男は思い出し笑(わら)いをすると、「そうだな、君(きみ)と初めて出会(であ)った時も…。あやうく死(し)にかけるところだった。あの事件(じけん)…、俺(おれ)の中ではまだ終(お)わってないんだ」
柊(ひいらぎ)あずみはきっぱりと言った。「いけないわ。もう忘(わす)れて。あの事件のことは…」
「分かってるよ。上から一方的(いっぽうてき)に捜査(そうさ)を打(う)ち切られたんだ。もう俺には何もできない。それに、君も行方不明(ゆくえふめい)になっちまったからなぁ。俺は…、君もやられたんじゃないかと――」
「ありがとう。私は大丈夫(だいじょうぶ)よ。そう簡単(かんたん)には消(け)されないから」
「知ってるさ、君が俺よりも強(つよ)いってことは。俺の命(いのち)の恩人(おんじん)だからな」
「それは違(ちが)うわ。あれは、私があなたを巻(ま)き込んでしまったから…」
「また会えてよかったよ。これで、あの時の借(か)りを返すことができる。――早速(さっそく)だけど君が言ってた件(けん)、本庁(ほんちょう)では高校生が容疑者(ようぎしゃ)になってるやつはなかった。もう少し時間をくれないか? 所轄(しょかつ)でそういう事件があるか調(しら)べてみる」
「ありがとう、助(たす)かるわ。また、迷惑(めいわく)かけちゃうわね」
「よせよ。俺は、君のために何かしたいだけだ。俺にできることならいつでも言ってくれ」
二人はしばらく見つめ合い、どちらからともなく唇(くちびる)をかさねた。
男はあずみの耳元(みみもと)にささやいた。「いなくならないでくれ。もう、君と離(はな)れたくないんだ。頼(たの)むよ。俺の願(ねが)いをかなえてくれ…」
二人は会えなかった時間を取り戻そうとするように、静(しず)かに抱(だ)き合った。
<つぶやき>あずみの過去(かこ)に何があったのでしょ。こんなロマンスがうまれていたとは…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。