みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1058「親友からの…」

2021-04-29 17:56:26 | ブログ短編

 親友(しんゆう)が突然(とつぜん)亡(な)くなった。そいつとは二、三年会っていなかったが、連絡(れんらく)を聞いて僕(ぼく)は言葉(ことば)も出なかった。彼の葬式(そうしき)には大勢(おおぜい)の人たちが来ていた。久(ひさ)しぶりに会う友だちも……。
 彼の奥(おく)さんとは結婚式(けっこんしき)のとき会っただけだが、あんな奇麗(きれい)な人と一緒(いっしょ)になって幸(しあわ)せだったんじゃないかと、旧友(きゅうゆう)たちと帰りがけ飲(の)みながら話していた。
 ――その日は、なかなか寝(ね)つけなかった。それでも、夜中(よなか)にはうとうととしたようだ。どのくらいたった頃(ころ)だろう。僕は、重苦(おもくる)しさで目を覚(さ)ました。目の前に急(きゅう)に人の顔が現(あらわ)れて、僕は思わず声をあげて飛(と)び起きた。ベッドの横(よこ)に…、あいつが立っていて、
「おい、そんなに驚(おどろ)くことないだろ。まるで幽霊(ゆうれい)でも見たように…」
「お前、何で…。て言うか、死(し)んだんだろ? 幽霊じゃないか」
「あっ、そうだった。わるい。あのさぁ、ちょっと頼(たの)みたいことがあって…。俺(おれ)、急に死んじゃったじゃない。やり残(のこ)したことがあって…。親友のお前にしか頼めないんだよ」
「な、何だよ。頼みって…」
「俺のスマホ…。中に残ってる写真(しゃしん)とかメールのデータを消(け)してほしいんだよねぇ。ほら、妻(つま)に見られるとまずいっていうか…。分かるだろ?」
「お前、あんな綺麗な奥さんがいて、浮気(うわき)してたのか?」
「そう言われると、あれだけど…。あいつには、最後(さいご)まで良(い)い夫(おっと)でいたいんだよ。なっ」
<つぶやき>最後(さいご)の頼みが、これなんだ。何とも情(なさ)けない話です。身辺整理(しんぺんせいり)してください。
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1057「復職」

2021-04-27 17:46:34 | ブログ短編

「えっ…、君(きみ)の言ってること…よく分からないよ。君は貿易会社(ぼうえきがいしゃ)に勤(つと)めていたんだろ?」
 夫(おっと)は混乱(こんらん)していた。妻(つま)は、覚悟(かくご)を決(き)めたように話を続けた。
「ごめんなさい。本当(ほんとう)は諜報部員(ちょうほうぶいん)だったの。あなたと結婚(けっこん)したとき、辞(や)めたんだけど…」
「じゃあ、さっきの人は…。あの男は、浮気相手(うわきあいて)じゃ…」
「ち、違(ちが)うわよ。あの人は、その時の上司(じょうし)で…。ある情報(じょうほう)を、知らせにきてくれたの」
「どうして…。そういうことは、付き合ってるときに話してくれよ」
「あたしのこと…、嫌(きら)いになった? いいわよ、別(わか)れても…。その方が…」
「なに言ってんだよ。そ、そんなこと…。嫌いになるわけないだろ」
 妻は、夫に抱(だ)きついた。そして、夫の耳元(みみもと)でささやいた。
「よかった。じゃあ、このまま聞いて…。あたし、狙(ねら)われてるの。某国(ぼうこく)のスパイに…」
 夫は妻から離(はな)れようとしたが、妻は夫を強(つよ)く抱きしめて、「動かないで。あたしから離れないでよ。あたしが、ちゃんとあなたを守(まも)るから…」
 その時、窓(まど)ガラスが割(わ)れて何かが飛(と)び込んで来た。妻は夫を押(お)し倒(たお)して、テーブルを立てて盾(たて)にした。破裂音(はれつおん)とともに爆風(ばくふう)が巻(ま)き起こった。部屋(へや)の中はめちゃくちゃに――。
 妻は外(そと)の様子(ようす)をうかがいながら、「思ったよりも早く来ちゃったね。逃(に)げるわよ」
「えっ…。ちょっと待ってよ。家が……これ直(なお)すのに、いくらかかるかな?」
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。あたし、復職(ふくしょく)するから。あたしの給料(きゅうりょう)で新しい家を買いましょ」
<つぶやき>妻には隠(かく)された顔があったのです。これから二人はどうなってしまうのか?
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1056「巨大生物」

2021-04-25 17:48:53 | ブログ短編

「お前…、本当(ほんとう)に巨大生物(きょだいせいぶつ)がいると思ってるのか?」
「ああ。昔(むかし)、見たヤツがいるんだよ。ちょうど50年前だ。ここに、そいつが残(のこ)した日誌(にっし)がある」
「日誌? 誰(だれ)のだよ。どこからそんなもん…」
「それは…知らなくてもいいだろ。で、手伝(てつだ)ってくれるのか?」
「まぁ、それは金次第(かねしだい)だけど…。お前、そんなの見つけて…儲(もう)けようってことか?」
「これは、金の問題(もんだい)じゃないんだ。俺(おれ)は、確(たし)かめたいだけなんだ。事実(じじつ)をな…」
「まったく物好(ものず)きだなぁ。で、どこへ行くんだ。ヒマラヤか? それとも南海(なんかい)の無人島(むじんとう)か?」
「もっと近くだよ。日本の…すぐそこだよ。歩いて行ける近さだぞ」
「はぁ? 日本に巨大生物がいるわけないだろ。それも、こんな街中(まちなか)で…。お前、大丈夫(だいじょうぶ)か? とうとう、いかれちまったんじゃないだろうなぁ?」
「俺は、まともだよ。もう入口(いりぐち)は見つけてあるんだ。出発(しゅっぱつ)の準備(じゅんび)もできてる」
「準備って…。俺は、何も持ってないぞ。食料(しょくりょう)だって調達(ちょうたつ)しておかないと…」
「そんなの必要(ひつよう)ないさ。すぐに戻(もど)って来られるんだから。さあ、行くぞ」
「待ってくれよ。行くんだったら、彼女に言っとかなきゃ…。今日、約束(やくそく)してるんだ」
「そんなのほっとけよ。早くしないと今日中に戻って来られなくなる」
「えっ? そんなこと言っても…。あいつ怒(おこ)らせると、ゴジラより恐(こわ)いんだぞ」
<つぶやき>これはタイムトンネルみたいなもの? でも、身近(みぢか)にも巨大生物いるじゃん。
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1055「しずく126~手当て」

2021-04-23 17:52:49 | ブログ連載~しずく

 秘密(ひみつ)の場所(ばしょ)の一室(いっしつ)で月島(つきしま)しずくの悲鳴(ひめい)が聞こえた。そして、水木涼(みずきりょう)の声が、
「そんなに騒(さわ)ぐことじゃないだろ。手当(てあ)てしてるんだから、少しは我慢(がまん)しろよ」
 しずくは小さな子供(こども)のように、「だって…。もっと優(やさ)しくやってよ。痛(いた)いってばっ…!」
 そこへ、ハルとアキが帰ってきた。しずくは二人の後ろに逃(に)げ込んで、
「ねぇ、助(たす)けて。涼が、ひどいんだよ。怪我(けが)してる私に…」
「しずく、いい加減(かげん)にしろよ。その口に絆創膏(ばんそうこう)はってやるからなぁ」
 二人の様子(ようす)を見てハルが言った。「騒ぐのは止めてください。怪我は私たちが治(なお)しますから。それより、あずみ先生、怒(おこ)ってましたよ。何してるのよって」
「それは…、しずくがやったことで…、私は関係(かんけい)ないからな。なぁ、初音…。あれ、どこ行っちゃったのよ。さっきまでここにいたのに…」
 柊(ひいらぎ)あずみがため息(いき)をつきながら入って来て、「まったく、どうなってるのよ。勝手(かって)なことばかりして…。しずく、怪我は大丈夫(だいじょうぶ)なの? 無茶(むちゃ)なことはしないでよ」
 しずくは、しおらしく答(こた)えた。「はい。全然(ぜんぜん)、大丈夫ですから。これくらい…なんとも…」
 涼が訊(き)いた。「先生は、つくねのこと知ってたのか?」
「私も驚(おどろ)いたわよ。たぶん、つくねは記憶(きおく)を消(け)されてるわね。私が呼(よ)びかけても答えてくれなかったから。でも、分からないのは、なぜ私たちの前に現れたかよ」
<つぶやき>しずくは何を考えているのか? これから、何をしようとしているのか…。
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1054「妄想島」

2021-04-21 17:50:56 | ブログ短編

 彼は、突然(とつぜん)の嵐(あらし)に襲(おそ)われた。朝になると、船(ふね)はどこかの島(しま)に流(なが)れ着いていた。船はどうにか無事(ぶじ)のようだが、砂浜(すなはま)に乗(の)り上げてしまっているので一人ではどうにもならない。
 彼は、水と食料(しょくりょう)になるものを探(さが)しに出かけた。砂浜の先(さき)には、椰子(やし)の木がうっそうと繁(しげ)っているのが見えた。そこまで行ってみると、小さなテーブルに食事(しょくじ)の用意(ようい)ができていた。彼は、辺(あた)りを見回(みまわ)した。人の気配(けはい)はどこにもない。彼は首(くび)をかしげた。しばらく待(ま)ってみたが、誰(だれ)も来なかった。彼は、空腹(くうふく)に耐(た)えかねて食事を口にした。その味(あじ)といったら、彼が欲(ほっ)していたものだった。彼は故郷(ふるさと)にのこしてきた恋人(こいびと)のことを思(おも)っていた。
 するとどうだろう、恋人の声(こえ)が聞こえてきた。彼が振(ふ)り返ると、そこには恋人の姿(すがた)が――。そ、そんなバカな…。彼女がここにいるはずはない。彼は彼女から目をそらした。次の瞬間(しゅんかん)、彼女の姿は忽然(こつぜん)と消(き)えてしまった。――彼は後悔(こうかい)した。本物(ほんもの)でなくても、誰でもいい。誰か…俺(おれ)を見つけてくれ…。彼は、みだらな妄想(もうそう)をしてしまったようだ。
 椰子の茂(しげ)みから女の笑(わら)い声が聞こえてきた。それも、一人ではない。あっちからも、こっちからも、大勢(おおぜい)の女の笑い声とささやきが近づいてきた。そして、ひとり、またひとりと、彼の前に姿を見せた。どれもこれも、彼好(ごの)みの女性ばかりだ。彼は、女性たちに囲(かこ)まれて、夢(ゆめ)のような日々(ひび)をおくることになった。もう島を出ようとは考えなくなっていた。
<つぶやき>誰ですか? 羨(うらや)ましいって思ったのは。これは妄想ですから。気をつけてね。
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