みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0017「初恋前夜」

2017-03-30 19:50:07 | ブログ短編

 ありさは校門(こうもん)のところで里子(さとこ)を待っていた。この二人は気が合うようで、学校ではいちばんの仲良(なかよ)しだった。でも、今日は何だか、ありさの様子(ようす)がちょっといつもと違うみたいだ。里子が来ると、ありさは言いにくそうに、
「あのね…。里(さと)ちゃんに頼(たの)みがあるんだけど…」
「なに? 何でも言ってよ。でも、勉強(べんきょう)のことは無理(むり)だからね」
「佐藤(さとう)君のことなんだけど…」ありさは頬(ほお)を赤らめて、「付き合ってる子とか、いるのかな?」
「佐藤? 良夫(よしお)のこと」里子は笑いながら、「いない、いない。いるわけないよ。だって、部活(ぶかつ)のないときは、いつも私の家に来て暇(ひま)つぶししてるのよ」
「そおなんだ。里ちゃんは、佐藤君のこと、どう思ってるの? 好きとか…」
「えっ? 私は…」里子は今まで良夫のことをそんなふうに考えたことはなかった。
「あいつとは幼稚園(ようちえん)のときからの幼(おさな)なじみで、好きとかそういうのは…」
「じゃあ、いいよね。私が好きになっても」ありさは思わず言ってしまった。
 里子は驚(おどろ)いた。良夫のことをそんなふうに思っていたなんて。ありさは恥(は)ずかしそうに、
「ねえ、佐藤君に、私と付き合ってほしいって、伝(つた)えてくれない?」
 里子は胸(むね)が騒(さわ)いだ。何だか分からないけど、大切(たいせつ)なものを無(な)くしてしまうような、淋(さび)しい気持ちになった。だから、里子はこんなふうに答えてしまった。
「それは、無理よ。私からは…、言えないわ。ごめんね。ほんと、ごめん」
<つぶやき>この二人はこれからどうなるのでしょう? 親友のままでいてほしいけど…。
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0016「探しものは…」

2017-03-27 19:36:00 | ブログ短編

 もう陽も落ちて薄暗くなった教室で、二人の生徒(せいと)が何かを探していた。
「どうしてないのよ」やよいはべそをかきながら、「困(こま)ったなぁ。どうしよう…」
「他のとこに持ってったんじゃないのか?」祐介(ゆうすけ)は呆(あき)れて、「お前、そそっかしいからな」
「他のとこって…。あっ、音楽室(おんがくしつ)かも。帰る前にそこによったのよ」
 二人は暗い廊下(ろうか)を音楽室に向かった。昼間と違って何だか別の場所のようだ。薄気味悪(うすきみわる)い感じなので、やよいは祐介の腕(うで)をつかんだ。階段を上がって行くと、ピアノの音が聞こえてきた。二人は顔を見合わせて、息を呑(の)んだ。三階について音楽室の方を見たとき、何かがすーっと動いたような気がした。やよいは思わず祐介にしがみついて言った。「何かいたよぉ」
「バカ、気のせいだよ」祐介は怖(こわ)いのを我慢(がまん)して、「ほら、行くぞ」
 ピアノの音はいつの間にか消えていた。音楽室の扉(とびら)をそっと開けて、二人は中に入った。中には誰もいなかったが、ピアノのふたが開けられたままになっていた。やよいは教壇(きょうだん)の上に探していたものを見つけて駆(か)け寄(よ)り、「あった。あったよ、祐介」やよいは大事(だいじ)そうにそれを祐介に手渡(てわた)して、「はい、プレゼント。今日は私たちが初めて…」
「それ、神田(かんだ)さんのなの。ダメじゃない、忘れていっちゃあ。大切(たいせつ)なものなんでしょ」
 突然(とつぜん)先生に声をかけられたので、二人はどぎまぎしてしまった。
<つぶやき>大切なものは無くさないようにしないといけません。気をつけて下さいね。
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0015「ふくらむ疑惑」

2017-03-24 19:31:41 | ブログ短編

「ねえ、あなた」君江(きみえ)は背広(せびろ)のポケットに入っていた一枚のメモを見せて、「これはなに?」と微笑(ほほえ)んだ。
 隆(たかし)は遅(おそ)い夕食を食べながら、ちらっとメモを見て、「えっ、何それ?」
「あれ、とぼけるんだ。読んであげましょうか?」
 君江は夫(おっと)に疑(うたが)いの目をむけた。
 隆はきょとんとして、ふくれている妻(つま)を見た。君江はおもむろにメモを読み始める。
「今日は楽しかったわ。まさか、二人であんなことが出来るなんて、思ってもみなかったんですもの。また誘(さそ)って下さいね。待ってるわ。かおり」
 メモを読み終えた君江は、「さあ、ちゃんと説明(せつめい)して。かおりって誰(だれ)なの?」
「かおり? 知らないよ。知るわけないだろ」
「とぼけないでよ! かおりって人と、何をしたの!」
「何もしてないよ。ほんとだって」隆には身に覚えがないようだ。
「今日のことよ。忘れたなんて言わせないから。会社の人じゃないの? それとも…」
「あっ、思い出したよ。あの、このあいだ移動(いどう)で来た娘(こ)で…。それで、席(せき)が隣(となり)になって、いろいろ教えてあげたりとか…。ちょっと変わった娘(こ)で、天然(てんねん)っていうか…」
「それで、仲良(なかよ)くなったんだ。で、あんなことやこんなことして、楽しんだんだ…」
 二人の話し合いは、深夜(しんや)まで続いた。この結末(けつまつ)は、ご想像(そうぞう)におまかせします。
<つぶやき>些細(ささい)なことが、とんでもないことになるときも、あるのです。気をつけて。
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0014「恋の始まり」

2017-03-21 18:56:22 | ブログ短編

「おはよう。田中(たなか)君…、早いのね」ななみは恥(は)ずかしさのあまり声がうわずっていた。
「あ、吉田(よしだ)さん。あの、どうも…」田中の方も何だか落ち着かない様子(ようす)だ。
 この二人、お互(たが)いに好きなのだ。でも、それが言い出せないでいた。他の友達がいるときは何でもないのだが、いざ二人っきりになると意識(いしき)しすぎてしまい何も話せなくなる。二人してもじもじしていると、それぞれの携帯(けいたい)が鳴(な)り出した。
「あ、さゆり。何してるの、遅いよ。えっ…、今日、来られない? 何でよ…」
「何だよ、研二(けんじ)。早く来いよ。えっ、嘘(うそ)だろ。どうすんだよ。えっ…」
 今日は友達四人で水族館(すいぞくかん)に行くことになっていた。それが、ドタキャンされたみたいだ。実(じつ)は、友達が気をきかせて、二人っきりになれるように計画(けいかく)したのだ。二人はどうしていいのか分からず、うつむいてしまった。でも、真(ま)っ赤な顔をしたななみの方から、
「あの…、さゆり、来られないって。何か…、急に用事(ようじ)が出来たみたいなの」
「そう…。沢田(さわだ)も、今日、ダメだってさ。どうしようか…、これから」
「えっと…、行かない? 水族館。二人で…。せっかく、来たんだから…」
「そうだね。うん…、そうしようか。それがいいよ」
 二人はぎこちなく歩き出した。二人の恋の時計(とけい)が、ゆっくりと動きはじめた。
<つぶやき>恋の始まりは、突然(とつぜん)やって来るんですよね。今思えば、その頃(ころ)がいちばん…。
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0013「復活の日」

2017-03-18 19:36:54 | ブログ短編

 古びた酒場(さかば)のカウンターで、一人の男がバーボンを飲んでいた。だいぶ酔(よ)いが回っているようで、うつろな目をして物思(ものおも)いにふけっていた。そこに、この店には不釣(ふつ)り合いな、二十歳(はたち)ぐらいの若い女が近寄ってきて、隣(となり)の席に座り男の顔を覗(のぞ)き込んだ。
「ねえ」女は男に声をかけ、「私にダンス教えてよ。お願い」
 男は女の顔をちらりと見ただけで、何も言わずに残っていたバーボンを喉(のど)に流しこんだ。
「おじさん、聞いてんの? 何とか言いなよ」女はイラついて男の腕(うで)をつかんだ。
 男はその手を振りはらうと、「何度来ても同じだ。俺(おれ)は、ダンスはやめたんだ」
「そんなこと言わないで。私も、おじさんみたいに一流(いちりゅう)のダンサーになりたいの」
 女の目は真剣(しんけん)だった。男の心は揺(ゆ)れていた。彼女を見ていると、昔の自分とそっくりなのだ。捨(す)てたはずの夢(ゆめ)がちらつき、心の片隅(かたすみ)で熱い気持ちがくすぶり始めていた。
「やめとけ。俺みたいになるだけだ。踊れなくなったら、もう死んだも同然(どうぜん)だ」
「だったら、私が生き返らせてあげる。おじさんがなくした夢、私が取り戻(もど)してあげるわ」
「お前な……」男は何か言いかけたが、しばらく考え込んで、「俺の授業料(じゅぎょうりょう)は高いぞ」
「えっ…、教えてくれるの? ありがとう! でも、授業料っていくらなの?」
 男は飲んでいたグラスを差し出し、「こいつ、一杯(いっぱい)だ」
<つぶやき>いくつになっても、熱い情熱を忘れないでいたいですよね。青春、万歳!!
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