ワールドミュージック町十三番地

上海、香港、マカオと流れ、明日はチェニスかモロッコか。港々の歌謡曲をたずねる旅でございます。

地中海の昼寝

2006-02-05 00:33:56 | ヨーロッパ

 ”Passpartu by PFM”

 いつまで寒いんだよ馬鹿野郎めが。と、季節の挨拶などかましました。

 「君よ知るや南の国」などという名の読み物がありまして。まあ、読んだ事はないわけですが。
 古来、ヨーロッパも北のほうに位置する、たとえばドイツ辺りの人々は、雪に閉ざされた長い冬に倦んでは、陽光溢れる南の国に憧れました。南の国といえば、この場合はイタリアあたりになる。ゲーテはじめ、多くの文人たちが、かの土地を訪れては紀行文を残しております。その中には名紀行文学として名高いものも数多く存在しているわけで。まあ、読んだことはないのですが。

 日本の戦前の文人たちも、その真似をしてというのもなんですが、たとえば冬の休暇に伊豆あたりを訪れては、南国を訪れる欧州文人の気分だけでも味わおうと試みた、などと聞きます。ドイツからアルプス越えてイタリア、というのと東海道線で伊豆へ、では大分スケールが違うような気もしますが、経済格差というものを思えばしょうがないじゃないか。で、たとえばその小さな旅の副産物の一つが、かの川端康成の筆になります「伊豆の踊り子」であるそうな。まあ、読んだことはないわけですが。

 他人事はいいのですが。冬もこのくらいの時期になると、もうそるそろ冬の寒さに耐えること自体にも倦んできます。なんていうと、雪国の人々には叱られてしまうかも知れませんがね、雪の一つも降らないような土地に住みながら、そんなぼやきは。
 とはいえ寒さを嫌悪する気持ちに変わりはないのでありまして、そんな時に私はイタリアの音を聞きます。
 別にヨーロッパの文人墨客を真似する気もないのですが、いつまでも続く寒気に対抗するといって、いきなり部屋でカリブ海のラテン音楽全開と行きましても、それは飛躍がありすぎるというものであって、窓辺に寄せる弱々しい冬の日差しに来るべき春の陽を想うよすがとしては、イタリアあたりの陽光がちょうど良く感じられるからであります。

 そこで、そぞろCDラックから出して来たくなっているのが、イタリア・プログレッシヴロック界の大物バンド、PFMの78年作、”Passpartu”です。
 これは、かのバンドが国際的成功を手中にして”世界のPFM”としての活躍を行った後、若干の人気の落ち着き(微妙な表現となっております)がバンドを訪れた際に残した、ある種”小休止”的なアルバム。 

 ここには、あのクラシック音楽からの影響大な壮大な構築美はありません。どちらかといえばフュージョン風といっていいような緩めな音つくり。テクニックは相変わらず凄いけれど、緊迫感はなく、軽く流した作りとなっている。奏でられるメロディも、地中海音楽の芳香をほのかに放つ、人肌のぬくもりを感じさせるものばかりで、いつまでも居座る冬の寒さに倦んだ者の耳に、実に快いものとなっております。
 バンドにとっては、”世界”を相手に一勝負した後の休暇みたいなニュアンスもあったのではないでしょうかね、このアルバムには。各曲の歌詞も久しぶりに全曲イタリア語に戻っております。

 ここで皮肉な立場にあるのが、ボーカルのベルナルド・ランゼッティです。そもそもがPFMが国際舞台に進出するにあたって、アメリカ育ちゆえ英語を自由に扱えるとの理由で他のバンドからスカウトされPFMのメンバーとなった彼でありまして、が、もうバンドが英語で歌う必要はないとなれば。それでもがんばって苦手な(?)イタリア語でよい味の歌をここでも聞かせているランゼッティですが、さすがにこのアルバムを最後に、バンドを去っています。

 そしてこの後PFMは、イタリア国内を主戦場とするドメスティックなバンドへと、その姿勢を変換させて行くのであります。