みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0961「手作り」

2020-09-29 17:54:58 | ブログ短編

 とある会社(かいしゃ)のお昼休(ひるやす)み。女子社員(しゃいん)が自分の机(つくえ)でお弁当(べんとう)を広げていると、同僚(どうりょう)の女性が、
「あれぇ、お弁当なの。どうしちゃったのよ?」
「ああ、ちょっと節約(せつやく)でね。主人(しゅじん)のを作ったついでに、残(のこ)りものでね」
「いいわねぇ、あたしなんかコンビニよ。私もお弁当にしようかなぁ」
「そうしましょうよ。他に弁当持ってくる人いないから、仲間(なかま)になってよ」
「実(じつ)はね、うちのひと、家庭菜園(かていさいえん)を始めたのよ。何か近くで畑(はたけ)を借(か)りちゃってね」
「えっ、すごいじゃない。じゃあ、手作(てづく)り野菜(やさい)を食べられるんだ」
「まだ、そこまではね。今ね、種(たね)を蒔(ま)いたり、苗(なえ)を植(う)えたりしてるの。私も休日には手伝(てつだ)ってるんだけど…。そうだ…、収穫(しゅうかく)したら持ってきてあげるよ」
「ありがとう。でも、悪(わる)いわねぇ。じゃあ、あたしもお手伝いするわよ」
 そこへ別の同僚がやって来た。彼女は会社に入ったばかりで、私生活(しせいかつ)がまったく謎(なぞ)に包(つつ)まれていた。彼女は二人の話を聞いていたようで、話に加(くわ)わった。
「手作りっていいわよね。実は、私も…」
「そうなんだぁ…。聞かせてよ、何を作ってるの?」
「この世界(せかい)よ。でもね、なかなか思うようにいかなくて…。この間は、部族間(ぶぞくかん)の争(あらそ)いをやめさせたし。その前は、災害(さいがい)を未然(みぜん)に防(ふせ)いだのよ。来週は、中東(ちゅうとう)の方へ行かないとね」
「中東って…。あなた、いったい何者(なにもの)なのよ?」
<つぶやき>世界を手作りしてるって。まさか、神様(かみさま)とかじゃないよね。もしそうなら…。
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0960「しずく107~不安」

2020-09-27 17:58:30 | ブログ連載~しずく

 月島(つきしま)しずくは檻(おり)の前に立つと、ひとつずつ扉(とびら)を開けていった。もちろん鍵(かぎ)を使うことはなかった。閉(と)じ込められていた人たちは大喜(おおよろこ)びで外へ飛(と)び出した。しずくは、
「さぁ、行って。あなたたちを止める人はいないから。もう、捕(つか)まらないでね」
 ――しずくは、一番奥(おく)の最後(さいご)の檻の前に立った。その檻には誰(だれ)もいないのか、扉まで来ている者(もの)はいなかった。薄暗(うすぐら)いなかへ目をこらすと、奥の方に人影(ひとかげ)が見えた。薄汚(うすよご)れた毛布(もうふ)をかぶり、目だけが異様(いよう)にギラギラと輝(かがや)いているように見えた。
 川相初音(かわいはつね)がライトを檻の中へ向けた。光の中に浮(う)かび上がったのは、しずくと同じ年頃(としごろ)の娘(むすめ)だった。その娘は、ただじっと座っているだけだった。初音が声をかけても何の反応(はんのう)も示(しめ)さない。しずくはしばらく彼女を見つめていたが、その娘に声をかけた。
「あなたは、ここにいた方がいいようね。また会えるのが楽しみだわ。じゃあ」
 言い終えるとしずくは出口(でぐち)の方へ向かった。初音は追(お)いかけながら、
「ねぇ、どういうこと? あの娘(こ)は何だったの。ほんとに助(たす)けなくても…」
「あの娘(こ)には助けなんていらないわ。自由(じゆう)に出られるんだから。ずっとここにいてくれればいいんだけど…。でも、それはムリね」
「ねぇ、教えなさいよ。自由に出られるって、どういうことよ」
 しずくは立ち止まることなく答(こた)えた。「あの娘(こ)が、最強(さいきょう)の敵(てき)になるってことよ」
<つぶやき>新たな敵が現れたのか…。これからの展開がまったく見えなくなりそうです。
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0959「焦がれる4」

2020-09-25 17:55:30 | ブログ短編

 翌日(よくじつ)、吉乃(よしの)は小木(おぎ)君に忠告(ちゅうこく)した。死(し)んだ人とそんなこと――。でも、小木君は素(そ)っ気ない態度(たいど)で、話を聞こうともしなかった。吉乃には、それ以上(いじょう)何も言えなかった。
 次(つぎ)の日。小木君は学校(がっこう)を休んだ。放課後(ほうかご)になると、吉乃は誰(だれ)もいない美術室(びじゅつしつ)にいた。
「ねぇ、いるんでしょ」吉乃は教室(きょうしつ)を見回(みまわ)して言った。「結衣(ゆい)、出てきてよ。話があるの!」
 静(しず)まり返った教室(きょうしつ)。遠くで、生徒(せいと)の騒(さわ)ぎ声がかすかに聞こえた。いつの間にか辺(あた)りは薄暗(うすぐら)くなっている。吉乃があきらめて教室を出ようとしたとき、背後(はいご)に気配(けはい)を感じた。ゆっくり振(ふ)り返ると、そこに結衣の姿(すがた)があった。結衣は無表情(むひょうじょう)な顔でささやいた。
「小木くんは…、どこ? どうして来てくれないの? あたし、ずっと待ってるのに…。あなたね。あなたが――」結衣はどんどん吉乃に迫(せま)ってきて、「あたしからとらないで!」
 結衣の手が、吉乃の首(くび)に取りついた。吉乃は机(つくえ)の上に倒(たお)れ込んだ。結衣の冷(つめ)たい手が、吉乃の首をしめ上げていく。突然(とつぜん)、教室の扉(とびら)が開いて小木君が飛(と)び込んで来た。
「やめるんだ! やめてくれっ。結衣、彼女はダメだ。僕(ぼく)を…、僕を連(つ)れて行け」
 結衣は、にっこり微笑(ほほえ)むと、手を放(はな)して小木君の方へ向かって行った。結衣の手が、小木君に触(ふれ)れる瞬間(しゅんかん)――。吉乃が二人の間(あいだ)に割(わ)って入った。
「だめ! 小木君は渡(わた)さないわ。私、小木君のこと…、ずっと好きだったの。だから、だから…。結衣には、渡せない。ごめん、結衣。許(ゆる)して……」
<つぶやき>この後、結衣の姿(すがた)はゆっくり消(き)えていったそうです。二度と二人の前には…。
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0958「焦がれる3」

2020-09-23 17:59:21 | ブログ短編

 それから間(ま)もなく、結衣(ゆい)は息(いき)を引き取った。あまりにも突然(とつぜん)のことで、吉乃(よしの)は何もやる気になれなくなった。葬儀(そうぎ)が終わると、結衣の家族(かぞく)は引っ越して行った。
 しばらく学校を休んでいた小木(おぎ)君が登校(とうこう)してくる。吉乃は彼のことが気になって、何かにつけておしゃべりなどするようになった。心に空(あ)いた穴(あな)を埋(う)め合っていたのかもしれない。二人の距離(きょり)はおのずと近づいて、付き合うようになっていった。
 そんな時、急に小木君の態度(たいど)が変わってしまった。吉乃がいくら誘(さそ)っても、一緒(いっしょ)に帰らなくなったのだ。そして、日がたつほどに小木君は体調(たいちょう)を崩(くず)していった。悪(わる)い病気(びょうき)になってしまったのか、吉乃は不安(ふあん)になった。
 放課後(ほうかご)、吉乃は気になって小木君の後をつけてみた。下校(げこう)時間になると、小木君は教室(きょうしつ)を出て行った。そして、帰らずに誰(だれ)もいない美術室(びじゅつしつ)へ入って行く。吉乃はそっと美術室を覗(のぞ)いてみた。すると、そこには女の子が待っていた。背(せ)を向けていたので、吉乃にはそれが誰なのか分からなかった。小木君は、女の子に声をかけ近寄(ちかよ)って行く。
 吉乃はため息(いき)をついて呟(つぶや)いた。「やっぱり…私じゃ…」
 吉乃がまた覗いてみると、女の子が振(ふ)り返った。その顔を見て、吉乃は思わず息を呑(の)んだ。それは、死んだはずの結衣だった。小木君は結衣と抱(だ)き合い、口づけを交(か)わした。
<つぶやき>彼への思いが強すぎて、幽霊(ゆうれい)になってしまったのか…。これは、怪談(かいだん)なの?
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0957「焦がれる2」

2020-09-21 18:05:50 | ブログ短編

 結衣(ゆい)と小木(おぎ)君は誰(だれ)もが羨(うらや)む恋人同士(こいびとどうし)。学校(がっこう)ではいつも一緒(いっしょ)に過(す)ごすようになった。吉乃(よしの)はちょっと距離(きょり)をおいて、二人を見守(みまも)っているようだった。でも、休日の前の日には、結衣は吉乃にアドバイスを求(もと)めていた。デートで失敗(しっぱい)はしたくないから――。
 夏休みに入ると、吉乃は自分から結衣と連絡(れんらく)をとるのをやめてしまった。結衣からも何も言ってこなかった。一度だけ、吉乃は二人が仲良(なかよ)く歩いているのを見かけた。
 二学期が始まって、吉乃は驚(おどろ)いた。結衣の様子(ようす)が変わってしまったのだ。顔からは生気(せいき)が消(き)え、塞(ふさ)ぎ込んでいるようだった。吉乃は結衣にどうしたのか訊(き)いてみた。結衣は、
「あのね、あたし、引っ越さなきゃいけなくなって…。あたし、小木君と別れたくない」
「えっ、どうして? そのこと、小木君には話したの?」
 結衣は首(くび)を振(ふ)って、「もう、何でよ。転勤(てんきん)なんて…、パパ一人で行けばいいのに…」
 吉乃は励(はげ)ますように、「大丈夫(だいじょうぶ)よ。会えなくなっても、いつでも連絡とれるじゃない」
「気休(きやす)めはやめて! 彼と会えないのよ。あたし、耐(た)えられない。ムリよ。小木君…、きっとあたしのことなんか忘(わす)れてしまうわ。他に好きな娘(こ)ができるに決(き)まってる。あたしなんかより、ずっときれいで……。ああ、あたし…。もう、死(し)んでしまいたい……」
 結衣は、急に胸(むね)を押(お)さえて倒(たお)れ込んだ。吉乃は彼女の名前を叫(さけ)んだ。結衣は、喘(あえ)ぎながら呟(つぶや)いた。「小木くん…、あたしの……。大好きよ…いつまでも…ずっと……」
<つぶやき>こんなことになるなんて、誰(だれ)も予想(よそう)なんて…。悲恋(ひれん)に終わってしまうのか。
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