ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

読みたくも ない本もあり 長冬日

2012-02-26 22:40:44 | いわゆる日記

 ”Homogenic”by Bjork

 いつぞや、図書館の音楽本のコーナーにアイスランドの(クソ寒い国の音楽特集、続行中)ビョークのインタビュー本というかライフストーリー本のようなものがあるのを見つけ、ちょうどそのようなものを探していたところだったので、さっそく借りてきたのだが、これがえらい本だったのだ。

 なんかアメリカ人だかイギリス人だかの著者は、本来はフェミニズムの闘士かなんかの女性で、ひょんなきっかけで聴いたビョークの音楽に惹かれ、彼女に関する本を書く気になったとか、そんな事情のようだった。
 まあ、何に興味を持とうと勝手だけどさ。でもさあ。
 著者はビョークを追っかけて彼女の生活と意見、なんてものを訊き出し、ビョークの内面に鋭く迫る、なんて事をやって見せたつもりらしい。が、その実際というもの、なんともはや、なのであった。

 彼女はビョークの言動に、自分の持論と一致する(と彼女には思われる)部分を見つけると、「キャーッ!やっぱりそうだ。ビョークって、私と同じ事、考えながら生きてきたのよ。ねえ、これって凄くない!」と躁状態ではしゃぎ回り、逆に意見の一致しない、というより彼女には理解不能なビョークの言動に出会うと、「まあ、いろいろな考え方があるってこと」てな調子でスルーし、何事もなかったかのように別の話題に移る。なんスか、これは?

 なによりこの著者の御作品の耐え難い部分は、「男性の性的ジョーク」に話が及ぶと必ず、男性の生殖器に関わる汚いジョークを大張り切りで書き連ねることで、これには辟易させられる。
 なんなんだろう、この露悪趣味は。この著者の属する”運動”のセクトでは、「男性の性的ジョークには、それよりもっと下品な話題を返せることを示してみせる、それが女性の性的優位を証明する事につながる」とか、そんな認識になっているのか?どういう運動かと思いますが。
 そんな次第で、一冊読み切っても不愉快になっただけで、知りたかったビョークの生活と意見などさっぱり分からぬままに終わってしまったのだが。

 しかしビョークの芸風ってのもさ、この種の勘違いファンをきわめて呼び寄せやすいものであるってのもまた、言えることでさ。
 今回持ち出したアルバムは、ビョークがそれまで出していた”いわゆるロックの音”から距離を置いて、彼女独自の境地に一歩を踏み出した記念すべきアルバムだけど、まあ、聴き手のどんなに自分勝手な妄想でも引き受けうるような、一聴、へんちくりんな音世界ではあるのであって。

 でも残念ながらビョークはただ、やりたいことをやりたいようにやっているだけで、”運動”なんて自分の都合の枠の中にはめ込んで利用しようとしても、破綻は目に見えている。あなたの本がこんなことになってしまったのが、何よりの証拠だ。
 う~む、あの本のタイトルと著者名、なんだったかなあ。まあ、図書館に行って確かめてくればいいだけの話なんだけどね、もう一度あの本に対面する気にはなれないんだよね。という話であります。