大分県よ、あんたもか……。
こんな読本作ってどないすんねん?!
自然の放射性物質というのんは、そもそも地球に生物が生まれる前からあった。
当時はもう、その量がとんでもないもんやったから、生物なんて全く生きることができんかった。
けども、自然界がだんだんと変化していって、そこそこ大丈夫な量に減ってきて、そこで初めて、それぐらいの量やったら大丈夫っちゅう生物が誕生し始めた。
長い長い年月を経て、放射性物質の耐性をつけてきた地球上の生き物。
せやからというて、自然界にある放射性物質は、危険ではない、ということはない。
もちろん、量が過ぎたら健康が害される。
進化したというても、中には耐性があんまり無い生き物もいて、病気になったり死んだりする。
放射性物質については、そんなふうに、ギリギリのとこで折り合いつけて生きてるのに、そこにこれだけ大量の、余計な放射性物質をぶちまかれた日本。
空も海も区切ることなんかできひんねんから、薄まったり凝縮したりしながらどんどん広がっていく。
人工放射線の中のひとつ、ヨウ素という物質、それは子どもの甲状腺にガンを発生させる一番の原因になる。
ヨウ素も、もともと自然界にある。
甲状腺にとっては、ヨウ素がないとホルモンが作られへん。
そやから必ず人間は、ヨウ素を環境から摂取して、甲状腺に集める。
そうやって初めて、人間は生きられる。
けど、ここが大事。
自然(天然)にあるヨウ素はすべて、放射線を出さへんねん。
ただただ、生きていくのに必要なホルモンを作れるように、応援してくれる物質やねん。
そやのにあの時、大きな原発事故が起こって、放射能を持ったヨウ素が、環境にばらまかれてしもた。
生き物、特に人間の、その中でも特に小さな子どもの甲状腺は、自分の周りにあるヨウ素が、放射能を持ったやつなんか、それとも自然界のやつなんか、どっちかわからんとどっちも取り込んでしまうねん。
それがなんで、自然も人工もおんなじやって言うん?
単に、放射性を持った物質やからって、自然界のものと人工のものを同列に考えたらあかん。
自然放射線があるから言うて、人工放射線も受け入れられるっちゅう考え方は間違い。自然の放射性物質と人工の放射性物質は違う。
そう小出先生ははっきりと言うてはった。
わたしは、小出先生の方を信じてる。
この読本を書いた、大分県の食品安全・衛生課長 河野 昭二さん、申し訳ないけど、あなたの書かはったことの中に、大きな間違いがあるということで、ここに載せさせてもらいます。
↓
放射線ってなんだろう
知りたいこと、伝えたいこと
http://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/155450.pdf
東日本大震災に伴う、福島第一原子力発電所の事故以降、
食の安全の観点から、食品を介した放射性物質の健康への影響に、関心がもたれています。
この読本は、放射線・放射性物質に関して、国際的に合意されている科学的知見に基づいた情報を提供し、
食の安全について、皆さんと一緒に考え、皆さんに安心が得られることを願って作成しました。
目次
身のまわりにある放射線
1 身のまわりにある放射線
最初に身のまわりにある放射線※・放射性物質※から話を始めます。
放射線や放射性物質は、特別な存在ではありません。
私たちの身のまわりに、自然由来の放射線や放射性物質があります。
宇宙からの放射線(宇宙放射線)、地面からの放射線、ビルのコンクリート壁や大理石、木造住宅の木材からも、自然由来の放射線が放出されています。
地面からは主に、ラドンガスが発生しています。
これらの放射線はどこから来るのかを、もう少し詳しく見てみましょう。
(※放射線・放射性物質については P6 参照)
2 建物から出る放射線
住宅に使用される材料に、放射性物質が含まれていることから、家の中でも放射線を受けています。
木造建築
木造住宅の材料は木材です。
生木1㎏のうち、約25%が炭素からできています。
炭素には、一定の割合(1.2 × 10-12)で、放射性炭素が含まれています。
そのため、生木1㎏あたり約50 ~ 60ベクレル※の、放射性炭素を含んでいます。
また、放射性炭素は、いつの時代も一定の割合で存在し、半減期(放射性物質が半分になる時間)が5730年と長いことから、遺跡などの年代測定に利用されています。
コンクリート建築
建材に使用されるコンクリートも、放射性物質を含んでいます。
(放射性カリウムは、かこう岩1㎏あたり1000ベクレル、石灰岩で90ベクレル。放射性トリウムはかこう岩で80ベクレル、石灰岩で7ベクレル。)
(※ベクレルの意味については P9 参照)
3 地面からはラドンガス
地面から放出されている放射性物質で、代表的なものがラドンです。
(地中のラジウム(Ra)が、ラドン(Rn)に変化します。)
ラドンは気体なので、地面から空気中にもれ出てきます。
もれ出たラドンは、放射線を出しながら空気中を広がっていき、最終的に鉛に変化します。
室内のラドンの濃度は、地域や建物の構造によって異なりますが、日本は16 ベクレル / ㎥と、他国に比べると低い方です。
肺から吸入される放射性物質の多くを、ラドンが占めています。
なお、ラドンは、喫煙に次ぐ肺がんのリスク要因との報告があることから、密閉性の高い構造物や地下室などでは、換気の必要性が指摘されています。
家屋内ラドン濃度
国名 濃度ベクレル/m3
エジプト 9
カナダ 34
デンマーク 53
ドイツ 50
フランス 62
中国 24
日本 16
スウェーデン 108
イギリス 20
アメリカ 46
チェコ 140
出典:放射線医学総合研究所(監訳)、放射線の線源と影響、国連科学委員会 2000 年報告書より抜粋
4 私たちの体内にも自然由来の放射性物質はある
私たちの体内にも、飲食物や呼吸を通して、放射性物質が含まれています。
食品中に含まれる自然由来の放射性物質は、主に放射性カリウム、放射性炭素などです。
体重 60㎏の成人男性の体内には、放射性カリウムが 4000 ベクレル、放射性炭素が 2500 ベクレルほど含まれています。
通常女性は、男性より少ない量です。
これらの他に、放射性ルビジウム、放射性鉛、放射性ポロニウムなどの放射性物質もあります。
そのため体重 60㎏の成人男性では、約7000ベクレルの、自然由来の放射性物質が体内に存在しています。
5 宇宙から来る放射線
宇宙では、放射線(宇宙放射線)が飛び交い、地球にも降り注いでいます。
宇宙放射線は、大気(空気)の遮へい効果により減少し、地上にその一部が届きます。
放射線量は、地上から1500m上昇するごとに、2倍程度の量になります。
飛行機が約1万メートルの高度を飛行した場合には、地上の約100倍の放射線を受けることになります。
国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は、地上で生活する私たちの約半年分の放射線量を、1日で受けています。
6 放射線には、自然と人工の区別はない

すべての物質は、元素から構成されています。
元素のうち不安定なものは、放射線を出しながら、別の安定した元素に変化する性質をもっています。
このような元素を、放射性元素、あるいは総称として放射性物質といいます。
自然由来のカリウム40(放射性カリウム)と、人工的に生成されるセシウム137(放射性セシウム)は共に、
ベータ線(電子)とガンマ線(光の仲間)を放出しながら、カルシウム、バリウムという、それぞれ別の元素に変化します。
自然由来の放射性物質も、人工的に生成される放射性物質も、放射線を放出することでは、自然と人工の区別はありません。
したがって、放射線の生体への影響も、自然と人工の区別はありません※。
(※生体への影響については P16 参照)
7 1年間に受ける自然由来の放射線量
この円グラフは、私たちが1年間に受ける、自然由来の放射線量の世界平均を示したものです。
呼吸により1.26ミリシーベルト、食物などから0.29ミリシーベルト、大地から0.48ミリシーベルト、宇宙から0.39ミリシーベルト、合計で2.4ミリシーベルトを受けています。
なお、日本の平均は、合計で1.5~1.7ミリシーベルトです。
(※グラフの内部線量、外部線量についてはP10参照。シーベルトの意味についてはP16参照)
8 日常生活と放射線
私たちは、日常生活の中で放射線を受けています。
世界の中には、年間10ミリシーベルト程度の放射線を浴びている地域もあります。
また、医療による被ばくでは、胸のX線集団検診で50マイクロシーベルト※/回、胃のX線集団検診で600マイクロシーベルト/回、CTスキャンでは6.9ミリシーベルト/回を浴びています。
(※1000マイクロシーベルト=1ミリシーベルト=0.001シーベルト)
放射性物質について
9 ベクレルは放射性物質の量の単位
ほとんどすべての食品には、放射性カリウムが含まれています。
放射性カリウムは、放射線を放出しながら、カルシウムという元素に変化していきます。
ベクレルとは、1 秒間あたりに別の元素に変わる元素の数のことをいいます。
仮に6ベクレルだと、1秒間に6個のカリウム元素が、放射線を出しながら、カルシウム元素に変化したことをいいます。
ベクレルが大きいほど、放射線の量も多く放出していることになります。
通常、物質の量を表現するのに重さ(㎏)を用いますが、放射性物質の場合は重さではなく、放射線を放出することに注目して量を定義しているのです。
ベクレルは、放射性物質の量、と理解するとわかりやすいでしょう。
10 放射性物質からの被ばくに2つのタイプ
外部被ばく(外部線量)
胸のX線検査や CT 検査から受ける放射線や、環境中の放射性物質からの放射線は、体の外から受けるので、外部被ばくといいます。
内部被ばく(内部線量)
呼吸や飲食により、体内に取り込んだ放射性物質からの被ばくを、内部被ばくといいます。
内部被ばくの場合でも、放射性物質が体内にとどまり続けるわけではなく、時間の経過とともに減少していきます。
減少していく時間は、放射性物質の種類によって異なります。
外部被ばく、内部被ばくいずれの場合も、生体への影響※は放射線量によります。
(※生体への影響については P16 参照)
11 体内から排泄するまでの時間は

体内に放射性物質が取り込まれた場合、体内での放射性物質の量の変化を、放射性セシウム(セシウム137)を例に見てみましょう。
体内に取り込んだセシウムの量(ベクレル)が、排泄により半分になるまでの期間は、成人で110日、10歳児で50日、5歳児で30日程度で、これを生物学的半減期といいます。
その経過を図に示しています。
仮に、1000ベクレルを一度に取り込むと、5歳児では30日後に500ベクレル、60日後に250ベクレル、90日後に125ベクレルと減少していきます。
10歳児、成人と年齢が進むにつれて、減少するスピードは遅くなります。
12 毎日食べ続けると一定の量がたまる ……………12

現状ではありえませんが、成人が仮に、毎日10ベクレルの放射性セシウムを取り続けたとしても、増え続けるわけではありません。
上の図のように、ある量(ここでは約1400ベクレル)に達すると、排泄による減少分と食事による増加分とが相殺されるため、その後は一定となります。
体内の放射性カリウムも同様で、常に4000ベクレル程度※が存在しています。
(※成人男性(体重60㎏)の場合)
13 体内の放射性物質の量は測定できる
体内に入った放射性物質の量は、測定することができます。
いろいろな測定装置がありますが、全身の放射性物質の量(ベクレル)を測定できるものに、ホールボディーカウンター(WBC)があります。
正確に測定するためには、環境中に存在している自然由来の放射線と区別する必要があり、特殊に遮へいした箱の中や、椅子型の装置で測定します。
放射性セシウムや放射性カリウムが放出するガンマ線が、体を透過し、体外に出てくる量を測定しているのです。
そのため、体を透過しないアルファ線や、ベータ線の測定はできません。
プルトニウム等のアルファ線や、ストロンチウム等のベータ線を放出する、放射性物質の体内量を測定する場合は、尿や便など排泄物を利用します。
14 過去にあった放射性物質からの環境汚染
放射線の生体への作用と健康影響
1940年代から1960年代にかけて、アメリカや旧ソ連(ロシア)でおこなわれた大気圏内での核実験により、世界中に放射性物質が放出されました。
それによって、日本では、どの程度の放射性物質が、人体内で測定されたかを示した図です。
核実験自体は、倫理的に大変問題ですが、そのことによる健康被害の報告は国内ではありません。
現在の知識では、それから受けた放射線の量(シーベルト)が、幸いにも大きくなかったことが関係していると考えられます。
15 放射線は小さな粒子のように生体に衝突
私たち生物の体は、数兆~数十兆個もの細胞で構成されています。
この細胞全体の約70%は水で、その水の中にDNAが存在しています。
DNAには、生物が生きていく上で必要な、タンパク質を作るための情報が、遺伝子という形で書き込まれています。
生物が放射線を受けると、最初に、放射線と細胞内の水の分子(H2O)が相互作用し、水の分子が電離され(鎖が切れ)、活性酸素が生成されます。
放射線によって生成された活性酸素の近くにDNAがあったら、DNAと活性酸素が結合してしまい、DNAに傷が生じます。
これらのDNAの傷は、一定の割合で、遺伝子を変化させる可能性があります。
さらに、遺伝子の変化が積み重なると、放射線が“がん”を引き起こす原因となる可能性につながっていきます。
16 放射線の生体への影響を表す単位はシーベルト
生体への影響は、放射線を受ける量で決まります。
放射性物質から放射線が出る量をベクレル、放射線を受ける量をグレイ(Gy)という単位で表します。
また、放射線の生体への影響は、グレイ(吸収線量)が同じであっても、放射線の種類によって異なることから、生体への影響を表す単位としてシーベルト(Sv)が生まれました。
放射線の種類として、図のように、アルファ線、ベータ線、ガンマ線があります。
例えばアルファ線は、ガンマ線やベータ線と同じ量を受けた場合と比べ、生体への影響は、20倍の強さがあります。
ガンマ線、ベータ線を放出する放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性カリウムの場合は、どちらの単位でも同じ数値になります。
また、別の言い方をすると、同じ1000ベクレルを摂取しても、放射性物質が異なれば、放射線の種類、エネルギーの強さ、生体内での吸収・代謝・排泄等の違いにより、生体への影響は異なりますが、そうした違いを含めて、シーベルトで表すことができます。
外部被ばくと内部被ばくの違いを考慮しているので、私たちの健康影響を評価する場合に、このシーベルトで判断できるのです。
種 類
グレイ(Gy)
シーベルト(Sv)
アルファ(α)線 1 20
ベータ(β)線
ガンマ(γ)線 1 1
17 放射線によるDNA損傷とは
放射線は、細胞のDNAに傷をつけることがあります。
しかし、細胞は、自らを修復する力を持っていますので、その傷は修復されます。
放射線によってDNAを構成する塩基が変ってしまった場合でも、ほぼ100%に近い確率で修復されます。
ところが、DNAの鎖が切断されたときには、修復の確率が下がります。
ただし、一度に大量の放射線を受けて、DNAの傷が多くなると、細胞は間違った修復をしたり、細胞死を引き起こします。
細胞が死ぬと、その細胞は発がんにはつながりませんが、DNAの修復の過程で間違った修復が行われると、遺伝子を変えてしまうので、発がんにつながる可能性があります。
18 確定的影響と確率的影響
放射線の生体への影響は、確定的影響と確率的影響の、2つに分けることができます。
確定的影響※
ある線量を超えて被ばくした際に現れる影響。
ある線量のことを、「しきい値」あるいは「いき値」(以下「しきい値」といいます)と言います。
ある線量以下ではこの影響は受けないので、境目の値がしきい値なのです。
(※具体的な確定的影響については P19、P20 参照)
確率的影響※
がんや遺伝的影響のように、長い年月をかけて現れる影響については、必ず現れるわけではないので、確率的影響といいます。
確率的影響については、実線部分(約 100 ミリシーベルト)までは判明していますが、それよりも低い点線部分については、他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいため、明らかになっていません。
(※具体的な確率的影響については P21、P22 参照)
19 一度に大量の放射線で生じる健康影響

一度に大量の放射線を受けると、それを受けた個人に健康被害が起きます。
例えば、手などの皮膚に一定量を超えた放射線を受けると、その部分に火傷に似た症状が現れ、皮膚障害を起こします。
頭であれば、毛が抜けて脱毛に至ります。
その他、不妊や血液障害など、多くの臨床的な影響が知られています。
このような影響が確定的影響です。
影響を受けるのは、しきい値を超えた放射線量を受けたときで、しきい線量以下では生じません。
がんの放射線治療のような、大きな放射線量を受けたときに観察されます。
20 胎児への影響

母親の妊娠中に、胎児が放射線を受けて生じる影響を、胎児影響といいます。
胎児影響は、妊娠時期により異なります。
妊娠のステージは、着床前期(0 ~ 9 日)、着床期(9 ~ 14 日)、器官形成期(15 ~ 50 日)、胎児期(50 ~ 280 日)に分けられます。
この中で、器官形成期において最も影響を受けることがわかっていて、主な影響は奇形や発育遅延などです。
また、胎児影響にはしきい値があり、約100ミリシーベルト以下では生じません。
21 「がん」が増加する可能性(リスク)
たくさんの人々について、放射線を受けた集団と受けていない集団を追跡調査をすると、
約100ミリシーベルトを超えた線量では、放射線を受けた集団の方が、がんの発生率が高くなっていることがわかっています。
例えば、1000ミリシーベルトといった大きな線量では、約1.5倍に増加するとされています。
放射線に関係なく、10人におよそ3人は、がんで死亡している現代社会では、
約100 ミリシーベルト以下の低い線量では、がんを発症する確率があっても、その増加を検出することが困難と考えられています。
それは、放射線の影響に比べて、生活習慣などの放射線以外の要因が大きいからです。
そもそも、約100 ミリシーベルト以下の少ない線量で、がんを発生するのかあるいはしないのか、
がんの発症メカニズムからの研究が続けられていますが、今のところ科学的には結論はでていません。
22 遺伝的な影響とは
遺伝的影響とは、父親か母親が放射線を受けて、その子どもに影響が現れることであり、動物実験からは、その可能性が想定されています。
また、遺伝的な影響というリスクは、放射線の量に応じて発生する可能性があると考えられています。
人については、がんの場合と同じように、放射線を受けた集団と受けていない集団とを比較して、
放射線を受けた集団の子どもの方が、種々の疾患の発生率が高いかどうかの調査が行われてきました。
その中で、比較的高い放射線量を受けた原爆被爆者の長年の調査からは、遺伝的影響は確認されていません。
最新の遺伝学の研究からは、同じ放射線の量から起こりうる可能性(リスク)は、がんに比べてずっと小さいと推定されています。
23 少ない放射線量のリスクと、どう向きあったらよいのでしょうか?
がんの原因は、図のように、多くの要因があることが知られています。
少ない放射線量がもたらす発がんの可能性(リスク)は、約100ミリシーベルトを受けた場合でも1%と、他の生活習慣による疾病のリスクと比べて、決して大きくありません。
公衆衛生上は、放射線をしっかり管理して、線量をできるだけ少なくするような規制を行う必要があります。
そして、個人個人は、生活の中のライフスタイルをより良くすることで、リスクを低減し、健康な生活を目指すことが、普段の健康管理上大切です。
食品の基準とは
24 食物を通して自然由来の放射性物質を摂取している
上記の表や絵の中の数字は、自然由来の放射性カリウムの量を示したものです。
このように、普段生活している中でも、放射性物質をある程度摂取していることを知っておくと、数字の意味を考えることができるようになるでしょう。
なお、放射性カリウムは、カリウム全体の 0.012%しかありません。
放射性カリウムの摂取を避けようとすると、人体に不可欠なカリウムが足りなくなり、健康上問題があります。
25 食品中に含まれる放射性物質に対する規制基準
厚生労働省は、福島第一原子力発電所事故により発生した、放射性物質の規制のため、2012年4月に、新たな基準値を法律で設定しました。
1年間に食品から受ける被ばく量の上限を1ミリシーベルトとし、年齢区分別の食品摂取量と、感受性を考慮した換算係数をもとに、年齢区分別の限度値を算出しました。
すると、13-18歳の男性が、最も限度値が低く、120Bq/kg となったので、それよりも低い100Bq/kgを、一般食品の基準としました。
また、乳児が食べる「乳児用食品」と、子どもの摂取量が特に多い「牛乳」を特別な区分とし、一般食品の半分となる50Bq/kg に設定されています。
26 食品中の放射性物質の基準値は何を意味しているの?
食品の基準値は、その濃度を、継続して1年間摂取したときでも、 1 ミリシーベルトを超えないようにするためです。
したがってこの基準値は、食品を管理するための基準であり、安全か危険かの基準ではありません。
たとえ基準値を少し超えた食品を、継続して1年間摂取したとしても、それから受ける放射線の量は、自然由来の放射線から受けるレベルと同じ程度になります。
また、基準値を超えた食品については、法律により、回収命令等の措置が講じられ、流通から排除されます。
27 実際の食生活の実態調査から
2011年の3月の大震災に伴う原発事故以後、福島県の人々の食事からは、どのくらいの放射性物質が検出されているのでしょうか。
上の図は、コープ福島が調査した結果です。
棒グラフは、各家庭の食事に含まれた放射性物質の量(ベクレル/キログラム)を示したものです。
緑の棒は、自然由来の放射性カリウムを示していて、赤と黄色の棒が放射性セシウムを示しています。
この調査によれば、放射性セシウムの摂取は、放射性カリウムと比べてきわめて小さい結果になっています。
28 信頼できる食品の検査体制が大切
29 食品中の放射性物質の量を測定する
現時点で得られている放射線・放射性物質に関する基礎情報を分かりやすくするために、たくさんのイラストを使って作成しました。
理解しがたい部分もあったと思いますが、放射線・放射性物質について、少しでも理解が得られたのではないかと思います。
リスクには、ゼロはありません。
物理学者で随筆家の寺田寅彦の言葉に「物事を必要以上に恐れたり、全く恐れを抱いたりしないことはたやすいが、物事を正しく恐れることは難しい」があります。
この読本が、放射線・放射性物質を正しく恐れることの一助になることを願っております。
食品安全・衛生課長 河野 昭二
こんな読本作ってどないすんねん?!
自然の放射性物質というのんは、そもそも地球に生物が生まれる前からあった。
当時はもう、その量がとんでもないもんやったから、生物なんて全く生きることができんかった。
けども、自然界がだんだんと変化していって、そこそこ大丈夫な量に減ってきて、そこで初めて、それぐらいの量やったら大丈夫っちゅう生物が誕生し始めた。
長い長い年月を経て、放射性物質の耐性をつけてきた地球上の生き物。
せやからというて、自然界にある放射性物質は、危険ではない、ということはない。
もちろん、量が過ぎたら健康が害される。
進化したというても、中には耐性があんまり無い生き物もいて、病気になったり死んだりする。
放射性物質については、そんなふうに、ギリギリのとこで折り合いつけて生きてるのに、そこにこれだけ大量の、余計な放射性物質をぶちまかれた日本。
空も海も区切ることなんかできひんねんから、薄まったり凝縮したりしながらどんどん広がっていく。
人工放射線の中のひとつ、ヨウ素という物質、それは子どもの甲状腺にガンを発生させる一番の原因になる。
ヨウ素も、もともと自然界にある。
甲状腺にとっては、ヨウ素がないとホルモンが作られへん。
そやから必ず人間は、ヨウ素を環境から摂取して、甲状腺に集める。
そうやって初めて、人間は生きられる。
けど、ここが大事。
自然(天然)にあるヨウ素はすべて、放射線を出さへんねん。
ただただ、生きていくのに必要なホルモンを作れるように、応援してくれる物質やねん。
そやのにあの時、大きな原発事故が起こって、放射能を持ったヨウ素が、環境にばらまかれてしもた。
生き物、特に人間の、その中でも特に小さな子どもの甲状腺は、自分の周りにあるヨウ素が、放射能を持ったやつなんか、それとも自然界のやつなんか、どっちかわからんとどっちも取り込んでしまうねん。
それがなんで、自然も人工もおんなじやって言うん?
単に、放射性を持った物質やからって、自然界のものと人工のものを同列に考えたらあかん。
自然放射線があるから言うて、人工放射線も受け入れられるっちゅう考え方は間違い。自然の放射性物質と人工の放射性物質は違う。
そう小出先生ははっきりと言うてはった。
わたしは、小出先生の方を信じてる。
この読本を書いた、大分県の食品安全・衛生課長 河野 昭二さん、申し訳ないけど、あなたの書かはったことの中に、大きな間違いがあるということで、ここに載せさせてもらいます。
↓
放射線ってなんだろう
知りたいこと、伝えたいこと
http://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/155450.pdf
東日本大震災に伴う、福島第一原子力発電所の事故以降、
食の安全の観点から、食品を介した放射性物質の健康への影響に、関心がもたれています。
この読本は、放射線・放射性物質に関して、国際的に合意されている科学的知見に基づいた情報を提供し、
食の安全について、皆さんと一緒に考え、皆さんに安心が得られることを願って作成しました。
目次
身のまわりにある放射線
1 身のまわりにある放射線
最初に身のまわりにある放射線※・放射性物質※から話を始めます。
放射線や放射性物質は、特別な存在ではありません。
私たちの身のまわりに、自然由来の放射線や放射性物質があります。
宇宙からの放射線(宇宙放射線)、地面からの放射線、ビルのコンクリート壁や大理石、木造住宅の木材からも、自然由来の放射線が放出されています。
地面からは主に、ラドンガスが発生しています。
これらの放射線はどこから来るのかを、もう少し詳しく見てみましょう。
(※放射線・放射性物質については P6 参照)
2 建物から出る放射線
住宅に使用される材料に、放射性物質が含まれていることから、家の中でも放射線を受けています。
木造建築
木造住宅の材料は木材です。
生木1㎏のうち、約25%が炭素からできています。
炭素には、一定の割合(1.2 × 10-12)で、放射性炭素が含まれています。
そのため、生木1㎏あたり約50 ~ 60ベクレル※の、放射性炭素を含んでいます。
また、放射性炭素は、いつの時代も一定の割合で存在し、半減期(放射性物質が半分になる時間)が5730年と長いことから、遺跡などの年代測定に利用されています。
コンクリート建築
建材に使用されるコンクリートも、放射性物質を含んでいます。
(放射性カリウムは、かこう岩1㎏あたり1000ベクレル、石灰岩で90ベクレル。放射性トリウムはかこう岩で80ベクレル、石灰岩で7ベクレル。)
(※ベクレルの意味については P9 参照)
3 地面からはラドンガス
地面から放出されている放射性物質で、代表的なものがラドンです。
(地中のラジウム(Ra)が、ラドン(Rn)に変化します。)
ラドンは気体なので、地面から空気中にもれ出てきます。
もれ出たラドンは、放射線を出しながら空気中を広がっていき、最終的に鉛に変化します。
室内のラドンの濃度は、地域や建物の構造によって異なりますが、日本は16 ベクレル / ㎥と、他国に比べると低い方です。
肺から吸入される放射性物質の多くを、ラドンが占めています。
なお、ラドンは、喫煙に次ぐ肺がんのリスク要因との報告があることから、密閉性の高い構造物や地下室などでは、換気の必要性が指摘されています。
家屋内ラドン濃度
国名 濃度ベクレル/m3
エジプト 9
カナダ 34
デンマーク 53
ドイツ 50
フランス 62
中国 24
日本 16
スウェーデン 108
イギリス 20
アメリカ 46
チェコ 140
出典:放射線医学総合研究所(監訳)、放射線の線源と影響、国連科学委員会 2000 年報告書より抜粋
4 私たちの体内にも自然由来の放射性物質はある
私たちの体内にも、飲食物や呼吸を通して、放射性物質が含まれています。
食品中に含まれる自然由来の放射性物質は、主に放射性カリウム、放射性炭素などです。
体重 60㎏の成人男性の体内には、放射性カリウムが 4000 ベクレル、放射性炭素が 2500 ベクレルほど含まれています。
通常女性は、男性より少ない量です。
これらの他に、放射性ルビジウム、放射性鉛、放射性ポロニウムなどの放射性物質もあります。
そのため体重 60㎏の成人男性では、約7000ベクレルの、自然由来の放射性物質が体内に存在しています。
5 宇宙から来る放射線
宇宙では、放射線(宇宙放射線)が飛び交い、地球にも降り注いでいます。
宇宙放射線は、大気(空気)の遮へい効果により減少し、地上にその一部が届きます。
放射線量は、地上から1500m上昇するごとに、2倍程度の量になります。
飛行機が約1万メートルの高度を飛行した場合には、地上の約100倍の放射線を受けることになります。
国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士は、地上で生活する私たちの約半年分の放射線量を、1日で受けています。
6 放射線には、自然と人工の区別はない

すべての物質は、元素から構成されています。
元素のうち不安定なものは、放射線を出しながら、別の安定した元素に変化する性質をもっています。
このような元素を、放射性元素、あるいは総称として放射性物質といいます。
自然由来のカリウム40(放射性カリウム)と、人工的に生成されるセシウム137(放射性セシウム)は共に、
ベータ線(電子)とガンマ線(光の仲間)を放出しながら、カルシウム、バリウムという、それぞれ別の元素に変化します。
自然由来の放射性物質も、人工的に生成される放射性物質も、放射線を放出することでは、自然と人工の区別はありません。
したがって、放射線の生体への影響も、自然と人工の区別はありません※。
(※生体への影響については P16 参照)
7 1年間に受ける自然由来の放射線量
この円グラフは、私たちが1年間に受ける、自然由来の放射線量の世界平均を示したものです。
呼吸により1.26ミリシーベルト、食物などから0.29ミリシーベルト、大地から0.48ミリシーベルト、宇宙から0.39ミリシーベルト、合計で2.4ミリシーベルトを受けています。
なお、日本の平均は、合計で1.5~1.7ミリシーベルトです。
(※グラフの内部線量、外部線量についてはP10参照。シーベルトの意味についてはP16参照)
8 日常生活と放射線
私たちは、日常生活の中で放射線を受けています。
世界の中には、年間10ミリシーベルト程度の放射線を浴びている地域もあります。
また、医療による被ばくでは、胸のX線集団検診で50マイクロシーベルト※/回、胃のX線集団検診で600マイクロシーベルト/回、CTスキャンでは6.9ミリシーベルト/回を浴びています。
(※1000マイクロシーベルト=1ミリシーベルト=0.001シーベルト)
放射性物質について
9 ベクレルは放射性物質の量の単位
ほとんどすべての食品には、放射性カリウムが含まれています。
放射性カリウムは、放射線を放出しながら、カルシウムという元素に変化していきます。
ベクレルとは、1 秒間あたりに別の元素に変わる元素の数のことをいいます。
仮に6ベクレルだと、1秒間に6個のカリウム元素が、放射線を出しながら、カルシウム元素に変化したことをいいます。
ベクレルが大きいほど、放射線の量も多く放出していることになります。
通常、物質の量を表現するのに重さ(㎏)を用いますが、放射性物質の場合は重さではなく、放射線を放出することに注目して量を定義しているのです。
ベクレルは、放射性物質の量、と理解するとわかりやすいでしょう。
10 放射性物質からの被ばくに2つのタイプ
外部被ばく(外部線量)
胸のX線検査や CT 検査から受ける放射線や、環境中の放射性物質からの放射線は、体の外から受けるので、外部被ばくといいます。
内部被ばく(内部線量)
呼吸や飲食により、体内に取り込んだ放射性物質からの被ばくを、内部被ばくといいます。
内部被ばくの場合でも、放射性物質が体内にとどまり続けるわけではなく、時間の経過とともに減少していきます。
減少していく時間は、放射性物質の種類によって異なります。
外部被ばく、内部被ばくいずれの場合も、生体への影響※は放射線量によります。
(※生体への影響については P16 参照)
11 体内から排泄するまでの時間は

体内に放射性物質が取り込まれた場合、体内での放射性物質の量の変化を、放射性セシウム(セシウム137)を例に見てみましょう。
体内に取り込んだセシウムの量(ベクレル)が、排泄により半分になるまでの期間は、成人で110日、10歳児で50日、5歳児で30日程度で、これを生物学的半減期といいます。
その経過を図に示しています。
仮に、1000ベクレルを一度に取り込むと、5歳児では30日後に500ベクレル、60日後に250ベクレル、90日後に125ベクレルと減少していきます。
10歳児、成人と年齢が進むにつれて、減少するスピードは遅くなります。
12 毎日食べ続けると一定の量がたまる ……………12

現状ではありえませんが、成人が仮に、毎日10ベクレルの放射性セシウムを取り続けたとしても、増え続けるわけではありません。
上の図のように、ある量(ここでは約1400ベクレル)に達すると、排泄による減少分と食事による増加分とが相殺されるため、その後は一定となります。
体内の放射性カリウムも同様で、常に4000ベクレル程度※が存在しています。
(※成人男性(体重60㎏)の場合)
13 体内の放射性物質の量は測定できる
体内に入った放射性物質の量は、測定することができます。
いろいろな測定装置がありますが、全身の放射性物質の量(ベクレル)を測定できるものに、ホールボディーカウンター(WBC)があります。
正確に測定するためには、環境中に存在している自然由来の放射線と区別する必要があり、特殊に遮へいした箱の中や、椅子型の装置で測定します。
放射性セシウムや放射性カリウムが放出するガンマ線が、体を透過し、体外に出てくる量を測定しているのです。
そのため、体を透過しないアルファ線や、ベータ線の測定はできません。
プルトニウム等のアルファ線や、ストロンチウム等のベータ線を放出する、放射性物質の体内量を測定する場合は、尿や便など排泄物を利用します。
14 過去にあった放射性物質からの環境汚染
放射線の生体への作用と健康影響
1940年代から1960年代にかけて、アメリカや旧ソ連(ロシア)でおこなわれた大気圏内での核実験により、世界中に放射性物質が放出されました。
それによって、日本では、どの程度の放射性物質が、人体内で測定されたかを示した図です。
核実験自体は、倫理的に大変問題ですが、そのことによる健康被害の報告は国内ではありません。
現在の知識では、それから受けた放射線の量(シーベルト)が、幸いにも大きくなかったことが関係していると考えられます。
15 放射線は小さな粒子のように生体に衝突
私たち生物の体は、数兆~数十兆個もの細胞で構成されています。
この細胞全体の約70%は水で、その水の中にDNAが存在しています。
DNAには、生物が生きていく上で必要な、タンパク質を作るための情報が、遺伝子という形で書き込まれています。
生物が放射線を受けると、最初に、放射線と細胞内の水の分子(H2O)が相互作用し、水の分子が電離され(鎖が切れ)、活性酸素が生成されます。
放射線によって生成された活性酸素の近くにDNAがあったら、DNAと活性酸素が結合してしまい、DNAに傷が生じます。
これらのDNAの傷は、一定の割合で、遺伝子を変化させる可能性があります。
さらに、遺伝子の変化が積み重なると、放射線が“がん”を引き起こす原因となる可能性につながっていきます。
16 放射線の生体への影響を表す単位はシーベルト
生体への影響は、放射線を受ける量で決まります。
放射性物質から放射線が出る量をベクレル、放射線を受ける量をグレイ(Gy)という単位で表します。
また、放射線の生体への影響は、グレイ(吸収線量)が同じであっても、放射線の種類によって異なることから、生体への影響を表す単位としてシーベルト(Sv)が生まれました。
放射線の種類として、図のように、アルファ線、ベータ線、ガンマ線があります。
例えばアルファ線は、ガンマ線やベータ線と同じ量を受けた場合と比べ、生体への影響は、20倍の強さがあります。
ガンマ線、ベータ線を放出する放射性セシウム、放射性ストロンチウム、放射性カリウムの場合は、どちらの単位でも同じ数値になります。
また、別の言い方をすると、同じ1000ベクレルを摂取しても、放射性物質が異なれば、放射線の種類、エネルギーの強さ、生体内での吸収・代謝・排泄等の違いにより、生体への影響は異なりますが、そうした違いを含めて、シーベルトで表すことができます。
外部被ばくと内部被ばくの違いを考慮しているので、私たちの健康影響を評価する場合に、このシーベルトで判断できるのです。
種 類
グレイ(Gy)
シーベルト(Sv)
アルファ(α)線 1 20
ベータ(β)線
ガンマ(γ)線 1 1
17 放射線によるDNA損傷とは
放射線は、細胞のDNAに傷をつけることがあります。
しかし、細胞は、自らを修復する力を持っていますので、その傷は修復されます。
放射線によってDNAを構成する塩基が変ってしまった場合でも、ほぼ100%に近い確率で修復されます。
ところが、DNAの鎖が切断されたときには、修復の確率が下がります。
ただし、一度に大量の放射線を受けて、DNAの傷が多くなると、細胞は間違った修復をしたり、細胞死を引き起こします。
細胞が死ぬと、その細胞は発がんにはつながりませんが、DNAの修復の過程で間違った修復が行われると、遺伝子を変えてしまうので、発がんにつながる可能性があります。
18 確定的影響と確率的影響
放射線の生体への影響は、確定的影響と確率的影響の、2つに分けることができます。
確定的影響※
ある線量を超えて被ばくした際に現れる影響。
ある線量のことを、「しきい値」あるいは「いき値」(以下「しきい値」といいます)と言います。
ある線量以下ではこの影響は受けないので、境目の値がしきい値なのです。
(※具体的な確定的影響については P19、P20 参照)
確率的影響※
がんや遺伝的影響のように、長い年月をかけて現れる影響については、必ず現れるわけではないので、確率的影響といいます。
確率的影響については、実線部分(約 100 ミリシーベルト)までは判明していますが、それよりも低い点線部分については、他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいため、明らかになっていません。
(※具体的な確率的影響については P21、P22 参照)
19 一度に大量の放射線で生じる健康影響

一度に大量の放射線を受けると、それを受けた個人に健康被害が起きます。
例えば、手などの皮膚に一定量を超えた放射線を受けると、その部分に火傷に似た症状が現れ、皮膚障害を起こします。
頭であれば、毛が抜けて脱毛に至ります。
その他、不妊や血液障害など、多くの臨床的な影響が知られています。
このような影響が確定的影響です。
影響を受けるのは、しきい値を超えた放射線量を受けたときで、しきい線量以下では生じません。
がんの放射線治療のような、大きな放射線量を受けたときに観察されます。
20 胎児への影響

母親の妊娠中に、胎児が放射線を受けて生じる影響を、胎児影響といいます。
胎児影響は、妊娠時期により異なります。
妊娠のステージは、着床前期(0 ~ 9 日)、着床期(9 ~ 14 日)、器官形成期(15 ~ 50 日)、胎児期(50 ~ 280 日)に分けられます。
この中で、器官形成期において最も影響を受けることがわかっていて、主な影響は奇形や発育遅延などです。
また、胎児影響にはしきい値があり、約100ミリシーベルト以下では生じません。
21 「がん」が増加する可能性(リスク)
たくさんの人々について、放射線を受けた集団と受けていない集団を追跡調査をすると、
約100ミリシーベルトを超えた線量では、放射線を受けた集団の方が、がんの発生率が高くなっていることがわかっています。
例えば、1000ミリシーベルトといった大きな線量では、約1.5倍に増加するとされています。
放射線に関係なく、10人におよそ3人は、がんで死亡している現代社会では、
約100 ミリシーベルト以下の低い線量では、がんを発症する確率があっても、その増加を検出することが困難と考えられています。
それは、放射線の影響に比べて、生活習慣などの放射線以外の要因が大きいからです。
そもそも、約100 ミリシーベルト以下の少ない線量で、がんを発生するのかあるいはしないのか、
がんの発症メカニズムからの研究が続けられていますが、今のところ科学的には結論はでていません。
22 遺伝的な影響とは
遺伝的影響とは、父親か母親が放射線を受けて、その子どもに影響が現れることであり、動物実験からは、その可能性が想定されています。
また、遺伝的な影響というリスクは、放射線の量に応じて発生する可能性があると考えられています。
人については、がんの場合と同じように、放射線を受けた集団と受けていない集団とを比較して、
放射線を受けた集団の子どもの方が、種々の疾患の発生率が高いかどうかの調査が行われてきました。
その中で、比較的高い放射線量を受けた原爆被爆者の長年の調査からは、遺伝的影響は確認されていません。
最新の遺伝学の研究からは、同じ放射線の量から起こりうる可能性(リスク)は、がんに比べてずっと小さいと推定されています。
23 少ない放射線量のリスクと、どう向きあったらよいのでしょうか?
がんの原因は、図のように、多くの要因があることが知られています。
少ない放射線量がもたらす発がんの可能性(リスク)は、約100ミリシーベルトを受けた場合でも1%と、他の生活習慣による疾病のリスクと比べて、決して大きくありません。
公衆衛生上は、放射線をしっかり管理して、線量をできるだけ少なくするような規制を行う必要があります。
そして、個人個人は、生活の中のライフスタイルをより良くすることで、リスクを低減し、健康な生活を目指すことが、普段の健康管理上大切です。
食品の基準とは
24 食物を通して自然由来の放射性物質を摂取している
上記の表や絵の中の数字は、自然由来の放射性カリウムの量を示したものです。
このように、普段生活している中でも、放射性物質をある程度摂取していることを知っておくと、数字の意味を考えることができるようになるでしょう。
なお、放射性カリウムは、カリウム全体の 0.012%しかありません。
放射性カリウムの摂取を避けようとすると、人体に不可欠なカリウムが足りなくなり、健康上問題があります。
25 食品中に含まれる放射性物質に対する規制基準
厚生労働省は、福島第一原子力発電所事故により発生した、放射性物質の規制のため、2012年4月に、新たな基準値を法律で設定しました。
1年間に食品から受ける被ばく量の上限を1ミリシーベルトとし、年齢区分別の食品摂取量と、感受性を考慮した換算係数をもとに、年齢区分別の限度値を算出しました。
すると、13-18歳の男性が、最も限度値が低く、120Bq/kg となったので、それよりも低い100Bq/kgを、一般食品の基準としました。
また、乳児が食べる「乳児用食品」と、子どもの摂取量が特に多い「牛乳」を特別な区分とし、一般食品の半分となる50Bq/kg に設定されています。
26 食品中の放射性物質の基準値は何を意味しているの?
食品の基準値は、その濃度を、継続して1年間摂取したときでも、 1 ミリシーベルトを超えないようにするためです。
したがってこの基準値は、食品を管理するための基準であり、安全か危険かの基準ではありません。
たとえ基準値を少し超えた食品を、継続して1年間摂取したとしても、それから受ける放射線の量は、自然由来の放射線から受けるレベルと同じ程度になります。
また、基準値を超えた食品については、法律により、回収命令等の措置が講じられ、流通から排除されます。
27 実際の食生活の実態調査から
2011年の3月の大震災に伴う原発事故以後、福島県の人々の食事からは、どのくらいの放射性物質が検出されているのでしょうか。
上の図は、コープ福島が調査した結果です。
棒グラフは、各家庭の食事に含まれた放射性物質の量(ベクレル/キログラム)を示したものです。
緑の棒は、自然由来の放射性カリウムを示していて、赤と黄色の棒が放射性セシウムを示しています。
この調査によれば、放射性セシウムの摂取は、放射性カリウムと比べてきわめて小さい結果になっています。
28 信頼できる食品の検査体制が大切
29 食品中の放射性物質の量を測定する
現時点で得られている放射線・放射性物質に関する基礎情報を分かりやすくするために、たくさんのイラストを使って作成しました。
理解しがたい部分もあったと思いますが、放射線・放射性物質について、少しでも理解が得られたのではないかと思います。
リスクには、ゼロはありません。
物理学者で随筆家の寺田寅彦の言葉に「物事を必要以上に恐れたり、全く恐れを抱いたりしないことはたやすいが、物事を正しく恐れることは難しい」があります。
この読本が、放射線・放射性物質を正しく恐れることの一助になることを願っております。
食品安全・衛生課長 河野 昭二