のとこにいたんだけど、喧嘩(けんか)しちゃって…。もうムリだと思うんだ。だから、飛び出して来ちゃったの。あなたに迷惑(めいわく)はかけないから…。ここに寝(ね)かせて――」
<つぶやき>突然(とつぜん)現れた女の子。もしかして、彼女はこのまま居座(いすわ)るかもしれませんよ。
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0847「芋掘り」

2020-03-28 18:16:46 | ブログ短編

 仲(なか)の良い女友だち数人で芋掘(いもほ)りに出かけた。行楽気分(こうらくきぶん)でいたみんなは、その仕事(しごと)のきつさに根(ね)を上げてしまった。これはもう、遊(あそ)びなんかじゃ――。
「ねえ、どういうこと。イチゴ狩(が)りとか、ぶどう狩りとか、そんな感じじゃなかったの?」
「そうよ、これじゃ、肉体労働以外(にくたいろうどういがい)のなにものでもないわ」
「ほら、あれを見て。言い出しっぺの綾乃(あやの)…。何か一人だけ楽(たの)しそうなんですけど」
「ねえ、あの隣(となり)にいる青年(せいねん)って誰(だれ)よ。あの娘(こ)に農家(のうか)の知り合いなんていたの?」
「ほんと、楽しそうよね。まるで恋人同士(こいびとどうし)にしか見えないわ」
 その時、農家のおじいさんから怒鳴(どな)り声が飛んだ。「何しとる! 日が暮(く)れちまうぞ!」
 これを聞いて、綾乃がみんなの方へ駆(か)け寄りながら叫(さけ)んだ。
「ほら、ちゃんとやってよ。手を動かし――」言ってる途中(とちゅう)で、綾乃は土塊(つちくれ)に足をとられて倒(たお)れ込んだ。彼女が顔(かお)を上げると、土まみれになっている。
 この様子(ようす)を見ていた口うるさいおじいさんは、大笑いをして言った。
「何やっとる。そんなんじゃ農家の嫁(よめ)にはなれんぞ。しっかりせんかい」
 これを聞いた友だちは口々(くちぐち)にささやいた。「えっ、嫁?」「嫁って何よ」「どういうこと…」
 みんなの見解(けんかい)はこういうことにまとまった。綾乃は、おじいさんの機嫌(きげん)をとるために自分達を利用(りよう)したのだと。当然(とうぜん)、帰り道で綾乃はみんなに問い詰(つ)められることになった。
<つぶやき>ちゃんと、みんなに事情(じじょう)を説明(せつめい)しないとね。そうじゃないと協力(きょうりょく)なんか…。
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0846「戦闘服」

2020-03-27 18:17:27 | ブログ短編

 今日は知り合いが開くパーティーの日。女友達(ともだち)が連(つ)れ立って参加(さんか)することに…。待(ま)ち合わせに遅(おく)れてきた彼女を見て、みんなは目を丸(まる)くした。
「ねえ、何て恰好(かっこう)してるのよ。全然(ぜんぜん)可愛(かわい)くないじゃない。そんなんじゃ…」
「えっ、そうかな…。でもドレスコードなんてないんでしょ?」
「あたし達の目的(もくてき)、分かってるの? そんな恰好じゃ誰(だれ)も話しかけてくれないわよ」
「でも…、わたし、迷彩色(めいさいしょく)とかないと気持(きも)ち的(てき)に行けないっていうか…」
「なに訳(わけ)のわかんないこと言ってるのよ。別に、わたし達、戦(たたか)いに行くわけじゃないのよ」
「そうよ。今日のはただのパーティーじゃないのよ。最高(さいこう)の相手(あいて)を見つけるための――」
「分かってるわよ、そんなこと…。でも…」
「今日のパーティーに、あなたと同じ趣味(しゅみ)の人、いないと思うわ」
 ――みんながパーティー会場(かいじょう)へ入ると、綺麗(きれい)に着飾(きかざ)った女性たちと、その回りにはスーツを着たイケメン男性が群(むら)がっていた。友達の一人が会場(かいじょう)の隅(すみ)に何かを発見(はっけん)した。
「見て、あそこに迷彩服(めいさいふく)の人がいるわよ。よかったじゃない、話しかけて来なさいよ」
 言われた彼女はその男性を見て呟(つぶや)いた。「ムリ、ムリよ。だって、あれはないと思うわ。ぜんぜん似合(にあ)ってないもん。あんなデブってる人、わたしには…」
「あなたって…、そこはこだわるのね」
<つぶやき>大切(たいせつ)な場面(ばめん)で、人は勝負服(しょうぶふく)を着用(ちゃくよう)するようです。でも、TPOは考えてね。
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