ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

僕のベイビーに何か?

2006-09-24 01:44:13 | アジア


 ”When Something Is Wrong With My Baby ”by Sam & Dave

 駅前の”××ボゥル”といえば、××ホテル直営の変哲もないボーリング場なのだが、その前をたまに通るとき、それが夕暮れの時間帯だったりすると、妙に怪しげでいて切ないような不思議な気分に襲われる。

 なぜそんな気分になるかというと、中学の同級生で、その年齢ですでに不純異性交遊という奴で有名をはせていたN子が、そのような時間帯に所在無げに佇んでいるのを、高校時代に見ているからだった、考えてみれば。そんなに早くから男漁りに励むとなれば不細工と相場は決まっているのだが、N子はといえば、学校で一二を争うくらい見た目は可愛い子だったから始末が悪かった。

 おや、N子じゃないか。中学を卒業して後はじめて見るけど、相変らず駆け巡る青春をやっているのかなあ、そうか、あいつがあそこにいるって事はつまり、今、この町の不良の溜まり場の最前線は××ボゥルなのか、などと外角高めに見送りつつ、私はバスの窓ガラスの向こうに小さくなって行くN子の姿を目で追っていたのだった。

 その日私は、家に帰り着くとすぐに愛用の安物のレコードプレイヤーの前に行き、サム&ディブの”When Something Is Wrong With My Baby”を何度も聴いたのだった。N子の今の相手ってのは、誰なんだろうかな、などと妄想しつつ。
 
 When Something Is Wrong With My Baby (僕のベイビーに何か)というのは60年代、”ダブル・ダイナマイト”と讃えられたリズム&ブルース界の強力デュオ、”サム&デイブ”の熱血バラードナンバーである。あるアンケートのごとくのもので”決定的な思い出の歌とは”への答えとして私は、この歌を挙げたのだった。

 この歌を聴くと、中学~高校頃に気になっていた不良の女たちの事を思い出すのさっ。てな理由で。ドロンと暗い熱気が淀む”不良の現場”で場違いに燃え上がる純愛妄想の、それは格好のBGMと思えた。
 とは言え、私の育った田舎町のディスコでこの曲が演奏された事実は確認していず、すべては私の妄想の中に生きる”でっち上げの思い出”に過ぎないのだが。

 我が青春時代、不良連中のメインの活動場所といえばディスコと相場が決まっていて、ディスコで受けている”踊りやすい音楽”といえばリズム&ブルース、というのが当時の定番であったものである。
 1960年から70年代にかけての我が国におけるリズム&ブルースという音楽のありようは、”ディスコの不良連中の育んだ音楽”としての側面を抜かしては語れないだろう。

 都市の悪場所で出会った、外国の音楽などにまるで興味がなさそうなヤバめのお兄さんがソウル・グループの事情に意外にも詳しかったり、見事な黒人振りのステップで踊るのに驚かされたり。そのような想い出はいくつか持っている。

 そんな、アメリカ合衆国の都市の黒人たちが生み出した娯楽音楽としてのリズム&ブルースと、東洋の外れ、日本国の不良連中の”夜明けのない朝”の、意外にマッチするような、大変な誤解の元にすれ違っているような奇妙な相関関係は、なかなかに”良い話”として思い出せるタグイのものである。

 その後、80年代まで、バブルガム・ブラザースなぞというコメディアン上がりのデュオ・グループがその残り香を伝えていたものだが。
 そして”クラブ”などという日なた臭いものがもてはやされるようになった今日、その種の不良ロマンの湿り気は、繁華街のエアコンの排出する熱気とともに都市の上空に雲散し、消滅してしまった。