みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1473「正解を見つけろ」

2024-09-30 17:11:44 | ブログ短編

 生きていればいろんな場面(ばめん)で選択(せんたく)を迫(せま)られることがある。その時、正解(せいかい)を出せるかどうかでその後(ご)のいろいろが変(か)わってくるのだ。私は今まで正解を選(えら)んできたと自負(じふ)している。ここまでの地位(ちい)と名声(めいせい)を得(え)ているのがその証拠(しょうこ)だ。
 そんな私の前に、新たな選択が迫ってきた。それは…、一人娘(むすめ)の一言(ひとこと)で始まった。
「あたし、パパに紹介(しょうかい)したい人がいるの…」
 とうとうきたか…。娘も、もう年頃(としごろ)だ。この日が来ることは分かっていた。私のシミュレーションは完璧(かんぺき)だ。どんな男が来ようとも…。
 娘が連(つ)れて来た男を前にして、私はいささか唖然(あぜん)とした。それは、想定(そうてい)をはるかに超(こ)えたヤツだった。何だこの男は? ちゃらちゃらした服装(ふくそう)で、場違(ばちが)いはなはだしい。まさか、無職(むしょく)じゃないだろうなぁ。まぁいい。こんな最低(さいてい)なヤツ、バッサリ切り捨(す)ててやる。
 男は娘よりも年上(としうえ)だという。そして、東大生(とうだいせい)だと…。私は思わず訊(き)き返(かえ)した。
「東大というのは…、あの、東大のことなのか?」
 男は自慢(じまん)するでもなくあっさりと、「ええ、東京大学(とうきょうだいがく)です」
 こんな男が東大に入れるのか? 私はどこで娘と知り合ったのか訊いてみた。すると、娘が口を挟(はさ)んできた。
「パパ、そんなことどうでもいいでしょ。三枝(さえぐさ)さんは起業(きぎょう)してて、パパのお仕事(しごと)に興味(きょうみ)があるんだって。ねぇ、協力(きょうりょく)してあげてよ」
<つぶやき>彼氏(かれし)を連れてきたんじゃないみたいですね。でも、この判断(はんだん)は難(むずか)しいかも?
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0008「女の切り札」

2024-09-26 17:27:42 | 読切物語

 純子は一人、部屋でパソコンとにらめっこをしていた。彼女はフリーのライターをしているのだが、締切が間近に迫っていてあせっていた。今、彼女の頭の中は完全に煮詰まっていて、昨夜から一睡もしていないのだ。こんな時、彼女は豹変する。
「ただいまぁ…」夫の隆が残業を終えて、静かにドアを開けて帰ってくる。
 この二人、最近結婚したばかりなのだが、彼女の仕事が立て込んでいて、いまだに新婚生活を味わっていなかった。この部屋も彼女が引っ越しが面倒だと言うので、彼の方から越してきたのだ。でも、隆は満足していた。だって、彼が住んでいた部屋より、こっちの方が断然広いのだ。
 彼は純子の仕事について理解しているつもりだった。でも、一緒に住んでみて、その大変さに驚いた。だから、彼女が仕事に没頭しているときは、家事のほとんどを彼が担当することになった。
 今日も仕事中に彼の携帯が鳴り、夜食の買い物を言いつけられた。でも、彼はそれを嫌がることはなかった。隆は純子のことを愛していたし、大切に思っていたのだ。
 彼は純子の仕事部屋をちらっとのぞいてから、キッチンへ向かった。テーブルの上にエコバッグを置き、流しを見て驚いた。昼食の残骸が無残にも投げ込まれていたのだ。
 彼はため息をついた。その時、突然後ろから声がした。「何なのこれ?」
 隆が振り返ると、穴蔵から抜け出したような、うつろな目をした純子がエコバッグからカップ麺を取り出していた。その目には、ただならぬものが感じられた。
「私は醤油味を頼んだのよ。何でとんこつ味を買ってくるの?」
「だって、ちょうど売り切れてたから」隆はヤカンに水を入れながら答えた。
「私は今、醤油味を食べたいの。それ以外あり得ないから」
「いいじゃない。これだって美味しいって、このあいだ…」
「そりゃ、とんこつも美味しいわよ。でも、今は醤油なの。醤油味を食べたいの!」
「そんなのいいじゃん。美味しけりゃ、同じだって」隆は無頓着な人間のようだ。
「買ってきて」純子はエコバッグを隆に突きつけて、「今すぐ買ってきて!」
 隆は純子のわがままには慣れっこになっていた。でも、何故か今日はぷつっと切れた。
「お前な、いい加減にしろよ! 前から言いたかったんだけど…」
「なによ」純子は動じる様子もなく、彼を睨みつけた。隆は一瞬ひるんだが、
「前から言いたかったんだけど…、朝食の目玉焼きに醤油なんかかけるなよ。目玉焼きはケチャップだろ。僕がせっかく美味しく作ってるのに…」
「なに言ってるの」純子は鼻で笑って、「目玉焼きは醤油じゃない。常識でしょ。それより、早く行ってよ。15分だけ待っててあげる。もし、ちょっとでも遅れたら、もうこの部屋には二度と入れないから」
「何だよ…」隆は背筋に冷たいものが走るのを感じた。今の彼女は何をするかわからない。
「分かった。行ってきまーす」隆はそう言うと、部屋から飛び出していった。
<つぶやき>隆、負けるな。いつかきっと、報われる時が来るから。たぶん…。
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1472「会社の謎」

2024-09-21 16:19:04 | ブログ短編

 とある中小企業(ちゅうしょうきぎょう)の社屋(しゃおく)。そこには誰(だれ)にも知られていない部屋(へや)があった。セキュリティーが厳重(げんじゅう)で社員(しゃいん)でも中に入った人はいないかも…。そもそも何でそんな場所(ばしょ)があるのか?
 新(あら)たに社長(しゃちょう)に就任(しゅうにん)した人が、その噂(うわさ)を確(たし)かめに役員(やくいん)を引き連(つ)れてやって来た。社屋の地下(ちか)へ降(お)りて行くと、奥(おく)まったところに確かにその扉(とびら)はあった。扉は施錠(せじょう)されていて認証(にんしょう)カードをかざさないと開(あ)かないようになっている。
 社長は定年後(ていねんご)に再雇用(さいこよう)された古株(ふるかぶ)の社員を呼(よ)び出した。創業時(そうぎょうじ)からいた彼なら何か知っているはずだ。白髪頭(しらがあたま)のその社員がやって来ると懐(なつ)かしそうに言った。
「まだあったんですね。これは初代(しょだい)の社長が極秘(ごくひ)に造(つく)らせたものなんです。あの頃(ころ)は、産業(さんぎょう)スパイが横行(おうこう)している時代(じだい)でしたからねぇ。今も使(つか)ってるんですか?」
 そこにいた役員たちは全員(ぜんいん)、首(くび)をひねった。そこへ若(わか)い女性がやって来た。みんなに軽(かる)く会釈(えしゃく)すると扉の方へ…。社長は彼女を呼び止めて、「君(きみ)はうちの社員なのか?」
 その女性は違(ちが)うと言って自分(じぶん)の社員証(しゃいんしょう)を見せた。そこにはまったく知らない社名(しゃめい)が…。社長は中を見せてもらえないかと言ったが、女性は社内規則(しゃないきそく)でダメだと答(こた)えた。社長は、
「なら、責任者(せきにんしゃ)に会(あ)わせてくれ。誰なんだ、社長は?」
 女性が答えたのは、初代社長の名前(なまえ)だった。もうすでに亡(な)くなっている。女性は認証カードをかざした。でも、いつもなら開くはずの扉がなぜか動かない。女性はあせったように、
「何でよ。あたし、クビになったの? もう、せっかく就職(しゅうしょく)できたのに…。どうして…」
<つぶやき>これはこの会社(かいしゃ)の謎(なぞ)ですね。彼女は本当(ほんとう)にクビになったのか? それとも…。
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0011「いつか、あの場所で…」

2024-09-16 17:09:14 | 連載物語

 「雨のち晴、いつか思い出」2
 喧嘩をした次の日、僕たちはおばあちゃんに呼ばれた。二人とも覚悟していた。あんな騒ぎになってしまったんだから…。叩かれるかもしれない。「姉ちゃんも悪かったんだから、一緒に怒られようね」って、いつになく優しいお姉ちゃん。僕はどきどきしながら、お姉ちゃんの後に付いていく。
 おばあちゃんは僕たちを座らせて、ただ黙ってお茶をいれてくれた。いつものように。僕たちがお茶を飲み終わると、昔の話しをしてくれた。おばあちゃんがまだ小さかった頃の…。
 おばあちゃんの生まれた家は食堂をやっていた。家族だけでやっている小さな食堂。今みたいに便利な電気製品とか、インターネットなんてなかった頃。まだまだ貧しい人が多くて、生きていくのが精一杯だった時代。おばあちゃんはお父さんとお母さん、それからお兄さん、お姉さんと一緒に暮らしていた。上のお兄さんとは十以上も歳が離れていたんだって。おばあちゃんは小さいとき身体が弱くて、僕くらいの歳のときに死にかけたことがある。病院の先生から「もう駄目かもしれない」って言われたとき、お父さんが病室にやってきて励ましてくれたんだって。
「すず子…、どうだ身体の調子は?」「お父さん…。お店はいいの?」
「ああ、賢治兄ちゃんたちがいるから大丈夫だ。早く元気になれ」「…なれるかな?」
「なに言ってる。お前は父さんと母さんの娘だ。元気になれる」「…うん」
「何か欲しいものはないか? 父さん、何でも買ってやるぞ」「別にないよ」
「何かあるだろう? いいから言ってみろ」「……勉強。学校で勉強がしたいよ」
「…そうか。ずいぶん休んでるからな」「みんなと一緒に勉強がしたい」
「よし、やらせてやる。嫌になるくらいやらせてやる」「嫌になんかならないよ」
「そうか。…元気になれ。みんな学校で待ってるぞ。お前が戻ってくるの」「…うん」
「…母ちゃんや兄ちゃん、姉ちゃんも、もうすぐ来るからな」「お店は?」
「今日は早仕舞いだ。みんな、お前の顔が見たいんだよ」「今日じゃなくてもいいのに…」
「店のことなんていいんだよ。お前が早く元気になってくれれば…」「……」
「それでな、すず子は人の役に立つ仕事をするんだ」「じゃ、お店。手伝うね」
「…えっ?」「お父さんの作ったオムライス、お客さん美味しそうに食べてたよ」
「…お前は、もっと大きなことをやれ。あんなちっぽけな店なんか…」「でも、好きだよ」
「…早く元気になれ。元気になっていっぱい勉強して、大きな夢をもて」「ゆめ?」
「そうだ。お前だけの大きな夢だ」「…もてるかな?」
「ああ、もてるさ。がんばれ。みんなで応援するからな。約束だぞ」「…うん」
 この後、おばあちゃんは奇跡的に助かった。少しずつ良くなってきて、半年後には退院したんだって。おばあちゃんはそれから一生懸命勉強した。約束を守るために。もちろん、店の手伝いもして…。すごいよね。僕だったらとても出来ないかも。お母さんの手伝いもあんまりしてないし…。
<つぶやき>今はすごく便利で快適な生活だけど、大切なことを忘れないで下さいね。
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1471「未現像」

2024-09-12 17:04:38 | ブログ短編

 部屋(へや)の片(かた)づけをしているとき、押(お)し入れの中から未現像(みげんぞう)のフィルムを見つけた。子供(こども)のときに集(あつ)めていたガラクタと一緒(いっしょ)に箱(はこ)の中に入っていたので、その頃(ころ)に手に入れたものだろう。でも、どうして? 自分(じぶん)はカメラなど手にしたことはないし、友だちにも写真(しゃしん)を撮(と)っていたヤツなんていなかったはずだ。
 近くの商店街(しょうてんがい)にあるカメラ店(てん)へ現像(げんぞう)を頼(たの)んだ。古(ふる)いフィルムなので難(むずか)しいかもと言われたが、どうしても確(たし)かめたくなったのだ。
 数日後、写真ができ上がってきた。ほとんどは劣化(れっか)でダメだったようだ。そのうち三枚(まい)は風景(ふうけい)を撮ったもののようだが、ぼやけていてどこの景色(けしき)なのか特定(とくてい)は難しそうだ。あとの一枚には若(わか)い女性が写(うつ)っていた。色落(いろお)ちしているが、顔(かお)ははっきり分かる。
 それを見て思わず声(こえ)をあげそうになった。この顔は知っている。同じ職場(しょくば)で働(はたら)いている与田(よだ)さんだ! だが、思い直(なお)した。与田さんは自分よりも年下(としした)のはずだ。この写真を撮った頃にはまだ産(う)まれていないかもしれない。いったいこの女性は誰(だれ)なのか? もしかしたら、与田さんの母親(ははおや)かもしれない。それなら納得(なっとく)できる。
 自分は半年前に今の職場に転職(てんしょく)してきたので、与田さんとそれほど親(した)しくはない。それでも、何だがムズムズして確かめずにはいられない。もしかしたら、自分と与田さんとの間に何かつながりがあるのかもしれない。そう考えただけでドキドキしてきた。
<つぶやき>二人の間にどんな関係(かんけい)があるのでしょうか? ここは妄想(もうそう)を働かせましょう。
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