[8月29日14:00.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家→埼玉県立さいたま中央高校]
外に出ると、とても不思議な現象が起きていた。
台風が直撃しているというのに、雨は殆ど降っていない。
いや、降ってはいたのだろう。
路面はずぶ濡れである。
風だけがビュウビュウ吹いて、それに乗って時折サーッと強い雨が一瞬降ってくるだけだ。
如何に無理に造られた台風であるか分かるというもの。
稲生が車を運転して行くことにした。
こう見えても稲生、免許は持っている。
ただ、自分の車が無いだけだ。
本来は母親の佳子が通勤に使っている車だが、台風の最中に車を出すのは危険だということで、今日は乗っていない。
それをちょっと拝借することにした。
稲生:「な、なるほど。確かにちょっとハンドルを取られますね」
イリーナ:「勇太君、無理しなくていいからね?どうせこの天気で、あんまり車走ってないみたいだから」
稲生:「は、はい」
今回はさすがの稲生も、魔道師のローブを羽織っていた。
相手は5人の女子高生の魂を掻っ攫って行った悪魔だからだ。
稲生:「さすがにもう警察はいないみたいですね」
マリア:「ていうか……」
マリアは首を傾げた。
マリア:「勇太、こんな近くにハイスクールがあるのに、わざわざ東京のハイスクールに行ってたの?」
稲生:「この高校、数年前にできたばかりで、僕が高校生の頃は無かったんですよ」
マリア:「何だ、そうか」
イリーナ:「日本は少子化でしょう?それなのに増設したの?」
稲生:「増設じゃなくて、統廃合ですよ。それこそ、少子化が原因ですね。2つの高校を統合したわけですが、そのどちらも校舎が老朽化していたので新しく建てたんですって。少しでも統廃合に対する反対の声を抑える為でしょう。在校生的には、新しくてきれいな校舎の方がいいですから」
イリーナ:「確かにね」
稲生の通っていた東京中央学園上野高校は、魔界の出入口に位置してしまった為に怪奇現象の多発する所となってしまった。
第2次世界大戦末期からその布石があり、戦後から発生するようになったという。
東京大空襲が原因ではないかと稲生率いる当時の新聞部は疑ったが、それを原因とする証拠を掴むことはできなかった。
稲生は近くのコインパーキングに車を止め、そこから歩いて高校に向かった。
稲生:「いくら臨時休校だからって、教職員はいるわけだから、勝手に入ったらマズいですよ」
イリーナ:「だよねぇ。でもアタシの占いでは、ちゃんと合法的に調査できるようになっているって出ているのよ」
マリア:「どういうことですか、それ?」
稲生:「とにかく、挨拶だけはして行きましょう」
稲生達は通用門から中に入った。
臨終休校なので正門は閉まっていたからだ。
また、台風直撃による臨時休校の決定が先だったが、どっちみち女子生徒5人が変死していたのだから、それで休校にはなっただろう。
稲生:「先生のお知り合いがいて、そのツテで調査させてもらえるとか?」
イリーナ:「いや、日本の教員に知り合いはいないわね」
稲生:「そうですか……」
稲生はまず事務室の窓口を覗いてみた。
稲生:「すいませーん」
事務員:「はい?」
稲生が声を掛けると、事務室には3人の事務員がいたのが分かった。
そして、電話が引っ切り無しに掛かってきている。
あの事件のせいだろう。
1人の中年女性事務員が窓口までやってくる。
稲生:「実は僕達、占いや霊能関係の仕事をしている者なんですが……」
事務員:「は?」
稲生:「今回の事件のことについて、調査させて頂きたいのです。もちろん、僕達が自主的に調査させて頂くだけですので、お金は要りません」
事務員:「いや、ちょっといきなりそんなこと言われても……」
そりゃそうだろう。
ただでさえ、いきなり生徒5人が死んでるのが発見されて、しかもその死因が不明で、関係各所との連絡に追われている最中、こんな怪しい3人組が来たら……。
普通なら追い返すところだろう。
だが、追い返すという発想すら持てないほどの多忙なのか、
事務員:「ちょっとそちらでお待ちください」
と、何だかマニュアル通りっぽい対応をしてきただけだった。
稲生:(これはこのまま忘れられるパティーンだな……)
稲生がそう思った時だった。
隣の職員室から、教員らしき男性が足早に事務室にやってきた。
よほど急いでいるのか、稲生達に一瞥もくれなかった。
年齢的には20代半ばから後半といったところ。
実年齢的には、稲生と同じくらいだろう。
何やら書類を手に、事務室の壮年事務員と話をしていた。
そして、また廊下に出て来る。
で、今度は稲生達に気づいた。
男性教員:「何ですか、あなた達は?」
稲生:「あ、あの、僕達は……」
その時、稲生は自分がローブのフードを被ったままであることに気づいた。
さすがに屋内でこれは、ビジネスマナーとしてもハズレだろう。
そう思って、フードを取った。
稲生:「占いや霊能なんかを……」
男性教員:「ユタじゃないか!」
稲生:「え?」
男性教員:「俺だよ!同じ大学の中島だよ!」
稲生:「ナカジーか!」
中島:「世界的に有名な占い師に弟子入りしたって聞いたけど、なに?やっぱりあの事件で来たのか!?」
稲生:「そうなんだよ」
中島:「ユタの可愛い彼女さんも一緒か!」
マリア:「Ah...(勇太も一瞬分からなかっただけに、私もコイツ誰だっけ状態……)」
稲生が大学生だった頃、マリアも1度その大学を訪れたことはあった。
その頃も威吹が同行することは多く(高校時代ほど毎日同行することは無くなった)、威吹が稲生のことを『ユタ』と呼ぶので、高校時代の友人同様、大学時代の友人も同じように呼ぶ。
尚、大学構内においては、怪奇現象に遭遇することは殆ど無かった。
稲生:「そうか。キミは高校の教員になったんだっけか」
中島:「そうなんだよ」
稲生:「用件というのは実は正にキミの言う通りなんだ。ちょっと気になることがあってね。是非とも調査させてもらえないだろうか?僕達が勝手に来たわけだから、別にお金をもらおうとは思わないよ。ですよね、先生?」
イリーナ:「ええ。これは私の弟子達への校外学習の一環として来たようなものです。お邪魔はしませんので、何卒よろしくお願い致しますわ」
中島:「分かりました。取りあえず、僕から話をしてみます」
どうやら、イリーナの占いは的中したようである。
外に出ると、とても不思議な現象が起きていた。
台風が直撃しているというのに、雨は殆ど降っていない。
いや、降ってはいたのだろう。
路面はずぶ濡れである。
風だけがビュウビュウ吹いて、それに乗って時折サーッと強い雨が一瞬降ってくるだけだ。
如何に無理に造られた台風であるか分かるというもの。
稲生が車を運転して行くことにした。
こう見えても稲生、免許は持っている。
ただ、自分の車が無いだけだ。
本来は母親の佳子が通勤に使っている車だが、台風の最中に車を出すのは危険だということで、今日は乗っていない。
それをちょっと拝借することにした。
稲生:「な、なるほど。確かにちょっとハンドルを取られますね」
イリーナ:「勇太君、無理しなくていいからね?どうせこの天気で、あんまり車走ってないみたいだから」
稲生:「は、はい」
今回はさすがの稲生も、魔道師のローブを羽織っていた。
相手は5人の女子高生の魂を掻っ攫って行った悪魔だからだ。
稲生:「さすがにもう警察はいないみたいですね」
マリア:「ていうか……」
マリアは首を傾げた。
マリア:「勇太、こんな近くにハイスクールがあるのに、わざわざ東京のハイスクールに行ってたの?」
稲生:「この高校、数年前にできたばかりで、僕が高校生の頃は無かったんですよ」
マリア:「何だ、そうか」
イリーナ:「日本は少子化でしょう?それなのに増設したの?」
稲生:「増設じゃなくて、統廃合ですよ。それこそ、少子化が原因ですね。2つの高校を統合したわけですが、そのどちらも校舎が老朽化していたので新しく建てたんですって。少しでも統廃合に対する反対の声を抑える為でしょう。在校生的には、新しくてきれいな校舎の方がいいですから」
イリーナ:「確かにね」
稲生の通っていた東京中央学園上野高校は、魔界の出入口に位置してしまった為に怪奇現象の多発する所となってしまった。
第2次世界大戦末期からその布石があり、戦後から発生するようになったという。
東京大空襲が原因ではないかと稲生率いる当時の新聞部は疑ったが、それを原因とする証拠を掴むことはできなかった。
稲生は近くのコインパーキングに車を止め、そこから歩いて高校に向かった。
稲生:「いくら臨時休校だからって、教職員はいるわけだから、勝手に入ったらマズいですよ」
イリーナ:「だよねぇ。でもアタシの占いでは、ちゃんと合法的に調査できるようになっているって出ているのよ」
マリア:「どういうことですか、それ?」
稲生:「とにかく、挨拶だけはして行きましょう」
稲生達は通用門から中に入った。
臨終休校なので正門は閉まっていたからだ。
また、台風直撃による臨時休校の決定が先だったが、どっちみち女子生徒5人が変死していたのだから、それで休校にはなっただろう。
稲生:「先生のお知り合いがいて、そのツテで調査させてもらえるとか?」
イリーナ:「いや、日本の教員に知り合いはいないわね」
稲生:「そうですか……」
稲生はまず事務室の窓口を覗いてみた。
稲生:「すいませーん」
事務員:「はい?」
稲生が声を掛けると、事務室には3人の事務員がいたのが分かった。
そして、電話が引っ切り無しに掛かってきている。
あの事件のせいだろう。
1人の中年女性事務員が窓口までやってくる。
稲生:「実は僕達、占いや霊能関係の仕事をしている者なんですが……」
事務員:「は?」
稲生:「今回の事件のことについて、調査させて頂きたいのです。もちろん、僕達が自主的に調査させて頂くだけですので、お金は要りません」
事務員:「いや、ちょっといきなりそんなこと言われても……」
そりゃそうだろう。
ただでさえ、いきなり生徒5人が死んでるのが発見されて、しかもその死因が不明で、関係各所との連絡に追われている最中、こんな怪しい3人組が来たら……。
普通なら追い返すところだろう。
だが、追い返すという発想すら持てないほどの多忙なのか、
事務員:「ちょっとそちらでお待ちください」
と、何だかマニュアル通りっぽい対応をしてきただけだった。
稲生:(これはこのまま忘れられるパティーンだな……)
稲生がそう思った時だった。
隣の職員室から、教員らしき男性が足早に事務室にやってきた。
よほど急いでいるのか、稲生達に一瞥もくれなかった。
年齢的には20代半ばから後半といったところ。
実年齢的には、稲生と同じくらいだろう。
何やら書類を手に、事務室の壮年事務員と話をしていた。
そして、また廊下に出て来る。
で、今度は稲生達に気づいた。
男性教員:「何ですか、あなた達は?」
稲生:「あ、あの、僕達は……」
その時、稲生は自分がローブのフードを被ったままであることに気づいた。
さすがに屋内でこれは、ビジネスマナーとしてもハズレだろう。
そう思って、フードを取った。
稲生:「占いや霊能なんかを……」
男性教員:「ユタじゃないか!」
稲生:「え?」
男性教員:「俺だよ!同じ大学の中島だよ!」
稲生:「ナカジーか!」
中島:「世界的に有名な占い師に弟子入りしたって聞いたけど、なに?やっぱりあの事件で来たのか!?」
稲生:「そうなんだよ」
中島:「ユタの可愛い彼女さんも一緒か!」
マリア:「Ah...(勇太も一瞬分からなかっただけに、私もコイツ誰だっけ状態……)」
稲生が大学生だった頃、マリアも1度その大学を訪れたことはあった。
その頃も威吹が同行することは多く(高校時代ほど毎日同行することは無くなった)、威吹が稲生のことを『ユタ』と呼ぶので、高校時代の友人同様、大学時代の友人も同じように呼ぶ。
尚、大学構内においては、怪奇現象に遭遇することは殆ど無かった。
稲生:「そうか。キミは高校の教員になったんだっけか」
中島:「そうなんだよ」
稲生:「用件というのは実は正にキミの言う通りなんだ。ちょっと気になることがあってね。是非とも調査させてもらえないだろうか?僕達が勝手に来たわけだから、別にお金をもらおうとは思わないよ。ですよね、先生?」
イリーナ:「ええ。これは私の弟子達への校外学習の一環として来たようなものです。お邪魔はしませんので、何卒よろしくお願い致しますわ」
中島:「分かりました。取りあえず、僕から話をしてみます」
どうやら、イリーナの占いは的中したようである。