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”Between Iraq and a Hard Place New Orleans,USA ”
by Smoky Greenwell and the Blues Gnus
あれは3年前ということになるのか、アメリカの白人ブルース・ハーモニカ奏者、Smoky Greenwellの出たばかりのアルバム、”スモーキン・クラシックス”に出会い、そのパワフルにしてイマジネイティヴにしてファンキーな。なんだかカタカナばかりで芸がない文章だが、ともかくSmoky Greenwellのかっこ良いプレイにすっかり惹かれてしまったのは。
自分の中にまだブルース・ハーモニカの世界などに魅了される感性が残っていたのかと新鮮な驚きを味わったなあ。とうの昔に”ワールド・ミュージック耳”と化してしまって、ブルースなど、過去に愛した事のある音楽くらいにしか思っていないつもりったが。
またそのアルバムの選曲が憎かった。
いろいろ”ニューロック世代”の当方には思い出のあるブルース・クラシックである”スプーンフル”もあれば、同時代の白人ブルースバンド、キャンド・ヒートのヒット曲、”オン・ザ・ロード・アゲイン”もある。
そしてR&Bの名曲、”男が女を愛する時”からカントリー・ハーモニカの巨匠、チャーリー・マッコイの70年代のヒット曲、”今夜、また君を愛しはじめて”で締めるなんぞは反則といいたいほどの行き届きようである。
それらを、時にクールに、時に熱くブロウしまくるSmoky Greenwellのぶっとい音のハモニカ・プレイ!夜更けにこのアルバムを聴きながら一杯呑めば、こーりゃ気持ち良いわい!という次第でね。果てしなくグラスを重ねる羽目になる。
時は流れて。その間も、Smoky Greenwellの過去のアルバムなどを探しては買い求めなどするうちに届けられたのが、今回のこの新作、”しんどい土地ニューオリンズからイラクの間に”である。
ともかくタイトルがただ事ではないが、ジャケ写真も同様。まさに”お手上げ”の姿勢で肩をすくめるSmoky Greenwellの後ろに、全壊状態の住宅がある。これがスモーキィの本物の自宅か、何か適当な物件をあしらったものなのかは分からない。
が、アルバムのビジュアル全体が主張しているのは、かのハリケーン禍に襲われ、いまだ負った傷から回復しきれずにいるニューオリンズ、Smoky Greenwellの住処でもあるニューオリンズの街の現状と、困窮する住人たちのやるせない想いである。
そいつと”イラク”を結びつけるあたりは、なんだかアメリカ人らしからぬとも言えそうなインターナショナルな発想であるのだが、そんなガラにもない発想をせざるを得ない所まで追い詰められた”平凡なアメリカ人”たるSmoky Greenwellの姿、とも言えよう。
収められているのは、相変らずパワフルなハーモニカのプレイと力強いバンド・サウンドなのだが、全体のノリは、これまで発表してきた作品の”ハーモニカとブルースの求道者”然とした、あのSmoky Greenwellとは違っている。
まず耳に付くのは、いつになくボーカルがフィーチュアされているところ。自身のボーカルを聴かせるばかりではなく、ゲストに女性ボーカルを迎えたり、バックのギタリストに歌わせたりしている。
これまではストイックなほどにソロ楽器としてのハーモニカの可能性を追求してきたスモーキィなのに、ここでは一人の”バンドのメンバー”として、皆と協調して音を出すことに終始している。
こいつはつまり、「苦難に負けず力を合わせて進んで行こう」という、Smoky Greenwellのアルバムまるごとのメッセージなのだろう。ニューオリンズの仲間たちに、そしてその想いはイラクをはじめとして全世界にまで広がって行く。
ために・・・これを言うのはちょっと辛いんだけど、これまでのSmoky Greenwellのアルバムからすると、ちょっと刺激に欠ける出来上がりと言わざるを得ない部分もある。
やっぱり彼にはスター・プレイヤーとして前面に出て来て、思う存分吹きまくって欲しいんだよね、聴き手としては。
この辺、どう評価していいのか、実は当方としてもまだ結論が出ていないんだけど・・・ともかく今年、忘れられないアルバムとなるのは確実な一枚と言えよう。