みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0531「タイムスリップ7」

2019-04-30 18:24:21 | ブログ短編

 彼女は階下(した)へ降(お)りると、侍(さむらい)が眠っているはずの座敷(ざしき)へ飛(と)び込んだ。しかしそこには侍の姿(すがた)はなかった。布団(ふとん)は敷(し)かれているのだが、そこには寝た形跡(けいせき)がない。
 呆然(ぼうぜん)と立ちつくしている彼女の後ろから、父親が声をかけた。
「どうやら元(もと)の時代(じだい)へ戻(もど)ってしまったようだ。もう少し話を聞きたかったんだが…」
 父親は古文書(こもんじょ)を彼女に見せて、「これを見てもらいたかったんだ。残念(ざんねん)だよ」
 彼女は古文書を受け取り、パラパラとページをめくっていった。昔の人が書いた文字なので、何が書かれているのか彼女にはほとんど分からなかった。
 あるページへきたとき、父親が指(ゆび)を差して言った。
「どうやらこれが我(わ)が家の系図(けいず)らしい。ここに吉田勘三(よしだかんぞう)の名前が書かれているだろ」
 確(たし)かにそこにはあの侍の名前があった。彼女は侍の名前の横に書かれている文字に目がいった。そこには、平仮名(ひらがな)で<はな>と書かれてる。
 彼女は思わず呟(つぶや)いた。「これって、私と同じ名前……」
「そうなんだ。父(とう)さんも見て驚(おどろ)いたよ。これも何かの因縁(いんねん)なのかなぁ」
「じゃあ、さっきの夢(ゆめ)って…。いやいや、そんなのあり得(え)ないわよ。私が――」
 彼女には昔(むかし)の時代を生きた記憶(きおく)があるはずもなく、これってどういうことなのか? いくら考えても答(こた)えは出そうになかった。
<つぶやき>もし他の時代と行き来することができたら、面白(おもしろ)いことがいっぱい聞けそう。
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0530「しずく21~屋上」

2019-04-29 18:21:44 | ブログ連載~しずく

 月島(つきしま)しずくは柊(ひいらぎ)先生に連れられて校舎(こうしゃ)の階段(かいだん)を昇(のぼ)っていた。しずくは、さっきのドキドキがまだ続いていて、階段を上がる足もガクガクしている。先生は屋上(おくじょう)へ出る扉(とびら)の前まで来ると立ち止まった。
 扉の把手(とって)をつかもうとする先生に、しずくは慌(あわ)てて言った。
「先生、屋上は立入禁止(たちいりきんし)になってます。だから、鍵(かぎ)がかかってて――」
 先生はしずくをチラリと見ると、把手を回した。するとどうだろう、把手はキィっと小さな音をたて、扉がギーィっと軋(きし)みながら開いた。
「どうやら壊(こわ)れてるみたいね。後で直(なお)してもらわないと」
 先生はそう言うと、ツカツカと屋上へ出てしまった。しずくは少しためらったが、先生の後を追(お)いかけた。
 烏杜(からすもり)高校はちょっとした高台(たかだい)の上に建っている。周(まわ)りには高い建物もなく見晴(みは)らしは抜群(ばつぐん)だ。ちょうど陽(ひ)が西に傾(かたむ)き、辺りの家並(いえな)みを赤く染(そ)めはじめていた。しずくはこの景色(けしき)に圧倒(あっとう)されて、思わず声を上げて手すりに駆(か)け寄った。入学以来、校舎の屋上へ昇るのは初めてだったのだ。突然(とつぜん)、先生に呼(よ)ばれて、しずくは現実(げんじつ)に戻(もど)された。
「月島さん、あなたにはがっかりしたわ。――私が鍛(きた)え直(なお)してあげる」
 しずくはキョトンとして先生の顔を見た。その顔には、怖(こわ)いほどの迫力(はくりょく)があった。
<つぶやき>先生は何をしようというのでしょ。しずくの運命(うんめい)はこれからどう変わるのか。
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0529「タイムスリップ6」

2019-04-28 18:40:44 | ブログ短編

 その日は夜遅(よるおそ)くまで、歓迎会(かんげいかい)と称(しょう)して飲めや歌えの大騒(おおさわ)ぎになった。母親は、ご近所から苦情(くじょう)が来るのではないかと気を揉(も)んた。娘(むすめ)の方は早々(そうそう)に切り上げて、二階の自分の部屋へ引っ込んだ。だが、階下(した)がうるさくてなかなか眠(ねむ)ることができない。
 ――どのくらいたったろう、侍(さむらい)が目を開けると、そこは婚礼(こんれい)の宴(うたげ)の席(せき)だった。目の前には料理(りょうり)の膳(ぜん)が並(なら)び、見知(みし)った親戚(しんせき)連中や仲間(なかま)たちが、これまた飲めや歌えの大騒ぎをしていた。侍は、ふと隣(となり)の席を見た。そこには見知らぬ女性が座っている。俯(うつむ)き加減(かげん)でいるので、長い黒髪(くろかみ)が邪魔(じゃま)をして顔がよく分からない。
 はて誰(だれ)だろうと、侍はその女性の顔をしげしげと見つめた。女性もその視線(しせん)を感じて、ますます下を向く。たまらず侍は声をかけた。女性は反射的(はんしゃてき)に侍の方へ身体(からだ)を向けて、
「あの、こんなあたしでいいのでしょうか? あなたの妻(つま)として――」
 侍は女性の顔を見て首(くび)を傾(かし)げる。どこかで見たことのあるような…。でも、はっきりとは思い出せない。侍は、この人が自分の妻なんだと納得(なっとく)して彼女に言った。
「こちらこそ、こんなむさ苦(くる)しい家に嫁(とつ)いでくれて、ありがたい。本当(ほんとう)にありがたい」
 ホッとしたように女性の顔に笑(え)みがこぼれる。――その顔、着物姿(きものすがた)ではあるが、それは紛(まぎ)れもなくあの娘の顔と瓜二(うりふた)つであった。
 突然(とつぜん)、悲鳴(ひめい)が響(ひびき)き渡った。ベッドから飛び起きた娘は荒(あら)い息をしている。あまりにもリアルな夢(ゆめ)を見たようだ。娘はベッドから飛び出すと、階段(かいだん)を駆(か)け下りた。
<つぶやき>娘もタイムスリップしちゃったんでしょうか? それとも、ただの夢なの?
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0528「タイムスリップ5」

2019-04-27 18:29:02 | ブログ短編

 彼女の家はそれほど大きな家ではない。小さな庭(にわ)がついていて、この辺(あた)りではごく普通(ふつう)の家だ。侍(さむらい)の男は門(もん)のところの表札(ひょうさつ)に気がついた。そこには〈吉田(よしだ)〉と書かれていた。
 しばらく待っていると、彼女が戻(もど)ってきて家の中へ招(まね)き入れた。汚(よご)れた足をすすいだり、物珍(ものめずら)しげにあちこちと眺(なが)めたりで、狭(せま)い家なのに座敷(ざしき)まで辿(たど)り着くのに時間がかかった。座敷ではこの家の主人、つまり彼女の父親が、かしこまって座っていた。
 父親は、侍が座るのを待って深々(ふかぶか)と頭を下げると、「ご先祖(せんぞ)様、ようこそいらっしゃいました。また、こうして再会(さいかい)できましたこと、嬉(うれ)しく思っております」
 父親の言葉(ことば)に驚(おどろ)いたのは娘(むすめ)だ。「この人、なに言ってるの?」って顔をして、父親の方を見た。侍も首(くび)を傾(かし)げて、これもまた、父親の顔をまじまじと見つめる。
 娘は、「お父さん。この人、知ってるの? 会ったことあるってこと?」
「ああ、父さんがお前くらいの年の頃(ころ)だったかなぁ。突然(とつぜん)、父さんの前に現れて――」
「わしは知らんぞ。おぬしとおうたことなど一度も無(な)い」
「そうですか。やはり記憶(きおく)には残(のこ)らなかったんですなぁ」
 父親は残念(ざんねん)そうに言った。「あの日以来(いらい)、私はこの家の家系(かけい)を調(しら)べるのにはまりまして。本家筋(ほんけすじ)の親戚(しんせき)を回って、古文書(こもんじょ)を集(あつ)めたんです。そしたら、ご先祖様のお名前を見つけることができました。ご先祖様が書き残した、日記(にっき)のようなものも発見(はっけん)できたんです」
<つぶやき>ほんとにご先祖様なんだ。でも、もしかして幽霊(ゆうれい)だったりするかもしれない。
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0527「タイムスリップ4」

2019-04-25 18:34:14 | ブログ短編

 二人は家まで並(なら)んで歩いた。誰(だれ)とも出会うことはなかったが、もし誰かに見られたらどうなっていたことか。彼女は気が気でなかった。
「ねえ、どうしてそんな格好(かっこう)してるの? その刀(かたな)って、本物(ほんもの)じゃないよね」
 彼女は一番気になっていることを訊(き)いてみた。侍(さむらい)の男は首(くび)を傾(かし)げながら、
「わしも訊きたいんじゃが、どうしておぬしはそんな格好(かっこう)をしておるんじゃ。わしは始めて見たぞ。いや、かぶいておるなぁ。まるでお館(やかた)さまのようじゃ」
「えっ、これは制服(せいふく)だよ。なに言ってるの? ちゃんと答えて。あなた一体(いったい)誰なの?」
「あっ、これはいかん。まだ、名乗(なの)っておらんかったの。わしは、吉田勘三(よしだかんぞう)と申(もう)す。お館さまの家来(けらい)で…、家来といってもずっと下の方じゃがの」
「お館さまって、誰のこと? もう冗談(じょうだん)ばっか言ってると、ご馳走(ちそう)してあげないから」
「いやいや、冗談ではないぞ。おぬし、お館さまのことを知らんのか? 信長(のぶなが)様じゃ。今、安土(あづち)にお城(しろ)を築(きず)いておってな。これがまた、ものすごい――」
「あのさ、ふざけないで。今は平成(へいせい)よ。安土城なんてもうどこにもないの」
「平成? そんな年号(ねんごう)は聞いたこともないぞ。今は天正(てんしょう)四年の――」
 二人の会話は食い違(ちが)うばかり。そうこうしているうちに家に着いてしまった。仕方(しかた)なく会話を打ち切った彼女は、侍を外へ待たせて家の中へ入って行った。
<つぶやき>時代を動かしたのは、歴史(れきし)に名を残(のこ)した人だけではない。名もない人も…。
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