福田の雑記帖

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書評:マンガ「毎日かあさん」 西原 理恵子著/出版:毎日新聞社

2006年07月30日 07時13分55秒 | 書評
 私はマンガが好きだが、絵が単純できれいでなければ殆ど手に取らない。長編も良いが時間がかかるから、どちらかというとエスプリの効いた4コマ漫画の方が良い。
 横浜在住の長女が帰省すると何冊かの本やマンガも持ってくる。私とは好みが異なるからむしろ私にとっては楽しみが大きい。今回彼女の帰省時、早朝目覚めてみたら上記のマンガが私の作業机の上にあった。一目見て絵のひどさに、こんなマンガもある?何だ?と驚き、完全対象外書籍と分類した。僅か2-3秒の即断であった。

 数日後、就寝時、たまたま身近に読みたい本がなかった事もあり「毎日母さん」を手にとって2-3ページ覗いてみた。目的は読むと言うより先日感じた印象をだめ押しし、週末に2階の物置にでも片付けようと思ったからである。 が、事情、印象は数ページ読んだだけで180度変わってしまった。変わらないのは絵の下手さに対する不快感だけで、内容的にはすっかり引き込まれてしまった。そのうち絵のひどさにも味と意味を感じてきた。

 この漫画は単に面白いだけではない。飲んだくれの亭主に三行半をつきつけ離婚、子供二人と共に生きる著者の日常生活、子育てと仕事の両立に困惑する日々、などを面白可笑しく綴っている。時に大笑いさせられ、心があったまる話も数多くある。毎日の子育て生活の表現はスピード感があり、更に、良いのは挫折感が実に豊かに表現されている。子育て中の人はこれを読めば、多少のストレスなら吹っ飛んでしまうだろう。痛快さもあるし、自分のバカさ加減を筆者の中にも発見し、共感して安心する母もいるであろう。

 この本が私を引きつけたのは、自分の子育て時代の、過ぎ去った過去を厳しく思い出させるからなのだと思う。いつの世にあっても子育てには経験豊かと言うことはあり得ない。最近の核家族化・少子化の中では取りわけそうだろう。私ども夫婦は還暦を迎えた今になって、出来ることなら子育てをもう一度やり直してみたいものだ、と話し合うことがある。子育てを通じて、子供も親も大なり小なりトラウマを背負うものだと思うが、これは当然のことでもある。ただ、私どもは子育てのかなりの部分を他人にあずけてきたという大きな負い目を背負っている。幸い子育てを託するに相応しい人が見つかり、一時は9人家族と言うこともあった大きな所帯の中で、結果的に3人の子供はほぼ問題なく育ってくれた。子供達と交わす会話の中に親として反省すべき問題点が見え隠れし、これで好かったのかと軽く落ち込むこともある。子育ては結果が良ければそれで良いとはいえない深い分野であり、やり直しのきかない厳しい分野である。

 他にこのマンガの注目点として、厳しい観察眼と子供に対する愛しみが見える点、屈託のない子供達を中心とした明るい家の様子、突拍子もなく奇怪な行動をとる息子とかわいらしい娘、離婚しても離れられない困った夫、それらに囲まれて大変な日々の中でのささやかな喜びを見事に表現しているところにもある。

 こんなひどい絵のマンガを毎日新聞が採用したことには驚きを禁じ得ない。子供については多少丁寧に描いているが母親としての自分自身はひどい描き方である。漫画家として子育てと両立して生きる方便として彼女が確立した超手抜き法?なのかと思ったりしている。
コメント
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