報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「誰もやらないとは思うが、素人が悪魔の召喚術式をやってはいけない」

2018-09-20 10:29:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日15:00.天候:曇一時雨 埼玉県さいたま市中央区 さいたま中央高校]

 しばらく応接室で待たされた稲生達だったが、やっと中島がやってきた。
 彼はこの高校の教員で、稲生とは大学の同級生だった者である。

 中島:「いやあ、上司達が渋っちゃってねぇ……」
 稲生:「ま、そりゃそうだろうな。で、ダメだって?」
 中島:「俺が全部案内するってことでOKにしてもらったよ」
 稲生:「おお〜!」
 中島:「但し、あくまでこの台風で警察は一時退散しただけで、捜査はまだ続いているから、それの妨害にならないようにとのことだ」
 稲生:「分かった。……ですって、先生」
 イリーナ:「了解です。要は規制線の中に入るなということですね」
 中島:「そういうことです」

 こうして稲生達は中島の案内で現場に向かうことにした。
 雨は時折サーッと強く降ってくるだけで、それはまるで通り雨のようである。
 あっという間に降ってきて、あっという間に止んでしまう。
 それよりも問題なのは強い風。
 これは常にビュウビュウ吹いている。

 中島:「本当に変な台風ですね。まさか、これも変死事件に関係があるんじゃ?」
 稲生:「それを調べたいんだよ」
 中島:「いきなり否定はしないんだ」
 稲生:「まあね……」

 この変な台風を発生させたのは、アナスタシア組。
 伊豆大島でバカンス……もとい、合宿を行っていたところ、魔法の実技講習にて1人の見習魔道師が実験に失敗したものらしい。
 もちろん素人には、何をどうしたらこんなことになるのか、さっぱり分からない。
 稲生もまだ見習である為、全くその通りであった。
 もしかしたら、強い力を持った悪魔が何かやらかした可能性もあるので。
 それで、中島の疑問を否定しなかったのだ。
 強い力を持った悪魔というのは、それは神にも匹敵する力を持つ。

 中島:「ここですよ」
 稲生:「ほお……」

 中島に連れて来られたのは、体育館裏。
 昔のマンガなどでは不良の溜まり場だったり、リンチの現場だったり、御礼参りの現場だったり、男女生徒のイチャラブ青k……ゲフンゲフン!イチャラブ野外p……ゲフンゲフン!……の現場にも指定される場所だ。
 稲生の母校である東京中央学園においては、そういう甘酸っぱいエピソードなど皆無に等しく、怪談話の主人公達に占拠された場所であった。
 この高校も、漏れなくそういう舞台になってしまったのだろう。

 中島:「あそこに全員、銘々に倒れていたんですよ。私が駆け寄った時は全員、息をしていませんでした」
 稲生:「なに?ナカジーが第一発見者だったの!?」
 中島:「だから、テレビでインタビューとか受けさせられたよ。警察からも色々と話を聞かれたしね」
 稲生:「そのコ達、一体どうしてここへ?」
 中島:「それが分かれば苦労しないよ。うちは今月27日に始業式があって、28日から授業が開始されるんだが……。下校時刻を過ぎて、全員帰ってるんだよ」
 稲生:「なるほど……。ということは、1度帰宅してからまた来たのか……」

 稲生達がそんな話をしていると、イリーナは規制線を潜った。

 中島:「あっ、ちょっと!中に入っては……」
 イリーナ:「御心配無く」

 イリーナは目を細めたまま笑みを浮かべると、スーッと浮き上がった。

 イリーナ:「足跡は一切残しません」
 中島:「ええーっ!?」
 稲生:「せ、先生のイリュージョンの1つだよ」
 マリア:(また調子に乗って、この人は……)

 マリアは師匠の行動に心の中で舌打ちをした。
 もっとも、稲生は中島と一緒に驚き、マリアは舌打ちをするという反応の違いで2人の魔法の習熟度の違いが分かるのである。

 イリーナ:(魔法陣の残り香がするわ。やはり誰かがここで悪魔の召喚術を行っていたのね)

 強い風雨に晒され、魔法陣がそこにあったことなどは殆ど分からない。

 イリーナ:(さあ、どういう経緯でこうなったのか教えてもらいましょうか)

 イリーナは水晶球を取り出した。

 イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」

 水晶球に現れたその映像は……。

[同日15:30.天候:雨 さいたま中央高校1F 応接室]

 稲生:「やはり悪魔の召喚術式が行われたわけですか」
 イリーナ:「ええ。たまたま魔法に興味を持ったコがあの中にいて、色々と研究していたみたいですね。で、仲間に炊き付けられているうちに、実際やってみる流れになったしまったと。で、実際やってみたら、本当に上手く行ったみたいですね。悪魔というのは1度呼び出したら、契約を結ばないと帰ってくれませんから」
 マリア:「これ、きっとゴエティア系の誰かですよ?よく呼び出せたものですね。普通、ゴエティア系くらいの強い悪魔なんて、ただの人間の前には滅多に現れないのに……」
 イリーナ:「そういうあなただって、ベルフェゴール呼び出せてたじゃない」
 マリア:「別に、私はイエス・キリストに祈ったつもりだったんで、呼びたくて呼んだんじゃありません」
 稲生:「そのコ、イジメられたりとかしてたのかい?」
 中島:「いや、そういう話は聞いてなかったんだが……。ただ、スピリチュアルに興味のある大人しいコだったとは聞いてる」
 稲生:「あんまり友達は多い方じゃなかったか」
 中島:「多分ね。どちらかというと、休み時間でも教室の片隅で占いの本とかを読んでいるコだったらしいよ」
 稲生:「じゃ、先生のことも知ってたかもしれませんね」
 イリーナ:「残念ね。生きているうちに会えたら、握手とサインくらいしてあげたのに……」
 稲生:「悪魔はどういう契約を結んだんでしょうか?」
 イリーナ:「そこまでは水晶球に出てこないわね。ただ、悪魔の方も強かだから、合法的に全員の魂をもらっていくという契約を結ばせたのは確かね」
 中島:「これ、警察に……」
 稲生:「話せるわけないよね。これでめでたく、事件は迷宮入りということだ」
 イリーナ:「取りあえず、あなたができることは、生徒の皆さんに『くれぐれも悪魔の召喚術式を素人が気軽にやってはいけない』ことを呼び掛けることではないでしょうか?」
 中島:「それも難しいことですな」

 中島は困り果てた顔をした。

 稲生:「だよねぇ……。僕達としても、他にできることは、この犯人が誰なのかを突き止めてあげることくらいだけど……」
 イリーナ:「都合良くうちの組、全員ゴエティア系の悪魔に縁の無いコばっかりだもんね」
 稲生:「そうなってくると、アナスタシア組が怪しいということになりますか?あそこ、全員がゴエティア系悪魔の契約者でしょう?」
 イリーナ:「やっぱりナスっち、締め上げるしかないか」
 マリア:「でもゴエティア系の悪魔の方でも、全員が誰かと契約しているとは限らないわけでしょう?ヒマなフリーダムが暇つぶしに出て来ただけかも……」
 イリーナ:「いずれにせよ、ここでは分からないか。1度引き上げて、天候が回復したら、私達も魔法陣を描いて呼び出してみましょう」
 稲生:「魂抜かれたりしませんかね?」
 イリーナ:「契約もしないのに、そんなことできるわけないでしょう。それに、イザとなったらうちの悪魔達がケンカしてくれるから」
 稲生:「ははは……」

 キリスト教系の悪魔とゴエティア系の悪魔は仲が悪いと、ダンテ門内では有名だ。
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“大魔道師の弟子” 「現場の高校へ」

2018-09-19 19:14:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日14:00.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家→埼玉県立さいたま中央高校]

 外に出ると、とても不思議な現象が起きていた。
 台風が直撃しているというのに、雨は殆ど降っていない。
 いや、降ってはいたのだろう。
 路面はずぶ濡れである。
 風だけがビュウビュウ吹いて、それに乗って時折サーッと強い雨が一瞬降ってくるだけだ。
 如何に無理に造られた台風であるか分かるというもの。
 稲生が車を運転して行くことにした。
 こう見えても稲生、免許は持っている。
 ただ、自分の車が無いだけだ。
 本来は母親の佳子が通勤に使っている車だが、台風の最中に車を出すのは危険だということで、今日は乗っていない。
 それをちょっと拝借することにした。

 稲生:「な、なるほど。確かにちょっとハンドルを取られますね」
 イリーナ:「勇太君、無理しなくていいからね?どうせこの天気で、あんまり車走ってないみたいだから」
 稲生:「は、はい」

 今回はさすがの稲生も、魔道師のローブを羽織っていた。
 相手は5人の女子高生の魂を掻っ攫って行った悪魔だからだ。

 稲生:「さすがにもう警察はいないみたいですね」
 マリア:「ていうか……」

 マリアは首を傾げた。

 マリア:「勇太、こんな近くにハイスクールがあるのに、わざわざ東京のハイスクールに行ってたの?」
 稲生:「この高校、数年前にできたばかりで、僕が高校生の頃は無かったんですよ」
 マリア:「何だ、そうか」
 イリーナ:「日本は少子化でしょう?それなのに増設したの?」
 稲生:「増設じゃなくて、統廃合ですよ。それこそ、少子化が原因ですね。2つの高校を統合したわけですが、そのどちらも校舎が老朽化していたので新しく建てたんですって。少しでも統廃合に対する反対の声を抑える為でしょう。在校生的には、新しくてきれいな校舎の方がいいですから」
 イリーナ:「確かにね」

 稲生の通っていた東京中央学園上野高校は、魔界の出入口に位置してしまった為に怪奇現象の多発する所となってしまった。
 第2次世界大戦末期からその布石があり、戦後から発生するようになったという。
 東京大空襲が原因ではないかと稲生率いる当時の新聞部は疑ったが、それを原因とする証拠を掴むことはできなかった。

 稲生は近くのコインパーキングに車を止め、そこから歩いて高校に向かった。

 稲生:「いくら臨時休校だからって、教職員はいるわけだから、勝手に入ったらマズいですよ」
 イリーナ:「だよねぇ。でもアタシの占いでは、ちゃんと合法的に調査できるようになっているって出ているのよ」
 マリア:「どういうことですか、それ?」
 稲生:「とにかく、挨拶だけはして行きましょう」

 稲生達は通用門から中に入った。
 臨終休校なので正門は閉まっていたからだ。
 また、台風直撃による臨時休校の決定が先だったが、どっちみち女子生徒5人が変死していたのだから、それで休校にはなっただろう。

 稲生:「先生のお知り合いがいて、そのツテで調査させてもらえるとか?」
 イリーナ:「いや、日本の教員に知り合いはいないわね」
 稲生:「そうですか……」

 稲生はまず事務室の窓口を覗いてみた。

 稲生:「すいませーん」
 事務員:「はい?」

 稲生が声を掛けると、事務室には3人の事務員がいたのが分かった。
 そして、電話が引っ切り無しに掛かってきている。
 あの事件のせいだろう。
 1人の中年女性事務員が窓口までやってくる。

 稲生:「実は僕達、占いや霊能関係の仕事をしている者なんですが……」
 事務員:「は?」
 稲生:「今回の事件のことについて、調査させて頂きたいのです。もちろん、僕達が自主的に調査させて頂くだけですので、お金は要りません」
 事務員:「いや、ちょっといきなりそんなこと言われても……」

 そりゃそうだろう。
 ただでさえ、いきなり生徒5人が死んでるのが発見されて、しかもその死因が不明で、関係各所との連絡に追われている最中、こんな怪しい3人組が来たら……。
 普通なら追い返すところだろう。
 だが、追い返すという発想すら持てないほどの多忙なのか、

 事務員:「ちょっとそちらでお待ちください」

 と、何だかマニュアル通りっぽい対応をしてきただけだった。

 稲生:(これはこのまま忘れられるパティーンだな……)

 稲生がそう思った時だった。
 隣の職員室から、教員らしき男性が足早に事務室にやってきた。
 よほど急いでいるのか、稲生達に一瞥もくれなかった。
 年齢的には20代半ばから後半といったところ。
 実年齢的には、稲生と同じくらいだろう。
 何やら書類を手に、事務室の壮年事務員と話をしていた。
 そして、また廊下に出て来る。
 で、今度は稲生達に気づいた。

 男性教員:「何ですか、あなた達は?」
 稲生:「あ、あの、僕達は……」

 その時、稲生は自分がローブのフードを被ったままであることに気づいた。
 さすがに屋内でこれは、ビジネスマナーとしてもハズレだろう。
 そう思って、フードを取った。

 稲生:「占いや霊能なんかを……」
 男性教員:「ユタじゃないか!」
 稲生:「え?」
 男性教員:「俺だよ!同じ大学の中島だよ!」
 稲生:「ナカジーか!」
 中島:「世界的に有名な占い師に弟子入りしたって聞いたけど、なに?やっぱりあの事件で来たのか!?」
 稲生:「そうなんだよ」
 中島:「ユタの可愛い彼女さんも一緒か!」
 マリア:「Ah...(勇太も一瞬分からなかっただけに、私もコイツ誰だっけ状態……)」

 稲生が大学生だった頃、マリアも1度その大学を訪れたことはあった。
 その頃も威吹が同行することは多く(高校時代ほど毎日同行することは無くなった)、威吹が稲生のことを『ユタ』と呼ぶので、高校時代の友人同様、大学時代の友人も同じように呼ぶ。
 尚、大学構内においては、怪奇現象に遭遇することは殆ど無かった。

 稲生:「そうか。キミは高校の教員になったんだっけか」
 中島:「そうなんだよ」
 稲生:「用件というのは実は正にキミの言う通りなんだ。ちょっと気になることがあってね。是非とも調査させてもらえないだろうか?僕達が勝手に来たわけだから、別にお金をもらおうとは思わないよ。ですよね、先生?」
 イリーナ:「ええ。これは私の弟子達への校外学習の一環として来たようなものです。お邪魔はしませんので、何卒よろしくお願い致しますわ」
 中島:「分かりました。取りあえず、僕から話をしてみます」

 どうやら、イリーナの占いは的中したようである。
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“大魔道師の弟子” 「臨時台風の下で」 2

2018-09-17 18:57:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日10:50.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F仏間]

 ジリリリリリと目覚まし時計のベルが鳴る。

 イリーナ:「はい。じゃあ、これでラテン語講座中編は終了よ。10分休憩したら、次はいよいよ後編ね。これで午前中は終わり」
 稲生:「ありがとうございました」
 マリア:「…………」

 マリアは眠気を堪えるのに必死だった。

 マリア:「……ぶっちゃけ、ラテン語、自動通訳魔法で良くない?」
 稲生:「ダンテ先生著述の魔道書には効きませんからねぇ……」

 稲生は席を立った。
 トイレに行くのと、あともう1つやることがある。
 1階のトイレはイリーナが使っているので、稲生は2階のトイレに行く。
 その後リビングに行って、家族共用のPCを開く。

 マリア:「何をしてるの?」
 稲生:「昼食の用意ですよ。こんな台風じゃ、買いにも食べにも行けませんもの」
 マリア:「で、何を頼むの?」
 稲生:「ピザでいいですか?」
 マリア:「注文できるの?」
 稲生:「大丈夫みたいですよ」
 マリア:「ほおほお」
 稲生:「何がいいですか?」
 マリア:「この、ミートが沢山載っているヤツ」
 稲生:「マリアさんもなかなか肉食ですね。ま、日本人にとって白人はそういうイメージですけど。飲み物は?」
 マリア:「この紅茶」
 稲生:「じゃあ、僕は……。先生は何がいいですかね……?」
 イリーナ:「グリーンティーよろしく」
 稲生:「うわ、びっくりした!」

 いつの間にか背後にイリーナがいた。

 イリーナ:「あと、フランスのブルターニュ地方生まれのリリアンヌは魚食中心だったらしいよ」
 稲生:「そ、そうですか」

 稲生は慣れた手つきでPCを操作し、ピザと飲み物を注文した。

 イリーナ:「段々魔法が魔法じゃなくなって来ちゃったねぇ……」

 その為か、未だに稲生は水晶玉を貸与はされていても、ほとんど使ったことがない。
 本科教育の際に実習で使っただけだ。
 ほとんどスマホで事足りてしまうからだ。

 稲生:「ちょうど12時に来るみたいですよ」
 イリーナ:「そお。それじゃ、ラテン語講座後編はピザのデリバリーが来たら終了ってことにしようかねぇ……」

 その時、仏間からまた目覚まし時計のベルが聞こえて来た。

 イリーナ:「はい、休み時間終わり。早速始めるよ〜」
 稲生:「よろしくお願いします」
 マリア:「…………」←眠気防止の為、稲生からもらったミンティアを口に放り投げる。

[同日12:00.天候:雨 稲生家1F仏間]

 イリーナ:「……はい、というわけで、ラテン語の基礎講座後編はこれにて終了〜!」

 ジリリリリリリ!

 稲生:「ちょうど時間ですね」
 マリア:「でも、まだピザが来ない……」
 稲生:「この台風ですからね。なかなか無茶はできませんよ」
 イリーナ:「ま、もう少し待ちましょう」
 稲生:「それより先生、50分でよくここまで教えて頂けましたね」
 イリーナ:「50分ごとに10分の休憩を挟むと効率がいいって本当ね。私も初めてやってみたけど、なかなか上手く行くものね」
 稲生:「持ち時間を余すことなく、かといってオーバーすることもなくピッタリにやることはなかなか難しいんですよ」
 イリーナ:「それもそうね」
 稲生:「僕が大学生の頃、教育実習に行った時は……」

 ピンポーンとインターホンが鳴る。

 稲生:「おっ、やっとピザ来た。はーい!」

 稲生は自分の財布を手に玄関に向かった。

 イリーナ:「それじゃ、ランチタイムと行きましょうか」
 マリア:「はい」

 ダイニングへ向かうイリーナとマリア。
 会計を済ませた稲生が、Lサイズのピザと飲み物を持って来た。

 稲生:「はい、無事に届きましたよ」
 イリーナ:「おー、素晴らしい」
 マリア:「たまにはピザもいいかもな」

 稲生がピザの入った箱を開けた時だった。

 稲生:「あっ、しまった!」
 イリーナ:「なに?」
 稲生:「Lサイズだと10切れになっているんです。3人で割れませんね」
 イリーナ:「それなら勇太君が1切れ多く食べればいいわよ」
 稲生:「僕がですか?」
 イリーナ:「注文から支払いまでしてくれたの勇太君なんだから、その権利があるわ」
 マリア:「確かに……」
 稲生:「そうですか?それならお言葉に甘えて……」

 稲生はピッとテレビを点けた。
 平日の昼時なので、ワイドショーをやっている。
 やはり突然発生した台風について中継を行っていた。

 稲生:「これがアナスタシア組の不始末だって知ったら、マスコミも騒ぎますかね?」
 イリーナ:「それは大丈夫でしょう。そもそもマスコミが嗅ぎ付けられるわけないし、もし嗅ぎ付けた場合であっても、最凶魔女軍団ですもの。【お察しください】」
 稲生:「怖い怖い。やはり、ロシアではロシアンマフィアだったりするんですね?」
 イリーナ:「お察しください」

 マフィアのボスは大抵男だが、アナスタシア組においては、アナスタシア・スロネフという女魔道師という……。

 稲生:「午後はどうします?」
 イリーナ:「そうねぇ。ラテン語を覚えてもらったことだし、今度はダンテ先生の魔道書を使って、魔法の根本について勉強してもらいましょうかね」
 稲生:「なるほど」
 イリーナ:「そもそも、魔法というものがあるということを『知る』ことから始まるわけだから」
 稲生:「ふーむ……」
 イリーナ:「勇太君くらい霊感の強い人はともかくとして、普通の人はそこが心霊スポットだと分からなかったら、幽霊の存在に気付かないのと同じことよ」
 稲生:「なるほど……」

 分かったような分からないような感じの稲生だった。

 マリア:「あれ?ねぇ、勇太。ここの高校ってすぐ近く?」

 テレビを観ていたマリアは、そこを指さした。

 稲生:「はい?」

〔「……はい、こちら現場となった埼玉県立さいたま中央高校に来ています。御覧のように埼玉県にも台風の影響が出始めまして、時折強い風と雨に晒されています。今日は大事を取って臨時休校となっているこの高校ですが、一部を除く教職員は出勤しておりまして、その教職員が発見したものです。今、警察が規制線を張っておりまして中に入ることはできませんが、今朝7時頃、この高校に通う女子生徒5名が謎の変死を遂げているのが発見されました。……」〕

 稲生:「あれ?ここ、車で10分と掛からない場所ですよ」
 マリア:「栗原江蓮の母校?」
 稲生:「いや、違いますよ。彼女の母校は私立の女子校でしたから……」
 イリーナ:「あいつら、何やってんの?」

 ずぶ濡れの中リポートをするテレビ記者の後ろでピースサインをしているアスモデウスと、黒いハットでなるべく顔を隠そうとするレヴィアタンの姿があった。

 稲生:「もしかして、そこの女子高生達が変死をしたのって……!?」
 イリーナ:「うーむ……」

 イリーナは少し考えた。
 そして……。

 イリーナ:「よし。午後の授業は少し予定を変更して、『悪魔について』もう少し勉強しましょうか」
 稲生:「悪魔達、何かしたんですか?」
 マリア:「でなきゃあいつらあんなことしないし、師匠もこんなこと言わないよ」
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“大魔道師の弟子” 「臨時台風の下で」

2018-09-17 10:14:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日08:00.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1Fダイニング]

 テレビでは台風中継をやっていた。
 よく台風が上陸してくる静岡県の御前崎では、既にテレビ記者が好例の暴風雨に晒されながらのリポートを行っている。

 稲生佳子:「今日は出掛けない方がいいんじゃない?」
 稲生勇太:「う、うん。今日は家でゆっくりしてるよ」
 稲生宗一郎:「その方がいい。父さん達は仕事だから、家の方は頼んだぞ」
 勇太:「分かった。台風の時くらい休めばいいのに……」
 宗一郎:「電車がまだ動いている以上、社員達は出勤してくるというのに、重役の私がのうのうと休んでられるか」

 言っていることは立派なのだが、多分社員達にとっては【お察しください】(と、労働組合員の立場からボソッと……)。

 佳子:「私も仕事なんだけどね。もしかしたら、帰り際は電車が止まって遅くなるかもしれないから」
 勇太:「分かった。その時はルゥ・ラで……」
 イリーナ:「勇太君」
 勇太:「おっと……!」

 あくまでここでのイリーナは魔道師ではなく、表向きの稼業をしている『世界的に著名な占い師』であり、勇太はそこに弟子入りしたことになっている。

 マリア:「ハイヤー、来マシタヨ」

 マリアが窓の外を見ながら言った。
 勇太の両親へのアピールの為か、ここでは自動通訳魔法具を使わない。
 自力で勉強した日本語を話す。

 宗一郎:「そうか。今日は早いな」
 佳子:「そりゃもう、電車を諦めて車に切り替える人もいるからねぇ……」
 宗一郎:「すぐ準備する。せっかくだから、佳子も途中まで乗って行け」
 佳子:「ありがとう」
 勇太:「駅まで乗っけてってあげたら?」

 こうして勇太の両親は台風が接近してくる中、それぞれの職場に出勤して行った。
 佳子も本来なら車通勤なのだが、さすがにこんな台風の中、コンパクトカーで移動するのは危険か。
 まだ、宗一郎を迎えに来た3ナンバーのハイヤーに乗った方がいいかもしれない。

[同日09:00.天候:雨 稲生家1F仏間]

 朝食が終わった後、魔道師達は仏間に移動した。
 因みに片付けはマリアのメイド人形が人間形態になり、代わりにやってくれた。
 仏間にはかつて勇太が用意した日蓮正宗仕様(?)の仏壇が置いてあり、そこに御本尊も安置していたのだが、怨嫉により撤去され、御本尊も返納の憂き目に遭った。
 現実は“となりの沖田くん”のように、そう都合良く行かないのだよ!はっはっはー!
 元々稲生家は稲荷信仰ということもあり、代わりに神棚が祭ってある。
 仏壇を置くスペースは空洞になっている。
 で、この部屋が臨時の講義室ということになる。

 イリーナ:「勇太君の懸念もあるので、早速始めましょう」
 マリア:「ちょっと待ってください。そういえば今朝、私達の部屋に飛び込んで来た理由って何?」
 勇太:「あ、そうか。マリアさんには話してなかった」

 勇太はポンと手を叩いた。

 マリア:「なに?」
 勇太:「いえ、昨夜、丑寅勤行をやったんです。大石寺の客殿で午前2時半から行われる勤行です」

 お坊さん達にとってはこれが朝勤行ってことは、えーと……どういうことだ?
 大石寺のお坊さん達の朝は午前2時半から始まる?

 勇太:「夜中に目が覚めて、なかなか寝付けなかったもので……」
 マリア:「それがどうした?」
 勇太:「やっている最中に、何だか外が騒がしくなって……。でも、途中で止めるわけにもいかないし……」
 イリーナ:「賢明な判断だったね。そういう儀式めいたものは、途中で止めてはダメよ?」
 勇太:「はい。ただ、それだけなんですけど、アスモデウスが部屋に入ってきてこう言ったんです」

 アスモデウスとはキリスト教における七つの大罪のうち、『色欲』を司る悪魔である。
 その為、悪魔の世界の中では高級な部類に属する。
 勇太との契約が内定していることもあり(勇太はまだ見習なので、正式な契約が結べない)、時折様子を見に来るのである。
 悪魔の見た目はその人間の心理に大きく左右されるものの為、かつては黒ギャルの姿で勇太の前に現れていたが、今では白ギャルに変わっている。

 勇太:「『近くで悪魔の召喚術式をやってたもんで、ついつい見に行っちゃったよ。他のヤツが先に召喚されてたから、アタシの出番は無かったけどね』なんて……」
 マリア:「悪魔の召喚術だって!?」
 イリーナ:「いや、アタシもね、昨夜トイレに入っている時に何となくそう感じたのよ。でね、トイレから戻っている最中に悪魔達が外に出て行くのを見たものだからさぁ……」
 勇太:「さすがに勤行が終わる頃には僕も眠くなっていたので、話半分にしか聞いてなかったんですが、起きてからよくよく考えてみると、これってヤバいことなんじゃないかと……」
 イリーナ:「うん、ヤバいだろうね」
 マリア:「よっぽどちゃんとした儀式と、それなりの強い念が無い限りは、そうそう滅多に悪魔なんて呼び出せないものだと思いますけど?」

 マリアの場合はかなり念が強かったらしい。
 だが哀しいかな、神(イエス・キリスト)に祈ったつもりが、人間時代にとても強い迫害を受けていたマリアに救いの手を差し伸べたのは悪魔だった。

 稲生:「マリアさんみたいな人が呼び出した?」
 マリア:「うそ!?」
 イリーナ:「有り得なくは無いね。この辺りは、私の契約悪魔に任せておきましょう。悪魔のことは、同じ悪魔に任せておくべきだわ。大丈夫。昨夜、私の契約悪魔も野次馬しに行ったみたいだから。ね?」
 レヴィアタン:「……Yes.」

 いつの間にかイリーナの傍らに現れたレヴィアタンが、咳払いをしながら頷いた。
 野次馬根性で見に行ったことがバレバレで、バツが悪かったのだろうか。

 レヴィアタン:「あー……その……何だ」

 まるでスパイ機関のエージェントのような姿をしたレヴィアタン。
 但し、映画のそれが殆ど黒服に身を包んでいるようなイメージの中、この季節にそぐわないマフラーだけはシンボルカラーのピンク色だった。

 アスモデウス:「はいはい。じゃ、調査に行って来ますから。ほら、行くよ」
 レヴィアタン:「う、うむ……」

 アスモデウスは相変わらずギャルの恰好をしていたが、硬派(?)のレヴィアタンの腕を掴んで出て行った。
 悪魔達にとっては、外が台風でも何のそのらしい。
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“大魔道師の弟子” 「帰省4日目」 1

2018-09-16 20:15:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日02:30.天候:曇 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F客間]

 イリーナ:「ん……」

 ふと、イリーナは夜中に目が覚めた。

 イリーナ:「トイレ……」

 マリアは折り畳みベッド、イリーナはエアーベッドで寝ている。
 どちらもシングルサイズで、来客用である。
 イリーナは半分寝ぼけた状態で、ベッドから床へと足を移動させた。

 ミカエラ:「ふぁ……」

 だが、床の上で寝ていたマリアのメイド人形、ミカエラの体を一瞬踏んづけてしまった。

 イリーナ:「おっとととと!」

 人形形態となり、クラリス同様マリアと同衾しているはずだが、いつの間にか人間形態になってしまっていたようである。

 イリーナ:(あー、びっくりした……)

 そして真っ暗闇な廊下に出る。
 が、人感センサー式のランタン(コンセントに差して使うヤツ)が点灯するので、それで足元は明るくなる。
 その明かりを頼りに、トイレに向かった。
 で、トイレの前に着く。

[同日同時刻 天候:曇 稲生家2F 勇太の部屋]

 稲生勇太:「何だか目が覚めちゃったし、また丑寅勤行でもやるか。丑寅勤行は朝勤行の代わりになるからなぁ……」

 勇太、1度着替えると大石寺の方に向かって正座した。
 初座の勤行では東の方を向いて行うわけだが、最初の御題目三唱は大石寺の方角へ向ける(と、離檀してもまだ覚えてるんだなぁ……)。

 勇太:「それでは謹んで……。コホン。南無妙h……あれ?今、何か聞こえたかな?」

 下の階から何か大きな音が聞こえたような気がした。
 だが、耳を澄ませてみても、何も聞こえない。

 勇太:「気のせいか……?あ、御本尊様、失礼しました。それでは改めまして……南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経」

[同日02:35.天候:曇 稲生家1Fトイレ]

 イリーナ:「〜〜〜〜〜〜〜……!」

 額を押さえ、しゃがみ込むイリーナの姿があった。

 イリーナ:「いきなり開ける人がどこにいるのよ……!!」
 マリア:「I-I’m sorry.」

 マリアが実は先にトイレに入っていた。
 そして、いきなりドアを開け、それがイリーナの頭に当たったのだった。

 イリーナ:「Ah...It’s ok.(あー……。まあ、いいけどさ)」

 ダンテ門内における公用語は英語である。
 ロシア語でもラテン語でもない。

 マリア:(ふぅ……!びっくりしたぁ……!)

 マリアもまた心臓をバクバクさせて客間に戻ったのだった。

 マリア:「ありゃ?ミカエラが人間形態になってる」

 そこでマリア、ミカエラの状態に気づく。
 そして、急いで人形形態に戻した。

 イリーナ:「うーん……。きっと昨夜、SAKEを勧められるがままに飲んだのが悪かったのね」

 イリーナは用を足しながらそう思った。
 そこでふと気づく。

 イリーナ:「あれ?近くで儀式でもやってるのかな?勇太君のブッダへのお祈り……かな?でも何か、いつもと違うような……?んん……?まだSAKEが残ってるのかなぁ……?何か、悪魔の召喚術式に似ているような……?まあいいや」

 イリーナも用を足すと、すぐにトイレを出た。
 そして客間に戻る途中、イリーナとマリアの契約悪魔がこっそり玄関から外に出て行くのを見たのである。

 イリーナ:「んん……?まあ、あのコ達に任せておこう」

[同日07:00.天候:雨 稲生家1F客間]

 ジリリリリリと枕元に置いた目覚まし時計が鳴る。

 マリア:「うーん……」

 手を伸ばして音を止めた。

 マリア:「師匠、朝ですよ。起きてください」
 イリーナ:「うーん……あと5分……」
 マリア:「(良かった。いつもの師匠だ……)ダメですよ。ここは勇太の家なんですから」
 イリーナ:「うーん……しょうがないねぇ……」

 イリーナは大きく伸びをした。
 着ていたバスローブが大きくはだけて、巨乳が露わになる。
 この前、マリアがイリーナのブラのカップサイズを確認したらJらしい。

 勇太:「失礼します!ちょっと確認したいことが!」

 そこへ勇太が飛び込んできた。

 イリーナ:「勇太くん、おはよう!」
 勇太:「わあーっ!?し、失礼しましたーっ!」

 イリーナの巨乳が目の前に現れ、勇太は慌てて出て行ってしまった。

 マリア:「師匠!胸は隠してください!」
 イリーナ:「アタシにとっては小さい子供に見せたくらいの感覚なもんでねぇ……」

 勇太は実年齢20代後半、イリーナは1000歳超え。

 マリア:「そんなの関係無いですから!早いとこ着替えてください」
 イリーナ:「分かったわよぉ……」
 マリア:「私はシャワー浴びて来ますから」
 イリーナ:「それにしても、勇太君、何かあったのかねぇ……?」
 マリア:「予知夢でも見ましたかね。後で私が聞いておきますよ」
 イリーナ:「お願いね」

 マリアはタオルと着替えを手に、2階への階段を上がった。
 やっぱりマリアのお気に入りは1Fの広い浴室ではなく、2Fのシャワールームである。

 マリア:「勇太?ちょっといい?」

 マリアは勇太の部屋をノックした。
 だが、返事が無い。

 マリア:「『返事が無い。次は赤羽のようだ』だったっけ?」

 それを言うなら、『返事が無い。ただの屍のようだ』である。

 マリア:「まあいいや。シャワー浴びよう」

 マリアはシャワールームの前、廊下で全裸になるとすぐに折り戸を開けてシャワーブースに飛び込んだ。

[同日07:30.天候:雨 稲生家1Fダイニング]

 イリーナ:「勇太くーん、さっきはゴメンねぇ」

 いつものワンピースに着替えたイリーナ。
 契約悪魔のシンボルカラーはピンクである為、それに準じた色合いのものを着ている。
 下はロングスカートなのだが、スリットが深めに入っており、すぐに白い太ももが覗いてしまう。
 勇太は1Fにいた。

 勇太:「あ、いえ、こちらこそ、失礼しました……」
 イリーナ:「何かあったの?」
 勇太:「は、はい。実は……」

 勇太が話した内容とは?
 次回へ続く。
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