みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0931「会計課」

2020-07-31 18:06:05 | ブログ短編

 廃工場(はいこうじょう)の入口(いりぐち)近くで、二人の男が人目(ひとめ)を避(さ)けるように身(み)を隠(かく)していた。若い方の男が、
「あの…、どうして僕(ぼく)なんかを…。僕は、刑事(けいじ)でもないし…」
「仕方(しかた)ないだろ。人手(ひとで)が足(た)りないんだよ。お前だって、警察官(けいさつかん)だろ? だったら…」
「でも、僕は会計課(かいけいか)で、あの、犯人(はんにん)を捕(つか)まえたこともないし、僕なんかじゃ…」
 廃工場の前に男がやって来た。辺りをうかがって工場の中へ入って行く。
「現(あらわ)れやがったなぁ。おい、行くぞ。ヤツを捕まえるんだ」
「えっ? でも、待って下さい。もし、中に大勢(おおぜい)いたらどうするんですか?」
「心配(しんぱい)ないって。ヤツは小者(こもの)だ。仲間(なかま)がいたとしても二、三人ってとこだ。行くぞ」
「でも、応援(おうえん)を呼(よ)んだ方がよくないですか? 僕たちだけじゃ…」
「お前、俺(おれ)の話し聞いてなかったのか? 人手が足りないんだよ。行くぞ。ついて来い」
 ――廃工場の前にパトカーが停まっていた。どうやら、犯人を逮捕(たいほ)したようだ。あの二人の男たちが、泥(どろ)まみれになって出てきた。刑事の方が声をかけた。
「お前、なかなかやるじゃないか。あそこで、犯人を投(な)げ飛(と)ばすなんて」
「もう…、必死(ひっし)だったんです。だって、僕の方に向かってくるんですよ。僕は…僕は…」
「よくやった。褒(ほ)めてやるよ。ところで…、クリーニング代って経費(けいひ)で落(お)ちないか?」
「無理(むり)です。落ちるわけないじゃないですか。僕は会計課ですよ」
<つぶやき>とんだことになってしまいましたね。でも、仕事はきっちりやらないとね。
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0930「しずく101~強制覚醒」

2020-07-29 17:58:50 | ブログ連載~しずく

 ここは病室(びょうしつ)。柔(やわ)らかな日差(ひざ)しが窓(まど)から入り、カーテン越(ご)しにベッドに寝ている少女を優(やさ)しく包(つつ)み込んでいる。彼女の瞼(まぶた)がかすかに動き、ゆっくりと目を覚(さ)ました。
「やっとお目覚(めざ)めだね」ベッドの脇(わき)で座(すわ)っていた男がささやいた。「気分(きぶん)はどうだい? もう心配(しんぱい)いらないよ。つくね、私のこと分かるかい?」
「……パパ。どうしたの? 今日は、お仕事(しごと)じゃなかったの?」
「お前のことが気になって、仕事なんかしてられないよ。どこか痛(いた)いところとか――」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。どこも…。ねぇ、あたし、どうしたの? 何で、ここに…。思い出せないわ」
「大(たい)したことじゃない。明日になれば退院(たいいん)できるさ。そしたら、パパと一緒(いっしょ)に――」
 神崎(かんざき)つくねは急(きゅう)に起き上がるとドアの方を指(ゆび)さして、「誰(だれ)か来るわ。あたし、恐(こわ)い…」
 つくねは布団(ふとん)を握(にぎ)りしめて震(ふる)えだした。男はつくねから離(はな)れると、彼女を観察(かんさつ)するように見つめた。数秒後、ドアが大きな音を立てて開(ひら)き、数人の武装(ぶそう)した男たちが銃(じゅう)を手になだれ込んできた。男たちは、ベッドの上のつくねに銃を向け発砲(はっぽう)した。
 それは一瞬(いっしゅん)の出来事(できごと)だった。ベッドにいたつくねの姿(すがた)が消(き)えて、男たちがバタバタとその場に倒(たお)れてしまった。男たちのそばに、つくねの姿があった。つくねは、まるで別人(べつじん)のように見えた。そして、ふっと息(いき)を吐(は)いてその場に崩(くず)れた。男は彼女を抱(だ)き止めて、
「よくやった。その能力(ちから)は、私のために使うんだ。いいかい。お前は、私のものだ」
<つぶやき>つくねは能力に目覚めたようです。でも、それは悲劇(ひげき)を招(まね)くことになるかも。
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0929「スマホデビュー」

2020-07-27 18:09:30 | ブログ短編

「なぁ、これってどうやったらできるんだよ?」
 父親(ちちおや)は、風呂(ふろ)上がりの娘(むすめ)に言った。娘は髪(かみ)をタオルで拭(ふ)きながら答(こた)える。
「まだやってるの? さっき教(おし)えてあげたじゃない。これは、こうして…」
「おお、そうか…。そうだよな。何だ、やっぱりそれでいいんだ」
「そんなんで大丈夫(だいじょうぶ)なの? ちゃんと使(つか)えるの?」
「大丈夫(だいじょうぶ)だよ。こんなのは電話(でんわ)とメールが使えれば、あとは別に…」
「あ~ぁ、もったいない。もっといろんなことできるのに」
「でもな、なんでこれって説明書(せつめいしょ)とかついてないんだよ。普通(ふつう)あるだろ?」
「そんなのなくても分かるようになってるのよ。で、あとはなに?」
「ああ、わるいなぁ。あとは、これなんだけどなぁ、これは何のやつなんだ?」
「ええっ、それ? そこから教えなきゃいけないの。もう、信(しん)じられない」
「だって、分かんないだろ? こんなにいろいろあったら…。何が何だか…」
「はい、はい。もう、仕方(しかた)ないなぁ。じゃあ、授業料(じゅぎょうりょう)として――」
「おいおい、金(かね)を取るのか? ここは、家族割(かぞくわ)りってことにしてくれないかなぁ。お父さん、そんなに小遣(こづか)いもらってないんだから…。頼(たの)むよ」
 そんなことを言ってるけど、お父さんは何だか嬉(うれ)しそうである。久(ひさ)しぶりに娘と――。
<つぶやき>娘と会話(かいわ)がしたいためにしているわけではありません。必要(ひつよう)に迫(せま)られて…。
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0928「競技会場」

2020-07-25 17:59:57 | ブログ短編

「やっぱりムリです。あたしなんかが出ても、勝(か)てる気がしません」
「今になってなに言ってるんだ。これは、チャンスなんだぞ。それを無駄(むだ)にするのか?」
「だって監督(かんとく)…。あたしは補欠(ほけつ)ですよ。急病(きゅうびょう)で出られなくなった人の代(か)わりです。他の選手(せんしゅ)を見て下さいよ。みんな自信満々(じしんまんまん)で…、あんな人たちと闘(たたか)えるわけないです」
「やる前から怖(お)じ気づいてどうするんだ。補欠とはいっても、お前だって実力(じつりょく)はあるんだ」
「気休(きやす)めはやめて下さい。あたしなんか、全然(ぜんぜん)ダメです。監督だって分かってるはずです」
「そ、それは違(ちが)うぞ。お前は、ダメなんかじゃない。その証拠(しょうこ)に、ちゃんとここにいるじゃないか。それは、お前に実力があるからだ」
「ほんとに……。あたしに…」
「ああ、もちろん。大丈夫(だいじょうぶ)だ。勝てなくても…、棄権(きけん)するよりはましだ」
「やっぱり…、勝てないって思ってるんだ。あたし、期待(きたい)もされてないんですね」
「おい、泣(な)くなっ……。いいか、期待してないわけじゃない。勝てるものなら勝ってもらいたい。しかしな…、お前はメンタルが弱(よわ)すぎる。それが弱点(じゃくてん)だ」
「そんなこと、分かってますよ。でも、仕方(しかた)ないじゃないですか…。あんな大勢(おおぜい)の前でやるんですよ。それを考えただけで、足が震(ふる)えて…」
「分かった。じゃあ、周(まわ)りの人間(にんげん)はカボチャだと思え。ここは大きな畑(はたけ)の真(ま)ん中だ」
<つぶやき>いやいや、そう言われても、そんなこと思えないでしょ。監督も大変(たいへん)だよね。
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0927「紛争」

2020-07-23 18:00:44 | ブログ短編

 彼らは新婚(しんこん)間もない夫婦(ふうふ)。二人には夢(ゆめ)があった。小さくてもいいから家を持つこと。そのために、二人はできるだけ節約(せつやく)しようと話し合った。それなのに、ああ、それなのに…。
 夫(おっと)は公然(こうぜん)と、自分の趣味(しゅみ)のためにお金を使い始めたのだ。これには妻(つま)も黙(だま)っていられない。そこで、家族会議(かぞくかいぎ)を開くことにした。開口一番(かいこういちばん)、妻は夫に詰(つ)め寄った。
「ねぇ、あたしたち話し合ったわよね。夢のために節約しようって」
「そんなこと、分かってるよ。だから、ちゃんと節約してるじゃないか」
 夫は自分のしていることを棚(たな)に上げ平然(へいぜん)と答(こた)えた。まるで、火に油(あぶら)を注(そそ)ぐように――。
「あなた、自分のしてることが分かってないの? それで節約してるってよく言えるわね」
「俺(おれ)は、ちゃんと金(かね)は入れてるだろ? 残(のこ)った金で何をしようと俺(おれ)の自由(じゆう)だ」
「はぁ? ねぇ、あなた。もう一度訊(き)くけど、あなたの給料(きゅうりょう)っていくらなの?」
「それは、結婚(けっこん)する前に教えたじゃないか。あれから変わってないよ」
「あなた、ウソついてるわよね。あの給料で、こんなに買えるわけないでしょ。あたしが、何も知らないとでも思ってるの? 本当(ほんとう)のこと、言いなさいよ」
「そ、それは…。受け入れられるわけがない。これは、内政干渉(ないせいかんしょう)だ」
「それなら、こっちも言わせてもらうわ。あなたのしていることは、条約違反(じょうやくいはん)よ。これは、とても許(ゆる)すことはできないわ。国交断絶(こっこうだんぜつ)の覚悟(かくご)はあるんでしょうねぇ」
<つぶやき>国際問題(こくさいもんだい)になっちゃたよ。小さなウソ、ついてませんか? 今からでも…。
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