みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0992「つぶれる」

2020-11-30 18:07:39 | ブログ短編

 僕(ぼく)は目覚(めざ)めた。頭がガンガンする。昨夜(ゆうべ)、会社(かいしゃ)の飲(の)み会で飲み過(す)ぎたせいだ。こんなこと、新入社員(しんにゅうしゃいん)のとき以来(いらい)だ。何でこんなに飲んでしまったんだろう……。
 突然(とつぜん)、僕の目の前に女性の顔(かお)が飛び込んできた。僕は飛び起きた。彼女は、新入社員の…。昨夜は、彼女の歓迎会(かんげいかい)だったのだ。彼女は微笑(ほほえ)みながら言った。
「大丈夫(だいじょうぶ)ですか? 昨夜は楽(たの)しかったです。木下(きのした)さんって、とっても面白(おもしろ)い方ですね」
 僕は辺(あた)りを見回した。ここは彼女の部屋(へや)なのか? 僕はどぎまぎして、
「あの…、ど、どうして…、ぼ、僕は…、ここに…」
「だって、ふらふらだったんですよ。だから、タクシーでここまで――」
「それは…、大変(たいへん)、ご迷惑(めいわく)をおかけしました」僕は…何を言ってるんだ?
「そうですね。大変だったんですよ。ベッドに寝(ね)かせるの。あたし、キス――」
「ごめんなさい! 僕、そんなことを…。すいません、全然(ぜんぜん)、覚(おぼ)えてなくて…」
「謝(あやま)らないでください。あたしから、したんですから。でも、それだけですよ。だって、木下さん、すぐに寝ちゃったから…。勘違(かんちが)いしないでくださいね。木下さんだから……」
 こ、これは、どういうことだ? 彼女とは、ほとんと初対面(しょたいめん)なんだぞ。これは、問題(もんだい)なんじゃないのか? 倫理的(りんりてき)に許(ゆる)されないんじゃ。でも、僕も彼女も、独身(どくしん)…だよな……。
 彼女は僕の顔を見つめて言った。「今日はお休みですよね。ゆっくり寝ててください。お粥(かゆ)なら食べられますよね。作ってますから…。あっ、お水、持ってきますね」
<つぶやき>これは一目惚(ひとめぼ)れってやつなのか? それとも、何か他に狙(ねら)いがあるのかも…。
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0991「たくらみ」

2020-11-28 18:07:05 | ブログ短編

 私は病院(びょういん)のベッドで目覚(めざ)めた。なぜそんなところにいるのか、私にはまったく分からなかった。先生(せんせい)がやって来て説明(せつめい)してくれた。誰(だれ)かに襲(おそ)われて、頭を殴(なぐ)られたのだと。
 病室に男性がやって来た。彼は、私の夫(おっと)だと言った。でも、私は彼のことが分からない。私は結婚(けっこん)していたのか…。先生の診断(しんだん)では、私は記憶喪失(きおくそうしつ)になっていると…。
 ――退院(たいいん)して、私は彼と一緒(いっしょ)に家に帰った。でも、本当(ほんとう)にここが私の家なのか? 座(すわ)っていてもどうにも落ち着かない。よその家にきているみたいだ。
 朝、彼が仕事(しごと)に出かけると、私はひとり家の中を歩き回った。少しでも記憶を取り戻(もど)そうと思ったのかもしれない。部屋(へや)には私の写真(しゃしん)が何枚か飾(かざ)られていた。でも、彼と一緒の写真は見当(みあ)たらない。私は、本棚(ほんだな)の本を一つずつ指(ゆび)でなぞって見ていく。その中の一冊(さつ)を手に取った。何気(なにげ)なくパラパラとページをめくる。すると、写真が一枚、床(ゆか)に落ちた。
 私はそれを拾(ひろ)い上げてハッとした。そこには、私と、夫とは違(ちが)う別(べつ)の男性が写っていた。写真の中の二人は、楽しそうに抱(だ)きあっている。これは、どういうこと? 本当はこの男性が夫なのか…。それとも、私は夫とは別の男性とこういうことに――。
 違(ちが)うわよ。私は、そんなこと…。きっと、結婚する前に付き合っていた人かもしれないわ。きっとそうよ。――でも、そんな写真、結婚したら処分(しょぶん)するはずだわ。私は――。
<つぶやき>これは事件(じけん)です。誰が彼女を狙(ねら)っているのか…。夫なのか、それとも別の…。
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0990「しずく113~実戦」

2020-11-26 17:48:07 | ブログ連載~しずく

 水木涼(みずきりょう)には考えている時間(じかん)はなかった。日本刀(にほんとう)の男は涼に斬(き)りかかった。何も持たない涼は逃(に)げるしかなかった。二度三度となんとかかわしてきたが、どんどん追(お)いつめられていく。逃げ場はもうなかった。男はじりじりと間合(まあ)いをつめて、涼を斬りつけた。
 涼は庭(にわ)に倒(たお)れ込んだ。右腕(みぎうで)に痛(いた)みが走り、赤い血(ち)が流れ出ている。涼には命(いのち)がけの実戦経験(じっせんけいけん)などなかった。彼女は完全(かんぜん)に動揺(どうよう)して戦意(せんい)を失(うしな)ってしまった。男はまたニヤリと笑(わら)い、涼に刀(かたな)を向けた。もうダメだ。涼は震(ふる)えながら目を閉じた。
 その時だ。聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「何してるのよ。あなたって、そんな弱虫(よわむし)だったの?」
 それは、川相初音(かわいはつね)の声だった。涼が目を開けると、日本刀の男は倒されていて、二人の前には男たちが楯(たて)のように立っていた。初音は涼に叫(さけ)んだ。
「さあ、逃げるわよ。あたしの能力(ちから)じゃこれが精一杯(せいいっぱい)なの」
 初音が涼の手をつかんで立たせると、逃げ道を探した。だが、日本刀の男は、男たちの上を飛び越(こ)えて、二人の前に立ちはだかった。男は刀を二人に向けた。二人は塀(へい)まで追いつめられていく。その時、上の方から指笛(ゆびぶえ)が聞こえた。見上げると、屋根(やね)の上に人の姿(すがた)があった。それを合図(あいず)に、男たちは走り去って行く。屋根の上の人影(ひとかげ)も消(き)えてしまった。
 ほっと息(いき)をつく二人。その直後(ちょくご)、家の中から爆発音(ばくはつおん)とともに火(ひ)が吹(ふ)き出した。瞬(またた)く間に、家は炎(ほのお)に包(つつ)まれた。涼が叫び声をあげるが、爆発音にかき消されてしまった。
<つぶやき>両親(りょうしん)を助(たす)けることはできなかったのか? 涼にとって辛(つら)いことになって…。
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0989「ふざけた展開」

2020-11-24 18:00:23 | ブログ短編

〈彼女はごく普通(ふつう)の女の子。ただひとつ違(ちが)っているのは、彼女の中指(なかゆび)はおしゃべりおじさんだったのです〉
「先生(せんせい)、何ですか、これ…。ふざけてるんですか? こんなの採用(さいよう)されるはずないじゃないですか。もっと、真面目(まじめ)に考えてください」
「そんなこと言われても…、あたし、もう何も思いつかないんだもん」
「先生なら大丈夫(だいじょうぶ)です。先生の恋愛小説(れんあいしょうせつ)はベストセラーになってるんですよ」
「だって、あたしの中にある恋愛の引出(ひきだし)は、もう空(から)っぽなのよ。何を書いても、同じことの繰(く)り返しで…。ホラーとかオカルトとか、そういうの入れるしかないの。それがダメなら、もうあたしは書かないわ。もう限界(げんかい)なんだから…」
「分かりました。先生が苦(くる)しんでいるのは…。だったら、その方向(ほうこう)で考えるということで…。じゃあ、このおしゃべりおじさんが彼女の恋愛の手助(てだす)けをするんですね?」
「そんなの、つまんないわよ。彼はね、悪(あく)の化身(けしん)なの。彼女の恋愛をことごとく邪魔(じゃま)して、彼女の幸せを奪(うば)っていくのよ」
「ちょっと待ってください、先生。それじゃ、今までの作風(さくふう)が…。読者(どくしゃ)が納得(なっとく)しないと…」
「別にいいじゃん。ハッピーエンドなんてどうでもいいわ。みんな不幸(ふこう)になればいいのよ」
「先生…、何かあったんですか? 私でよければ、話し、聞きますけど…」
<つぶやき>作家(さっか)も悩(なや)み多き人間なのね。でも、ちょっとこのお話し読んでみたいかも…。
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0988「未来設計」

2020-11-22 17:56:37 | ブログ短編

「えっ、断(ことわ)った? 何でよ。社内一(しゃないいち)のイケメンで、仕事(しごと)もできて…。女子社員の憧(あこが)れの的(まと)なのよ。そんな彼を…。信じられない。告白(こくはく)されて、断る理由(りゆう)なんてないはずよ」
「そりゃ、あたしも、あの人、嫌(きら)いじゃないわよ。でもね、好(す)きな人と付き合うのは、二年後なの。それまでは、仕事に専念(せんねん)することになってるから」
「えっ、ちょっと待って。それって、どういうことなのかなぁ?」
「だから、あたし、未来設計(みらいせっけい)をしてて。今年は恋愛(れんあい)は――」
「えっ、なに言ってるの? 分かんない、全然(ぜんぜん)わかんないよ。そんな…、未来のことが自分(じぶん)の思い通りにいくはずないでしょ。そんなこと、誰(だれ)だって…」
「あら、あたしは今まで思い通りにいってるわ。毎日、充実(じゅうじつ)してるの」
「あなた、もしかして恋愛とかしたことないでしょ。恋愛は、簡単(かんたん)じゃないわよ。この私でも、何度、失恋(しつれん)を経験(けいけん)したか――。ちょっとやめてよ。そんな〈かわいそう〉って顔しないで。今は、ちゃんと彼氏(かれし)いるんだから……。いやいや、私のことはどうでもいいのよ。あなたね、恋愛をなめてたらひどい目にあうわよ。今からでも遅(おそ)くないわ。彼と付き合いなさい。こんなこと二度とないかもしれないのよ。チャンスを逃(に)がしてどうするの」
「でも、そんなことしたら、未来設計がめちゃくちゃになっちゃうわ」
「思い通りじゃ面白(おもしろ)くないじゃない。彼のことは、親(した)しい友だちだと思えばいいのよ。彼には付き合ってるって思わせといて、とりあえずキープしときなさいよ――」
<つぶやき>人生は思い通りにはいかないですよね。もしかして、私ってキープなのかな?
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