みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0823「エンディング」

2020-03-03 18:24:53 | ブログ短編

 突然(とつぜん)、古(ふる)い友人が訪(たず)ねて来た。そいつとは、子供(こども)の頃(ころ)によく一緒(いっしょ)に遊(あそ)んでいた仲(なか)だ。ずいぶん前に、少し離(はな)れた場所(ばしょ)へ引っ越したので、会う機会(きかい)もなくなってしまった。
 その友人は白髪頭(しらがあたま)を下げると、昔(むかし)と同じ笑顔(えがお)を私に見せて言った。
「お互(たが)い歳(とし)を取ったなぁ。――実(じつ)は、借(か)りたままになっていた物を返(かえ)しに来たんだ」
 友人は持ってきた風呂敷(ふろしき)包みを広げた。中から、おもちゃが出てきた。これは…、確(たし)か子供の頃に流行(はや)っていたおもちゃだ。友人は言った。
「もう俺(おれ)たちの人生(じんせい)も残(のこ)りわずかだろ。人生の最後(さいご)を迎(むか)える前に、やり残(のこ)していることを一つずつ片(かた)づけようと思ってな。今、家の中を整理(せいり)しているとこなんだ。そしたら、これを見つけたんだ。覚(おぼ)えてるだろ? よく二人で遊んだじゃないか」
 そう言われても、私にはピンと来なかった。何となく昔遊んだ記憶(きおく)はかすかにあるが、自分のものだったかどうか…、これを貸(か)したことすらまるで覚えていない。
 友人は詫(わ)びと礼(れい)を繰(く)り返すと、「元気(げんき)でな」と言って帰って行った。私は、残された薄汚(うすよご)れたおもちゃを見て思った。いまさらこんなものを返されても…。でも、わざわざ届(とど)けに来てくれた友人の気持(きも)ちを思うと、むげにするわけにもいかない。
 私は独(ひと)り言のように呟(つぶや)いた。「残りわずかか…。そろそろ考えないとな――」
<つぶやき>律儀(りちぎ)な人もいるんですね。でも、このおもちゃ、レアものかもしれませんよ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする