私は専業主夫(せんぎょうしゅふ)。最初(さいしょ)は、家にいるのがちょっと後ろめたい感じもあったのだが…。でも、今では、普通(ふつう)に近所(きんじょ)の奥(おく)さんたちと立ち話をしたりして。どうも私には、サラリーマンよりこっちの方が性(しょう)に合っているのかもしれない。
会社を辞(や)めたきっかけは、働(はたら)き過(す)ぎで身体(からだ)を壊(こわ)してしまったから…。会社を辞めたばかりの頃(ころ)は、私の人生(じんせい)、終(お)わったなって思ったこともあった。これからどうしたらいいのか、まったく先(さき)が見えなかった。何をする気にもなれなくて、妻(つま)にひどいことを言ったこともある。私にとっては最悪(さいあく)の時だった。
私は、妻に感謝(かんしゃ)している。こんなダメな私を見捨(みす)てることなく、ここまで一緒(いっしょ)に歩(あゆ)んでくれた。私が会社を辞めると言ったときも、「あたしが働くから大丈夫(だいじょうぶ)よ」って…。普段(ふだん)はのんきな彼女が、この時ばかりは頼(たの)もしく思えた。
いま思えば、妻も不安(ふあん)でいっぱいだったはずだ。私に隠(かく)れて実家(じっか)へ足を運(はこ)んだことも、一度や二度ではないだろう。私は妻と出会えて幸(しあわ)せだ。でも、妻の方は…どう思っているのか…。確(たし)かめたことはないのだが――。
私は、少しずつだが仕事(しごと)をやり始めた。これは、友人(ゆうじん)たちが助(たす)けてくれたおかげだ。妻からはムリしなくてもいいからと言われているが…。家族(かぞく)が増(ふ)えるのだ。少しでも、妻の助けになることをしなくてはいけない。
<つぶやき>生きてることを楽(たの)しみましょう。どんな時も、それを忘(わす)れないでいてほしい。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
私は、出社(しゅっしゃ)の途中(とちゅう)で子猫(こねこ)に出会った。私がそばを通ると、街路樹(がいろじゅ)の茂(しげ)みの中から飛(と)び出して私の足にすり寄(よ)ってきた。私はあまりの可愛(かわい)さに手を伸(の)ばそうとした。しかし、私は思い止(とど)まった。家(うち)で猫を飼(か)うわけにはいかないのだ。
子猫はお腹(なか)が空(す)いているのか、私から離(はな)れようとはしなかった。でも、あいにく餌(えさ)になるものは何も持っていなかった。それに、これから会社(かいしゃ)へ行かなくてはいけない。私は足早にその場から離れた。
仕事(しごと)をしている間(あいだ)、私は子猫のことが気になっていた。どうしているのか…。車にひかれたりしてないだろうか…。自分の飼い猫でもないのに、おかしな話しだ。
夕方(ゆうがた)。会社からの帰り道、同じ場所(ばしょ)を通りかかった。あの子猫はもういなかった。きっと、誰(だれ)か親切(しんせつ)な人が拾(ひろ)っていったのだろうと、私は勝手(かって)に想像(そうぞう)して胸(むね)をなで下ろした。
それから一ヶ月後のこと――。私は家の近くで見覚(みおぼ)えのある猫を見かけた。その小柄(こがら)な猫は、あの時の子猫とそっくりだ。まさか、拾われたんじゃなかったのか…。
猫は、私のことをじっと見つめている。私に何か言いたげな感じ…に思えた。私は猫に話しかけてみた。猫に言葉(ことば)が通(つう)じるわけはないのだが…。
猫は近づいて来る私に警戒(けいかい)したのか、身構(みがま)えると勢(いきお)いよく走り去(さ)ってしまった。
私は猫を目で追(お)いながら、無事(ぶじ)に育(そだ)ってくれよと心の中で念(ねん)じていた。
<つぶやき>猫だって生きる術(すべ)は持っているのです。たくましく生き延(の)びて欲(ほ)しいと…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
それは早朝(そうちょう)に起きた出来事(できごと)だった。始発(しはつ)の時間になっても電車(でんしゃ)やバスが運行(うんこう)されなかったのだ。それに、テレビやラジオの受信(じゅしん)、インターネットの接続(せつぞく)もできなくなっている。さらに、固定電話(こていでんわ)や携帯(けいたい)電話もつながらない。
市民(しみん)が騒(さわ)ぎ始めた頃(ころ)、テレビのすべてのチャンネルに市長(しちょう)の顔が映(うつ)し出された。烏杜(からすもり)市長は、市民に向けて高揚(こうよう)した口調(くちょう)で言った。
「……突然(とつぜん)のことで驚(おどろ)かれていることと思います。私は、熟慮(じゅくりょ)を重(かさ)ねて、この決断(けつだん)を下しました。烏杜市は…、日本国からの独立(どくりつ)を宣言(せんげん)します。これより、市内全域(しないぜんいき)で警戒態勢(けいかいたいせい)に入ります。市外(しがい)への道はすべて封鎖(ふうさ)し、市内への出入りを規制(きせい)します。これは、烏杜国の独立を保(たも)つために必要(ひつよう)なことなのです。市民のみなさんは落ち着いた行動(こうどう)を――」
――あの場所(ばしょ)にみんなは集まっていた。千鶴(ちづる)がみんなを集めたのだ。みんなはテレビを見ながら、何が起きているのか理解(りかい)できないでいた。市長の話が終わると、突然、市長の後に人の姿(すがた)が現れた。みんなの目は釘付(くぎづ)けになった。それは、月島(つきしま)しずくだった。
しずくは落ち着いた声で言った。「この国は、特別(とくべつ)な能力(のうりょく)を持った人たちの国です。我々(われわれ)は、能力者(のうりょくしゃ)たちを歓迎(かんげい)します。この国は、あなたたちの安全(あんぜん)を保証(ほしょう)します。あなたたちの能力をムダにしてはいけない。今すぐ行動(こうどう)を起こしてください」
神崎(かんざき)つくねは憤慨(ふんがい)して言った。「これは、何なのよ! どうしてこんなこと…」
柊(ひいらぎ)あずみはつくねを抱(だ)きよせて、「私たちで確(たし)かめましょう。何が起きているのか…」
<つぶやき>どうして、しずくがここにいるのか? これから何が起こるのでしょうか…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
彼女は引っ越(こ)しを考えているようだ。遊(あそ)びに来ていた友人(ゆうじん)は呆(あき)れた顔で、
「あんた、また引っ越しするの? じゃぁさ、今度(こんど)はあたしん家(ち)の近くにしてよ」
彼女は速攻(そっこう)で答(こた)えた。「イヤよ。あなたの家の近くって、良い物件(ぶっけん)ないんだもん」
「そんなことないわよ。で…、今度はどんなとこ探(さが)してるの?」
「そうねぇ。やっぱり、日当(ひあ)たりは大事(だいじ)よね。それに、ベランダが欲(ほ)しいわ。それと、小さなお庭(にわ)があれば最高(さいこう)よねぇ」
「それはもう、戸建(こだ)てじゃない。お家(うち)を買(か)うつもりなの?」
「そんなんじゃないけど。そうか…、田舎(いなか)の方へ行けば、戸建ての賃貸(ちんたい)もあるかも…」
「止(や)めてよ。そんな遠(とお)くに行くつもりなの? あたしは、反対(はんたい)よ」
「何であなたが反対するのよ。これは、あたしのことで、あなたには関係(かんけい)ないでしょ」
「あるわよ。だって…、あんたんとこは、あたしのセカンドハウスなんだから」
「いやいや、それはおかしいでしょ。ここは、あたしの家(いえ)ですから」
「もう、いいじゃない。ここだと、不思議(ふしぎ)と落(お)ち着(つ)けるのよ。あたしの憩(いこ)いを奪(うば)わないで」
「だからか…。しょっちゅう遊びに来てるのは。もう、自分(じぶん)の家に帰りなさいよ」
「そんな意地悪(いじわる)しないで…。ねぇ、引っ越しが決(き)まったら、すぐに連絡(れんらく)してね。あたしも、あんたの近くへ引っ越すから。また、仲良(なかよ)くしましょうよぉ」
<つぶやき>このままでいくと、彼女の家に居座(いすわ)ってしまうかもね。そうなったら大変(たいへん)…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
「お前、あいつに振(ふ)られたのか?」
あたしは、兄(あに)から唐突(とうとつ)に言われた。傷心(しょうしん)に浸(ひた)っていたあたしは、まるでとどめを刺(さ)されたように感じた。どうして、そんなことを知ってるのよ。あたしは、兄を問(と)い詰(つ)めた。すると、兄は会社(かいしゃ)の同僚(どうりょう)から聞かされたと。面白(おもしろ)い振られ方をした娘(こ)がいるって――。
面白いって何よ。どうせあたしは……そういう振られ方したわよ。それが何よ!
あたしは、その情報(じょうほう)の出処(でどころ)を探(さぐ)ってみた。すると、兄の同僚は友人(ゆうじん)から聞いて、その友人は妹(いもうと)から、その妹は友だちから、その友だちは…あたしの親友(しんゆう)から聞いたと分かった。これは、何なのよ。すべての人は誰(だれ)かの友人で兄妹(きょうだい)で親戚(しんせき)で、みんなつながってるの?
あたしの知らない人たちまで、あたしが振られたことを知ってるなんて…。あたしは、もう立ち直(なお)れそうもないわ。もう、どこかの穴(あな)の中にでも潜(もぐ)り込みたい気分(きぶん)――。
兄は、落ち込んでいるあたしを励(はげ)まそうと思ったのか、あたしに言った。
「もう、あんなヤツのことは忘(わす)れて――。そうだ。俺(おれ)が、良(い)い男紹介(しょうかい)してやるよ。ちょうどな、独身(どくしん)のヤツがいるんだよ。俺に、お前の噂(うわさ)を聞かせてくれたヤツなんだけど…。そいつに、俺の妹かもって話したら、どんな娘(こ)かぜひ会ってみたいって。どうする?」
どうするって…。あたしが、そんな人と会うわけないでしょ! あたしは、口元(くちもと)まで出かかった言葉(ことば)を呑(の)み込んで、「で……。その人、そんなに良い男なの?」
<つぶやき>やけになっちゃダメだよ。でも、どんな振られ方したのか、気になるよね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。