ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

南部の塀の向こうで

2007-07-09 03:04:44 | 北アメリカ


 ”Praise God I'm Satisfied ”by Blind Willie Johnson

 これは以前、サリフ・ケイタが来日した時のことなんだけど。誰だったかなあ、名前は忘れちゃったんだけど、ある日本の、”その辺のサウンド好きにはそこそこ人気がある”みたいなポジションにいるミュージシャンがインタビューのような対談のような事をしたわけです。

 で、彼はサリフに向ってこう言った。「自分は、アフリカの多彩なリズムと、ブラジルの複雑なコード進行を組み合わせた音楽をやってみたく思っている」と。
 それに対するサリフの答えは、「その実験を成功させるには、高度のセンスが必要だね」とか、そんなものだったと記憶している。まあ、この回答をさらにもう一度、日本語に訳し直せば、「俺、お前がどんな音楽をやるかなんて全然興味がないし、勝手にやったら?」となるんではないかと思うのだが、それはともかく。

 で、私は雑誌の記事でその発言を読み、ははあ、人それぞれに音楽の好みはあるのだなあ、確かに、と改めて思ったのですね。
 というのも、私はブラジル音楽の、あのややこしいコード進行がどうも好きになれなくて、おかげでブラジル音楽そのものも苦手にしているからなんですが。
 どうもねえ、あのポルトガル語のモヤモヤした響きと、ブラジル音楽特有の複雑なコード進行が合いまって醸し出す、亡きウチのおばあちゃんの言い回しを使えば、「煮えた~だか煮えないだか、ハア、わからねえ」な雰囲気が、私はどうも好きになれないんですわ、いやまったく。

 コードなんて3つも知っていれば十分、とか言った高田渡の立場を私は支持するものである。音を足したり引いたりしてややこしい和音の流れを作り、それに則って構築的に作り上げたメロディよりも、ノリ一発で作ってしまった、みたいな原始的な響きを持つメロディが好きだ。

 例えて言うなら。音楽ファンを始めた頃から好ましいと感じていたメロディラインのパターンの代表例が、60年代にエリック・バートンのアニマルズが歌った、”Inside Looking Out”であります。邦題が”孤独の叫び”だったか。後年、グランド・ファンク・レイルロードがカバーしたりしました。

 あんなの、コード一つ知っていれば伴奏は十分間に合う原始的な、もう呻きや雄たけびがズラズラと連なった、みたいなメロディラインですな。ああいうのが好きだなあ。もうちょっと音楽的な表現をすれば、モード進行がどうの、ということになるんだろうけど、きちんと説明しきる自信がないんで、やめときますが。
 まあその辺が、ナイジェリアのフジとかアパラみたいなイスラム系のコブシ回しで進行して行くメロディラインを好む私のワールド方向への趣味にも通底しているのでしょうけど。

 ところであのメロディ、アニマルズのメンバーとマネージャーがコンサート・ツァーの際、アメリカ南部の刑務所に赴き、そこで歌い継がれている囚人歌を採取し、その中の一曲をロックにアレンジしたなんて事情があるようですな。

 刑務所の伝承歌に注目した音楽上の作業というのは我が日本でも演歌の故・古賀政男先生なども”演歌の源流を求めて”みたいな形でやっておられますが、アニマルズのメンバーもその辺からアメリカ大衆音楽の根幹にいたろうとするとは、なかなかに地を這うような探究心を持っているんで驚いてしまいますが。

 それにしても、”Inside Looking Out”の原型となった音楽とは、どのような佇まいの音楽だったのだろう?これは一度聴いてみたく思える。
 上の話が紹介されていた60年代の音楽雑誌の記事ではぼかされていたけど、メロディのありようから考えてあの歌は黒人ルーツのものと考えるのが自然じゃないですかね?

 たとえばこんな形のものだったのでは、と私がにらんでいるのが、戦前のアメリカでギターを弾き語りしつつゴスペルのタグイを歌っていた、ブラインド・ウイリー・ジョンソンあたりであります。彼の歌なんか、それに近かったんではないかな。あの、地の底で蠢くようなどす黒い(褒め言葉です)ギターと重苦しいうめき声である歌声。それは、劣悪な環境で生きていた当時の黒人たちの命の叫びそのものに聴こえます。

 まあ、ギター・エヴァンジェリストって言うらしい、つまりは勝手に路上でギターをかき鳴らして歌っているだけだったとは言え、でも形としてはそれなりに神の教えを伝える”聖職者”と、詠み人知らずの刑務所の労働歌歌いとおなじ扱いにしたら怒る人が出てくるかもしれませんが。
 でも、こちらとしては自分なりの価値観に従い、すぐれた大衆芸術家であると賞賛しているんだから、お願いだから納得して欲しい。

 彼の音楽を聴いたことのない人に説明するのに、ライ・クーダーが映画「パリ・テキサス」のサウンドトラックで弾きまくっていたテキサスの砂漠のガラガラヘビがとぐろを巻くようなスライドギター、あれがブラインド・ウイリー・ジョンソンのスタイルなんですよ、と言うのも良いかも知れない。ライのスライド・ギターにも多くの影響を与えてます、ウイリー・ジョンソンは。

 そしてウイリー・ジョンソンの歌には。旋律と言うよりは”フレーズの連なり”といった表現の方が似つかわしいようなメロディ・ラインが飛び交っているんですな。そいつはほんとに、アフリカに先祖がえりさせてナイジェリアのフジヤアパラとサシで勝負させても十分互角にやれるんじゃないか。なんて想像すると、ドキドキしてくるんですがね。


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