みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0839「いらないもの」

2020-03-20 18:14:46 | ブログ短編

 若(わか)い男女がショールームに来ていた。係(かかり)の者(もの)が熱心(ねっしん)に商品(しょうひん)の説明(せつめい)をしている。
「これが、我(わ)が社一押(いちお)しのリサイクルボックスです。画期的(かっきてき)な発明(はつめい)でして、どんなものでも分子(ぶんし)レベルまで分解(ぶんかい)して再利用(さいりよう)に回(まわ)します」
「すごいわねぇ。何でも入れちゃっていいの? 大きなものでも大丈夫(だいじょうぶ)かしら?」
「ええ、もちろんです。お試(ため)しになりますか? そこにあるものを入れてみて下さい」
 係の者が指(さ)した場所(ばしょ)には、使えなくなった家電(かでん)や廃材(はいざい)などが置(お)かれていた。
「ここで、使ってみることができるんですか? わぁ、すごい…」
 女は男に、「やってみてよ」とお願(ねが)いした。男はボックスの蓋(ふた)を開けて、廃材を中に投(な)げ込んだ。廃材は、真っ暗な穴(あな)の中へ落ちて行った。
 係の者は二人が満足(まんぞく)そうにしているのを見て、他(ほか)の客(きゃく)の方へ行ってしまった。女はここぞとばかり、誰(だれ)も見ていないのを確認(かくにん)して、ボックスの前に立っていた男の背中(せなか)を押(お)した。男は、ボックスの中へ――消(き)えてしまった。女はボックスを覗(のぞ)き込んで呟(つぶや)いた。
「ごめんなさい。あたし、あきちゃったの。別の人に生まれ変わってね」
 ――消えた男が目を覚(さ)ますと、そこは巨大(きょだい)なゴミ捨(す)て場だった。彼の足下(あしもと)には、汚(よご)れた布団(ふとん)や衣類(いるい)が山のように積(つ)み重(かさ)なっていた。空を見上げると、捨(す)てられたものたちがまるで雨のように降(ふ)りつづいている。
<つぶやき>分解されるんじゃないんだ。でも、彼をリサイクルしちゃうのはやめましょ。
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