ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

港町十三番地

2007-05-09 04:52:47 | その他の日本の音楽

 ”港町十三番地”by 美空ひばり

 我がブログの名はワールドミュージック町十三番地というのだが、もちろん、美空ひばりの初期のヒット曲、「港町十三番地」のパロディである。ブログを始める時、ふと浮かんだ言葉をそのまま付けた。

 ”港町十三番地”は、美空ひばりの出身地である横浜の町をイメージして作られたのだろうけれど、私が子供の頃にその歌を聴いて勝手に夢想した、彼女の幼年時代の横浜の町のイメージに、私の内なる”ワールドミュージックの原風景”が奇妙な形で二重写しになった、そんな幻想をこのタイトルに封じ込めたつもりだ。

 それはたとえば、幼少の頃のひばりが親に言い付かって小さな容器を提げ、近所の豆腐屋に豆腐を一丁、買いに行く光景。

 港町の夕暮れである。いくら横浜とて、現在のようなお洒落な大都会になりきってはいないだろう。古い日本の風景がまだ息付く下町の風景が広がっている。
 そこにふと迷い込んだ、どこやらの国からやって来た青い目の船員。いや、ここはやはり、”マドロスさん”と呼ぶのが正しいだろう。

 船を下り、外国人船員相手の飲み屋を探して横浜の街にさまよい出た、その”マドロスさん”は、不意に目前に広がった、まだまだ貧しい日本人の暮らしの風景を尻目に、酒と女たちが待つ酒場のネオンサインを求めて歩を進める。

 そこで彼がふと口ずさむ、故国の港を出る時に流行っていた、たわいない流行り歌のメロディ。
 そいつはたそがれ時の街角に不思議な余韻を残し、消えて行く。

 「あれが、海のむこう、アメリカで流行っている歌なのか。なんと心弾むメロディだろうか。いつか自分も船に乗って海を越え、あんな歌が歌われているきらびやかな世界をこの目で見てみたい」そんな憧れが豆腐を購うための硬貨を握り締め、マドロスを見送る少女の胸に芽生える。

 まあ、それだけの話です。ひばりの歌で歌われているのは、むしろマドロス氏が飲み屋に腰を落ち着けてからの光景ですな。狭い通りに紅い灯青い灯が燈り、グラスに酒が満たされ、酒場女たちの嬌声が響く。陽気な船乗りたちの、つかの間の慰安のひととき。そんな街の華やぎに関する歌。

 私なんぞは世代的に、ほんの幼少の頃のもう霞みかけた記憶のむこうで揺れている、たまらなく切なく懐かしい光景と感ぜられるのだけれど。
 そしてその”幻想の横浜”の裏通りは、ほんの1ブロック歩いただけで、田舎の小さな温泉郷である私の町の、ささやかな飲み屋街になぜか通じているのだった。


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