みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0643「お見合い3」

2019-08-31 18:38:46 | ブログ短編

 彼女にとって、結婚対象(たいしょう)から消(き)えた男の話など何の意味(いみ)もなかった。彼女の頭の中では、別の思いが駆(か)けめぐっていた。あ~ぁ、着物(きもの)のレンタル料、無駄(むだ)になっちゃったじゃない。次のお見合(みあ)いは、ちゃんと相手(あいて)のプロフィールを確(たし)かめてからにしなくちゃ…。
「――そんなことで、私たち家族(かぞく)は地下(ちか)へ移住(いじゅう)することになったんです。でも女性の数が圧倒的(あっとうてき)に少なくて、それで地上で婚活(こんかつ)をしようということで…」
 その時、障子(しょうじ)が開いて、同じ恰好(かっこう)をした男が息(いき)を切らして入って来た。五郎(ごろう)はその男に小声で言った。「遅(おそ)かったじゃないか。何してたんだよ? もう来ちゃっただろ」
「ごめん。道(みち)に迷(まよ)っちゃって…。何とかたどり着(つ)けてよかったよ」
 ここで初めて、彼女は変な男が一人増(ふ)えているのに気がついた。五郎は彼女に言った。
「あっ、こいつは…。あの、交代要員(こうたいよういん)じゃないんです。一番下の弟(おとうと)で…」
 彼女は呆(あき)れた顔をして、「ああ、そうですか。いったい何人兄弟(きょうだい)がいるのよ」
「私たち、七人兄弟で、みんな男なんですけど…。一番上の兄(あに)は仕事(しごと)の都合(つごう)で今日は…」
「もういいです。遅いですね、仲人(なこうど)の人…。早く来てくれないかしら」
 後ろの方で控(ひか)えていた男たちが、弟(おとうと)を手招(てまね)きして小声で話し始めた。
「何で道に迷うんだよ。しるべ石(いし)を置いとかなかったのか?」
「置いといたさ。けど、なくなってたんだよ。それで、歩いている人に訊(き)こうと思ったんだけど、みんな逃(に)げて行くし…。警官(けいかん)も来ちゃって大変(たいへん)だったんだから」
<つぶやき>それは当然(とうぜん)かも。完全(かんぜん)に変な人だよ。で、何で地下に移住することにしたの?
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0642「お見合い2」

2019-08-30 18:40:17 | ブログ短編

 確(たし)かに、彼女はそれを望(のぞ)んでいた。今まで何度もお見合(みあ)いをして、それがことごとく失敗(しっぱい)に終(お)わっていた。今度こそはと…、そういう気持ちでここに来ていた。だが、目の前の男を見て、張(は)り詰(つ)めていた糸(いと)がぷつりと切れてしまった。彼女は席(せき)に戻(もど)ると、
「分かりました。じゃ、仲人(なこうど)の方がお見えになるまで、ということで…」
「ありがとうございます。柳沢(やなぎさわ)さんは、お優(やさ)しい方なんですね。気に入りました」
「あの、そんなんじゃありません。仲人の方にご挨拶(あいさつ)をしたら、すぐに帰りますから」
「じゃあ…、とりあえず、自己紹介(じこしょうかい)をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
 彼女がしぶしぶ同意(どうい)すると、五郎(ごろう)は居住(いず)まいを正(ただ)して話し始めた。
「実(じつ)は、私たち、地底人(ちていじん)なんです。地底人といっても、地底に住(す)んでいるってことで…」
 彼女は大きな溜息(ためいき)をついた。私って、まともな男性とは付き合えないのかな…。どうして、こんな変な男ばかり寄(よ)ってくるのよ。
 五郎は彼女の顔を覗(のぞ)きこむようにして、「あの…、どうかされましたか?」
 彼女は不機嫌(ふきげん)に答(こた)えた。「いいえ、何でもありませんから…」
「では、続けますね。私たちの曾祖父(そうそふ)は炭鉱(たんこう)マンだったんです。その当時(とうじ)は、苛酷(かこく)な仕事(しごと)で、事故(じこ)なんかも多かったようです。ある時、落盤(らくばん)事故がありまして…」
<つぶやき>地底人って何なんだ? ますます変な男じゃないですか。どうする彼女…。
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0641「お見合い1」

2019-08-29 18:25:58 | ブログ短編

 とある料亭(りょうてい)でのお見合(みあ)いの席(せき)。着物(きもの)姿(すがた)の女性が案内(あんない)されてやって来た。彼女は廊下(ろうか)で居住(いず)まいを正して座(すわ)ると、声をかけて障子(しょうじ)を開けた。次の瞬間(しゅんかん)、彼女は言葉(ことば)を失(うしな)った。
 座卓(ざたく)の前に座っていた男性が声をかけた。「柳沢(やなぎさわ)さんですか? どうぞお入り下さい」
 彼女はためらった。だって、男たちは黄色(きいろ)いヘルメットをかぶり、黒(くろ)いサングラスをかけている。それに、お見合(みあ)いのはずなのに、おそろいのつなぎの作業服(さぎょうふく)姿である。
 男はいぶかっている彼女を見て言った。「すいません。これが、私たちの正装(せいそう)でして…」
 彼女は恐(おそ)る恐る部屋へ入り、座卓の前に座ると訊(き)いてみた。「あの、仲人(なこうど)の方は?」
「それが、別のお見合いの方で何かあったとかで…、遅(おく)れるということでした」
「そ、そうですか…」彼女は男たちを見回して、「あの…、穴掘(あなほり)さんは…」
 目の前に座っていた男が答(こた)えた。「あ、私です。申(もう)し遅れました。穴掘五郎(ごろう)と言います」
 彼女は、後ろに座っている男たちが気になった。それに気づいたのか、五郎は、
「あっ、こいつら…。いや、これは私の兄弟(きょうだい)でして、もしもの時のための、交代要員(こうたいよういん)といいますか…。初めてお会いするので、私があなたの好(この)みではない場合(ばあい)ですね、代(か)わりに…」
 彼女は目を丸(まる)くした。お見合いに交代要員って? この人たち、何を考えてるの!
 彼女はさっと立ち上がると部屋を出て行こうとした。五郎はそれを呼(よ)び止めて、
「あの、結婚(けっこん)したいんでしょ! 私もそうです。もう少し、お話ししませんか?」
<つぶやき>お見合いの席なのに常識外(じょうしきはず)れの男たち。こいつらは一体(いったい)何者なのでしょう?
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0640「しずく43~炎上」

2019-08-28 18:34:55 | ブログ連載~しずく

 楓(かえで)はもう一度しずくを抱(だ)きしめると、いとおしそうにしずくの顔を見つめて言った。
「さあ、もう行きなさい。あなたは、ここにいちゃいけないわ」
「行くって、どこへ? 離(はな)れたくないよ。私も一緒(いっしょ)に連れてって」
「あなたには、あなたのやるべき事(こと)があるの! それを成(な)し遂(と)げなさい」
 楓はいつも身(み)につけている赤い石のついたペンダントを外(はず)して、それをしずくの首(くび)へかけてやった。そして、何かを念(ねん)ずるように赤い石を握(にぎ)りしめた。
「これって、おばあちゃんの形見(かたみ)の…、お母さんが大事(だいじ)にしてた…」
「そうよ、あなたが持ってなさい。いい、忘(わす)れないで。あなたは一人じゃないわ。離れていても、いつも家族(かぞく)は一緒よ。それに、あなたには親友(しんゆう)がいるでしょ」
「あ、つくねは…。つくねは、どこにいるの? 先(さき)に帰ったはずよ」
「あの娘(こ)は、大丈夫(だいじょうぶ)…。きっと外(そと)で待ってわ。――さあ、行きなさい」
 しずくは、何度も後ろを振(ふ)り返りながら部屋を出た。楓は、しずくを見送ることはしなかった。しずくは玄関(げんかん)で母親を呼(よ)んでみた。しかし、返事(へんじ)が返(かえ)ってくることはなかった。静(しず)まり返った家――。しずくは玄関を出ると、後ろ手に扉(とびら)を閉めた。涙(なみだ)があふれてきた。しずくは手でそれをぬぐい、駆(か)け出した。
 路地(ろじ)の角(かど)へ来たとき、後ろの方から激(はげ)しい爆発音(ばくはつおん)がして、しずくは思わず立ち止まった。後ろを振り返ると、さっきまでいた家が炎(ほのお)に包(つつ)まれていた。
<つぶやき>どうして爆発したんでしょう。楓は無事(ぶじ)なのかな? これからしずくは…。
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0639「夢の生活」

2019-08-27 18:24:36 | ブログ短編

 私には夢見(ゆめみ)ていた生活(せいかつ)があった。理想(りそう)の彼氏(かれし)と結婚(けっこん)して、甘(あま)い甘い新婚(しんこん)生活。休日(きゅうじつ)の朝は、彼の愛(あい)のささやきで起こされて、食卓(しょくたく)には彼が作った朝食が並(なら)んでいる。そして…。
 分かってるわよ、そんな生活なんてあり得(え)ないことぐらい。私も、もう大人(おとな)なんだから、現実(げんじつ)を受け入れる準備(じゅんび)は出来(でき)てるわ。出来てるけど――。
 私はけたたましい目覚(めざ)ましで眠(ねむ)りから引き戻(もど)される。それでも起きない時は最終兵器(さいしゅうへいき)の攻撃(こうげき)だ。母親(ははおや)が足音(あしおと)を立てて突入(とつにゅう)し、私を優(やさ)しく包(つつ)み込んでいた布団(ふとん)を容赦(ようしゃ)なくはねのける。そして言うのだ。「いつまで寝(ね)てるの! 休みの日ぐらい家の仕事(しごと)を手伝(てつだ)いなさい!」
 朝食はいつものご飯(はん)にお味噌汁(みそしる)…。たまには優雅(ゆうが)に食事(しょくじ)をしたいのだけど、そんな要望(ようぼう)がかなうはずもなく。「食べたかったら自分(じぶん)で作りなさい」とバッサリ切られてしまう。
 私にだって、好きな人ぐらいいたわよ。結婚まで行かなかっただけで…。けど、あきらめたわけじゃないわ。――今のところ、私にまとわりついてくるのは…。
 さっきから私の足元(あしもと)に、うちのバカ犬(いぬ)が座(すわ)り込んでいる。こいつは、私のことを見下(みくだ)している。それは目を見れば分かるわ。母親が私に言った。「今日は、あなたの番(ばん)よ。メグちゃんを散歩(さんぽ)に連(つ)れて行きなさい。さっきからずっと待ってるんだから」
「はい、はい」私は生返事(なまへんじ)で答(こた)えると、ご飯を口いっぱいに頬張(ほおば)った。
 私の夢の生活はいつ実現(じつげん)するのか? それは、いまだに未定(みてい)である。
<つぶやき>諦(あきら)めなければ実現するかもしれません。まずはメグちゃんと仲良(なかよ)くしましょ。
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