ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

人類の面影

2010-07-18 04:34:34 | 北アメリカ

 ”ILLINOISE”by Sufjan Stevens

 毎度、ユニークなイラストのジャケに弱くて、すぐジャケ買いとなってしまう私なのであって。この盤も、どのようなアーティストなのかまったく知らずに、ただただ雑誌に載ったジャケ写真に惚れて購入。すでにアメリカのシンガー・ソングライターなど聴くこともなくなっていた当方であり、内容はまあ、問うまいと覚悟していたのだが、いやこれが予想を裏切って面白かったのだった。この分野でこれほど楽しめるとはね。

 音楽的にはどう定義していいのか分からない。様々なフラグメントが横切る。広義のアメリカン・ミュージックとでも言うんだろうか。何か私には甘美な夢も悪夢もゴタマゼになった歪んだ夢の中でゆらめいているアメリカと言う名の虚像の記憶を歌う音楽、みたいに聴こえる。ジャズやらカントリーやらボードビル音楽やら、何もかもが奇妙な懐かしさの中で解け崩れ、夕暮れの空にちょっぴり現実離れした華やぎを見せている。

 歌詞など読んでみると、こいつはまるで何百年も未来から廃墟と化したアメリカの大地を眺め、その荒野に眠る記憶を掘り返した、みたいなポジションで書かれている。なにしろ歴史上の重大事件も、アホなUFO目撃談も、ゾンビ映画のストーリーもが等価で描かれているのだ。遠く過ぎてしまった出来事たちを遠くに眠る夢と認識する者にとっては史実も虚構ももはやその境界はぼやけ、見分けがたくなっている。ただ残るのは、かって生きていた人々の見た夢の照り返しだけ。偉容を誇る高層建築も、ただ廃墟の面影を宿すものとしか描かれていない。

 そう、実はもうこの世界は終わってしまっているのだろう。にもかかわらず、それに気が付かずに生き続けねばならない我々の滑稽さと悲哀を何世紀も未来から振り返って歌ってみたのが、このアルバムではないのか。




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