ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

米国『“ガラスの天井”は高かった、第45代アメリカ合衆国大統領選挙』事情

2016年11月08日 | 米国○○事情


今日は、やっとやってきた大統領選挙の投開票の日。
今回ほど、どちらに入れてもろくなことにならないだろうけれども、どちらかというと○○○○の方がマシという気持ちで、投票に臨まなければならない選挙はないだろう、と言われている。

朝から町に出ると、前庭で、クリントンの名前を書いた青いボードを、行き過ぎる大人たちに向かって掲げている小学生の男の子や、
これまたクリントンの名前を書いた布を、首からぶら下げて、通りを歩く中学生たちのグループがいた。
さすがは、東海岸の中でも、特にリベラルと言われている町の子どもたちである。
まあ、クリントンは、彼ら子どもたちの教育予算を圧迫している軍産複合体と、仲良しだということまでは知らないのかもしれない。
それにしても、日本とは違い、投票日当日もがんがんアピールしているのが面白い。
『GO VOTE』と書かれたバッジを付けて、歩いている大人もたくさんいた。
会社も学校(公立)も、投票日はお休み。
投票をしなければならないという気持ちを、社会全体で盛り上げている。

今日の生徒の親たちも、いつもよりちょっとそわそわしていた。
全員が投票を済ませていたけれども、結果が出るのが恐い、と言っていた。

夕飯を食べながらニュースを観ていたら、ブロンクスのある町で、投票を待つ人の列がまだまだ続いていて、もう3時間も待たされていると言っていた。
もうあと40分もしたら投票所が閉まるだろうに、あの人たちは一体どうなるんだろうか…。

オバマが全米を盛り上げた8年前の選挙とは大違いの、まるで、質の悪いリアリティショーを無理やり見せられているような、
なんともゲンナリする、どちらが当選してもろくなことにならない予感が満々の、投票意欲が削がれまくりのキャンペーンだったけれども、
有権者たちの投票に行くぞ、という意志は、それでもどうにか保たれているようだった。

それにしても、ここまでパックリ分断されてしまって、この国はどこへ向かおうとしているんだろうか。
青か赤か。
州ごとに、多数決によって、この国の未来を決める意思が示されていく。
でも、本当か?本当にそうか?

夫もわたしも、開票報道を観るのが恐ろしくて、8時を過ぎてから、テレビをつけたり消したりしている。
州の開票を、どの町が、どちらにどの割合で入れたかまで公表している。
アメリカ合衆国の地図が、だんだん赤く染まっていく。
今のところは、トランプが優勢。
でもまだ、3時間の時差がある、西海岸の開票がまだ進んでいないので、まだわからない。

『NAIL BITER』ー 緊張してつい爪をギリギリと噛む人、という意味なのだけど、今夜はこのNAIL BITERだらけの合衆国なのである。

結果が出るまで起きていることは、多分無理なので、この続きはまた明日。


…などと言って、なんとか眠ろうとしたけれど、やっぱり眠れるはずもなく、まどろんではチェックし、また少し寝てはチェックしていたら、
夜中の3時ぐらいにはもう、トランプの優勢が顕著になっていて、これはひっくり返せないなあと、いろんなことが頭によぎってきて、とうとう全く眠れなくなってしまった。

メキシコからの不法移民は強制送還するだの、国境に巨大な壁を造流だの、イスラム教徒は一時入国を禁止するだの、女はどうにでもなるだの、
全く政治の経験が無い、さらには側近にも外交などの政策に精通した者も見当たらない、ただの有名な大金持ちだという人が、アメリカという国の大統領になった。
この男が、共和党のツワモノどもの傀儡になり果てるのではないか、どんな風に利用されていくのか…そこがとても恐ろしい。

でも、これがアメリカに暮らす人々の『本音』なら、その本音がどういうものを招くのか、それをしっかり受け止めるしかない。
政治家のマネーゲームに疲れ、大企業のグローバルという名の支配から逃れられるかもという期待を、トランプに見い出したのかもしれない。
けれどもそれが、この先どんな結果を招くのかは、誰にも分からないし、予想がつかない。

共和党が牛耳る4年間に、また理不尽な戦争を起こさないよう、そして、行き過ぎた差別や、一国主義にならないようにと祈るのみ。
やはり、ギリギリになって、クリントンが繰り返し言っていた『ガラスの天井』が、思いの外高かったことを、思い知らされた。
黒人の大統領は叶えさせてしまったけれど、女の大統領まで叶えさせてたまるか、というのも、本音の一つだったと思う。
そして、政治屋の政治に絶望し、グローバルでなく、まず自分の周りをなんとかしてもらえるのではないかという期待を持つ人が、思いの外多かったのかもしれない。

マコネル米上院院内総務(共和党)は9日、環太平洋連携協定(TPP)法案について、来年1月の新大統領就任前に、採決は行わないとの認識を明らかにしたそうだ。
日本はすっかりハシゴを外された形になるけれど、それでも安倍政権は、今後もしがみついていこうとするんだろうか…。

トランプは常々、銃の所持や扱いについて、これまた過激な発言を繰り返してきた。
核兵器についてもそう。
これらの件について、共和党の好戦議員の輩が集り、いいように利用していくのではないかと心配でならない。

いずれにせよ、これは夢でもなんでもなくて、本当に起こったことだ。
わたしたちは、これから4年間、トランプ大統領の統治の元、暮らしていかなければならない。
その毎日は、悲観していたよりはマシかもしれない。
悲観していた通りの、トンデモなことが起こり続けるかもしれない。
そしてそれらは、アメリカのみならず、世界にも影響を与えることになるかもしれない。
そのためにまた、アメリカに暮らしているということが、どうにも恥ずかしくてうつむいてしまうような、そんな毎日にならないことを祈るばかりである。

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泡沫と思われた放言王 トランプの勝因は反グローバリズム
【日刊ゲンダイ】2016年11月9日
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/193506/1

「史上最低の醜悪」などと言われた米国の大統領選は、大接戦の末、共和党のトランプ候補が制した。
この結果に、株式市場が大暴落するなど、世界中が騒然としているが、背景を探れば、そこには必然的ともいえる、米国の闇がある。

確かに、トランプの訴えはむちゃくちゃだった。
口を開けば、「メキシコとの国境に壁をつくる」「中国が雇用を奪っている」と他国を攻撃し、
ワイセツ発言も酷くて、「ピー」音をかぶせて伝えるニュース番組も多かった。
さすがに、大新聞は一斉に、トランプ批判に回り、発行部数上位100紙中、ヒラリー支持を表明したのが55紙だったのに対し、トランプ支持はわずか1紙だけだった。

しかし、それでも、トランプ人気は落ちなかった。
最後の最後で、リードを許していたクリントンを逆転した。
どんなに暴言を吐こうが、スキャンダルが飛び出そうが、あきれるほど根強い支持層に、支えられたのである。
支持率は、終始40%台をキープし、最後は、フロリダなど激戦州で、次々と下馬評をひっくり返した。
ツイッターのフォロワー数は、ヒラリーの1005万人に対し、1280万人と凌駕、
トランプの演説を生中継すると視聴率が跳ね上がる、という現象も起こった。


■疲弊したアメリカ国民が喝采、支持

なぜ、他人の悪口しか口にしない、トランプのような下品な男が、ここまでアメリカ国民から、熱狂的な支持を集めたのか。

トランプの主張は、ハッキリしている。
一言でいえば、「排外主義」だが、それは「反グローバリズム」である。
市場に任せれば経済はうまく回ると、アメリカが、30年間にわたり主導してきた「グローバリズム」と「新自由主義」を、真っ向から否定した。
その訴えが、アメリカ国民の心をとらえたのは間違いない。

外務省OBの天木直人氏(元レバノン大使)が、こう言う。

「もともとグローバリズムは、“勝ち組”の政策です。
格差が広がり、希望を持てない人を増やしてしまう。
アメリカ国民も疲弊してしまった。
一握りの富裕層だけが富み、中産階級が崩壊しつつあります。
だから、以前から、大衆の不満が充満していた。
トランプは、その不満を、上手にすくい上げた形です。
トランプが、『中国が雇用を奪っている』『雇用を奪うTPPを止める』と、自由貿易を批判すると、聴衆は拍手喝采し、熱狂した。
これは、“サンダース現象”にも通じる話です。
ヒラリーと大統領候補の座を争ったサンダースも、新自由主義を否定し、TPPを『破滅的な協定だ』と批判して、支持を集めた。
アメリカ大統領選を通じて分かったのは、行き過ぎた新自由主義とグローバリズムが、限界に達しつつあるということです。
今後アメリカは、大きな転換を迫られると思う。
熱心なTPP推進派だったヒラリーが、国民の強い反発を目の当たりにして、
『今も反対、選挙後も反対、大統領になっても反対』と、TPP反対に宗旨変えしたことが、この先のアメリカを物語っています」

実際、新自由主義とグローバリズムによって、アメリカ国民の生活は、ボロボロになっている。
安い労働力を求めて、企業が海外に進出したために、雇用は減り、その一方、安い商品が海外から流入し、アメリカ製は競争力を失ってしまった。
グローバリズムに対する、アメリカ国民の怒りと絶望が、トランプを押し上げたのである。
大統領選で敗北したのは、新自由主義とグローバリズムだったのではないか。


■TPPに参加したら日本経済は崩壊

グローバリズムへの「反動」は、アメリカだけの現象ではない。
世界各国で、「保護主義」の動きが強まっている。
自由貿易を進めたはいいが、どの国もヘトヘトになっているからだ。

なのに安倍首相は、TPPを筆頭にした新自由主義を、推し進めようとしているのだから、時代錯誤もいいところだ。
もしTPPに参加したら、日本は、決定的な打撃を受けてしまうだろう。
筑波大名誉教授の小林弥六氏(経済学)が、こう言う。

「例外なき関税撤廃、自由貿易が大前提のTPPに参加したら、日本の産業と雇用が、破壊されるのは必至です。
たとえば、日本が強い自動車産業だって、とても全メーカーが生き残れるとは思えない。
まず農業、林業、漁業は、安い外国産に太刀打ちできないでしょう。
第1次産業が壊滅したら、地方経済は成り立たなくなる。
今でもシャッター通りだらけなのに、地方は活気を失い、本当に死んでしまう。
新自由主義とグローバリズムの本質は、一般国民を犠牲にして、グローバル企業を儲けさせることです。
世界的な大企業は潤うが、大衆には恩恵がない。
だからアメリカも、産業界はTPPに賛成し、多くの国民が反対している。
それでも安倍首相は、TPP参加を強行しようとしているのだから、どうかしています。
百歩譲って、もし、メード・イン・ジャパンが世界市場を席巻している時だったら、TPPに参加するメリットがあったかもしれませんが、
国際競争力が低下している今、参加するのは狂気の沙汰です。
日本の富と市場を、アメリカのグローバル企業に奪われるのは、目に見えています」


■グローバリズムをやめ、日本型を探せ

いずれ世界各国に、「グローバリズム」を見直す動きが、広がっていくはずだ。
「保護主義」の動きが強まってくるのは、間違いない。
日本も大急ぎで、行き過ぎたグローバリズムと、一線を画すべきだ。

このままグローバルな競争に突入しても、過激なコスト競争に巻き込まれ、デフレ不況を悪化させるだけである。
アベノミクスが、「異次元の金融緩和」を実施し、経済対策に何十兆円もの税金をつぎ込んでも、物価が上昇しないのは、
過度なグローバル競争によって、国内に、デフレ圧力がかかっているからである。

そもそも、日本のGDPの6割は、個人消費なのだから、一部のグローバル企業を強くし、多少輸出を増やしたところで、景気が良くなるはずがないのだ。

「この20年、アメリカのエージェントのような、経済学者やエコノミストが、
グローバルスタンダードだ、構造改革だと、日本式の経済システムをアメリカ型に変えてきたが、果たして日本国民の利益になったのかどうか。
大失敗だったのは、この20年の、日本経済が証明しています。
今からでも、日本の状況に合った経済システムを、探すべきです。
今振り返っても、年功序列、終身雇用、系列といった日本型経営は、ある意味、合理的なシステムでした。
雇用が守られるので、サラリーマンは、結婚、子育て、マイホーム取得と、人生設計を立てられた。
将来不安が少ない分、消費もできた。
ところが、グローバルスタンダードに合わせるべきだと、雇用を壊し、非正規を増やしたために、将来不安が強まり、消費が増えなくなってしまった。
最悪なのは、社内に、人材と技術の蓄積がなくなったために、商品開発力まで落ちてしまったことです」(経済評論家・斎藤満氏)

アメリカ大統領選でなぜ、「トランプ現象」や「サンダース現象」が起きたのか、日本はよく考える必要がある。
コメント (8)
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