みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0977「好きが逆転」

2020-10-31 17:46:26 | ブログ短編

 彼女は吉岡(よしおか)君を呼(よ)び出した。やっと告白(こくはく)する決心(けっしん)をしたのだ。吉岡君が来ると、彼女は思い切って言った。「あたし、吉岡君のこと<大嫌(だいきら)い>…」
 彼女は思わず口を押(お)さえた。あたし、なに言ってるの? 彼女は戸惑(とまど)いながら続けた。
「あたし…<大嫌い>。<顔も見たくない>…」
 吉岡君は困惑(こんわく)していた。こんなこと言われるなんて…。彼女は顔を真っ赤にして逃(に)げ出した。彼女だって、こんなこと言うつもりなんて――。
 次の日。彼女のところに幼(おさな)なじみのタケシが訪(たず)ねてきた。タケシは、
「お前、吉岡になに言ったんだよ。告白するはずじゃなかったのか?」
「いや、そのつもりで…。でも、変なの。あたしは大好(だいす)きって言うつもりだったのに、大嫌いって…。付き合ってって言ったはずなのに、顔も見たくないって言っちゃって…」
「何だよ、それ。お前、からかってるのか? 趣味悪(しゅみわる)いぞ」
 彼女はタケシの顔を見つめて、真顔(まがお)で言った。「あたし…、あなたのこと大好きです」
 タケシはドキッとして息(いき)を呑(の)んだ。彼女は大きなため息をついて、
「何でよ。タケシにはちゃんと言えるのに…。吉岡君には、何で言えないの?」
 タケシはちょっと残念(ざんねん)そうな顔をしたが、彼女に、「もう、心配(しんぱい)すんな。吉岡もお前のこと好きなんだから…。ここは、言葉(ことば)より、実力行使(じつりょくこうし)で……。お前から、キスしてやれ」
 彼女は顔を赤らめて叫(さけ)んだ。「バ、バカ! そ、そんなことできるわけないでしょ」
<つぶやき>乙女心(おとめごころ)は複雑(ふくざつ)なのか、真逆(まぎゃく)のことをしてしまう。落ち着いて、リベンジを…。
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0976「仲直りしたいのに」

2020-10-29 17:51:16 | ブログ短編

 男と女が深刻(しんこく)な顔をして向き合っていた。女は、男に言った。
「あたしたち、水と油(あぶら)だと思う。これから先(さき)も、分かり合えない気がするわ」
 男は、ぎこちなく微笑(ほほえ)むと、「そ、そんなことないよ。なら、乳化(にゅうか)すればいいんだ」
「ごめん。あなたの言ってること、分かんないわ」
「だから…。乳化とはね、互(たが)いに溶(と)け合わない液体(えきたい)の一方を微粒子(びりゅうし)にして、他方(たほう)の液体の中に分散(ぶんさん)することで――」
「そういうことじゃなくて……。あたし、乳化ぐらい分かるわよ」
「だからね…。そうだ。じゃあ、僕(ぼく)の方が微粒子化して、君(きみ)の――」
「まったく分かんないわよ。そういう、変な例(たと)え方しないでくれる。もう…、そういうところが……。もうやめましょ。こんなこと言ってても仕方(しかた)ないわ」
 女は立ち上がると男に背(せ)を向けた。男は、それでもあきらめきれないのか、
「ちょっと待ってよ。時間をくれないか? そしたらきっと…、君の望(のぞ)むような男になって……。いや、それは、無理(むり)かもしれないけど…。でも、僕も、変われると思うんだ」
 女は振(ふ)り返ると、ため息(いき)をついて最後の言葉(ことば)を吐(は)いた。「あのね、そんな分かりにくい謝(あやま)り方じゃ、ぜったい許(ゆる)してもらえないよ。少しは相手(あいて)の気持ちになって考えなよ」
「そんなこといっても…。彼女の気持ちなんか、僕には理解(りかい)できないよ」
<つぶやき>これは謝罪(しゃざい)の練習(れんしゅう)なのか…。女性の気持ちを理解するのは至難(しなん)の業(わざ)かもね。
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0975「しずく110~立ち話」

2020-10-27 17:51:48 | ブログ連載~しずく

 政府(せいふ)の機関(きかん)が入っているとあるビル。その廊下(ろうか)で、すれ違(ちが)う二人の男。一人はあの初老(しょろう)の紳士(しんし)で、もう一人は神崎(かんざき)つくねの父親だった。
「これは黒岩(くろいわ)さん。しばらくお見かけしませんでしたが、お元気(げんき)そうでなによりです」
「これは神崎君。どうですか? 実験(じっけん)のほうは…。上手(うま)くいってますか?」
「相変(あいか)わらずですよ。なかなか思うようにはいきません。しかし、限(かぎ)られた資源(しげん)を最大限(さいだいげん)利用するために、努力(どりょく)は惜(お)しみませんよ。昔(むかし)のように捕獲(ほかく)して隔離(かくり)するだけでは――」
「それも無駄(むだ)ではなかったはずだ。私たちが実験材料(じっけんざいりょう)をそろえてあげたから今がある。そのことを忘(わす)れてもらっては困(こま)るよ」
「そういえば、あなたのところの保護施設(ほごしせつ)から脱走者(だっそうしゃ)が出たそうですね」
「ほう、どこからそれを? 心配(しんぱい)はいらんよ。ほとんどの者は連れ戻(もど)した」
「ほとんどの者…。確(たし)か、あなたが使っていた能力者(のうりょくしゃ)が、まだ捕獲されていないのでは?」
「あれは、大(たい)した能力者じゃない。しばらく、泳(およ)がせておくよ」
「黒岩さんは、ご存(ぞん)じですか? 政府の転覆(てんぷく)を企(たくら)んでいる者がいるそうですよ。治安部(ちあんぶ)に知人(ちじん)がいましてね。今、極秘(ごくひ)で調査(ちょうさ)しているとか…。お互(たが)い気をつけないと。あらぬ腹(はら)を探(さぐ)られないように…。我々(われわれ)は政府に目をつけられていますからね」
「ご忠告(ちゅうこく)、感謝(かんしゃ)しますよ。しかし、私にはそんなことをする力はありませんよ」
 二人は意味深(いみしん)な笑(え)みを浮(う)かべて、それぞれの方向(ほうこう)へ歩き出した。
<つぶやき>二人は顔見知(かおみし)り。どちらも手の内は見せないようで、何を考えているのか…。
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0974「考えすぎ」

2020-10-25 17:52:41 | ブログ短編

 彼を前にして彼女はフリーズしてしまった。彼が彼女に話しかけているのに、彼女にはまったく聞こえてないみたい。隣(となり)にいた友達(ともだち)が彼女をその場から連れ出した。
 友達は彼女の頬(ほお)を軽(かる)く叩(たた)いて言った。「しっかりして! 目を覚(さ)ましなさい」
 彼女は腑抜(ふぬ)けたように、「あぁ…、あの…、やっぱり、あたし…。もう、ムリだよ」
「なに言ってんのよ。彼のこと好きなんでしょ? せっかく私が会わせてあげたのに…」
「だって彼が来てくれたのは、あなたが誘(さそ)ったからで…。あたしの方が、お邪魔虫(じゃまむし)って…」
「あなたバカなの? いい、よく聞きなさい。私は彼のことなんかどうでもいいの。私は、彼にあなたのことを話しただけ。あなたに興味(きょうみ)がなければ、彼だってここに来てないわ」
「でも…。あたし、昨日(きのう)からずっと考えちゃって…。彼と何を話せばいいのかとか、彼とどう付き合っていくのかとか…。頭の中で色々(いろいろ)シミュレーションしてみるんだけど……。どうやっても、彼とあたしが上手(うま)くいくことなんて想像(そうぞう)できなかったの」
「はぁ? 何してんのよ。そんな先(さき)のことまで考えなくてもいいんだよ」
「だって、彼よ。あの、みんなから一番人気(にんき)の…。あ、あたしなんかが…」
「ほんとバカね。なにビビってんのよ。彼のこと、好きなんでしょ?」
 彼女は、心細(こころぼそ)げにうなずいた。友達は、彼女を睨(にら)みつけて言った。
「だったら、勝負(しょうぶ)しなさいよ。いい、逃(に)げんじゃないわよ!」
<つぶやき>頼(たの)もしい友達ですね。恋に踏(ふ)み出すには、これくらい背中(せなか)を押(お)されないと…。
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0973「うしろ」

2020-10-23 17:55:04 | ブログ短編

 残業(ざんぎょう)で帰りの遅(おそ)くなった彼女。いつもなら駅前(えきまえ)にタクシーが何台か停(と)まっているのだが、どういうわけか今日は一台もいなかった。彼女は仕方(しかた)なく家まで歩くことにした。
 駅を出てしばらく行ったとき、彼女はうしろに何かの気配(けはい)を感じた。最初(さいしょ)は気のせいかと思ったが、時(とき)おりコツ・コツと小さな音が耳(みみ)に入って来た。彼女はうしろを振(ふ)り返ってみたが、誰(だれ)の姿(すがた)もなかった。「何だ、気のせいか…」と彼女はぽつりと呟(つぶや)いた。
 辺(あた)りは薄暗(うすぐら)く家の灯(あか)りはほとんど消(き)えていた。小さな街灯(がいとう)がぽつぽつと灯(とも)っているだけ。彼女は足を止めた。ここから先(さき)は、田んぼや畑(はたけ)の中を通る道になる。当然(とうぜん)、人に出会(であ)うことはない。彼女は意(い)を決(けっ)して歩き出した。
 歩き始めてすぐ、さっきのコツ・コツという音が聞こえだした。彼女は息(いき)を呑(の)んだ。歩き続けると、その音は少しずつ大きく、早くなっているような気がした。ここで振り返れば、周(まわ)りには隠(かく)れるところはないので誰かがいれば目にすることができる。だが、彼女にはそこまでの勇気(ゆうき)はなかった。彼女は足を早めた。音は、彼女の足音よりも早くなっていく。彼女が駆(か)け出そうとしたそのとき、その瞬間(しゅんかん)――。彼女は誰かに肩(かた)をつかまれた。彼女は大声をあげて、手にしたバッグを振りまわす。
 ――彼女は目の前に倒(たお)れ込んだ男を見て言った。「もう、お兄(にい)ちゃん。おどかさないでよ」
 男は泣きそうな顔をして、「何だよ、お前が、俺(おれ)を置(お)いて行こうとするからだろぅ」
「そんなこと、知らないわよ。どこまでびびりなのよ。いい加減(かげん)にして」
<つぶやき>どうしようもなく頼(たよ)りない兄(あに)ですが、見捨(みす)てないで長い目で見てやってね。
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