みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1074「拾われた男」

2021-05-31 17:49:33 | ブログ短編

 彼は空(うつ)ろな目をして歩いていた。生きる希望(きぼう)をなくしているのだ。仕事(しごと)もクビになり、付き合っていた彼女からは別れを宣告(せんこく)されてしまった。そして半年あまり、彼は自堕落(じだらく)な暮(く)らしから抜(ぬ)け出せなくなっていた。
 そろそろ金(かね)もつきかけた頃(ころ)――。彼は道端(みちばた)に捨(す)てられていた子猫(こねこ)を見つけてしまった。拾(ひろ)うつもりはなかったのだ。でも子猫の目を見てしまって、その可愛(かわい)さに、つい…。気づけば家に連(つ)れ帰っていた。子猫は、ニャーニャーとお腹(なか)を空(す)かせて鳴(な)いている。彼は、そこで気づいたのだ。餌(えさ)を買う余裕(よゆう)もないということを…。彼は、途方(とほう)にくれてしまった。
 そこへ、彼の妹(いもうと)が訪(たず)ねてきた。兄(あに)のことを心配(しんぱい)してのことだ。妹は食材(しょくざい)をかかえて部屋(へや)に入ると、子猫がいるのに驚(おどろ)いた。彼女も猫好きのようで、すぐに餌を買いに走った。
「ねぇ、お兄ちゃんに世話(せわ)とかできるの? それに、ここでペットって飼(か)っても…」
「そ、それは、ペット可(か)だから…。世話は無理(むり)だ。金ないし。お前のところで…」
「あたしのとこは、ペット飼えないよ。お兄ちゃん、仕事探(さが)したら? そしたら、この猫(こ)と暮らせるじゃない。こんなに可愛いんだよ。可哀相(かわいそう)よ」
「し、仕事は探すよ。でも、見つかるまでは…」
「分かった。あたしが餌を届(とど)けてあげる。そういえば…、伯父(おじ)さんがね、いい仕事あるんだけど…って言ってたわ。明日にでも、行ってきたら?」
<つぶやき>兄思いの妹に泣(な)けちゃいます。どこに希望が転(ころ)がってるか、分かりませんよ。
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1073「写らない娘2」

2021-05-29 17:44:21 | ブログ短編

 帰り支度(じたく)をしていたとき子に、男性社員(だんせいしゃいん)が声をかけた。
「神野(じんの)さん、今日で派遣(はけん)、最後(さいご)だよね。神野さんにはいろいろ助(たす)けてもらっちゃって、ほんと感謝(かんしゃ)してます。ありがとうございました。記念(きねん)に…写真(しゃしん)、いいですか?」
 彼は彼女の返事(へんじ)を待(ま)つことなく、すっと彼女の横に立ってスマホで自撮(じど)りをした。
 とき子は身(み)をこわばらせ、さけるように、「いえ、わたしは何も…。仕事(しごと)ですから…」
「それで…。あの…、また会っていただけませんか? 今度(こんど)は、仕事じゃなくて…」
「ごめんなさい。わたし、そういうのは…。失礼(しつれい)します。お世話(せわ)になりました」
 とき子は頭を下げると、逃(に)げるように部屋(へや)を出て行ってしまった。
 翌日(よくじつ)、彼は部長(ぶちょう)に声をかけられた。「あの資料(しりょう)、分かりやすくていいじゃないか」
「あ、ありがとうございます。でも、あれは、僕(ぼく)が作ったんじゃなくて、派遣の……」
 彼は彼女の名前(なまえ)を言おうとしたが、なぜか名前が出てこない。部長は、
「派遣で来てた人がやってくれたのか? なかなか優秀(ゆうしゅう)な人だったんだね」
「ええ…。あの……」彼は写真を撮(と)ったことを思い出してスマホを取り出した。
「こ、この人なんです……」彼はそう言いながら、彼女の写真を探(さが)した。
 彼は、彼女と撮った写真を見つけたが…。どういうわけか、そこには彼の姿(すがた)しか写(うつ)っていなかった。その時、彼は、彼女がどんな人だったのか思い出せなくなっていた。
<つぶやき>神野とき子。謎(なぞ)だらけの女性です。どうして、忘(わす)れられてしまうのでしょう。
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1072「写らない娘1」

2021-05-27 17:42:05 | ブログ短編

 とある学校(がっこう)の、クラスの同窓会(どうそうかい)が開かれている。卒業(そつぎょう)してから5年たっていたが、集まった若者(わかもの)たちは学生(がくせい)のときと同様(どうよう)に和気(わき)あいあいと談笑(だんしょう)していた。
 卒業アルバムを見ていた一人が、変なことに気づいた。クラスの集合写真(しゅうごうしゃしん)の中に、ちょうど一人分のスペースが空(あ)いているのだ。普通(ふつう)なら詰(つ)めるはずなのに、どうして空いているのか? 周(まわ)りにいた人たちも、その話題(わだい)に加(くわ)わった。
「これってお前だろ? どうして詰めなかったんだ?」
「えっ、そんなこと…。覚(おぼ)えてるわけないだろ。何でだ…?」
「あたしたちのクラスって全部(ぜんぶ)で30人だったわよね。今日、出席(しゅっせき)してるのって…」
 幹事(かんじ)が答(こた)えた。「出席してるのは25人で、欠席(けっせき)は4人だけよ」
「おかしいじゃないか。30人なんだろ? 29人じゃ、一人足(た)りないぞ」
「集合写真に写(うつ)ってるの、先生(せんせい)を除(のぞ)くと29人よ。あなたの勘違(かんちが)いじゃないの?」
「卒業前に転校(てんこう)したヤツがいたんじゃ……。やっぱり、いないかぁ…」
「ねえ…」卒業アルバムを見ていた一人が言った。「名簿(めいぼ)の番号(ばんごう)…。最後(さいご)、30になってる」
 みんなは名簿の名前を順番(じゅんばん)に追(お)た。すると見覚(みおぼ)えのない名前を発見(はっけん)した。
「〈神野(じんの)とき子〉って、どんな娘(こ)だったっけ……。誰(だれ)か、覚えてる人いない?」
 みんなはざわついたが、その問(と)いに答えられる人はいないようだ。
<つぶやき>目立(めだ)たない子っていますよね。でも、写真に写らないほど目立たないなんて。
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1071「暗号解読器」

2021-05-25 17:59:52 | ブログ短編

 隣国(りんごく)と戦争状態(せんそうじょうたい)になっているとき、敵(てき)の暗号解読器(あんごうかいどくき)を手に入れることができた。これで、敵の動きが丸(まる)見えになるはずだ。将軍(しょうぐん)は敵の通信(つうしん)を解読(かいどく)するように命(めい)じた。
 早速(さっそく)、敵の通信の傍受(ぼうじゅ)にあたっている部隊(ぶたい)で、暗号の解読が始まった。だが、解読器がはじき出した文章(ぶんしょう)は、とんでもないものだった。部隊長(ぶたいちょう)はそれを見て、
「これは、どういうことだ? 戦時下(せんじか)だぞ。こんなことを暗号で送るなんて…」
 通信内容(ないよう)は、誰(だれ)が見ても痴話喧嘩(ちわげんか)としか思えない。相手(あいて)をなじる言葉(ことば)や、浮気(うわき)の事実(じじつ)を告発(こくはつ)するものばかりだ。それが、延々(えんえん)とやり取りされていた。
 部隊長は頭をかかえた。こんなこと将軍に報告(ほうこく)できるわけがない。これはきっと何かあるはずだ。この痴話喧嘩の中に、別の意味(いみ)が隠(かく)されているのかもしれない。部隊長はさらなる解読を命じた。隊員(たいいん)たちは、言葉の一つ一つを分析(ぶんせき)したが何も見つけられなかった。
 隊員の一人が言った。「これは、敵のフェイクなんじゃないですか?」
 別の隊員が、「きっとそうです。敵の暗号解読器がそう簡単(かんたん)に手に入るはずないですよ」
 部隊長はますます頭をかかえて言った。
「もし、そうだとしても…。あの将軍だぞ。そんなこと報告して…。ここは、もう少しがんばってみよう。こじつけでもいい、なんとか文章を作るんだ。さもないと、俺(おれ)たちは格下(かくさ)げか…、命(いのち)を落(お)とすことになるかもしれない」
<つぶやき>忖度(そんたく)しちゃだめですよ。そんなことしちゃうと、戦争に負(ま)けてしまいますよ。
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1070「しずく129~夢中」

2021-05-23 17:37:32 | ブログ連載~しずく

 神崎(かんざき)つくねは、月島(つきしま)しずくと対決(たいけつ)した日から夢(ゆめ)を見るようになった。いつも同じ夢。見知らぬ女性がつくねに話しかけている。でも、声は聞こえないので、何を言っているのか分からない。そして、女性はつくねをぎゅっと抱(だ)きしめた。――そこで目が覚(さ)める。
 つくねは、初(はじ)めのうちは気にもしなかったのだが、だんだんその女性が誰(だれ)なのか知りたくなってしまった。自分と何か関(かか)わりのある人なのか…。それとも――。
 つくねは家にあるアルバムを探(さが)してみた。でも、家中探しても、写真(しゃしん)一枚見つからない。つくねは父親に訊(き)いてみた。すると父親は一枚の写真をつくねに見せた。それは、つくねがまだ小さい頃(ころ)の写真。つくねは父親の膝(ひざ)の上にいて、その横(よこ)に女性が座(すわ)っていた。
「これが、お母さん……?」つくねは思わず口(くち)にした。
「そうだ。お前が小さい時に亡(な)くなったから、覚えてないだろうが…」
 つくねはがっかりした。夢に出てきた女性が母親だと思っていたからだ。写真の女性はまったく違(ちが)う人だった。つくねは、母親の顔をまじまじと見つめていた。
 その日の夜。つくねはまた夢を見た。今度の夢は、誰だか分からないが、女の子と夜の街を駆(か)けている。何かに追(お)われて逃(に)げているのか…。つくねは女の子の顔を見る。最初(さいしょ)はぼやけていたが、だんだんはっきりしてきて…。その女の子は、しずくの顔になった。
 つくねは、飛(と)び起きた。「何なの…。今のは…」しずくは汗(あせ)をぬぐいながら呟(つぶや)いた。
<つぶやき>記憶(きおく)が戻(もど)り始めているのでしょうか? 夢に出てきた女性は、つくねの…。
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