”Finally We are No One”by Mum
あまり寒い日が続くんで、ヤケになって取り出してみた、アイスランドのエレクトリック・ミュージックのバンドのアルバム。まさに極北の、あの氷河に覆われた土地でバンドをやるとはどういう気分のものか。
深夜、遠くで吹雪いている風の音のようなさやかな音像で始まり、アナログ・シンセが、子供の頃に夢の中で鳴り響いていたような、不思議に懐かしくてどこか物悲しいメロディをつずって行く。
まさに子守唄そのもののような女性コーラスのささやき声が、静かな夜の中をゆっくりと渡って行く。ポコポコと湧き出るシンセの効果音と、小学校の教室の隅っこに置かれていた、古ぼけた足踏み式オルガンの辿り弾きが交差するところ。
これはバンドのメンバーが、ふと目覚めてしまった深夜、耳にした氷河の軋む音を再現でもしたものなのだろうか。こちらの価値観では測りきれない、すべてのものを凍りつかせる冷え冷えとした知覚と、それを包むぬくぬくとしたユーモアの木霊と。
モグラの昼寝のような。地下深くに隠れ住む謎の地底人の呟きのような。冬眠する熊たちの浅い夢に繰り返し出てくる、気がかりなエンディングのような。
奥深い夢想と薄明の美学に彩られた北の国からの蠱惑的な、でも読もうとするたびに一つずつ文字が消え去ってしまう、気がかりな手紙のような音の便りだ。