ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

夜、アイスランドを渡る

2012-02-23 03:30:31 | ヨーロッパ
 という訳でヤケクソ企画、”クソ寒い国の音楽”シリーズは、なおも続く。こうなれば冬の奴が根負けして春になってしまうか、こちらのネタが尽きるか、勝負じゃあっ!


 ”I annan heim”by Rokkurro

 チェロ弾き語りのしっとりとした女性ボーカルをメインに押したてた若手ロックバンドの、これが2ndアルバム。2010年作。
 デビュー作もこの場で2年程前に取り上げた記憶があるが、より表現を深めての第2作登場である。

 アイスランドのロック特有の、夜明けの夢の中で響いていた歌声の記憶を指で辿り返す、みたいな不思議な懐かしさと物悲しさを秘めたメロディは、このバンドでも顕著だ。そいつが、より”子守唄度”を増した女性ボーカルで歌われると、バンドの音全体が”アイスランド昔話”と化す。
 いやほんとに、今回聴ける女性ボーカルは、一人で石けり遊びでもしながら小さな女の子が口ずさんでいる昔々の遊び歌みたいだ。前作と比べてもまるで力みが抜けていて、のんびりマイペースで幻想を紡ぐ。

 ジャケに使われている、人力ロープウェイ(?)で川の上を渡って行く老人の写真は忘がたい印象を残す。彩色の調整により、まだ星の瞬く早朝の出来事、みたいに見せているが、おそらくは真昼間に撮られた写真なんだろう、もともとは。でも、この荒い彩色のおかげで彼は、薄明の妖精郷への旅行者となった。
 このジャケ写真と、ボーカルの女性の鼻歌唱法で決まりだなあ。このCDを聴く者はすべて、爺さんの後を追って人力ロープウェイに乗り北の妖精郷への旅に出てしまい、喧騒の現実世界に2度と還ってくることはないだろう。