みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1381「気まぐれ」

2023-04-27 17:33:30 | ブログ短編

 彼は悪人(あくにん)だった。さんざん人を泣(な)かせて生きてきた。そんな彼が、どういう訳(わけ)か人助(ひとだす)けをするはめになった。
 彼が街(まち)を歩いていると、路地(ろじ)の奥(おく)の人目(ひとめ)のつかない場所(ばしょ)に数人の男たちがいた。彼が何気(なにげ)なく見ていると、その中に若(わか)い娘(むすめ)が立っている。これは取(と)り立てか…、彼にはピンときた。いつもなら見て見ぬ振(ふ)りをして通り過(す)ぎるのだが、どういう訳か口を出してしまった。
 リーダーとおぼしき男が脅(おど)すように言った。「お前、誰(だれ)だ? あっちへ行ってろ」
 彼は怖(お)じ気(け)づくはずもなく、「いくらだ? 取立金(とりたてきん)は…」
「お前、同業者(どうぎょうしゃ)か? 俺(おれ)たちの邪魔(じゃま)すんなよ。それが仁義(じんぎ)ってもんじゃねぇのか?」
「それは、そうなんだけどねぇ。その金(かね)、俺が払(はら)ってやるよ。それで、勘弁(かんべん)してやって…」
「冗談(じょうだん)じゃない。この女、磨(みが)けば金になるんだよ。横取(よこど)りされてたまるか」
「そうだよねぇ。なら、元締(もとじ)めに話しをつけてもいいんだ。これから連絡(れんらく)して…」
 相手(あいて)の顔色(かおいろ)が変(か)わった。それを見て彼は、「まさか…、お前ら、元締めを通(とお)してないのか。おいおい、それはまずいぞ。もし元締めの耳(みみ)に入ったら、ただじゃすまないぞ」
 男たちは慌(あわ)てて逃(に)げ出した。それを見て、彼は薄笑(うすわら)いを浮(う)かべ、「バカなヤツらだ」
 娘は涙(なみだ)をこらえて、元彼(もとかれ)が勝手(かって)にやったことだと事情(じじょう)を話した。彼はそれを聞いて、
「じゃあ、良(い)い弁護士(べんごし)を紹介(しょうかい)してやるよ。こいつは凄腕(すごうで)で、俺も歯(は)が立たなかった」
<つぶやき>何で良いことをしてしまったのか? 彼の気まぐれか、それとも他に何か…。
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1380「しずく191~約束」

2023-04-23 17:29:56 | ブログ連載~しずく

 月島(つきしま)しずくが螺旋階段(らせんかいだん)を降(お)りきると、そこには大きな鉄(てつ)の扉(とびら)があった。しずくがその扉に手を触(ふ)れると、しずくの身体(からだ)は扉の中へ吸(す)い込まれていった。
 扉の中は大きな研究室(けんきゅうしつ)だった。巨大(きょだい)な装置(そうち)が並(なら)んでいて、まるで化学工場(かがくこうじょう)のようだ。何人もの研究員(けんきゅういん)が忙(いそが)しく働(はたら)いていて、その中をしずくは歩いて行く。装置の中央(ちゅうおう)あたりに、しずくは日野(ひの)あまりの姿(すがた)を見つけた。しずくは思わず息(いき)を呑(の)んだ。
 あまりは装置の中に組(く)み込まれていた。身体は装置とチューブでつながれ、頭には何本も電極(でんきょく)の針(はり)が突(つ)き刺(さ)さっている。あまりは生(い)きているのか? しずくは、彼女の頬(ほお)に手を当(あ)てた。しずくはホッとした。温(ぬく)もりがあった。まだ、生きている。でも、どうやって助(たす)けるのか? ムリに装置から引き離(はな)すと、あまりの命(いのち)もどうなるか分からない。
 そこへ、研究員たちがやって来た。計器(けいき)のチェックをしているようだ。一人が言った。
「まだ子供(こども)なのに…。この娘(こ)、どうなるんですかねぇ? かわいそうに…」
 もう一人が小声で咎(とが)めるように、「おい、誰(だれ)かに聞かれたら大変(たいへん)なことになるぞ。同情(どうじょう)なんかするな。どうせもう助からないよ。こいつはもう、この装置の部品(ぶひん)なんだから」
 研究員たちが立ち去(さ)ると、しずくはまた、あまりの頬にふれた。能力(ちから)を使いあまりの心の中へ入り込む。しずくの目から涙(なみだ)があふれてきた。あまりはあきらめてはいなかった。生きようと必死(ひっし)でもがいていた。しずくは必(かなら)ず助けると、あまりと約束(やくそく)をした。
<つぶやき>まさかこんなことになってるなんて…。彼女を助けることはできるのか…。
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1379「暗号の勧め」

2023-04-19 17:33:09 | ブログ短編

 この間(あいだ)知り合ったばかりの男性から変(へん)なメールが届(とど)いた。意味不明(いみふめい)の文面(ぶんめん)で、彼女には何のことだか分からない。たまたま一緒(いっしょ)にいた友だちに見せると、その友だちは、
「ああ、なるほど…」と、理解(りかい)できたようだ。友だちは、「ちょっとかして…」スマホを手にするとあっという間(ま)に返信(へんしん)してしまった。彼女は慌(あわ)てて訊(き)いた。
「ちょっと、何してるのよ。もう…、何を送(おく)ったの?」
 彼女は送った文面を見たが、これもまったく意味不明だった。友だちは言った。
「これは、簡単(かんたん)な暗号(あんごう)よ。OKしといたからね。今夜、八時、この間(あいだ)のお店(みせ)だって」
「えっ? 何の話しよ。ぜんぜん分かんないよ」
「だから、デートのお誘(さそ)いよ。ちゃんと行きなさいよ」
「はぁ? なに勝手(かって)なことしてるのよ。そ、そんなの困(こま)るわ。あたしは、どうしたらいいのよ。まだよく知らない人だし、変なメールを送ってくる人よ。何を話したらいいの?」
「暗号でも教(おし)えてもらったら。ちょっと面白(おもしろ)いかもしれないよ」
「そ、そんなのムリだよ。もう…。ね、どうしてあなた、暗号を知ってたのよ?」
「ああ…。それは…。だって、あたしの元彼(もとかれ)だからねぇ。この暗号もあたしが教えてやったのよ。暗号を使うと、何かと便利(べんり)なのよ。他(ほか)の人にばれることもないしね」
 彼女は友だちの手をつかむと言った。「あなたも一緒に来て。あたし一人じゃ、ムリ…」
<つぶやき>どうして彼は暗号を使ったのか? まさか、この暗号って流行(はや)ってるのか…。
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1378「帰省」

2023-04-15 17:37:00 | ブログ短編

 初老(しょろう)の男性が二人、ベンチに座(すわ)っておしゃべりをしていた。
「なぁ、もうすぐお盆(ぼん)だけど、今年は帰(かえ)るのかい?」
「どうかなぁ。まぁ、俺(おれ)がいなくても家族(かぞく)は何とも思わないだろうし…」
「そんなことないだろ。今年は帰ってやれよ。顔(かお)を見るだけでも…」
「今さら、そんなこと…。俺さぁ、家のことは妻(つま)に任(まか)せっきりで、仕事(しごと)ばかりしてきたから…。娘(むすめ)たちも、俺のことなんか父親(ちちおや)だと思ってなかったかもなぁ」
「なに言ってんだよ。そんなことないって…。もう、結婚(けっこん)されてるのか?」
「ああ、そうだなぁ。もう、孫(まご)がいてもおかしくないか…。どうしてるかなぁ?」
「帰ってやれよ。お前も、孫の顔を見たら、こっちへ帰りたくなくなるぞ」
「そんなこと…。まぁ、そうだな。今年は、帰ってみるか…。君(きみ)は、どうするんだい?」
「僕(ぼく)は、帰らないかもなぁ。今年は、かみさんもこっちに来たし…。こっちで、二人だけでのんびりしようと思って。僕がこっちに来るの早(はや)かったから、もう長いことおしゃべりもできなかったんだ。もう、話したいことがいっぱいあってねぇ。今も、顔を合わせるたびに止(と)まらなくなってる。かみさんは、そのたんびにボヤいてるよ。あなたしゃべり過(す)ぎよ。昔(むかし)は物静(ものしず)かな人だったのに、ってね」
「いい奥(おく)さんじゃないか。羨(うらや)ましいねぇ。ウチのヤツは…、まだ当分(とうぶん)はこっちには来ないだろ。あっちで楽(たの)しくやってるんじゃないのかなぁ」
<つぶやき>これはあの世(よ)の人たちなのでしょうか。もしかして、こんな会話(かいわ)してるかも。
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1377「みおの事件簿/旧知の仲」

2023-04-12 17:33:04 | ブログ短編

 朝。探偵事務所(たんていじむしょ)に樋口(ひぐち)みおが顔を出すと、鬼瓦刑事(おにがわらけいじ)が目黒秀所長(めぐろすぐるしょちょう)と話をしていた。鬼瓦はみおに気づくと手招(てまね)きして、この間の事件(じけん)の礼(れい)を言った。そして、
「やっぱりあの家主(やぬし)が犯人(はんにん)だったよ。被害者(ひがいしゃ)の男に脅(おど)されて、悪事(あくじ)の手伝(てつだ)いをしてたんだと。最初(さいしょ)は渋(しぶ)ってたけどな、俺(おれ)の、この、ひと睨(にら)みで白状(はくじょう)させたんだぞぉ」
 自慢気(じまんげ)に話しをする鬼瓦にみおはうんざりしながらも、「それで、毒(どく)キノコはどこで…」
「ああ、あれな…。別荘(べっそう)の近くの森(もり)で見つけたんだとさ。殺した男にこき使われて、報酬(ほうしゅう)はほんの少ししかもらえない。もう殺(ころ)すしかないと思いつめてたんだと。そこへ毒キノコだ。これはもうやるしかないと…。まったくバカみたいな話しだ」
 目黒が口を挟(はさ)んだ。「それで、ウチの報酬はどうなってるんだ?」
 鬼瓦はとぼけたように、「警察(けいさつ)に協力(きょうりょく)するのは市民(しみん)の当然(とうぜん)の勤(つと)めだろ」
「冗談(じょうだん)じゃない。こっちも経費(けいひ)がかかってるんだ。だったら、もう二度と協力なんか――」
 鬼瓦は平然(へいぜん)と言った。「別に、お前なんか必要(ひつよう)ない。樋口がいれば充分(じゅうぶん)なんだ」
「バカいえ。彼女は、ウチの事務所の戦力(せんりょく)なんだ。勝手(かって)に使われてたまるか」
 この二人は旧知(きゅうち)の仲(なか)のようだ。みおはそのことを知っているのでほっとくことにした。でも、鬼瓦がみおに迫(せま)ってきて言った。「で、次の事件なんだけど、また頼(たの)めるよな?」
 みおは思わず両手(りょうて)を上げて、「そ、それは…。所長に…訊(き)いて下さい」
<つぶやき>鬼瓦刑事は押(お)しが強(つよ)いというか…。でも、憎(にく)めないところもあったりしてね。
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