報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「臨時台風の下で」 2

2018-09-17 18:57:23 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日10:50.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1F仏間]

 ジリリリリリと目覚まし時計のベルが鳴る。

 イリーナ:「はい。じゃあ、これでラテン語講座中編は終了よ。10分休憩したら、次はいよいよ後編ね。これで午前中は終わり」
 稲生:「ありがとうございました」
 マリア:「…………」

 マリアは眠気を堪えるのに必死だった。

 マリア:「……ぶっちゃけ、ラテン語、自動通訳魔法で良くない?」
 稲生:「ダンテ先生著述の魔道書には効きませんからねぇ……」

 稲生は席を立った。
 トイレに行くのと、あともう1つやることがある。
 1階のトイレはイリーナが使っているので、稲生は2階のトイレに行く。
 その後リビングに行って、家族共用のPCを開く。

 マリア:「何をしてるの?」
 稲生:「昼食の用意ですよ。こんな台風じゃ、買いにも食べにも行けませんもの」
 マリア:「で、何を頼むの?」
 稲生:「ピザでいいですか?」
 マリア:「注文できるの?」
 稲生:「大丈夫みたいですよ」
 マリア:「ほおほお」
 稲生:「何がいいですか?」
 マリア:「この、ミートが沢山載っているヤツ」
 稲生:「マリアさんもなかなか肉食ですね。ま、日本人にとって白人はそういうイメージですけど。飲み物は?」
 マリア:「この紅茶」
 稲生:「じゃあ、僕は……。先生は何がいいですかね……?」
 イリーナ:「グリーンティーよろしく」
 稲生:「うわ、びっくりした!」

 いつの間にか背後にイリーナがいた。

 イリーナ:「あと、フランスのブルターニュ地方生まれのリリアンヌは魚食中心だったらしいよ」
 稲生:「そ、そうですか」

 稲生は慣れた手つきでPCを操作し、ピザと飲み物を注文した。

 イリーナ:「段々魔法が魔法じゃなくなって来ちゃったねぇ……」

 その為か、未だに稲生は水晶玉を貸与はされていても、ほとんど使ったことがない。
 本科教育の際に実習で使っただけだ。
 ほとんどスマホで事足りてしまうからだ。

 稲生:「ちょうど12時に来るみたいですよ」
 イリーナ:「そお。それじゃ、ラテン語講座後編はピザのデリバリーが来たら終了ってことにしようかねぇ……」

 その時、仏間からまた目覚まし時計のベルが聞こえて来た。

 イリーナ:「はい、休み時間終わり。早速始めるよ〜」
 稲生:「よろしくお願いします」
 マリア:「…………」←眠気防止の為、稲生からもらったミンティアを口に放り投げる。

[同日12:00.天候:雨 稲生家1F仏間]

 イリーナ:「……はい、というわけで、ラテン語の基礎講座後編はこれにて終了〜!」

 ジリリリリリリ!

 稲生:「ちょうど時間ですね」
 マリア:「でも、まだピザが来ない……」
 稲生:「この台風ですからね。なかなか無茶はできませんよ」
 イリーナ:「ま、もう少し待ちましょう」
 稲生:「それより先生、50分でよくここまで教えて頂けましたね」
 イリーナ:「50分ごとに10分の休憩を挟むと効率がいいって本当ね。私も初めてやってみたけど、なかなか上手く行くものね」
 稲生:「持ち時間を余すことなく、かといってオーバーすることもなくピッタリにやることはなかなか難しいんですよ」
 イリーナ:「それもそうね」
 稲生:「僕が大学生の頃、教育実習に行った時は……」

 ピンポーンとインターホンが鳴る。

 稲生:「おっ、やっとピザ来た。はーい!」

 稲生は自分の財布を手に玄関に向かった。

 イリーナ:「それじゃ、ランチタイムと行きましょうか」
 マリア:「はい」

 ダイニングへ向かうイリーナとマリア。
 会計を済ませた稲生が、Lサイズのピザと飲み物を持って来た。

 稲生:「はい、無事に届きましたよ」
 イリーナ:「おー、素晴らしい」
 マリア:「たまにはピザもいいかもな」

 稲生がピザの入った箱を開けた時だった。

 稲生:「あっ、しまった!」
 イリーナ:「なに?」
 稲生:「Lサイズだと10切れになっているんです。3人で割れませんね」
 イリーナ:「それなら勇太君が1切れ多く食べればいいわよ」
 稲生:「僕がですか?」
 イリーナ:「注文から支払いまでしてくれたの勇太君なんだから、その権利があるわ」
 マリア:「確かに……」
 稲生:「そうですか?それならお言葉に甘えて……」

 稲生はピッとテレビを点けた。
 平日の昼時なので、ワイドショーをやっている。
 やはり突然発生した台風について中継を行っていた。

 稲生:「これがアナスタシア組の不始末だって知ったら、マスコミも騒ぎますかね?」
 イリーナ:「それは大丈夫でしょう。そもそもマスコミが嗅ぎ付けられるわけないし、もし嗅ぎ付けた場合であっても、最凶魔女軍団ですもの。【お察しください】」
 稲生:「怖い怖い。やはり、ロシアではロシアンマフィアだったりするんですね?」
 イリーナ:「お察しください」

 マフィアのボスは大抵男だが、アナスタシア組においては、アナスタシア・スロネフという女魔道師という……。

 稲生:「午後はどうします?」
 イリーナ:「そうねぇ。ラテン語を覚えてもらったことだし、今度はダンテ先生の魔道書を使って、魔法の根本について勉強してもらいましょうかね」
 稲生:「なるほど」
 イリーナ:「そもそも、魔法というものがあるということを『知る』ことから始まるわけだから」
 稲生:「ふーむ……」
 イリーナ:「勇太君くらい霊感の強い人はともかくとして、普通の人はそこが心霊スポットだと分からなかったら、幽霊の存在に気付かないのと同じことよ」
 稲生:「なるほど……」

 分かったような分からないような感じの稲生だった。

 マリア:「あれ?ねぇ、勇太。ここの高校ってすぐ近く?」

 テレビを観ていたマリアは、そこを指さした。

 稲生:「はい?」

〔「……はい、こちら現場となった埼玉県立さいたま中央高校に来ています。御覧のように埼玉県にも台風の影響が出始めまして、時折強い風と雨に晒されています。今日は大事を取って臨時休校となっているこの高校ですが、一部を除く教職員は出勤しておりまして、その教職員が発見したものです。今、警察が規制線を張っておりまして中に入ることはできませんが、今朝7時頃、この高校に通う女子生徒5名が謎の変死を遂げているのが発見されました。……」〕

 稲生:「あれ?ここ、車で10分と掛からない場所ですよ」
 マリア:「栗原江蓮の母校?」
 稲生:「いや、違いますよ。彼女の母校は私立の女子校でしたから……」
 イリーナ:「あいつら、何やってんの?」

 ずぶ濡れの中リポートをするテレビ記者の後ろでピースサインをしているアスモデウスと、黒いハットでなるべく顔を隠そうとするレヴィアタンの姿があった。

 稲生:「もしかして、そこの女子高生達が変死をしたのって……!?」
 イリーナ:「うーむ……」

 イリーナは少し考えた。
 そして……。

 イリーナ:「よし。午後の授業は少し予定を変更して、『悪魔について』もう少し勉強しましょうか」
 稲生:「悪魔達、何かしたんですか?」
 マリア:「でなきゃあいつらあんなことしないし、師匠もこんなこと言わないよ」
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“大魔道師の弟子” 「臨時台風の下で」

2018-09-17 10:14:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[8月29日08:00.天候:雨 埼玉県さいたま市中央区 稲生家1Fダイニング]

 テレビでは台風中継をやっていた。
 よく台風が上陸してくる静岡県の御前崎では、既にテレビ記者が好例の暴風雨に晒されながらのリポートを行っている。

 稲生佳子:「今日は出掛けない方がいいんじゃない?」
 稲生勇太:「う、うん。今日は家でゆっくりしてるよ」
 稲生宗一郎:「その方がいい。父さん達は仕事だから、家の方は頼んだぞ」
 勇太:「分かった。台風の時くらい休めばいいのに……」
 宗一郎:「電車がまだ動いている以上、社員達は出勤してくるというのに、重役の私がのうのうと休んでられるか」

 言っていることは立派なのだが、多分社員達にとっては【お察しください】(と、労働組合員の立場からボソッと……)。

 佳子:「私も仕事なんだけどね。もしかしたら、帰り際は電車が止まって遅くなるかもしれないから」
 勇太:「分かった。その時はルゥ・ラで……」
 イリーナ:「勇太君」
 勇太:「おっと……!」

 あくまでここでのイリーナは魔道師ではなく、表向きの稼業をしている『世界的に著名な占い師』であり、勇太はそこに弟子入りしたことになっている。

 マリア:「ハイヤー、来マシタヨ」

 マリアが窓の外を見ながら言った。
 勇太の両親へのアピールの為か、ここでは自動通訳魔法具を使わない。
 自力で勉強した日本語を話す。

 宗一郎:「そうか。今日は早いな」
 佳子:「そりゃもう、電車を諦めて車に切り替える人もいるからねぇ……」
 宗一郎:「すぐ準備する。せっかくだから、佳子も途中まで乗って行け」
 佳子:「ありがとう」
 勇太:「駅まで乗っけてってあげたら?」

 こうして勇太の両親は台風が接近してくる中、それぞれの職場に出勤して行った。
 佳子も本来なら車通勤なのだが、さすがにこんな台風の中、コンパクトカーで移動するのは危険か。
 まだ、宗一郎を迎えに来た3ナンバーのハイヤーに乗った方がいいかもしれない。

[同日09:00.天候:雨 稲生家1F仏間]

 朝食が終わった後、魔道師達は仏間に移動した。
 因みに片付けはマリアのメイド人形が人間形態になり、代わりにやってくれた。
 仏間にはかつて勇太が用意した日蓮正宗仕様(?)の仏壇が置いてあり、そこに御本尊も安置していたのだが、怨嫉により撤去され、御本尊も返納の憂き目に遭った。
 現実は“となりの沖田くん”のように、そう都合良く行かないのだよ!はっはっはー!
 元々稲生家は稲荷信仰ということもあり、代わりに神棚が祭ってある。
 仏壇を置くスペースは空洞になっている。
 で、この部屋が臨時の講義室ということになる。

 イリーナ:「勇太君の懸念もあるので、早速始めましょう」
 マリア:「ちょっと待ってください。そういえば今朝、私達の部屋に飛び込んで来た理由って何?」
 勇太:「あ、そうか。マリアさんには話してなかった」

 勇太はポンと手を叩いた。

 マリア:「なに?」
 勇太:「いえ、昨夜、丑寅勤行をやったんです。大石寺の客殿で午前2時半から行われる勤行です」

 お坊さん達にとってはこれが朝勤行ってことは、えーと……どういうことだ?
 大石寺のお坊さん達の朝は午前2時半から始まる?

 勇太:「夜中に目が覚めて、なかなか寝付けなかったもので……」
 マリア:「それがどうした?」
 勇太:「やっている最中に、何だか外が騒がしくなって……。でも、途中で止めるわけにもいかないし……」
 イリーナ:「賢明な判断だったね。そういう儀式めいたものは、途中で止めてはダメよ?」
 勇太:「はい。ただ、それだけなんですけど、アスモデウスが部屋に入ってきてこう言ったんです」

 アスモデウスとはキリスト教における七つの大罪のうち、『色欲』を司る悪魔である。
 その為、悪魔の世界の中では高級な部類に属する。
 勇太との契約が内定していることもあり(勇太はまだ見習なので、正式な契約が結べない)、時折様子を見に来るのである。
 悪魔の見た目はその人間の心理に大きく左右されるものの為、かつては黒ギャルの姿で勇太の前に現れていたが、今では白ギャルに変わっている。

 勇太:「『近くで悪魔の召喚術式をやってたもんで、ついつい見に行っちゃったよ。他のヤツが先に召喚されてたから、アタシの出番は無かったけどね』なんて……」
 マリア:「悪魔の召喚術だって!?」
 イリーナ:「いや、アタシもね、昨夜トイレに入っている時に何となくそう感じたのよ。でね、トイレから戻っている最中に悪魔達が外に出て行くのを見たものだからさぁ……」
 勇太:「さすがに勤行が終わる頃には僕も眠くなっていたので、話半分にしか聞いてなかったんですが、起きてからよくよく考えてみると、これってヤバいことなんじゃないかと……」
 イリーナ:「うん、ヤバいだろうね」
 マリア:「よっぽどちゃんとした儀式と、それなりの強い念が無い限りは、そうそう滅多に悪魔なんて呼び出せないものだと思いますけど?」

 マリアの場合はかなり念が強かったらしい。
 だが哀しいかな、神(イエス・キリスト)に祈ったつもりが、人間時代にとても強い迫害を受けていたマリアに救いの手を差し伸べたのは悪魔だった。

 稲生:「マリアさんみたいな人が呼び出した?」
 マリア:「うそ!?」
 イリーナ:「有り得なくは無いね。この辺りは、私の契約悪魔に任せておきましょう。悪魔のことは、同じ悪魔に任せておくべきだわ。大丈夫。昨夜、私の契約悪魔も野次馬しに行ったみたいだから。ね?」
 レヴィアタン:「……Yes.」

 いつの間にかイリーナの傍らに現れたレヴィアタンが、咳払いをしながら頷いた。
 野次馬根性で見に行ったことがバレバレで、バツが悪かったのだろうか。

 レヴィアタン:「あー……その……何だ」

 まるでスパイ機関のエージェントのような姿をしたレヴィアタン。
 但し、映画のそれが殆ど黒服に身を包んでいるようなイメージの中、この季節にそぐわないマフラーだけはシンボルカラーのピンク色だった。

 アスモデウス:「はいはい。じゃ、調査に行って来ますから。ほら、行くよ」
 レヴィアタン:「う、うむ……」

 アスモデウスは相変わらずギャルの恰好をしていたが、硬派(?)のレヴィアタンの腕を掴んで出て行った。
 悪魔達にとっては、外が台風でも何のそのらしい。
コメント (2)
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