[8月27日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
エレーナ:「あれ?稲生氏の御両親は?」
稲生勇太:「父さんも母さんも仕事だよ」
エレーナ:「稲生家、金持ちなのにお母さんも働いてるんだ?」
稲生:「いや、別に金持ちじゃないよ。父さんだって、別に有名企業で働いてるわけじゃないし」
エレーナ:「いやいや、さいたま市の高級住宅街に住んでる時点で【お察しください】」
稲生:「マリアさんの家より小さいよ?」
エレーナ:「マリアンナんちはデカ過ぎるだけ」
マリア:「オマエら、うるさい!」
マリアは客間から出て来た。
エレーナ:「おー、マリアンナ。届け物だぞー」
マリア:「よくここが分かったな?」
エレーナ:「魔道師のネットワーク、ナメるなよ?それより稲生氏から聞いたぞ。侵入者が現れたんだって?」
マリア:「勇太の話が本当ならな」
エレーナ:「で、どうなんだ?水晶球で何か分かったか?」
マリア:「ダメだ。上手いこと攪乱されてる」
エレーナ:「こういう時、水晶球じゃダメだよ。私に任せな」
マリア:「カネなら払わないよ」
エレーナ:「稲生氏の為にサービスだ」
稲生:「で、どうするの?」
エレーナはローブの中から布袋に入った粉末薬を取り出した。
エレーナ:「これを使う」
稲生:「何だい、それ?」
エレーナ:「まあ、見てて。まずこの部屋に撒いてみよう。ちょっと外に出てて」
エレーナは稲生とマリアを外に出した。
そして粉薬を一握り分、掌の上に乗せる。
それをマリアのいた客間に向かって吹いた。
バッと粉が舞った。
最初は白い粉だったのだが、それがまるで着色されたかのように黄色く染まって行く。
エレーナ:「このように、魔力を帯びた者がいた形跡があると黄色くなる」
稲生:「そうなんだ」
試しにエレーナ、父親の宗一郎が書斎として使っている部屋にも粉薬を吹き飛ばした。
すると、今度は全く色が変わらなかった。
稲生:「なるほど!」
エレーナ:「それじゃ、例のシャワールームの所に行ってみるよ?」
稲生:「うん、こっちだよ」
3人は階段を上がった。
そして、シャワールームまで行く。
ドアを開けて、エレーナは粉を吹いた。
すると、粉が黄色く変わる。
稲生:「これは……!?」
エレーナ:「魔道師の誰かが使っていた、ということがこれで明らかになったわけだ」
稲生:「い、一体誰が!?」
エレーナ:「そこまでは分からない。マリアンナが使ったわけじゃないのなら、もちろん他の誰かってことだろうな」
マリア:「何の目的で?」
エレーナ:「もしかしたら、この封筒の中に答えが書いてあるかもしれないぞ?」
稲生:「ええっ!?」
マリア:「これは……?」
エレーナ:「ミッシェル師からだね。聞いたことあるだろ?」
稲生:「あ、確か、うちのダンテ一門の監査役だっけ?所属は別の流派だけど……」
会社役員で言うところの、外部監査役に相当する立場である。
ダンテ門内では魔女同士のケンカが他門に迷惑を掛けることがあり、それを防ぐ為に他門から監査役が呼ばれた。
その筆頭がミッシェルという名の魔道師である。
魔道師ながら、普段はニューヨークで会社役員をやっているらしい。
マリア:「私が監査に引っ掛かったのか?」
エレーナ:「あーあ。ヘタすりゃ破門だぞ?」
マリア:「わ、私は何もしていない!」
エレーナ:「いいから開けてみなよ」
3人は再び1階に下り、リビングに集まった。
マリア:「これは……?」
中にあったのは、別にマリアを処分しようという内容のものではなかった。
要は『誓約書』。
マリア:「なにこれ?」
説明文も同封されていた。
要はダンテ一門では内部・外部を問わず、基本的に恋愛・結婚は自由とされている。
但し、内部同士で結婚する場合は、どちらもマスター(一人前)になっていることが最低条件というのが不文律になっている所はあるが。
魔女同士のイザコザは、要は仲間が恋愛や結婚に打ち込むことで嫉妬され、トラブルに発展するのが大きな原因であるという。
エレーナ:「マリアンナの時もそうだったな」
稲生:「このアルカディア・タイムスの記事も?」
エレーナ:「読んだのか。そうだよ。あれだけ男嫌いのレズビアン集団の1人が、ついに異性愛に目覚めたらしいんだな。で、男とよろしくヤっている所がバレて大変なことになったって記事だよ」
マリア:「とりあえずそいつら、LGBTのLの人達に謝った方がいい」
稲生:「確かに」
というのは、別に性同一性障害とかでそうなったわけではない。
人間時代、男性から性的暴行を受けた経験のある者が、それでも性欲を解消する為にそっちの道に走っただけだ。
エレーナ:「稲生氏とマリアンナの例は、もう門内じゃ有名だ。マリアンナもそれだけ、魔女だったわけだな」
マリア:「悪かったな」
エレーナ:「ぶっちゃけ、稲生氏みたいな男は私も初めてだ。マリアンナがいい方向に行ってるんで、他の奴らも羨ましくなったって所だろ。で、中にはマリアンナのマネをして、彼氏作る奴らも出て来たってわけだ」
稲生:「それって悪いことなの?」
エレーナ:「いやいや、いいことだよ。ま、私は正直迷惑だけどな」
稲生:「鈴木のことなら、僕からも言ってあげようか?『エレーナが迷惑してるからやめろ』って」
エレーナ:「……いや、いい金づるだから、それは保留で」
マリア:「オマエも素直になれよなw」
稲生:「で、それとこの誓約書と何の関係があるの?」
エレーナ:「説明文によれば、もしも稲生氏とマリアンナが男女関係として失敗したとしても、それを周囲の責任にしないことを誓うというものらしいな」
稲生:「何のこっちゃ?」
エレーナ:「日本人は知らないかもしれないけど、特にアメリカなんかじゃ、オフィスラブのトラブル発生にナーバスになってるんだよ。そんな時、会社のせいにされても困る。だから、『オフィスラブに関するトラブルを起こした場合、全部自己責任と致します』的な内容の誓約書を書かせるんだよ」
稲生:「へえ、そうなんだ!」
エレーナ:「つまり、稲生氏とマリアンナの関係はこれで門内でも公認とされているってことだな。喜べ、マリアンナ」
マリア:「それはいいんだけど、何かもう1枚書類があるんだけど?」
稲生:「今度は何ですか?」
それは日本語で書かれていた。
つまり、稲生用ということ。
しかし、マリア用の誓約書とはまた違った内容だった。
何と書かれていたと思う?
1:『私はマリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットと結婚を前提に付き合うことを約束致します』
2:『私はマリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットと結婚まで行けるよう、全力で修行に励みます』
3:『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それに関する一切のトラブルは自己解決することを約束致します』
4:『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それ以外の女性とは一切性的関係を持たないことを誓います』
エレーナ:「あれ?稲生氏の御両親は?」
稲生勇太:「父さんも母さんも仕事だよ」
エレーナ:「稲生家、金持ちなのにお母さんも働いてるんだ?」
稲生:「いや、別に金持ちじゃないよ。父さんだって、別に有名企業で働いてるわけじゃないし」
エレーナ:「いやいや、さいたま市の高級住宅街に住んでる時点で【お察しください】」
稲生:「マリアさんの家より小さいよ?」
エレーナ:「マリアンナんちはデカ過ぎるだけ」
マリア:「オマエら、うるさい!」
マリアは客間から出て来た。
エレーナ:「おー、マリアンナ。届け物だぞー」
マリア:「よくここが分かったな?」
エレーナ:「魔道師のネットワーク、ナメるなよ?それより稲生氏から聞いたぞ。侵入者が現れたんだって?」
マリア:「勇太の話が本当ならな」
エレーナ:「で、どうなんだ?水晶球で何か分かったか?」
マリア:「ダメだ。上手いこと攪乱されてる」
エレーナ:「こういう時、水晶球じゃダメだよ。私に任せな」
マリア:「カネなら払わないよ」
エレーナ:「稲生氏の為にサービスだ」
稲生:「で、どうするの?」
エレーナはローブの中から布袋に入った粉末薬を取り出した。
エレーナ:「これを使う」
稲生:「何だい、それ?」
エレーナ:「まあ、見てて。まずこの部屋に撒いてみよう。ちょっと外に出てて」
エレーナは稲生とマリアを外に出した。
そして粉薬を一握り分、掌の上に乗せる。
それをマリアのいた客間に向かって吹いた。
バッと粉が舞った。
最初は白い粉だったのだが、それがまるで着色されたかのように黄色く染まって行く。
エレーナ:「このように、魔力を帯びた者がいた形跡があると黄色くなる」
稲生:「そうなんだ」
試しにエレーナ、父親の宗一郎が書斎として使っている部屋にも粉薬を吹き飛ばした。
すると、今度は全く色が変わらなかった。
稲生:「なるほど!」
エレーナ:「それじゃ、例のシャワールームの所に行ってみるよ?」
稲生:「うん、こっちだよ」
3人は階段を上がった。
そして、シャワールームまで行く。
ドアを開けて、エレーナは粉を吹いた。
すると、粉が黄色く変わる。
稲生:「これは……!?」
エレーナ:「魔道師の誰かが使っていた、ということがこれで明らかになったわけだ」
稲生:「い、一体誰が!?」
エレーナ:「そこまでは分からない。マリアンナが使ったわけじゃないのなら、もちろん他の誰かってことだろうな」
マリア:「何の目的で?」
エレーナ:「もしかしたら、この封筒の中に答えが書いてあるかもしれないぞ?」
稲生:「ええっ!?」
マリア:「これは……?」
エレーナ:「ミッシェル師からだね。聞いたことあるだろ?」
稲生:「あ、確か、うちのダンテ一門の監査役だっけ?所属は別の流派だけど……」
会社役員で言うところの、外部監査役に相当する立場である。
ダンテ門内では魔女同士のケンカが他門に迷惑を掛けることがあり、それを防ぐ為に他門から監査役が呼ばれた。
その筆頭がミッシェルという名の魔道師である。
魔道師ながら、普段はニューヨークで会社役員をやっているらしい。
マリア:「私が監査に引っ掛かったのか?」
エレーナ:「あーあ。ヘタすりゃ破門だぞ?」
マリア:「わ、私は何もしていない!」
エレーナ:「いいから開けてみなよ」
3人は再び1階に下り、リビングに集まった。
マリア:「これは……?」
中にあったのは、別にマリアを処分しようという内容のものではなかった。
要は『誓約書』。
マリア:「なにこれ?」
説明文も同封されていた。
要はダンテ一門では内部・外部を問わず、基本的に恋愛・結婚は自由とされている。
但し、内部同士で結婚する場合は、どちらもマスター(一人前)になっていることが最低条件というのが不文律になっている所はあるが。
魔女同士のイザコザは、要は仲間が恋愛や結婚に打ち込むことで嫉妬され、トラブルに発展するのが大きな原因であるという。
エレーナ:「マリアンナの時もそうだったな」
稲生:「このアルカディア・タイムスの記事も?」
エレーナ:「読んだのか。そうだよ。あれだけ男嫌いのレズビアン集団の1人が、ついに異性愛に目覚めたらしいんだな。で、男とよろしくヤっている所がバレて大変なことになったって記事だよ」
マリア:「とりあえずそいつら、LGBTのLの人達に謝った方がいい」
稲生:「確かに」
というのは、別に性同一性障害とかでそうなったわけではない。
人間時代、男性から性的暴行を受けた経験のある者が、それでも性欲を解消する為にそっちの道に走っただけだ。
エレーナ:「稲生氏とマリアンナの例は、もう門内じゃ有名だ。マリアンナもそれだけ、魔女だったわけだな」
マリア:「悪かったな」
エレーナ:「ぶっちゃけ、稲生氏みたいな男は私も初めてだ。マリアンナがいい方向に行ってるんで、他の奴らも羨ましくなったって所だろ。で、中にはマリアンナのマネをして、彼氏作る奴らも出て来たってわけだ」
稲生:「それって悪いことなの?」
エレーナ:「いやいや、いいことだよ。ま、私は正直迷惑だけどな」
稲生:「鈴木のことなら、僕からも言ってあげようか?『エレーナが迷惑してるからやめろ』って」
エレーナ:「……いや、いい金づるだから、それは保留で」
マリア:「オマエも素直になれよなw」
稲生:「で、それとこの誓約書と何の関係があるの?」
エレーナ:「説明文によれば、もしも稲生氏とマリアンナが男女関係として失敗したとしても、それを周囲の責任にしないことを誓うというものらしいな」
稲生:「何のこっちゃ?」
エレーナ:「日本人は知らないかもしれないけど、特にアメリカなんかじゃ、オフィスラブのトラブル発生にナーバスになってるんだよ。そんな時、会社のせいにされても困る。だから、『オフィスラブに関するトラブルを起こした場合、全部自己責任と致します』的な内容の誓約書を書かせるんだよ」
稲生:「へえ、そうなんだ!」
エレーナ:「つまり、稲生氏とマリアンナの関係はこれで門内でも公認とされているってことだな。喜べ、マリアンナ」
マリア:「それはいいんだけど、何かもう1枚書類があるんだけど?」
稲生:「今度は何ですか?」
それは日本語で書かれていた。
つまり、稲生用ということ。
しかし、マリア用の誓約書とはまた違った内容だった。
何と書かれていたと思う?
1:『私はマリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットと結婚を前提に付き合うことを約束致します』
2:『私はマリアンナ・ベルフェゴール・スカーレットと結婚まで行けるよう、全力で修行に励みます』
3:『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それに関する一切のトラブルは自己解決することを約束致します』
4:『私は以下に掲げる魔道師と恋愛関係にあることを認め、それ以外の女性とは一切性的関係を持たないことを誓います』