報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“魔女エレーナの日常” 「魔界を進む魔女たち」

2018-09-28 19:20:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[現地時間8月30日10:00.天候:晴 魔界王国アルカディア王都アルカディアシティ南部 サウスエンド地区(南端村)]

 魔界には元々地名など無い。
 初代魔王バァルが即位時、「ここを魔族のアルカディア(理想郷)としよう」と宣言したことから、バァル大帝の時は帝政アルカディアとかアルカディア帝国と呼ばれた。
 人間界から迷い込んだり、或いは拉致された人間は最下位の奴隷階級であった。
 生きたまま拉致された者もいるし、本来なら地獄界に堕獄、更には成仏するはずの亡者もいる。
 その為、地獄界や天国と誤解されることもあるが、いずれでもない。
 今現在はバァルも退位して冥界に隠居し、ルーシー・ブラッドプール1世という吸血鬼が出自の女王が即位してからは帝政(絶対王制)も廃止され、立憲君主制が敷かれている。

 エレーナ:「ちわー、毎度」
 リリアンヌ:「フヒヒヒ……。こ、こんにちは……」

 アルカディアシティの最南端、城壁から更に外側にも村がある。
 今はアルカディアシティに組み込まれ、その一地区としての存在であるが、城壁内のそれとは雰囲気も違う。
 まるでそこは、明治から大正時代の日本のような光景が広がっていた。
 城壁内の中世から近世に掛けてのヨーロッパの雰囲気とは全然違う。
 ここは人間界から迷い込んだりした日本人達が形成した、日本人村なのである。
 その村の外れにある神社の存在が、それを如実に物語っているのだ。

 坂吹:「うわ、1人増えてる……!」

 エレーナとリリアンヌはその神社を訪れた。
 稲荷神社であることは、狛犬ではなく、狐の石像が置かれていることからも明らかである。
 が、そのうちの一体が見る見るうちに人の姿に変化した。

 坂吹:「魔女は1人だけのはずだぞ!?ついにこの神社を狙おうというのか!?この魔女め!」

 坂吹はスラッと刀を抜いた。

 坂吹:「威吹先生のお手を煩わせるまでもない!先生に代わってたたっ斬る!!」

 坂吹は台座の上から飛び降り様、エレーナを斬ろうとした。
 だが!

 パコーン!

 坂吹:「いでっ!?」

 背後から女性用の下駄が飛んで来て、坂吹の後頭部に当たった。
 そのショックで、台座から落ちる坂吹。

 さくら:「お客様に何てことするの!」
 坂吹:「ね……禰宜様……」
 エレーナ:「おー、ナイスコントロール👏」
 リリアンヌ:「トレビアン」

 さくらはエレーナ達に向き直った。
 さくらは巫女ではなく、れっきとした神職である。

 さくら:「ごめんなさいね。うちの主人の弟子が、血の気が多くて……」
 エレーナ:「いえいえ。凶悪な妖狐を物理的にコントロールできるだけで凄いことです」
 さくら:「さ、こちらへどうぞ。主人がお待ちですわ」
 エレーナ:「はい」
 リリアンヌ:「あの、コイツ、ピヨってますけど……」
 エレーナ:「妖狐は頑丈だから大丈夫だろ」
 リリアンヌ:「は、はい」

[同日10:30.天候:晴 同地区サウスエンド駅]

 エレーナ:「電車で、ラクして、ゴーメンなさいよ〜」
 リリアンヌ:「先輩、何のギャグですか、それ?」
 エレーナ:「……知らなきゃいい」
 リリアンヌ:「はい……」

 エレーナは威吹から、とある品物を受け取った。
 それはホウキにぶら下げて運べるほどの大きさであった。

〔まもなく1番線に、環状線外回り、各駅停車が到着致します。この電車は6両です。一番街で、急行電車を先に通します〕

 元々は城壁の上を走るトロッコから始まった環状線。
 サウスエンド駅は東京の山手線で言えば、大崎駅辺りに位置する。
 やってきた電車は、東京では全廃になったウグイス色一色の103系。

〔サウスエンド〜、サウスエンド〜、南端村です。1番線は環状線各駅停車、外回りです〕

 鉄道会社は魔界高速電鉄という。
 愛称はアルカディアメトロと言い、ロゴマークもAとMを斜めに重ねたものを使用している。
 が、あまり地元では浸透していない。
 この電車にもかつてはJRマークの入っていた位置にAMマークが入っている。
 環状線は高架線であり、こちらは比較的人間の乗務員、乗客が多い。
 薄暗い地下鉄では乗員・乗客共に魔族が多いのとは対照的だ。
 もちろん、必ずそうしなければならないというわけではない。
 実際、車両基地もあるこの駅(本当に大崎駅みたい……)では、乗務員の交替も行われる。
 先頭車に乗り込んだエレーナ達であったが、交替した運転士は、まるで子供のような風体であった。
 きちんと制服を着用し、制帽も被り、手には103系ならではの木製ブレーキハンドルを持っているのだが、その体型は10歳から12歳程度の少年そのものであった。
 しかし、彼はれっきとした成人である。

 エレーナ:「あれはグラスランナーだね」
 リリアンヌ:「グラスランナーって何ですか?」
 エレーナ:「エルフが『森の妖精』と呼ばれるなら、あれは『草原の妖精』と呼ばれる存在だよ」
 リリアンヌ:「草原の妖精が、電車の運転士ですか?」
 エレーナ:「エルフですら森から出て来て、警乗員とかやってるくらいだからね。安倍首相(※)のSPがダークエルフだってことは有名だからね」

 ※もちろん日本国首相のことではない。アルカディア王国の女王が魔族なら、首相は人間である。

 リリアンヌ:「アサシン(暗殺者)のダークエルフをアサシンから守るSPにするとは、なかなかですね……」
 エレーナ:「そうだな」

 5分ほど停車して電車が発車する。
 別にダイヤが乱れているのではなく、随分とのんびりしたダイヤ設定になっているらしい。
 体型は少年のようなものなれど、ちゃんと運転できているようだ。

〔「お待たせ致しました。本日もアルカディアメトロをご利用頂き、ありがとうございます。環状線各駅停車、外回りです。一番街で急行電車の待ち合わせがございます。……」〕

 日本語放送の後、英語放送が流れる。
 アルカディア王国の公用語は日本語と英語である。
 肉声で放送される。
 尚、作者は京浜東北線で車掌が英語で乗り換え案内放送をしているのを聞いたことがある。

 リリアンヌ:「そ、それより先輩、どうして今この電車に?」
 エレーナ:「そりゃオマエ、ポーリン先生に御挨拶しに行く為だろ」
 リリアンヌ:「フヒッ!?そ、そうでした」

 エレーナとリリアンヌの師匠はポーリンである。
 今現在は宮廷魔導師の仕事に就いている。
 昔から就きたい役職であったが、それをイリーナに先に取られたことに嫉妬し、イリーナと大ゲンカしたこともある。
 当然ながらその抗争は弟子同士のケンカにも発展し、それがエレーナとマリア、稲生の抗争だったのである。
 さすがにダンテが仲裁に入り、また、バァル大帝が退位したことで宮廷魔導師の任期も終了し、その後にポーリンが就いたことで事実上の和解となっている。

 エレーナ:「人間界でも頑張っているところ、見せてやろう」
 リリアンヌ:「は、はい!」
コメント (6)
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“魔女エレーナの日常” 「台風が過ぎた朝は清々しい」

2018-09-28 13:17:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月30日07:00.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテルB1F エレーナの部屋]

 ジリリリリリと枕元の目覚まし時計が鳴る。

 クロ:「ニャ」

 エレーナと一緒に布団に入っていた使い魔の黒猫、クロが前足を伸ばして目覚ましのアラームを止めた。
 まだ起きない主人のエレーナの耳元でニャーニャー鳴く。

 エレーナ:「うーん……。何よォ、クロ……。まだ7時じゃない」
 クロ:「今日は宅急便の仕事があるニャ」
 エレーナ:「今日は閉店……」
 クロ:「ニャ!?」

 再び布団を被って二度寝を決め込もうとする主人に対し、クロは……。

 クロ:「

 2段ベッドよりもっと上の位置にある通気口のダクトの上に上がる。
 地下1階は機械室やボイラー室になっている為、その管理室でもあったエレーナの部屋の天井にはそういったパイプが張り巡らされている。
 今は管理も自動化されている為、専門の技師の常駐は必要なくなり、空き室になっていた。
 そこをエレーナの下宿先に転用したのである。

 クロ:「フニャーッ!」

 クロはダクトの上からエレーナの顔目掛けてダイブ!

 エレーナ:「んぶっ!?」

 それでびっくりして飛び起きた。

 エレーナ:「あーもうっ!」
 クロ:「ズル休みはダメニャ」
 エレーナ:「生理休暇だっ、この!」
 リリアンヌ:「……エレーナ先輩……それ、わらひ……」
 エレーナ:「オマエは黙ってろ!」
 リリアンヌ:「フヒッ!?は、はいっ!」
 エレーナ:「しょうがない。起きるかー……」

 下段に寝ているリリアンヌも、今の騒ぎで起きてしまったようだ。

 リリアンヌ:「え、エレーナ先輩、今日は、わわ、私も……た、たた宅急便の仕事……」
 エレーナ:「あー……。しょうがない。ついてきな」
 リリアンヌ:「は、はい!」

[同日08:00.天候:晴 東京都江東区森下 ホテル近所のカフェ]

 女将:「おや、エレーナちゃん。いらっしゃい」
 エレーナ:「おはざーっす!」
 リリアンヌ:「フヒヒ……。おはようございます……」

 エレーナとリリアンヌはテーブル席に座った。

 エレーナ:「私は目玉焼きのセットね」
 リリアンヌ:「す、すすスクランブルエッグのセットで……」
 女将:「はい、毎度。エレーナちゃんのお友達?」

 女将がお冷やとおしぼりを持って来た。
 で、ついでに注文するエレーナ達。

 エレーナ:「後輩です」
 リリアンヌ:「・・・・。・・・・・・・、・・・・・・・」

 リリアンヌ、他人と話すことはとても苦手である。
 そこはエレーナとは対照的。
 緊張感のあまり、自動通訳魔法具の効能が止まり、フランス語が地で出てしまった。

 エレーナ:「リリアンヌ。……すいません、通訳します。『おはようございます。私の名前はリリアンヌ。フランスのブルターニュ出身です』」
 女将:「フランスから来たの?あのホテルも随分と国際的になったわねぇ……」
 エレーナ:「日本政府のインバウンド政策の影響です(ということにしておこう)」
 女将:「それじゃ、ちょっと待っててね」

 女将がカウンターの向こうに行く。

 エレーナ:「リリアンヌ。別に男じゃないんだから、そこまで緊張しない」
 リリアンヌ:「ご、ごめんなさい……」
 エレーナ:「宅急便の仕事は、顧客が男であることが多いのよ」
 リリアンヌ:「フヒッ!?」
 エレーナ:「何しろ、こちとら普通の宅急便が運ばないものを運んでいるからねぇ……」
 リリアンヌ:「き、きき、今日はどこに行くですか?」
 エレーナ:「まずは魔界。そこから荷物を受け取りに行く。それから人間界だな。ま、今日は私に付いてくればいい」
 リリアンヌ:「は、はいーっ!」

[同日09:00.天候:晴 再びワンスターホテル]

 エレーナ:「オーナー、今日はこのまま魔界に行ってきますんで」
 オーナー:「そう?鈴木君に挨拶はいいのかい?」
 エレーナ:「あいつのことだから、また来るでしょう」

 チーン!

 エレーナ:「ん?」

 チーン!チーン!チーン!

 リリアンヌ:「フヒッ!?な、何の音ですか?」
 オーナー:「エレベーターから聞こえるぞ!?」

 すると、エレベーターのドアが開いた。

 鈴木:「このエレベーター、喋らせるよりベル鳴らした方がいいですよ」

 Ω\ζ°)チーン

 エレーナ:「アンタ、何やってんの!」

 鈴木は鈴(りん)を持ち、それをチンチン叩いて鳴らしていた。

 鈴木:「いやあ、勤行が思いの外盛り上がっちゃって……」
 エレーナ:「そんなもの持ち込んで!」

 Ω\ζ°)チーン

 鈴木:「顕正会員はこんなもの持ってるの殆どいなかったから、もう珍しくて……」
 オーナー:「ダメですよ。仏具をオモチャにしちゃ」
 エレーナ:「そうよ。どうせなら、これをオモチャにしなさい」

 エレーナはローブの中から落書きされた十字架を取り出した。

 鈴木:「いや〜、そんなもの触りたくないなぁ。謗法、罪障……」

 鈴木は汚物を見るような目で十字架を見た。

 オーナー:「良かったじゃないか、エレーナ。少なくとも鈴木さんは、キリスト教会側に回ることはない」
 エレーナ:「まあ、そうですね」
 鈴木:「あ、オーナー。そろそろチェックアウトを……」
 オーナー:「ありがとうございます。それでは御精算の方を……」

 オーナーはフロントの上のPCのキーボードを叩いた。

 オーナー:「それでは有料チャンネルご利用のようですので、こちらの料金が……」
 エレーナ:「え?なに?エロいの見たの?JK?人妻?ブルマ?スク水?青姦?」
 鈴木:「ち、違うよ!……強いて言えばロリかな?」

 鈴木はリリアンヌを見た。

 リリアンヌ:「フヒッ!?」

 背筋に寒気を感じたリリアンヌ、慌ててエレーナの後ろに隠れる。

 オーナー:「あー、劇場版アニメを御覧になったんですね。ありがとうございます」
 鈴木:「『魔女っ娘全員集合!』」

 ガッツポーズを取る鈴木。

 エレーナ:(リリィにプリキュアのコスプレさせてコイツの前に出したら、さぞ悶絶するだろうなぁ……)
コメント (2)
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