「江戸の音」田中優子・著(河出文庫)
自然音とはくっきりと輪郭線を引き、カッコつきで屹立する芸術としての西洋音楽。それとはまるで逆の位相で、まるで自然の中に溶け込むように流れて行くアジアの音楽。その流れのうちに江戸期の日本音楽を捉え、論ずる姿勢が、初めて読んだとき、凄く新鮮に感じられたのを覚えている。
日本人は古来、三味線を爪弾きながら小唄を歌うことによって、実は絶望を表現してきたのだ、とあるのが印象的だった。生きてあることの絶望を自棄になるでもなく、ただ「そんなものなのだ」と提示する、そんな音楽。始めもなければ終わりもなく、ただ流れ続けるアジア的な時間の流れ・・そのようなものの存在に気付かせてくれた書でした。