ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

書評・「江戸の音」

2006-02-01 05:20:52 | その他の評論


「江戸の音」田中優子・著(河出文庫)

 自然音とはくっきりと輪郭線を引き、カッコつきで屹立する芸術としての西洋音楽。それとはまるで逆の位相で、まるで自然の中に溶け込むように流れて行くアジアの音楽。その流れのうちに江戸期の日本音楽を捉え、論ずる姿勢が、初めて読んだとき、凄く新鮮に感じられたのを覚えている。

 日本人は古来、三味線を爪弾きながら小唄を歌うことによって、実は絶望を表現してきたのだ、とあるのが印象的だった。生きてあることの絶望を自棄になるでもなく、ただ「そんなものなのだ」と提示する、そんな音楽。始めもなければ終わりもなく、ただ流れ続けるアジア的な時間の流れ・・そのようなものの存在に気付かせてくれた書でした。