みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1440「しずく203~湧き出る」

2023-12-29 18:04:56 | ブログ連載~しずく

 光の糸(いと)はすぐに消(き)えてしまった。水木涼(みずきりょう)は両手(りょうて)をだらりと倒(たお)した。神崎(かんざき)つくねが呼(よ)びかけても目を開けることはなかった。いつの間にか敵(てき)の姿(すがた)は消えていた。エリスもいなくなり、見えないヤツもどこかへ行ってしまったようだ。
 みんなはホッと息(いき)をついた。その時だ。巨大装置(きょだいそうち)がいきなり唸(うな)りだした。何かが起(お)きようとしているのか? アキが異変(いへん)に気づいて声をあげた。
「どうなってるのよ。お姉(ねえ)さんから、すごい能力(ちから)が装置に向(む)かって流(なが)れてる!」
 柊(ひいらぎ)あずみが駆(か)け寄って日野(ひの)あまりを覗(のぞ)き込んだ。あまりは苦(くる)しそうな顔をしていた。
「何とかならないの?」あずみが言った。
 そばにいた貴志(たかし)が、「装置の電源(でんげん)を切(き)るしかないかも…。でも、このお姉さんが…」
「やって!」アキが叫(さけ)んだ。「お姉さんは、あたしが守(まも)る。死(し)なせるもんですか」
 貴志は電源を探(さが)してみるがなかなか見つからない。どこかに動力源(どうりょくげん)が有(あ)るはずなのに…。そこに千鶴(ちづる)から声が届(とど)いた。「地下(ちか)へ行って。そこにあるわ。私が案内(あんない)するから…」
 あずみはつくねに言った。「貴志と行ってくるわ。ここ、お願(ねが)いね」
 つくねは大きく肯(うなず)いた。貴志は促(うなが)されるまま、あずみについて装置の階段(かいだん)を駆け下りた。そして地下へ向かおうとしたとき、それは起きた。何かがボワッと広がって、みんなは立ち止まった。次の瞬間(しゅんかん)、壁(かべ)や床(ゆか)から何かがもがくように出てくる。それは人の形(かたち)になり、まるでゾンビのように次々(つぎつぎ)に湧(わ)き出してきた。
<つぶやき>何がどうなってるの? こいつらは人間(にんげん)なのか? それとも幻覚(げんかく)なのかなぁ。
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1439「反乱する口」

2023-12-21 18:07:45 | ブログ短編

「なんで…そんなひどいこと言うのよ。もう、知らない」
 彼女は涙(なみだ)をこぼしながら彼の前から駆(か)け出した。彼は口を押(お)さえていたが思わず、
「もう二度と俺(おれ)の前に現(あらわ)れるな! このブス女!」
 彼は自分が言ったことに驚(おどろ)いているようだ。そして彼は頭(あたま)をかかえてしまった。
 思えば、今朝(けさ)から何か変(へん)なのだ。口の回りがムズムズして思うように動かせない。それに、思ってもいない言葉(ことば)が勝手(かって)に口から出てくるのだ。今日、彼は彼女にプロポーズするはずだった。最高(さいこう)の一日にするはずだったのに、何でこんなことに…。
 彼は傷心(しょうしん)を引(ひ)きずりながら行きつけの店(みせ)に立ち寄(よ)った。そこで、子供(こども)の頃(ころ)からの親友(しんゆう)にばったり出くわした。彼は彼女とのことを打(う)ち明(あ)けた。親友は「しっかりしろよ」と励(はげ)ました。だが、そのときまた彼の口が勝手にしゃべり始めた。
「おまえさぁ、あいつのこと好(す)きだったんだろ。俺、知ってんだよ。おまえが物欲(ものほ)しそうにあいつのこと見てたの…」
 彼はすぐに口を押さえた。それでも口は動こうともがくので、身体(からだ)がまるで踊(おど)っているような感じになってしまった。親友はそれを見て不機嫌(ふきげん)そうに言った。
「おまえ、ふざけてんのか? 俺が心配(しんぱい)してやってるのに…」
 口は手を振(ふ)り払(はら)うと、「おまえに譲(ゆず)ってやるよ。好きにしちゃってかまわないからさ」
<つぶやき>まさかこんなことになるなんて。これが現実(げんじつ)になったら、とっても恐(こわ)いです。
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1438「恋心」

2023-12-15 18:18:39 | ブログ短編

 さえ子は小太郎(こたろう)と結婚(けっこん)して三年。子供(こども)はいないけど二人で仲良(なかよ)く暮(く)らしていた。彼はとっても優(やさ)しいし、気づかいのできる人だった。彼女が作った料理(りょうり)も、ちゃんと美味(おい)しいって言ってくれるし、ちょっと失敗(しっぱい)しても、つぎ頑張(がんば)ろうよってちゃんと残(のこ)さず食べてくれる。誕生日(たんじょうび)や記念日(きねんび)も忘(わす)れずに二人で…。
 さえ子はとっても幸(しあわ)せだった。結婚に不満(ふまん)などなかった。不満はないはずなのに…。でも、最近(さいきん)ちょっと、あれって思うときがあるようだ。この違和感(いわかん)は何なのか…。さえ子はずっと考えていた。そして、彼女は気づいてしまった。
 夫(おっと)が自分(じぶん)のことをちゃんと見ていないのだ。会話(かいわ)をしていても、ベッドの中でさえ目を合わせてくれないのだ。これはどういうことなのか…。どうしてこんなことに…。彼女は頭の中がぐるぐるしてきた。そして、思わず心の声が漏(も)れ始めた。
「そういえば、あたしが髪(かみ)を切ったときも…。買ったばかりのお気に入りの洋服(ようふく)を着たときも…。あの人、何も気づいてくれなかったわ」
 そうなのだ。彼女の夫は、彼女がそばにいることがあたりまえになっていた。彼女のことを、まるで空気(くうき)のように感じているのだ。つまりは、彼女を見ているようで、実(じつ)はまったく見てない。まるで目に入っていないのだ。彼女はすべてに合点(がてん)がいった。このままではダメだと彼女は感じた。そして、打開策(だかいさく)を練(ね)り始めた。
<つぶやき>結婚したら、愛(あい)だの恋(こい)だの考えなくなっちゃうのか? もいちど恋しましょ。
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1437「あるよ」

2023-12-09 17:33:12 | ブログ短編

 その雑貨屋(ざっかや)は古(ふる)びた感じのお店(みせ)だった。でも、知る人ぞ知る…。どんなムリな注文(ちゅうもん)でも即座(そくざ)に答(こた)えてくれる。何でも手に入るお店だ。
 そこにヤバそうな感じの男たちがやって来た。そして応対(おうたい)に出た店主(てんしゅ)にこう言った。
「金を持ってきた。頼(たの)んでおいたもん用意(ようい)できてるか?」
 店主は怖(こわ)がる様子(ようす)もなく答えた。「ああ、それでしたらお断(ことわ)りしたはずですが…」
「何だと、こら! この店は、何でも調達(ちょうたつ)してくれるんじゃねえのか?」
「うちはしがない雑貨屋ですよ。他(ほか)のものなら…。ちょっと待って下さいねぇ」
 店主は店の奥(おく)へ入って行った。男たちが落ち着かない感じで待(ま)っていると、店の奥から別の男たちが飛(と)び出してきた。そして、店の表(おもて)にも――。彼らは刑事(けいじ)だった。ヤバそうな感じの男たちはすぐに逮捕(たいほ)されて連(つ)れて行かれた。
 店主が奥から出てくると、店の隅(すみ)で震(ふる)えながら待っていた老人(ろうじん)に言った。
「悪(わる)かったねぇ。何か、お探(さが)しですか?」
 老人はかすれた声で答えた。「わしは…タワシがほしいんじゃが…」
 店主はにっこり微笑(ほほえ)むと、「あるよ。こっちだ」と、客を案内(あんない)する。
 老人は、「あんたは商売上手(しょうばいじょうず)だね。たしいたもんだよ」
「いやいや、そんなことありませんよ。まだまだ未熟者(みじゅくもの)です」
<つぶやき>この店主、何者なのでしょうか? もしこんなお店があったら助(たす)かります。
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1436「生きるため」

2023-12-04 18:13:33 | ブログ短編

 20XX年。この時代(じだい)、男性の数が極端(きょくたん)に減(へ)ってしまっていた。男性が産(う)まれにくくなってしまったようで、その原因(げんいん)は今だに解明(かいめい)されていない。
 彼女の周(まわ)りでも、結婚相手(けっこんあいて)がなかなか見つからず、四十以上も年上(としうえ)の男性と結(むす)ばれた娘(こ)も出てきている。誰(だれ)もが手当(てあ)たり次第(しだい)に男性を求(もと)めていた。もう高学歴(こうがくれき)とか高収入(こうしゅうにゅう)、顔(かお)の善(よ)し悪(あ)しなんて言ってられなくなっているのだ。
 彼女の勤(つと)めている会社(かいしゃ)である噂(うわさ)が流(なが)れた。この春に入社(にゅうしゃ)する新入社員(しんにゅうしゃいん)の中に、男性がいると…。独身(どくしん)の女性たちは色めき立った。私服(しふく)選(えら)びや、お化粧(けしょう)に余念(よねん)がない。でも、彼女は普段(ふだん)と変わらずに落ち着いていた。今さらあせっても仕方(しかた)がないと思っているのだ。
 他の娘(こ)たちは忘(わす)れているようだ。新入社員が配属(はいぞく)される前には研修(けんしゅう)があるということを…。もうその時点(じてん)で、同期(どうき)で入社する女性たちの物色(ぶっしょく)が始まっている。普通(ふつう)に考えれば、若(わか)い男性が選ぶのは若い女性に決まっている。だって、選(よ)り好(ごの)み仕放題(しほうだい)なんだから…。
 彼女は密(ひそ)かに新入社員たちの情報(じょうほう)を集(あつ)めていた。これはもはや犯罪(はんざい)ぎりぎりの行動(こうどう)だった。なぜこんなことをしているのかというと、それはもちろん弱味(よわみ)を握(にぎ)るためだ。人は何かしら秘密(ひみつ)をもっているものだ。彼女はそれを利用(りよう)して、弱肉強食(じゃくにくきょうしょく)の世界(せかい)でマウントを取ろうとしているのだ。今年こそ、確実(かくじつ)に男性を手に入れなくてはならない。そうしないと、両親(りょうしん)が見つけてきた超不細工(ちょうぶさいく)な男と一緒(いっしょ)にならなくてはいけないから…。
<つぶやき>やっぱりこれは必死(ひっし)になっちゃいますよね。愛(あい)せる人と結ばれたいじゃない。
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