ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

ラップランドの音楽

2012-02-21 03:29:32 | ヨーロッパ

 ”Nils-Aslak Valkeapaa のアルバム2題”

 さて、クソ寒い土地の音楽特集は続いております。寒いっスねえ。今回はヨーロッパの北の果て、スカンジナヴィア半島のそのまた北辺、サンタクロースの住処(?)として知られるラップランドの音楽”ヨイク”であります。
 なお下の文章は大昔、ある通販レコード店のカタログの片隅に載せていただいたものであります。もう20年以上前に書いた文章で、今となっては公開するのが恥ずかしい部分もあるのですが、それなりに愛着もあるものなので、ここに再録させていただきます。

 ヨーロッパの北の果て、ラップランドに住む少数民族、サーミ人が行う謎の音楽、ヨイクなるものについて。
 サーミ人の詩人、Nils-Aslak Valkeapaaと、彼のよき相棒であるミュージシャン、Esa Kotilainenによる名盤、”Beaivi,Ahcazan”は、狼の遠吠えのごとき迫力の野太いボーカルによって執拗に反復される歌詞を持たないメロディと、太古の闇の底から聴こえ来るようなパーカッション群の響き、この呪術的音世界は強烈な出合い頭の衝撃を私にもたらし、気が付けば私はすっかり、このスカンジナヴィア半島北端はラップランド在住の北欧先住民であるサーミ人の音楽、ヨイクの虜となっていたのでした。

 虜になったのはいいのですが、この音楽、かなり不思議な代物であるのも確かで、(そもそも、なんで歌に歌詞がない?)なんらかの解説が欲しい。が、「この音楽はなんであるのか」といった疑問は文献にあたるにつれ、氷解するどころかかえって混迷を深めてしまう。なにしろ民族音楽の本にあたっても、「謎のディスクである」とか「この音楽の謎はますます深まる」なんて言葉しか見つからないのであって。

 などと言っているうちに、NilsとEsaの次作、”Eanan,Rallima Eadni”などが届いてしまうのでありますが、これはまた、違う風情を堪能させてくれる一発だった。
 このアルバムのオープニングは、あのオドロオドロのパーカッション乱舞ではなく、ラップランドの凍てついた夜空を流れわたる銀河の壮大な姿を想起させる。Esaの奏でるシンセの和音。そして朗々と響くNilsの唄声。聴いていると、太古のサーミ人たちが手彫りの丸木舟で宇宙に向かって漕ぎ出して行く、そんなイメージが脳裏に浮かび上がってくるのであります。

 いやあ、冬越えはこれに決まりだな。いつか空気の澄んだ夜を選んで、このCDとアルコホルをおともに海岸に出て、冬の星座でも眺めつつ、地球が自転のために地軸をゆっくりと傾ける仄かな音に耳を澄ませよう。そして、ラップランドに、サーミの人々に幸あれと乾杯を。