みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1253「好きになるって…」

2022-05-30 17:39:49 | ブログ短編

 会社(かいしゃ)の同期(どうき)が集まって女子会(じょしかい)を開いていた。それぞれ部署(ぶしょ)はばらばらだが、たまに集まって近況報告(きんきょうほうこく)をしたりしていた。宴(えん)たけなわのとき、一人の女子が恥(は)ずかしそうに言った。
「わたし、好きな人ができちゃいました。いま、すごく幸(しあわ)せです」
 他のみんなは、おめでとうって言ったり、どこの誰(だれ)だと詮索(せんさく)したり、波紋(はもん)が広がった。
 酔(よ)っ払っているのか他の女子が、「もう、何でよ。あたしも誰かと付き合いたい。どうして、あたしの前には、良い男が現(あらわ)れないのよ」
 別の女子が訊(き)いた。「どうして、その人にしたの? 何か決(き)め手とかあったの?」
 報告した女子は、「決め手かぁ…。別に、何かあったわけじゃないけど…。まあ、知らない人じゃなかったし…。告白(こくはく)されて、この人でもいいのかなって…。そんな感(かん)じ」
「そうなんだ。私は絶対(ぜったい)、見た目よ。良いなって思ったら、とりあえず声かけちゃうわ」
「もう、あたなは肉食(にくしょく)まる出しね。そんなことしてると、他の娘(こ)に妬(ねた)まれるわよ」
「そんなの気にしてたら、幸せはつかめないわよ。それに、付き合ってみなきゃ、どんな男か分からないでしょ。合わないと思ったら、別(わか)れちゃえばいいんだから」
 黙(だま)って聞いていた女子がぽつりと言った。「好きになるって、どういうことなのかなぁ?」
 みんなは一斉(いっせい)にその女子を見つめた。見つめられた女子は、うつむき加減(かげん)で言った。
「あっ、ごめん。わたし、まだ、ちゃんと男の人と付き合ったことなくて…」
<つぶやき>どんな人を選(えら)ぶのか…。これには基準(きじゅん)なんてないし、難(むずか)しい問題(もんだい)なのかもね。
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1252「監視カメラ」

2022-05-28 17:37:03 | ブログ短編

 とあるマンションで盗難事件(とうなんじけん)が発生(はっせい)した。駆(か)けつけた刑事(けいじ)たちは、すぐに現場(げんば)近くの監視(かんし)カメラの映像(えいぞう)を取り寄せた。手分(てわ)けして映像の確認(かくにん)をしていくと、いくつかの映像に二人組の犯人(はんにん)の姿(すがた)があった。だが、なぜかその姿は映像から忽然(こつぜん)と消(き)えてしまった。
 詳(くわ)しく解析(かいせき)してみても、映像を加工(かこう)した痕跡(こんせき)はなかった。これはどういうことなのか。突然(とつぜん)、消えてしまうなんてあり得(え)ない。犯人の顔がはっきり映(うつ)っていたので、犯人の特定(とくてい)はすぐにできた。刑事たちは犯人の逮捕(たいほ)に向かった。
 事件はすぐに解決(かいけつ)すると思われた。だが、住(す)んでいるアパートにも、職場(しょくば)にも、行きつけの店(みせ)にも犯人は姿を見せなかった。彼らの顔見知(かおみし)りにもあたってみたが、誰(だれ)も彼らの居場所(いばしょ)を知る者(もの)はいなかった。これは、本当(ほんとう)に消えてしまったのか…。刑事たちは打(う)つ手が見つからず、ただ歩き回るしかなかった。
 そんな日が続いたある日のこと。警察(けいさつ)に一通のメールが届(とど)いた。
〈盗(ぬす)んだものは持ち主に戻(もど)しました。犯人たちはこちらで罰(ばっ)しておきます〉
 間髪(かんはつ)を入れず、被害者(ひがいしゃ)から連絡(れんらく)が入った。盗まれたものがすべて戻っていると。刑事たちは困惑(こんわく)した。これは、どういうことだ。メールの差出人(さしだしにん)の名前(なまえ)を見て、彼らは絶句(ぜっく)した。そこには、〈えんま〉と表示(ひょうじ)されていたのだ。
<つぶやき>閻魔(えんま)サマが捕(つか)まえた? 監視カメラには不思議(ふしぎ)なことが映(うつ)り込(こ)むことも…。
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1251「隣室の怪」

2022-05-26 17:44:16 | ブログ短編

 ずっと空室(くうしつ)だった隣(となり)の部屋(へや)に、誰(だれ)かが引っ越(こ)してきたようだ。まだ顔を合わせてはいないが、ときどき隣から変な物音(ものおと)が聞こえるようになった。
 ある深夜(しんや)のこと、私は暑苦(あつくる)しさで目を覚(さ)ました。部屋の中は、まるでサウナのような暑さになっていた。私は、たまらず窓(まど)を開けた。真夏(まなつ)でもないのに、こんなに気温(きおん)が上がるなんて――。その時、また隣からあの音が聞こえてきた。
 こんな時間(じかん)に何なんだ。私は、壁(かべ)に耳(みみ)を当てようとして驚(おどろ)いた。壁が異様(いよう)に熱(あつ)いのだ。私の頭に不安(ふあん)がよぎった。まさか、火事(かじ)――。隣の部屋が燃(も)えているのか? 私は慌(あわ)てて外へ飛(と)び出した。でも、隣の部屋には異常(いじょう)はないように見えた。煙(けむり)も出ていないし…。
 私は思い切って、隣室(りんしつ)の呼鈴(よびりん)を押(お)した。だが、何度押しても誰も出て来ない。留守(るす)なのか、それとも中で倒(たお)れているのか――。私は扉(とびら)を何度も叩(たた)いた。そして、ドアノブを回してみた。すると、扉が開いた。鍵(かぎ)がかかっていなかったのだ。
 私は部屋の中を覗(のぞ)いて驚いた。まるで工場(こうじょう)の中のように機械(きかい)が奥(おく)まで並(なら)んでいる。人が住んでいるようにはとても見えない。これは、何の装置(そうち)なんだ? 私は部屋の中へ入ってみた。機械の間(あいだ)の隙間(すきま)をぬうように奥へ向かう。しばらくして、私はあることに気がついた。部屋が広すぎるのだ。アパートなので私の部屋と間取(まど)りは同じはずだ。なのに、まだ部屋の突(つ)き当たりが見えない。私は不安になって引き返(かえ)すことにした。だが、後を振(ふ)り返って愕然(がくぜん)とした。帰り道が…、まったく分からなくなってしまったのだ。
<つぶやき>これは大変(たいへん)です。迷宮(めいきゅう)に迷(まよ)い込んだようですね。帰ることはできるのか…。
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1250「しずく165~取り込む」

2022-05-24 17:32:03 | ブログ連載~しずく

 日野(ひの)あまりが目を覚(さ)ますと、そこは大きな倉庫(そうこ)の中のようだ。回りはがらんとしていて何もない。あまりは椅子(いす)に縛(しば)りつけられていた。ロープが手首(てくび)に食い込んでいて、痛(いた)くて身動(みうご)きができない。倉庫の大きな扉(とびら)が音を立てて開き始めた。
 黒岩(くろいわ)が数人の男たちと入って来た。突然(とつぜん)、あまりの背後(はいご)にエリスも姿(すがた)を見せた。黒岩は、あまりの前まで来ると、彼女をじっくり観察(かんさつ)して言った。
「すまないねぇ。手荒(てあら)なことをしてしまって…」
 黒岩はロープをほどくように指示(しじ)をした。エリスがナイフを出してロープを切(き)る。あまりは、赤くなった手首をさすりながら胸元(むなもと)に手を持っていった。
 黒岩はにこやかに言った。「君(きみ)は、人の心を読(よ)むことができるのかね?」
 あまりは何も答(こた)えなかった。恐(こわ)くて、しゃべることもできないのだ。黒岩は、あまりの顔をまじまじと見つめた。あまりの顔に、恐怖(きょうふ)の表情(ひょうじょう)が表(あらわ)れた。黒岩はにやりと笑(わら)うと、
「なるほど…。私はいま、君をどうやって殺(ころ)すか考えていた。君は、私の心を読んだんだね。いいぞ。君のその能力(ちから)は、とても貴重(きちょう)だ。我々(われわれ)には必要(ひつよう)なんだよ。どうかな…、我々に協力(きょうりょく)してくれないか? なに、とても簡単(かんたん)な仕事(しごと)だよ」
 あまりは、心を読むことを止(や)めた。恐くて、これ以上(いじょう)は耐(た)えられそうもなかった。
 黒岩は震(ふる)えているあまりに優(やさ)しく言った。「大丈夫(だいじょうぶ)だよ。我々に協力してくれるのなら、君に危害(きがい)を加えることはない。では、食事(しょくじ)でもしながら話しをしようか――」
<つぶやき>あまりはいったいどうなってしまうの? 黒岩の手駒(てごま)にされちゃうのかなぁ。
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1249「公演初日」

2022-05-22 17:36:05 | ブログ短編

 彼にとって、それは何十年も前からやってきたことだった。それほどの緊張(きんちょう)もない。彼は主役(しゅやく)というわけではない。今まで、ずっと脇役(わきやく)で頑張(がんば)ってきた。
 彼は、主役を張(は)れるような役者(やくしゃ)ではない。そのことは、自分(じぶん)でも分かっている。彼は芝居(しばい)がやりたいだけなのだ。別に、役(やく)にこだわりなどまったくない。彼には、欲(よく)というものがないようだ。誰(だれ)かを押(お)しのけて、役を勝(か)ち取るなんて考えたこともない。
 彼はオーディションも好きではないようだ。でも、これは彼の人柄(ひとがら)なのだろうか…。あちこちの劇団(げきだん)から声をかけられていた。だから今まで続けてこられたのだ。彼はどんな役でも引き受けていた。例(たと)えそれが、台詞(せりふ)のない役だとしても…。
 ――そして、また公演(こうえん)の初日(しょにち)を迎(むか)えた。開演前(かいえんまえ)のこの時間は、彼のお気に入りだった。薄暗(うすぐら)い袖幕(そでまく)の間(あいだ)で、緞帳(どんちょう)の向こうからはお客(きゃく)のざわめきが微(かす)かに聞こえる。近くには他(ほか)の役者たちがいて、お互(たが)いに声を掛(か)け合っている。彼もその中に加(くわ)わる。舞台監督(ぶたいかんとく)が、役者たちに開演(かいえん)をふれて回る。いよいよ、初日の幕(まく)が開(あ)く。
 客席(きゃくせき)に開演を知らせるベルが鳴(な)り響(ひび)く。客席の照明(しょうめい)が落(お)ち、静(しず)かに音楽(おんがく)が流(なが)れ始める。そして、緞帳(どんちょう)がゆっくりと、すべるように上がっていく。舞台に照明が入り、役者たちを浮(う)かび上がらせた。そして、最初(さいしょ)の台詞を言うのは…、もちろん彼ではない。
<つぶやき>これはもうプロの領域(りょういき)なのでしょうか。何かを突(つ)き詰(つ)めるって大変(たいへん)だよね。
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