みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0820「しずく79~計画」

2020-02-29 18:27:54 | ブログ連載~しずく

 千鶴(ちづる)は怪訝(けげん)そうな面持(おもも)ちで言った。「処理(しょり)するとは、どういうことですか?」
 紳士(しんし)はしずくの首(くび)に手を当てて、まるで絞(し)め殺(ころ)すみたいにして答えた。
「そんなに驚(おどろ)くようなことではないだろう。この世界(せかい)から消(き)えてもらうんだ」
「ちょっと待って下さい。それは、上からの命令(めいれい)ですか?」
 紳士は手を放(はな)すと笑(わら)い声を上げた。そして、何時(いつ)もの口調(くちょう)で言った。「政府(せいふ)の役人(やくにん)にそんな決断(けつだん)ができると思うかね? あいつらは我々(われわれ)を利用(りよう)してきたと思っているようだが、そうじゃない。我々が利用してるんだ。それも、もうお終(しま)いだけどな」
 千鶴には何のことだか理解(りかい)できなかった。紳士は楽しげに続けた。
「いよいよ、我々の悲願(ひがん)がかなう時が来たんだ。これまで何十年もかかったが、間もなく最終段階(さいしゅうだんかい)に入ることになる。我々の世界を創(つく)るんだ」
「我々の世界…。でも、そんなことが…」
「すでに、我々の仲間(なかま)はあらゆる場所(ばしょ)に広がっている。政府の中枢(ちゅうすう)にも、警察(けいさつ)にも、全国のライフラインを担(にな)っている企業(きぎょう)にも入り込んでいる。私の命令(めいれい)一つでこの世界が変わるんだ。――だが、それを実現(じつげん)させるためにも、今は騒(さわ)ぎが起きるのは望(のぞ)ましくはない。不安要素(ふあんようそ)はすべて排除(はいじょ)する必要(ひつよう)があるんだ。君(きみ)のお友だちにも、しばらくおとなしくしてもらわないとな。邪魔(じゃま)されては折角(せっかく)の計画(けいかく)が台無(だいな)しだ」
 紳士は男たちに合図(あいず)をして言った。「部屋を汚(よご)すんじゃないぞ。静かに逝(い)かせてやれ」
<つぶやき>しずくが殺されたら、このお話も終わってしまいます。それはダメでしょ。
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0819「理解力」

2020-02-28 18:16:27 | ブログ短編

 それは突然(とつぜん)のことだった。何の前触(まえぶ)れもなく、たわいのない話しの中に、それは差(さ)し込まれてきた。彼女も、あやうく聞き逃(のが)しそうになって、彼の顔を思わず見つめてしまった。
 それは、確(たし)かに、付き合おう的(てき)なことだったと思ったのだか…。彼女の気のせい? いや、そんなはずはない。でも彼の話は、まるで違(ちが)う方向(ほうこう)へ行ってしまっているようだ。
 これはどういうことなのか? 彼女が付き合いたいって思っているから、そういう風(ふう)に聞こえてしまったのか…。たぶん、そうなんだろう。きっとそうだ。
 今日の彼は、何時(いつ)もよりおしゃべりだ。彼女に、こんなに話しかけたことは始めてかもしれない。それに早口(はやくち)なので、何を話しているのか彼女には分からなくなっている。もうすでに、彼女の思考(しこう)は停止状態(ていしじょうたい)になっているようだ。無理(むり)もない、彼の言った一言(ひとこと)が彼女の頭の中を駆(か)け回っているのだ。
 それに気づいたのか、彼は話をやめてひと呼吸(こきゅう)おくと、ゆっくりと話し出した。
「つまりね、僕が言いたいのは、距離(きょり)を縮(ちぢ)めたいと思ってしまうのは、僕の中に得体(えたい)のしれない感情(かんじょう)というか、まるで違(ちが)う自分(じぶん)が存在(そんざい)しているようなんだ。これを理解(りかい)するためには、君(きみ)と、付き合うしかないという結論(けつろん)にたどり着くわけで――」
 彼女は突然(とつぜん)、彼の唇(くちびる)を奪(うば)うと、彼の耳元(みみもと)にささやいた。「こういうことでしょ?」
<つぶやき>両思(りょうおも)いってことですよね。でも、彼はとっても面倒(めんど)くさいかもしれません。
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0818「ポイント」

2020-02-27 18:23:13 | ブログ短編

 彼女はポイントを貯(た)めることに喜(よろこ)びを感(かん)じていた。友だちからは、折角(せっかく)のポイントを使わないなんてもったいないわ、とよく言われたものだ。
 最近(さいきん)友だちになった娘(こ)が彼女に言った。
「あなたってそういうタイプなのね」
 それは、何だかバカにしたような言い方だった。さらに娘(むすめ)は意味深(いみしん)な言葉(ことば)を吐(は)いた。
「でも、そんなことしてると、手に入るものも入らなくなるわよ」
 ――それから数日後。彼女は付き合っていた彼から別れを切り出された。どうやら、他に好きな人ができたようだ。その相手(あいて)は…、あのときの娘(むすめ)だった。
 それを知った彼女は、悲(かな)しくて部屋に引きこもるようになってしまった。誰(だれ)にも会いたくなかったのだ。でも、彼女の友だちは見放(みはな)したりはしなかった。何度も彼女に会いに行き、彼女が立ち直(なお)れるように手を差(さ)しのべた。
 彼女が元通(もとどお)りの生活(せいかつ)に戻(もど)るのに、そんなに時間はかからなかった。
 ――彼女が、友だちとショッピングを楽しんでいたとき、自分のポイントが目標(もくひょう)まで貯まっているのに気がついた。彼女は、早速(さっそく)そのポイントで素敵(すてき)な買い物をした。それは、誰もが羨(うらや)むもので、彼女はみんなの注目(ちゅうもく)を浴(あ)びるようになった。
 それを知った別れた彼は…、残念(ざんねん)そうに彼女を見つめるしかなかった。
<つぶやき>目先(めさき)のことに囚(とら)われていませんか? 疑問(ぎもん)は、彼女が何を手に入れたのか…。
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0817「役割分担」

2020-02-26 18:09:16 | ブログ短編

 社会生活(しゃかいせいかつ)の中で、順番(じゅんばん)というものはとても大切(たいせつ)なものだ。もし、それがなくなってしまったら、この社会は大混乱(だいこんらん)に陥(おちい)ってしまうだろう。それは、家の中でも同じこと――。
「お兄(にい)ちゃん。それ、あたしが食べようと思ってたのに」
「何だよ。お前は妹(いもうと)なんだから、俺(おれ)が先(さき)に選(えら)ぶのは当(あ)たり前だろ」
「ずるい。おかあさん! お兄ちゃん、ひどいんだよ。ねえ、聞いてよ…」
 これは何時(いつ)ものことだ。妹は、すぐに母親に泣(な)きつくのだ。そうすれば、何でも思い通りになると思っている。だが、甘(あま)い! 世の中、そんな甘くはないのだ。
 母親のところへ行った妹が戻(もど)って来た。だが、妙(みょう)に上機嫌(じょうきげん)である。俺の顔を見て、つんとすまして言った。「あたし、これから出かけてくるわ。お兄ちゃんは、お留守番(るすばん)ね」
「何だよ。どこへ行くんだ?」
「おかあさんとお買い物よ。それで、あたしの欲(ほ)しいもの買ってくれるんだって」
「ちょっと待(ま)てよ。お前だけなんてずるいだろ。俺も行く。留守番なんて――」
「あら、ダメよ。今日はおかあさんと二人でお買い物なの。これは、おかあさんが決(き)めたことよ。お兄ちゃんが何を言ってもムダなの」
 俺は母親のところへ行って掛(か)け合った。すると母親は嬉(うれ)しそうな顔をして答えた。
「助(たす)かるわぁ。今日はいっぱいお買い物があるのよ。荷物運(にもつはこ)び、してちょうだいね」
 しまった――。俺は、何時もの父親の姿(すがた)が頭に浮(う)かんだ。
<つぶやき>家族(かぞく)の中の役割分担(やくわりぶんたん)って、暗黙(あんもく)の中(うち)に決(き)まっちゃうものなのかもしれません。
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0816「初対面の彼女」

2020-02-25 18:10:25 | ブログ短編

 僕(ぼく)は、母がやっている小さな喫茶店(きっさてん)をたまに手伝(てつだ)っていた。別にバイト代がもらえるわけではないのだが、母のおかげで学校(がっこう)へも行かせてもらっているし、それに、いろんなお客(きゃく)さんと話が出来(でき)るのはとても楽しかった。僕にとっては大切(たいせつ)な時間になっている。
 ――最近(さいきん)になって、ちょっと気になるお客が来るようになった。その人は、僕とそれほど歳(とし)も違(ちが)わない女性で、なぜか僕が働(はたら)いている時間にやって来る。それは、母に確(たし)かめたから間違(まちが)いない。どうして、僕がいるのが分かるのか不思議(ふしぎ)だった。
 でも、不思議なのはこれだけではなかった。彼女と話をするたび、彼女は違(ちが)う名前(なまえ)を名乗(なの)るのだ。それに、この店に来たのは初めてで、もちろん僕とも初対面(しょたいめん)、という感じで彼女は話をする。初めのうちは、僕は本当(ほんとう)に別人(べつじん)なのかと思ってしまった。
 こんなことが何度かあって、彼女のことを気にかけるようになってしまった。来る度(たび)に着ている服(ふく)はガラリと変わるが、顔形(かおかたち)や声、しゃべり方は全く同じ。どう考えても同一人物(どういつじんぶつ)としか思えない。でも、彼女が嘘(うそ)を言っているようには見えなかった。
 いつの間にか、僕は彼女のことを…、この謎(なぞ)に満(み)ちた女性を好きになってしまったようだ。僕は思い切って彼女をデートに誘(さそ)ってみた。――約束(やくそく)した日は昨日(きのう)だったが、彼女は僕の前には現(あらわ)れなかった。そして今日、彼女は僕の目の前に座(すわ)っている。そして、何時(いつ)ものコーヒーを飲みながら、僕と初対面の会話(かいわ)を楽しんでいる。
<つぶやき>彼女と付き合うには、毎回自己紹介(じこしょうかい)から始めないとね。大変(たいへん)そうだけど…。
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