みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0475「しずく10~おんぼろ」

2019-02-28 18:39:21 | ブログ連載~しずく

 そのアパートは二階建(だ)てで、昭和(しょうわ)って感じの建物(たてもの)だった。トタン張(ば)りの屋根(やね)や外壁(がいへき)には錆(さび)が浮(う)き出ていて、それが奇妙(きみょう)な模様(もよう)になっている。ちょうど西向きに建っているせいで、今の時間、夕日に染(そ)まってセンチメンタルに輝(かがや)いている。
「こんなところに、人が住んでるの?」月島(つきしま)しずくは思わず呟(つぶや)いた。
 部屋の番号は201になっている。だとすると二階なのか? しずくは二階へ上がる階段(かいだん)の前に立った。長い間、風雨(ふうう)に晒(さら)されていたのだろう。補修(ほしゅう)もしていないようで、ここもかなり錆びついている。ところどころ鉄板(てっぱん)が腐食(ふしょく)していて、小さな穴(あな)が空(あ)いているのが見えた。かなり危険(きけん)な状態(じょうたい)になっている。
 しずくは恐(おそ)る恐る階段を昇(のぼ)り始めた。階段は、踏(ふ)みしめる度(たび)にギシギシと嫌(いや)な音をたてた。しずくは心の中で呟いた。
「大丈夫(だいじょうぶ)、大丈夫よ。彼女だってここを使ってるんだから…」
 階段の中程(なかほど)を過ぎたところで、突然(とつぜん)、「止まって!」と上の方から鋭(するど)い声がした。
 しずくは上げた足を止めるために、必死(ひっし)に手すりにしがみついた。上を見上げると、そこには寝巻姿(ねまきすがた)の神崎(かんざき)つくねが立っている。つくねは穏(おだ)やかな声で言った。
「そこに足を乗(の)せると落っこちるわよ。気をつけて上がって来て」
「そ、そうなんだ。…分かったわ。気をつける。これくらい、平気(へいき)よ。私……」
<つぶやき>つくねはどうしてこんな所に住んでいるんでしょうか? 謎(なぞ)は深まるばかり。
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0474「待ち合わせ」

2019-02-27 19:15:28 | ブログ短編

 大好きな彼との待ち合わせ。彼女は、この待ち時間を気に入っていた。だから少しだけ約束(やくそく)の時間より早く行く。そして、ドキドキしながら彼の到着(とうちゃく)を待つのだ。
 彼女は待ちながら、今日の服(ふく)は気に入ってくれるかな? とか、髪(かみ)を少し切ったの気づいてくれるだろうか…。そんなことを考えていると、時間はあっという間に過(す)ぎていく。そして、ずっと向こうから歩いて来る彼を見つける。思わず頬(ほお)がゆるむ瞬間(しゅんかん)だ。
 でも、現実(げんじつ)は思い通りにはいかない。彼女は腕時計(うでどけい)を見る。約束の時間を10分も過ぎている。彼女は呟(つぶや)く。「今日もまた遅刻(ちこく)? もう、許(ゆる)さないから」
 そう言いながらも、彼女は楽しそうだ。彼を待つ時間が、今日も少しだけ増(ふ)えたのだから。普通(ふつう)の娘(こ)なら怒(おこ)って帰ってしまうかもしれない。でも、彼女は大(おお)らかな性格(せいかく)だ。どんなことでも良い方に考える。たとえ、彼が彼女の服を褒(ほ)めなくても、髪を切ったことに全く気づかなくても、多少の遅刻すら笑って許(ゆる)すことができる。
 でも、これってどうなの? 彼女の顔が一瞬曇(くも)った。私って本当に彼に愛されているのかな? 都合(つごう)の良い女になってるだけじゃ…。彼女は心の中で葛藤(かっとう)する。でも、彼が遠くから駆(か)けて来る姿(すがた)を見つけると、そんなことすぐに頭から消えてしまうのだ。やっぱり、彼女は彼を愛している。心から愛しているのだ。
<つぶやき>あなたの彼女もこんなことを考えているかもしれません。褒めてあげてね。
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0473「町の探偵さん」

2019-02-26 18:43:36 | ブログ短編

 小さな町の小さな探偵(たんてい)事務所。そこへ三十路(みそじ)を少し越(こ)えたくらいの女性がやって来た。
「あの、探偵さん。今日は、お仕事(しごと)しないんですか?」
 探偵はプラモデルを作る手を止めて、「ああ、これは大家(おおや)さん。どうしたんですか?」
「どうしたかって…。私はあなたのことが心配(しんぱい)で。ちゃんと仕事して下さい」
「いや、こればっかりは…」探偵は頭をかきながら、「このあたりは平和(へいわ)ですからね。探偵を雇(やと)うようなことなんか起(お)きませんよ」
「そんなことでどうするんです。仕事が無(な)ければ、こっちから捜(さが)しに行くくらいの気概(きがい)を持って下さい。そんなんで、どうやって生活(せいかつ)していくんですか?――夫(おっと)を亡(な)くして、私たち親子が暮(く)らすのに、ここの家賃(やちん)が必要(ひつよう)なんです。子供たちもまだ小さいし…」
 探偵は困(こま)った顔をして、「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。家賃はちゃんとお支払いしますから」
「当たり前です! そもそも、どうしてこんな所で探偵事務所なんか」
「それは、あれです。ここなら面倒(めんどう)な依頼(いらい)も来ないだろうし、思う存分(ぞんぶん)趣味(しゅみ)に没頭(ぼっとう)できるかなって…。あっ、多少は貯(たくわ)えもあるし。僕(ぼく)、こう見えて節約(せつやく)は得意(とくい)なんです」
「仕事をする気ないんですか? じゃ、私が事件を起こして――」
「ちょっとやめて下さい。そんなことして逮捕(たいほ)されたら…」
「そんなことしませんよ。事件が起きてないか、聞き込みをするんです」
<つぶやき>これは世を忍(しの)ぶ仮(かり)の姿(すがた)で、本当はものすごい名探偵なのかもしれませんね。
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0472「コクられる」

2019-02-25 18:31:04 | ブログ短編

「ねえ、あたしどうしたらいいと思う?」愛子(あいこ)は真剣(しんけん)に悩(なや)んでいた。
「そんなの悩むことじゃないでしょ。向こうから告白(こくはく)してきたんだから」
 沙和(さわ)は焼き鳥を頬張(ほおば)ると、「やっぱここのは美味(おい)しいわ」と呟(つぶや)いた。
「だって、社内(しゃない)で一番人気(にんき)の彼よ。彼と付き合いたいって娘(こ)、一杯(いっぱい)いるのよ。何であたしなの? こんな、何の取り柄(え)もなくって、不細工(ぶさいく)な女に…」
「あんたさ、自分が思ってるほど不細工じゃないと思うよ。――そんなに気になるんだったら、その彼に訊(き)いてみればいいじゃない」
「訊いたわよ。そしたら、彼ね、好きになるのに理由(りゆう)なんかいらないだろ、って」
「へぇ、格好(かっこ)いいこと言うじゃない。それは、相当(そうとう)なプレーボーイよね」
「でしょ。あたしなんかと付き合っても、彼、絶対満足(まんぞく)しないと思うの。だから…」
 沙和はビールを飲み干(ほ)して、
「あんた、ばっかじゃないの。向こうがいいって言ってるんでしょ。だったら、うじうじ考えてないで飛(と)び込んじゃいなよ。私だったら、そうするけど。そんなに良い男だったら、一度は付き合ってみたいじゃない」
「ムリムリ、絶対無理(むり)よ。だって、あたし、彼の横でどんな顔をすればいいの? 彼とあたしじゃ、つり合わないわよ。もう…、あたし、どうしたらいいの…」
「そんなの簡単(かんたん)じゃない。良い女になればいいのよ。あんたらな、大丈夫(だいじょうぶ)よ!」
<つぶやき>最初は不安(ふあん)なことばかりだよ。付き合いながら一つずつ確(たし)かめていきましょ。
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0471「心のうち」

2019-02-24 18:21:44 | ブログ短編

「なあ、お前って付き合ってるヤツいるのか?」
 理(さとし)から突然訊(き)かれて、芳恵(よしえ)は一瞬(いっしゅん)ドキッとして、どぎまぎしながら答(こた)えた。
「な、何よ。そんなこと、理には関係(かんけい)ないでしょ」
「やっぱ、いないよな。お前みたいにうるさいヤツ好きになるなんて…」
「失礼(しつれい)ね。私だって、好きだって言ってくれる人くらい…」
「えっ! いたのか? マジかよ」
 理は大げさに驚(おどろ)いたふりをする。芳恵は頬(ほお)を膨(ふく)らませて、
「何で過去形(かこけい)になるのよ。そういう理はどうなの? 好きな人もいないくせに」
「俺(おれ)はいるよ。ほら、安西(あんざい)かおりちゃん。もう、可愛(かわい)いんだよなぁ」
「はい? あんた、バカなの? かおりが好きになるわけないでしょ」
「そんなこと分かんないだろ。今さ、告白(こくはく)のタイミングを――」
「そんなの無理(むり)に決まってるでしょ。かおりは、付き合ってる人いるから」
「えっ、そうなの? 何だよ、もっと早く告白しとけばよかったなぁ」
「何よそれ。できもしないこと言っちゃって」
「じゃあさ、俺と付き合わない? まあ、いないよりはマシだからなぁ」
 芳恵はいきなり理に平手打(ひらてう)ちをくらわすと、「バカにしないで、誰(だれ)があんたなんかと」
<つぶやき>心のうちに思っていても、なかなか相手(あいて)に伝えられないことってあるよね。
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