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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0021「いつか、あの場所で…」

2025-06-29 18:38:37 | 連載物語

 「夏休(なつやす)みのこわーいお話(はなし)」1
 いよいよ夏休(なつやす)み。僕(ぼく)らの夏(なつ)がやってきた。通信簿(つうしんぼ)の難関(なんかん)はあったけど、なんとか切(き)り抜(ぬ)けた。今年(ことし)はさくらもいるし、楽(たの)しくなりそうだ。
 僕(ぼく)たちの学校(がっこう)では、夏休(なつやす)みになると秘密(ひみつ)の行事(ぎょうじ)があるんだ。秘密(ひみつ)といってもみんな知(し)ってるんだけど。この行事(ぎょうじ)を誰(だれ)がいつ始(はじ)めたのか、今(いま)では誰(だれ)も知(し)らないみたい。残(のこ)っている記録(きろく)で一番古(いちばんふる)いのは、昭和三十年頃(しょうわさんじゅうねんころ)なんだって。なんの行事(ぎょうじ)かというと、それは肝(きも)だめし。
 毎年(まいとし)、一(ひと)つのクラスだけが参加(さんか)できる。この取(と)り決(き)めは最初(さいしょ)に始(はじ)めた人(ひと)たちが作(つく)ったんだって。その伝統(でんとう)が今(いま)でも続(つづ)いている。五(ご)、六年(ろくねん)のクラスでクジ引(び)きして、一(ひと)つのクラスを決(き)めるんだ。そんなの不公平(ふこうへい)だって意見(いけん)もあったみたいだけど、誰(だれ)もこの伝統(でんとう)を変(か)えようとはしなかった。
 昔(むかし)は選(えら)ばれると喜(よろこ)んでたのに、今(いま)はそうでもないみたい。準備(じゅんび)とか大変(たいへん)だし、遊(あそ)ぶ時間(じかん)も減(へ)ってしまうから。やりたくないって思(おも)ってる先生(せんせい)もいるみたい。僕(ぼく)のお父(とう)さんはすごくラッキーだったんだ。二年続(にねんつづ)けて選(えら)ばれた。お母(かあ)さんは六年(ろくねん)のとき。肝(きも)だめしがきっかけで、二人(ふたり)は付(つ)き合(あ)うようになったらしい。初恋(はつこい)だったかどうかは分(わ)からない。そこまでは教(おし)えてくれないから…。
 今年(ことし)はどういう訳(わけ)か、僕(ぼく)らのクラスが選(えら)ばれた。お父(とう)さんの喜(よろこ)びようといったら、家族全員(かぞくぜんいん)が呆(あき)れてしまうほどだ。何(なん)でこんなにはしゃいでいるのかというと、父兄(ふけい)も準備(じゅんび)や脅(おど)かす方(ほう)に参加(さんか)できるからだ。まるでお祭(まつ)り気分(きぶん)。
 でも、これよりももっと上(うえ)がいた。何倍(なんばい)も何十倍(なんじゅうばい)もはしゃいでいる人(ひと)。それは僕(ぼく)らの担任(たんにん)だ。久美子先生(くみこせんせい)。まだ若(わか)い先生(せんせい)なんだけど、ちょっと変(かわ)わってるんだ。生徒(せいと)を脅(おど)かすことに生(い)き甲斐(がい)を感(かん)じちゃったみたい。大学(だいがく)で超常現象(ちょうじょうげんしょう)の研究(けんきゅう)サークルに入(はい)っていたらしい。誰(だれ)かがそんな噂(うわさ)をしていた。先生(せんせい)の部屋(へや)にはホラー映画(えいが)のビデオやDVD、それに訳(わけ)の分(わ)からない怖(こわ)そうな本(ほん)がいっぱいあるんだって。外見(がいけん)からはそんな風(ふう)には見(み)えないんだけどなぁ。
 久美子先生(くみこせんせい)はドジなところがある。先生(せんせい)なのに忘(わす)れ物(もの)をよくするんだ。出席簿(しゅっせきぼ)を手始(てはじ)めに、採点(さいてん)した答案用紙(とうあんようし)とか。今(いま)でも語(かた)られているのが、通信簿事件(つうしんぼじけん)。普通(ふつう)、忘(わす)れないよね。いつもは優(やさ)しい校長先生(こうちょうせんせい)も、この時(とき)ばかりは…。いつだったか、久美子先生(くみこせんせい)が教頭先生(きょうとうせんせい)に絞(しぼ)られているのを目撃(もくげき)したことがある。ちょっと可哀想(かわいそう)になっちゃった。
 明(あか)るく元気(げんき)で何(なん)でも一生懸命(いっしょうけんめい)、それが先生(せんせい)の信条(しんじょう)なんだって。ちょっとやりすぎる時(とき)もあるけど、優(やさ)しくてとっても素敵(すてき)な先生(せんせい)なんだ。少(すこ)し天然(てんねん)が入(はい)っているけど…。本人(ほんにん)はそのことにはまったく気(き)づいていない。そこがまた良(い)いのかも…。
<つぶやき>学校(がっこう)の行事(ぎょうじ)って、けっこう思(おも)い出(で)に残(のこ)っているものです。私(わたし)もじつは…。
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1501「よからぬもの」

2025-06-24 18:26:07 | ブログ短編

 彼女(かのじょ)は小学生(しょうがくせい)の頃(ころ)、自分(じぶん)のことを特別(とくべつ)な人間(にんげん)だと思(おも)っていた。しかし、彼女(かのじょ)の前(まえ)にもっとすごい小学生(しょうがくせい)が転校(てんこう)してきた。彼女(かのじょ)は、勉強(べんきょう)も運動(うんどう)もその子(こ)にはまったく勝(か)てなかった。しかも、彼女(かのじょ)は必死(ひっし)になってやっているのに、その子(こ)はいとも平然(へいぜん)とやってしまう。彼女(かのじょ)は、自分(じぶん)がどこにでもいる普通(ふつう)の人間(にんげん)なのだと思(おも)い知(し)らされることになった。
 それから十数年後(じゅうすうねんご)。彼女(かのじょ)は社会人(しゃかいじん)になり、そこそこの一流企業(いちりゅうきぎょう)に就職(しゅうしょく)していた。彼女(かのじょ)はその仕事(しごと)が好(す)きだった。それなりの成果(せいか)も上(あ)げている。そして、お付(つ)き合(あ)いしている彼氏(かれし)も一緒(いっしょ)に働(はたら)いていた。将来(しょうらい)は結婚(けっこん)も視野(しや)に入(はい)っているようだ。
 そんな彼女(かのじょ)の職場(しょくば)に、転職(てんしょく)してきた女性(じょせい)がいた。とても綺麗(きれい)な人(ひと)で、誰(だれ)もが好感(こうかん)を持(も)てるようなそんな雰囲気(ふんいき)があった。その女性(じょせい)の名前(なまえ)を聞(き)いたとき、彼女(かのじょ)は思(おも)わず身体(からだ)が震(ふる)えた。「まさか…、あの子(こ)なの? 小学校(しょうがっこう)のときの、あの子(こ)…」
 彼女(かのじょ)はそれとなくその女性(じょせい)と話(はな)しをしてみた。そして確信(かくしん)した。あの時(とき)の子(こ)だと…。でも、その女性(じょせい)は彼女(かのじょ)のことに気(き)づいていないようだ。同級生(どうきゅうせい)なのに…。
 その女性(じょせい)はすぐに成果(せいか)を上(あ)げ、営業成績(えいぎょうせいせき)もトップになった。彼女(かのじょ)もまだそこまでいけてないのに…。彼女(かのじょ)の不安(ふあん)は膨(ふく)らんでいく。このままじゃ、また抜(ぬ)かれてしまう。
 そんな時(とき)、彼氏(かれし)とその女性(じょせい)が楽(たの)しそうに会話(かいわ)をしているのを目撃(もくげき)してしまった。まるで、付(つ)き合(あ)っている男女(だんじょ)のように親(した)しく。彼女(かのじょ)の心(こころ)によからぬものが生(う)まれた瞬間(しゅんかん)だ。
<つぶやき>ここから何(なに)が育(そだ)っていくのでしょう。不幸(ふこう)の芽(め)にならなければいいのですが。
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0020「ゴールを目指して」

2025-06-20 18:43:44 | 超短編戯曲

   駅前(えきまえ)の喫茶店(きっさてん)。利恵(りえ)がそわそわしながら待(ま)っている。そこへはるかがやって来(く)る。
利恵「もう、遅(おそ)い。何時(なんじ)だと思(おも)ってるのよ」
はるか「十分遅(じゅっぷんおく)れただけでしょ。それに、急(きゅう)に呼(よ)び出(だ)しといて…」
利恵「ねえ、どうしたの。そんなにお洒落(しゃれ)しちゃって」
はるか「ちょっと……ね。私(わたし)だって、暇(ひま)じゃないんだから」
利恵「そうなんだ。うふふふ…」
はるか「変(へん)な笑(わら)い方(かた)するな。それで、急用(きゅうよう)ってなによ。私(わたし)、あんまり時間(じかん)ないから…」
利恵「(あらたまって)報告(ほうこく)します。私(わたし)、ついに彼氏(かれし)ができちゃいました」
はるか「はい? なによ、そんなことで呼(よ)び出(だ)したの」
利恵「そうだよ。もう、まっ先(さき)にはるかに教(おし)えてあげたくて…」
はるか「いいよ、そんなこといちいち報告(ほうこく)しなくても」
利恵「なに言(い)ってるの。同級生(どうきゅうせい)の友達(ともだち)で私(わたし)たちだけじゃない。いまだに彼氏(かれし)がいないの」
はるか「(声(こえ)をひそめて)もう、こんなとこで、そんなこと…」
利恵「今度(こんど)の彼(かれ)はね、とっても優(やさ)しくて…」
はるか「はいはい。でも、今度(こんど)は大丈夫(だいじょうぶ)なの? お金(かね)、だまし取(と)られてるんじゃ…」
利恵「それは、大丈夫(だいじょうぶ)。私(わたし)だって、ちゃんと学習(がくしゅう)できるんだから」
はるか「それならいいけど。あんた、ほんと変(へん)な男(おとこ)に惹(ひ)かれるんだから」
利恵「彼(かれ)ったらね、いつも私(わたし)に電話(でんわ)してきて。腹(はら)へった、何(なに)か食(た)べに行(い)こうよって、甘(あま)えた声(こえ)で言(い)うのよ。私(わたし)、そのたびに彼(かれ)に付(つ)き合(あ)って。少(すこ)し、太(ふと)っちゃったかな?」
はるか「なにそれ。ひょっとして、おごったりとかしてない?」
利恵「だって、彼(かれ)、まだ学生(がくせい)なのよ。社会人(しゃかいじん)としては当然(とうぜん)…」
はるか「あきれた。彼(かれ)、いくつなの?」
利恵「うふふ。あのね、まだ、二十歳(はたち)。きゃっ…」
はるか「利恵(りえ)、冷静(れいせい)になって、よく考(かんが)えてみな。あなたと、一回(ひとまわ)りも違(ちが)うのよ」
利恵「十個(じゅっこ)だよ。それに、私(わたし)のことお姉(ねえ)さんみたいだって…。彼(かれ)ね、男(おとこ)の兄弟(きょうだい)ばかりで、お姉(ねえ)さんが欲(ほ)しかったんだって」
はるか「はーぁ。私(わたし)、もう行(い)くわ。付(つ)き合(あ)ってらんない」
利恵「えーっ、まだいいじゃない。いま来(き)たとこでしょ」
はるか「私(わたし)、堅実(けんじつ)にいこうと思(おも)って。あなたより先(さき)に、ゴールするからね」
利恵「なによ、それ」
はるか「婚活(こんかつ)よ。私(わたし)、真剣(しんけん)に取(と)り組(く)もうと思(おも)って。これからお見合(みあ)いパーティがあるの」
利恵「えーっ。大丈夫(だいじょうぶ)なの? 男(おとこ)の人(ひと)と話(はな)したりするんだよ。ちゃんと、しゃべれるの?」
はるか「大丈夫(だいじょうぶ)よ…。私(わたし)だって、もう、大人(おとな)なんだし…」
利恵「だって、高校(こうこう)のとき、ひどいふられかたして、十日(とおか)も学校休(がっこうやす)んだじゃない」
はるか「もう、言(い)わないで。思(おも)い出(だ)しちゃうじゃない」
利恵「それ以来(いらい)、男(おとこ)の人(ひと)と…」
はるか「今度(こんど)こそ、乗(の)り切(き)ってみせるわ。それで、淋(さび)しい女(おんな)から卒業(そつぎょう)するんだから」
<つぶやき>みんなの思(おも)いはただひとつ。幸(しあわ)せをその手(て)でつかみ取(と)りましょう。ファイト!
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1500「妻のへそくり」

2025-06-15 18:52:35 | ブログ短編

 休日(きゅうじつ)。妻(つま)は友(とも)だちと遊(あそ)びに行(い)ってしまったので、私(わたし)は家(いえ)でのんびりと過(す)ごすことにした。昼近(ひるちか)くになって、お腹(なか)もすいてきたので昼飯(ひるめし)でも作(つく)るかと台所(だいどころ)へ向(む)かった。
 といっても、たいしたものは作(つく)れないし、それにひとりだ。確(たし)か、買(か)い置(お)きのカップ麺(めん)があったはずだ。あちこち戸棚(とだな)を開(あ)けて探(さが)してみる。そこで私(わたし)は、とんでもないものを見(み)つけてしまった。銀行(ぎんこう)の名前(なまえ)が入(はい)った封筒(ふうとう)…。
 こ、これは、まさか…、妻(つま)のへそくり!?
 私(わたし)は思(おも)わず手(て)に取(と)った。厚(あつ)みがあって、こんなにため込(こ)んでいたのか? 恥(は)ずかしながら、我(わ)が家(や)の家計(かけい)は妻(つま)が握(にぎ)っている。こっちは毎月(まいつき)、雀(すずめ)の涙(なみだ)ほどの小遣(こづか)いのみだ。妻(つま)はパートに出(で)ているので、自由(じゆう)に使(つか)える金(かね)は持(も)っているはずだ。でも、どうやったらこんなにため込(こ)むことができるんだ。いつも、家計(かけい)が苦(くる)しいって言(い)ってたのに…。
 封筒(ふうとう)の中(なか)を覗(のぞ)いてみると、三十万(さんじゅうまん)くらいはありそうだ。……ここは、何枚(なんまい)かいただいてもいいかもしれない。私(わたし)の頭(あたま)に、悪(わる)い考(かんが)えが浮(う)かんでしまった。
 そうだよなぁ。少(すこ)しぐらいもらっても、ばちは当(あ)たらないはずだ。
 だが、私(わたし)は思(おも)い止(とど)まった。妻(つま)は几帳面(きちょうめん)な性格(せいかく)だ。きっちり家計簿(かけいぼ)をつけていて、誤魔化(ごまか)すことなんか…。これは、絶対(ぜったい)に、間違(まちが)いなくばれる。もし、そんなことになってしまったら…。私(わたし)は、そう考(かんが)えただけで背筋(せすじ)に冷(つめ)たいものが走(はし)った。
 私(わたし)は何事(なにごと)もなかったように元(もと)に戻(もど)すと、カップ麺探(めんさが)しを再開(さいかい)した。
<つぶやき>ここは触(さわ)らぬ神(かみ)に祟(たた)りなしということで…。でも、何(なん)に使(つか)うか知(し)りたいよね。
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0017「タイミング」

2025-06-11 15:35:53 | 読切物語

 祐太(ゆうた)は会社(かいしゃ)の同期(どうき)の女性(じょせい)に思(おも)いを寄(よ)せていた。彼女(かのじょ)は美人(びじん)というほどでもなく、どこにでもいるようなごく普通(ふつう)の女性(じょせい)だった。彼(かれ)にしても、別(べつ)に彼女(かのじょ)に一目惚(ひとめぼ)れしたというわけでもなかった。職場(しょくば)でたわいのない話(はなし)をしたり、仕事(しごと)のあとの飲(の)み会(かい)とかで仲良(なかよ)くなって。自分(じぶん)でも意識(いしき)しないうちに、なんか良(い)いよな、やっぱり気(き)になる、好(す)きになっちゃったのかも。てな感(かん)じで、<どうしようか>と思(おも)い始(はじ)めたのは一ヵ月前(いっかげつまえ)だった。それからというもの、普通(ふつう)に話(はな)しているつもりでも、なんだかぎこちなくなっている自分(じぶん)がいた。
 同(おな)じ職場(しょくば)で働(はたら)き始(はじ)めてもう1年(いちねん)ぐらいになるのだが、彼女(かのじょ)のプライベートのこととなると、祐太(ゆうた)はまったく知(し)らなかった。もしかすると付(つ)き合(あ)っている人(ひと)がいるのかもしれない。そんな不安(ふあん)がよぎり、彼(かれ)の告白(こくはく)の決意(けつい)をにぶらせた。
 ある日(ひ)のこと、たまたま会社(かいしゃ)の備品倉庫(びひんそうこ)で二人(ふたり)だけになるという好機(こうき)がめぐってきた。この機会(きかい)を逃(のが)したら、もうこんなことは二度(にど)とないかもしれない。
「あの…」祐太(ゆうた)は思(おも)い切(き)って声(こえ)をかけてみた。「実(じつ)はですね…」
「何(なに)を探(さが)してるんです。よかったら、私(わたし)も一緒(いっしょ)に」
「いや、そういうことじゃなくて。その…」
 彼(かれ)がまさに告白(こくはく)を切(き)り出(だ)そうとしたとき、後(うし)ろから先輩(せんぱい)の声(こえ)がした。
「なにさぼってるんだよ。みんな待(ま)ってるんだから、早(はや)くしろよ」
 これで祐太(ゆうた)は、せっかくのチャンスを逃(のが)してしまった。祐太(ゆうた)の落(お)ち込(こ)みようといったら。何(なに)かひとつでも彼女(かのじょ)のことを聞(き)くことができたら、少(すこ)しは救(すく)いになったのだが…。
 そんな祐太(ゆうた)に突然(とつぜん)チャンスがめぐってきた。街(まち)を歩(ある)いていた祐太(ゆうた)の目(め)の前(まえ)に、彼女(かのじょ)が現(あらわ)れたのだ。彼女(かのじょ)はびっくりしたような顔(かお)をして言(い)った。
「この近(ちか)くに友達(ともだち)が住(す)んでるんです。今日(きょう)はそこでパーティがあって」
「ああ、そうですか。あの、僕(ぼく)、このあたりに住(す)んでて…」
「そうなんですか。あっ、そうだ。もし、よかったら、これから一緒(いっしょ)に行(い)きませんか?」
「えっ、僕(ぼく)と? いや、僕(ぼく)なんかが行(い)ったら…」
「いいんですよ。その友達(ともだち)、新婚(しんこん)なんです。それに、今日来(きょうく)ることになってる他(ほか)の友達(ともだち)も、どうせ旦那(だんな)や彼氏(かれし)と一緒(いっしょ)だし。私(わたし)、そういう人(ひと)っていないんですよね」
「そうなんだ…」
「だから、付(つ)き合(あ)ってもらえると、すごく助(たす)かるんですけど…」
「うーん」と祐太(ゆうた)はうなった。彼(かれ)の頭(あたま)の中(なか)でいろんなことがぐるぐるめぐった。
「やっぱり、だめですよね」彼女(かのじょ)はがっかりしたように言(い)った。
「ごめんなさい。今日(きょう)、田舎(いなか)から母親(ははおや)が出(で)てくるんで、迎(むか)えに行(い)かないといけないんです。ほんとに、すいません」
「そうなんですか。いえ、いいんですよ」彼女(かのじょ)はそう言(い)うと、にっこり笑(わら)った。「田中(たなか)さんって、母親思(ははおやおも)いなんですね」
 彼女(かのじょ)と別(わか)れた祐太(ゆうた)は、思(おも)いっきりため息(いき)をついた。彼女(かのじょ)ともっと親(した)しくなれたかもしれないのに。それに、彼女(かのじょ)に悪(わる)いことをしてしまったようで、心苦(こころぐる)しかった。
<つぶやき>なにをするにもタイミングは大切(たいせつ)です。一(ひと)つ間違(まちが)えると、大変(たいへん)なことに…。
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