みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0838「悪寒」

2020-03-19 18:19:29 | ブログ短編

 空(あ)き家(や)を前にして女が言った。「さっさと片(かた)づけましょ」
 隣(となり)にいた男が呟(つぶや)いた。「これって、役所(やくしょ)がやる仕事(しごと)なんですか?」
 女は男のことなどお構(かま)いなしに敷地(しきち)に入って行った。玄関(げんかん)まで来るとノブに手をかけて回してみる。すると、扉(とびら)が開いてしまった。
「開いてますね。中も調(しら)べちゃいましょ」女は家の中へ。
「ちょっとダメですよ。勝手(かって)に入っちゃ」男の方は何だか尻込(しりご)みしているようだ。
「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。どうせ誰(だれ)も住んでなんかいないんですから」
 二人は家の中へ入って行った。家の中は埃(ほこり)まみれで、もう長いこと人が住んでいないようだ。でも家具(かぐ)とかはそのままになっていて、引っ越ししたようには見えなかった。台所へ行ってみると、食卓(しょくたく)には食器(しょっき)とかが並(なら)べられたままになっている。普通(ふつう)に考えれば、人が急にいなくなった感じ――。
 女の後ろにくっついていた男がささやいた。「平気(へいき)なんですか? 普通の女性なら…」
「あたしは平気です。これで、白骨死体(はっこつしたい)とかあれば最高(さいこう)なんですけど」
「なに言ってるんですか。やめて下さいよ、そういうの…僕(ぼく)は、ダメなんで…」
「あなた、男でしょ。そんなにびくつかなくても…。あたしの腕(うで)から手を離(はな)して下さい」
「あの、何か寒気(さむけ)がするんですけど…。ぜったい、何かいますって…」
<つぶやき>彼は翌日(よくじつ)、風邪(かぜ)で欠勤(けっきん)したそうです。何もなくて、ちょっと残念(ざんねん)かなって…。
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