みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0093「親友との再会」

2017-10-31 18:48:30 | ブログ短編

「あら、小奈津(こなつ)じゃない。久(ひさ)しぶり」
 あたしはその声を聞いて身体(からだ)が震(ふる)えた。恐(おそ)る恐る振(ふ)り返ってみる。やっぱりそこにいたのは、
「菜津子(なつこ)…。どうして、ここに?」あたしの声はうわずっていた。
 彼女と出会ったのは小学生の頃(ころ)。菜津子と小奈津。名前が似(に)ているせいで、あたしはいつも彼女の添(そ)え物(もの)になっていた。そりゃ、彼女は転校生(てんこうせい)で頭(あたま)が良くて、美人(びじん)で明るくて誰(だれ)からも好(す)かれて…。非(ひ)の打(う)ち所なんてみじんも無(な)い。あたしなんか……。
 菜津子は、どういうわけかあたしを親友(しんゆう)に選(えら)んだ。あたしは、別に嫌(いや)だっていう理由(りゆう)もないし、何となくそれを受(う)け入れた。それが、転落(てんらく)への道(みち)だとも気づかずに。
 別に、彼女が悪(わる)いわけじゃない。彼女と付き合ってみれば分かるけど、本当(ほんとう)に純真無垢(じゅんしんむく)で天使(てんし)のような心(こころ)を持っていた。悪いのはまわりの男子(だんし)だ。あたしが彼女と仲良(なかよ)しだからって、彼女はどんな男が好きかとか、彼女と付き合うにはどうすればいいんだ。彼女は今朝(けさ)何を食べた…。もう、いつも話題(わだい)は彼女のことばかり。こんなことが、高校まで続いたの。で、あたしは決めたんだ。大学は絶対(ぜったい)違(ちが)う所へ行こうって。菜津子は東京へ行ったけど、あたしは地元(じもと)の大学に入学した。あたしの大学生活は、そりゃ充実(じゅうじつ)してたわ。
 それなのに、何で、職場(しょくば)で彼女と再会(さいかい)? 何で同じ会社(かいしゃ)? しかも、何で本社(ほんしゃ)から転勤(てんきん)してくるのよ。絶対…、絶対にあたしの彼には紹介(しょうかい)しないから。
<つぶやき>誰かと比(くら)べるのは止(や)めよう。あなたはあなたなんだから。胸(むね)をはりましょう。
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0092「恋人売ります」

2017-10-29 18:43:51 | ブログ短編

「何だよ、こんなところに呼(よ)び出して」丸雄(まるお)はカフェの席(せき)につくなり言った。
「遅(おそ)かったじゃないか。何やってたんだよ」親友(しんゆう)の拓也(たくや)はむずむずしながら、「実(じつ)はさ、ネットショッピングですっごいの見つけちゃって。俺(おれ)、買っちゃったんだよ、恋人(こいびと)を」
「恋人?」丸雄は何の話をしているのか分からず、拓也の顔をまじまじと見つめた。
「それがさ、いくらだと思う? 何と、一万円プラス消費税(しょうひぜい)。すっごいだろ」
「何だよそれ」丸雄はあきれて言った。「そんな、恋人が買えるわけないだろ。お前、絶対(ぜったい)だまされてるぞ。まさか、振(ふ)り込んだりしてないだろうな、金(かね)」
「振り込んだよ。決まってるじゃないか。だって、一万プラス消費税だぞ。それで、恋人ができるんだ。俺たち念願(ねんがん)の…。考えてもみろよ、俺たち彼女いない歴(れき)、何年だ?」
「もう、付き合ってらんないよ。俺、帰るな。これから、仕事(しごと)があるんだ」
「ダメだよ。お前がいないでどうするんだよ」
「俺には関係(かんけい)ないだろ」丸雄は席を立とうとするが、拓也は必死(ひっし)に引き止めて、
「来るんだよ、今からここに。その、恋人が…。それでな、お前の写真(しゃしん)を送っといたから、お前がいないと会えないだろ。その、恋人に」
「な、なに考えてんだよ。オ、オレ、どうすればいんだ。急に、そんなこと言われても…」
<つぶやき>男はどうしてこんなに浅(あさ)はかなんでしょう。でも、その恋人は来たのかな?
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0091「夢の絆創膏」

2017-10-26 18:41:08 | ブログ短編

 アマゾンの密林(みつりん)。鈴木(すずき)がここに来ることになった発端(ほったん)は、インターネットに流れていた噂(うわさ)。<アマゾンの奥地(おくち)には、どんな怪我(けが)でも治(なお)してしまう絆創膏(ばんそうこう)がある>
 ことの真相(しんそう)は分からないが、もしそれが本当(ほんとう)なら会社に大きな利益(りえき)をもたらすだろう。これだけの大仕事を任(まか)せられるのは、日本のサラリーマン、鈴木良夫(よしお)しかいなかった。
 ――彼はやっとの思いで、小さな村にたどり着いた。そこで彼が目にしたのは、誰(だれ)もが絆創膏をつけていることだ。彼は村人(むらびと)をつかまえて話を聞こうとした。もちろん、彼は現地(げんち)の言葉(ことば)など分からない。身(み)ぶりや手ぶり、物真似(ものまね)まで使って意思疎通(いしそつう)を図(はか)った。その甲斐(かい)あってか、村人は彼を一軒(いっけん)の小屋(こや)へ案内(あんない)した。
 小屋の中に入って、彼は驚(おどろ)いた。そこにいたのは、紛(まぎ)れもない日本人の青年(せいねん)だった。
「こんなところでスーツ姿(すがた)を見られるなんて」青年はひとなつっこく笑(わら)った。
「スーツは日本のサラリーマンの正装(せいそう)ですから」鈴木は胸(むね)をはって言った。「ところで、どうしてあなたはこんなところにいるんですか?」
「僕ですか。僕は絆創膏を売り歩いてるんです。世界中まわりましたけど、ここの人たち、僕の絆創膏を気に入っちゃって。これを貼(は)ってると悪霊(あくりょう)が逃(に)げて行くんだそうです」
「それじゃ、この絆創膏は日本で手に入るんですか?」
「もちろんです。あっ、じゃあ、僕の名刺(めいし)を渡(わた)しときますね」
<つぶやき>日本のサラリーマンはすごいんですね。どこへでも行っちゃうんですから。
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0090「ご先祖様」

2017-10-25 19:11:36 | ブログ短編

 それは突然(とつぜん)のことだった。朝食の後片付(あとかたづ)けを終えて振(ふ)り返ったとき、その人はそこにいたのだ。じっと芳恵(よしえ)を見つめて…。その顔は、間違(まちが)いなく不機嫌(ふきげん)だった。
「だれ……ですか?」芳恵はやっとのことで言葉(ことば)を発(はっ)した。
「誰(だれ)って、あんたの先祖(せんぞ)だよ」四十(しじゅう)がらみの、着古(きふる)した和服姿(わふくすがた)の女は言った。
「まったく、なってないよ、あんたの段取(だんど)りの悪(わる)さは。誰に教(おそ)わったんだい?」
「あの…」芳恵は、もう唖然(あぜん)とするばかり。
「ずっと上から見てたけどさ。もう、我慢(がまん)できなくて出て来ちゃったよ」
「で、出て来たって? それは、どういう…」
「いいかい。これからみっちり仕込(しこ)んでやるから。しっかり覚(おぼ)えなよ」
「あの、でも…、あたし、これから仕事(しごと)に…」
「なに言ってんだい。子育(こそだ)てもまともにできないで、何が仕事だ」
「でも、行かないと…」芳恵は声を震(ふる)わせながら、「家のローンだってあるし…」
「旦那(だんな)の稼(かせ)ぎでやっていけないようじゃ、どうしようもないねぇ。わしが、主婦(しゅふ)の神髄(しんずい)をたたき込んでやるか」女は芳恵の腕(うで)をつかんで、「逃(に)げ出そうとしても、無駄(むだ)だからね」
 その日から、芳恵のつらく、厳(きび)しい主婦修業(しゅぎょう)が始まったのである。
<つぶやき>便利(べんり)な生活(せいかつ)に慣(な)れてしまうと、ついつい楽をしたくなる。気をつけたいです。
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0089「代わり者」

2017-10-23 18:52:47 | ブログ短編

「なあ、頼(たの)むよ。俺(おれ)、今日は部活(ぶかつ)に遅(おく)れるわけにいかないんだ」
 服部(はっとり)はそう言うと教室(きょうしつ)を飛(と)び出した。その様子(ようす)を見ていた班長(はんちょう)の香里(かおり)が近寄(ちかよ)って来て、
「ねえ、吉井(よしい)君。何で断(ことわ)らないのよ。掃除当番(そうじとうばん)なんだから、服部君にやらせなきゃ」
「いや、あの…、別に僕(ぼく)は…」吉井はうつむいたまま答えた。
 そこへ、野球部、陸上部、バレー部などの部長(ぶちょう)たちが走り込んできた。少し遅れて、書道部、茶道(さどう)部、吹奏楽(すいそうがく)部、料理研究部の部長たちも。この学校の全てのクラブの部長たちが勢(せい)ぞろいしたようだ。彼らの目的(もくてき)は吉井君。でも、彼のことを吉井と呼ぶものはひとりもいなかった。鈴木(すずき)、山崎(やまざき)、亀山(かめやま)、佐藤(さとう)、沢田(さわだ)、林(はやし)……などなど。
「吉井君、どうなってるのよ」香里は、教室いっぱいに集まった部長たちを見て言った。
「いや、あの…」吉井は頭(あたま)をかきながら、「代(か)わってくれって頼まれて、それで…」
 真(ま)っ先に吉井の腕(うで)をつかんだのは野球部だった。「頼むよ。今度の試合(しあい)に勝(か)ちたいんだ」
 ほかの部長たちも吉井に近づこうと押(お)し合いながら、「うちのクラブには君が必要(ひつよう)なんだ」「あなたの才能(さいのう)を生かせるのは私たちのクラブよ」「いや、俺たちのクラブに」
「ちょっと、待ってよ!」香里が大声を張(は)り上げてみんなを制(せい)した。
「吉井君は誰かの代わりなんかじゃないわ! 吉井君は、吉井君なんだから」
「いや、あの…」吉井は香里に申(もう)し訳(わけ)なさそうに言った。「別に、僕は…」
<つぶやき>代役(だいやく)なのに才能を発揮(はっき)してしまう。吉井君とは、いったい何者なのでしょう。
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