みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0211「迷い道」

2018-04-30 18:47:49 | ブログ短編

 草(くさ)むらの中をかき分けて歩く調査隊(ちょうさたい)。先頭(せんとう)を行くのは隊長(たいちょう)の村雨(むらさめ)。その顔は真剣(しんけん)そのものである。どこかから「キィーン」と甲高(かんだか)い大きな鳴(な)き声がした。隊長は立ち止まり、辺りをキョロキョロしながら言った。
「気をつけろ。どこから…、何が飛(と)び出すか…、分からんからな」
「でも、隊長」すぐ後ろを歩いていたヨリ子が言った。「大丈夫(だいじょうぶ)だと思いますけど」
「何を言ってる。今のを聞いたろ。あの鳴き声がするということは、怪獣(かいじゅう)が出現(しゅつげん)する…」
「隊長!」列(れつ)の後ろの方から叫(さけ)ぶ隊員(たいいん)の声。「後ろがつかえてるんで、早く行って下さい」
 ヨリ子は隊長をなだめるように、「あの、ウルトラマンじゃないんですから。それに、今の声はキジの鳴き声ですよ。――もう、こういうのやめませんか、教授(きょうじゅ)」
「何を言ってるんだ。人跡未踏(じんせきみとう)のこのシチュエーションなんだぞ。怪獣が無理(むり)だとしても、恐竜(きょうりゅう)とか、巨大昆虫(きょだいこんちゅう)、それから…、そうだ、巨大アナコンダなんてのもあるぞ」
「映画(えいが)じゃないんですから」ヨリ子はため息をつき、「それに、ここは日本です。私たち、ただ道(みち)に迷(まよ)ってるだけじゃないですか。教授がこっちだって言い張(は)るもんだから…」
「私のせいだと言うのかね。ヨリ子君、君はなぜこのシチュエーションを楽しまないんだ」
「だから、私たち昼食(ちゅうしょく)も食べずにずっと歩きつづけてるんです。誰(だれ)かさんが、お弁当(べんとう)を車の中に置き忘(わす)れるから。――これ以上(いじょう)、何かゴタゴタ言ったら、私、切(き)れますよ。いいんですか?」
 教授はヨリ子のひと睨(にら)みで口をつぐみ、すごすごと歩き出した。
<つぶやき>無事(ぶじ)に車まで辿(たど)り着けたのでしょうか。それにしても、何の調査だったの?
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0210「サプライズ」

2018-04-29 18:50:00 | ブログ短編

 私の彼は、あまり感情(かんじょう)を表(おもて)に出さない。彼の誕生日(たんじょうび)にサプライズで驚(おどろ)かせてあげた時も、ちっとも期待通(きたいどお)りの反応(はんのう)を示(しめ)さない。「ああ、ありがとう」って言っただけで平然(へいぜん)としている。私としてはまったく面白(おもしろ)くない。彼の告白(こくはく)にOKした時もそうだ。嬉(うれ)しくて飛(と)び上がるとか、叫(さけ)んじゃうとかすればいいのに。この時も、「ああ、ありがとう」で終わってしまった。
 だから、今度の日食(にっしょく)のイベントには友だちを大勢(おおぜい)集めることにした。だって、私一人で盛(も)り上がってもつまんないじゃない。
 日食の当日(とうじつ)。案(あん)の定(じょう)、彼はいつも通りにやって来た。他の友達(ともだち)はわいわい騒(さわ)いで、期待(きたい)で胸(むね)をふくらませているのに――。辺(あた)りが少しずつ暗(くら)くなって日食のリングが見えた時、周(まわ)りからは歓声(かんせい)がわき上がった。彼はと見ると、やっぱりいつも通り…。
 でも、すぐ横(よこ)にいた私は気づいちゃった。彼が小さな声で、「おおっ、すごい。すごい」って何度も言っているのを。たぶん、これが彼にとって最上級(さいじょうきゅう)の感動(かんどう)の仕方(しかた)なんだよね。
 そんなことを思いながら彼を見つめていると、突然(とつぜん)彼が私に振り返った。彼と目が合う。――何なのこれ。周りのみんなは太陽(たいよう)の方を見つめている。彼は、私だけに聞こえるようにささやいた。「結婚(けっこん)しよう」って。ひどいよ、こんな不意打(ふいう)ちをするなんて。私は涙(なみだ)があふれそうになるのを必死(ひっし)にこらえて、コクリと頷(うなず)いた。
<つぶやき>感動の仕方も人それぞれ。でも、嬉しさはみんな同じなのかもしれません。
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0209「生まれる場所」

2018-04-27 18:59:56 | ブログ短編

 男が目を開けると、そこは一面(いちめん)白い雲(くも)に覆(おお)われた見たこともない場所(ばしょ)だった。足下(あしもと)も真っ白で、地面(じめん)を踏(ふ)みしめている感覚(かんかく)もないのだ。男は必死(ひっし)に考えた。どうしてここにいるのか。ここに来る前はどこで何をしていたのか。だが、男は何も思い出せなかった。
 どこからともなく声が聞こえた。
「いらっしゃい。いよいよ、交代(こうたい)のときが来ましたか」
 男は声のする方に振(ふ)り返った。雲の間から、別の男が顔を出す。
「えっ、何のことですか? 私は一体(いったい)どうして…」
「あなたは選(えら)ばれたのですよ。この森(もり)の番人(ばんにん)にね」
 別の男が手で雲を払(はら)うと、雲はまるで生き物のように動き出した。そこに現れたのは、見たこともないような巨木(きょぼく)。四方(しほう)にのびた枝(えだ)には、光り輝(かがや)く実(み)がいくつもついていた。
「あなたの仕事(しごと)は、この魂(たましい)の木を悪魔(あくま)たちから守(まも)ることです。この杖(つえ)を使ってね」
 別の男は長くて細い杖を男に渡すと、まるで煙(けむり)のように消えていった。男は何が何だか分からないまま、茫然(ぼうぜん)と立ちつくした。――どのくらいたったろう。冷たい風が男の頬(ほお)を突き刺(さ)した。みるみる黒い雲がわき上がり、その中から大きな悪魔が姿(すがた)を現した。
「これが悪魔なのか? こんな細い杖で、どう戦(たたか)えばいいんだ」
 男はやみくもに杖を振り回した。すると、杖の先が悪魔に触(ふ)れた。とたん、悪魔はすごい勢(いきお)いで息(いき)をはき、風船(ふうせん)のように飛び去ってしまった。
<つぶやき>まるで夢のような話。でも、そんな場所はないなんて誰も言えませんよね。
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0208「オーパーツ」

2018-04-26 19:04:30 | ブログ短編

「見たまえ、この見事(みごと)な壁画(へきが)を」教授(きょうじゅ)は興奮(こうふん)した声で言った。「保存状態(ほぞんじょうたい)も申(もう)し分ない」
 真っ暗な洞窟(どうくつ)の中、みんなのどよめきがこだました。調査(ちょうさ)を始めると、かなりの数の動物(どうぶつ)の壁画が見つかり、中には人の姿(すがた)らしいものも発見(はっけん)された。ほどなくして、洞窟の奥(おく)の方を調べていた隊員(たいいん)が叫(さけ)んだ。
「教授、来てください。文字(もじ)らしいものを見つけました」
 教授たちは転(ころ)びそうになりながら、声のする方へ急いだ。教授がそこで見たものは、細(こま)かな線(せん)がいくつも引かれていて、それは何かの形を示(しめ)す図形(ずけい)にも見えた。
「教授、ここを見てください」隊員は壁(かべ)の一点(いってん)を示して、「これって、絵文字(えもじ)じゃありませんか? あの携帯(けいたい)メールで使う顔文字に似てると思うんですが」
 教授は灯(あかり)を近づけ、食い入るように覗(のぞ)き込む。確(たし)かに笑ってVサインを出している顔に見えてきた。隊員は別の場所(ばしょ)を指(ゆび)さして、「これなんか、いびつですがハートマークじゃ」
「どういうことだ」教授は頭をかかえた。「この時代(じだい)に、こんな図形を書いていたなんて」
 教授はさらに詳(くわ)しく調べ、驚(おどろ)くような仮説(かせつ)を打ち立てた。
「これは何かの盟約(めいやく)かもしれん。文字の全体(ぜんたい)を見ると二つのグループに分かれている。それぞれ書き方が違(ちが)うから、別の人物(じんぶつ)が書いたものだろう。そして、最後(さいご)のサインだ。人の手形(てがた)がそれぞれつけられている。もしこれが解読(かいどく)できたら、歴史(れきし)が変わるかもしれんぞ」
<つぶやき>壁画はその時代を生きた人の証(あか)し。私たちは未来(みらい)に何を残せるのでしょうか。
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0207「お好み焼き」

2018-04-25 19:01:06 | ブログ短編

「まだ食べるの?」お好み焼きを前にして好美(よしみ)が訊(き)いた。「ちょっと食べすぎじゃない」
「なに言ってるのよ。ここのは最高(さいこう)の味(あじ)なのよ。せっかく来たんだから食べなきゃ」
 恵子(けいこ)は大きな口を開けて、ガブリと頬張(ほおば)った。
「好美、無理(むり)だってば。この子にそんなこと言っても」写真(しゃしん)を撮(と)りながら、冷静(れいせい)な口調(くちょう)であかりが言った。「食欲(しょくよく)は生きるための基本(きほん)よ」
「そうそう。好美、食べないんだったら食べてあげようか?」
「ダメ、これはあたしのだから。もう、恵子もさ、ダイエットしようとか思わないわけ」
「まったく。だって、何で我慢(がまん)しなきゃいけないの。意味(いみ)分かんない」
 あかりはくすりと笑い、「男子より、お好み焼きのほうが大事(だいじ)なのね」
「そうじゃないけど」恵子は食べる手をとめて、「やっぱ、これが私だし。無理して男子と付き合っても、疲(つか)れるだけじゃない。このまんまの私を好きになってくれなきゃ」
「でも、見た目も大切(たいせつ)よ」好美は口をとがらせて言った。「太(ふと)ったら誰(だれ)も振り向かない」
「私が集めた情報(じょうほう)では…」あかりはスマホを確認(かくにん)しながら言った。「我(わ)が校(こう)の傾向(けいこう)からいくと、標準的(ひょうじゅんてき)な体型(たいけい)が一番もててるわね」
「あたしたちって、標準よね」恵子はにっこり笑い、最後の一切れを口にした。
 好美もあかりもうなずいて、美味しそうにハフハフと口を動かした。
<つぶやき>美味しいものは、とりあえず食べておきましょう。もったいないですから。
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