[8月29日15:00.天候:曇一時雨 埼玉県さいたま市中央区 さいたま中央高校]
しばらく応接室で待たされた稲生達だったが、やっと中島がやってきた。
彼はこの高校の教員で、稲生とは大学の同級生だった者である。
中島:「いやあ、上司達が渋っちゃってねぇ……」
稲生:「ま、そりゃそうだろうな。で、ダメだって?」
中島:「俺が全部案内するってことでOKにしてもらったよ」
稲生:「おお〜!」
中島:「但し、あくまでこの台風で警察は一時退散しただけで、捜査はまだ続いているから、それの妨害にならないようにとのことだ」
稲生:「分かった。……ですって、先生」
イリーナ:「了解です。要は規制線の中に入るなということですね」
中島:「そういうことです」
こうして稲生達は中島の案内で現場に向かうことにした。
雨は時折サーッと強く降ってくるだけで、それはまるで通り雨のようである。
あっという間に降ってきて、あっという間に止んでしまう。
それよりも問題なのは強い風。
これは常にビュウビュウ吹いている。
中島:「本当に変な台風ですね。まさか、これも変死事件に関係があるんじゃ?」
稲生:「それを調べたいんだよ」
中島:「いきなり否定はしないんだ」
稲生:「まあね……」
この変な台風を発生させたのは、アナスタシア組。
伊豆大島でバカンス……もとい、合宿を行っていたところ、魔法の実技講習にて1人の見習魔道師が実験に失敗したものらしい。
もちろん素人には、何をどうしたらこんなことになるのか、さっぱり分からない。
稲生もまだ見習である為、全くその通りであった。
もしかしたら、強い力を持った悪魔が何かやらかした可能性もあるので。
それで、中島の疑問を否定しなかったのだ。
強い力を持った悪魔というのは、それは神にも匹敵する力を持つ。
中島:「ここですよ」
稲生:「ほお……」
中島に連れて来られたのは、体育館裏。
昔のマンガなどでは不良の溜まり場だったり、リンチの現場だったり、御礼参りの現場だったり、男女生徒のイチャラブ青k……ゲフンゲフン!イチャラブ野外p……ゲフンゲフン!……の現場にも指定される場所だ。
稲生の母校である東京中央学園においては、そういう甘酸っぱいエピソードなど皆無に等しく、怪談話の主人公達に占拠された場所であった。
この高校も、漏れなくそういう舞台になってしまったのだろう。
中島:「あそこに全員、銘々に倒れていたんですよ。私が駆け寄った時は全員、息をしていませんでした」
稲生:「なに?ナカジーが第一発見者だったの!?」
中島:「だから、テレビでインタビューとか受けさせられたよ。警察からも色々と話を聞かれたしね」
稲生:「そのコ達、一体どうしてここへ?」
中島:「それが分かれば苦労しないよ。うちは今月27日に始業式があって、28日から授業が開始されるんだが……。下校時刻を過ぎて、全員帰ってるんだよ」
稲生:「なるほど……。ということは、1度帰宅してからまた来たのか……」
稲生達がそんな話をしていると、イリーナは規制線を潜った。
中島:「あっ、ちょっと!中に入っては……」
イリーナ:「御心配無く」
イリーナは目を細めたまま笑みを浮かべると、スーッと浮き上がった。
イリーナ:「足跡は一切残しません」
中島:「ええーっ!?」
稲生:「せ、先生のイリュージョンの1つだよ」
マリア:(また調子に乗って、この人は……)
マリアは師匠の行動に心の中で舌打ちをした。
もっとも、稲生は中島と一緒に驚き、マリアは舌打ちをするという反応の違いで2人の魔法の習熟度の違いが分かるのである。
イリーナ:(魔法陣の残り香がするわ。やはり誰かがここで悪魔の召喚術を行っていたのね)
強い風雨に晒され、魔法陣がそこにあったことなどは殆ど分からない。
イリーナ:(さあ、どういう経緯でこうなったのか教えてもらいましょうか)
イリーナは水晶球を取り出した。
イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
水晶球に現れたその映像は……。
[同日15:30.天候:雨 さいたま中央高校1F 応接室]
稲生:「やはり悪魔の召喚術式が行われたわけですか」
イリーナ:「ええ。たまたま魔法に興味を持ったコがあの中にいて、色々と研究していたみたいですね。で、仲間に炊き付けられているうちに、実際やってみる流れになったしまったと。で、実際やってみたら、本当に上手く行ったみたいですね。悪魔というのは1度呼び出したら、契約を結ばないと帰ってくれませんから」
マリア:「これ、きっとゴエティア系の誰かですよ?よく呼び出せたものですね。普通、ゴエティア系くらいの強い悪魔なんて、ただの人間の前には滅多に現れないのに……」
イリーナ:「そういうあなただって、ベルフェゴール呼び出せてたじゃない」
マリア:「別に、私はイエス・キリストに祈ったつもりだったんで、呼びたくて呼んだんじゃありません」
稲生:「そのコ、イジメられたりとかしてたのかい?」
中島:「いや、そういう話は聞いてなかったんだが……。ただ、スピリチュアルに興味のある大人しいコだったとは聞いてる」
稲生:「あんまり友達は多い方じゃなかったか」
中島:「多分ね。どちらかというと、休み時間でも教室の片隅で占いの本とかを読んでいるコだったらしいよ」
稲生:「じゃ、先生のことも知ってたかもしれませんね」
イリーナ:「残念ね。生きているうちに会えたら、握手とサインくらいしてあげたのに……」
稲生:「悪魔はどういう契約を結んだんでしょうか?」
イリーナ:「そこまでは水晶球に出てこないわね。ただ、悪魔の方も強かだから、合法的に全員の魂をもらっていくという契約を結ばせたのは確かね」
中島:「これ、警察に……」
稲生:「話せるわけないよね。これでめでたく、事件は迷宮入りということだ」
イリーナ:「取りあえず、あなたができることは、生徒の皆さんに『くれぐれも悪魔の召喚術式を素人が気軽にやってはいけない』ことを呼び掛けることではないでしょうか?」
中島:「それも難しいことですな」
中島は困り果てた顔をした。
稲生:「だよねぇ……。僕達としても、他にできることは、この犯人が誰なのかを突き止めてあげることくらいだけど……」
イリーナ:「都合良くうちの組、全員ゴエティア系の悪魔に縁の無いコばっかりだもんね」
稲生:「そうなってくると、アナスタシア組が怪しいということになりますか?あそこ、全員がゴエティア系悪魔の契約者でしょう?」
イリーナ:「やっぱりナスっち、締め上げるしかないか」
マリア:「でもゴエティア系の悪魔の方でも、全員が誰かと契約しているとは限らないわけでしょう?ヒマなフリーダムが暇つぶしに出て来ただけかも……」
イリーナ:「いずれにせよ、ここでは分からないか。1度引き上げて、天候が回復したら、私達も魔法陣を描いて呼び出してみましょう」
稲生:「魂抜かれたりしませんかね?」
イリーナ:「契約もしないのに、そんなことできるわけないでしょう。それに、イザとなったらうちの悪魔達がケンカしてくれるから」
稲生:「ははは……」
キリスト教系の悪魔とゴエティア系の悪魔は仲が悪いと、ダンテ門内では有名だ。
しばらく応接室で待たされた稲生達だったが、やっと中島がやってきた。
彼はこの高校の教員で、稲生とは大学の同級生だった者である。
中島:「いやあ、上司達が渋っちゃってねぇ……」
稲生:「ま、そりゃそうだろうな。で、ダメだって?」
中島:「俺が全部案内するってことでOKにしてもらったよ」
稲生:「おお〜!」
中島:「但し、あくまでこの台風で警察は一時退散しただけで、捜査はまだ続いているから、それの妨害にならないようにとのことだ」
稲生:「分かった。……ですって、先生」
イリーナ:「了解です。要は規制線の中に入るなということですね」
中島:「そういうことです」
こうして稲生達は中島の案内で現場に向かうことにした。
雨は時折サーッと強く降ってくるだけで、それはまるで通り雨のようである。
あっという間に降ってきて、あっという間に止んでしまう。
それよりも問題なのは強い風。
これは常にビュウビュウ吹いている。
中島:「本当に変な台風ですね。まさか、これも変死事件に関係があるんじゃ?」
稲生:「それを調べたいんだよ」
中島:「いきなり否定はしないんだ」
稲生:「まあね……」
この変な台風を発生させたのは、アナスタシア組。
伊豆大島でバカンス……もとい、合宿を行っていたところ、魔法の実技講習にて1人の見習魔道師が実験に失敗したものらしい。
もちろん素人には、何をどうしたらこんなことになるのか、さっぱり分からない。
稲生もまだ見習である為、全くその通りであった。
もしかしたら、強い力を持った悪魔が何かやらかした可能性もあるので。
それで、中島の疑問を否定しなかったのだ。
強い力を持った悪魔というのは、それは神にも匹敵する力を持つ。
中島:「ここですよ」
稲生:「ほお……」
中島に連れて来られたのは、体育館裏。
昔のマンガなどでは不良の溜まり場だったり、リンチの現場だったり、御礼参りの現場だったり、男女生徒のイチャラブ青k……ゲフンゲフン!イチャラブ野外p……ゲフンゲフン!……の現場にも指定される場所だ。
稲生の母校である東京中央学園においては、そういう甘酸っぱいエピソードなど皆無に等しく、怪談話の主人公達に占拠された場所であった。
この高校も、漏れなくそういう舞台になってしまったのだろう。
中島:「あそこに全員、銘々に倒れていたんですよ。私が駆け寄った時は全員、息をしていませんでした」
稲生:「なに?ナカジーが第一発見者だったの!?」
中島:「だから、テレビでインタビューとか受けさせられたよ。警察からも色々と話を聞かれたしね」
稲生:「そのコ達、一体どうしてここへ?」
中島:「それが分かれば苦労しないよ。うちは今月27日に始業式があって、28日から授業が開始されるんだが……。下校時刻を過ぎて、全員帰ってるんだよ」
稲生:「なるほど……。ということは、1度帰宅してからまた来たのか……」
稲生達がそんな話をしていると、イリーナは規制線を潜った。
中島:「あっ、ちょっと!中に入っては……」
イリーナ:「御心配無く」
イリーナは目を細めたまま笑みを浮かべると、スーッと浮き上がった。
イリーナ:「足跡は一切残しません」
中島:「ええーっ!?」
稲生:「せ、先生のイリュージョンの1つだよ」
マリア:(また調子に乗って、この人は……)
マリアは師匠の行動に心の中で舌打ちをした。
もっとも、稲生は中島と一緒に驚き、マリアは舌打ちをするという反応の違いで2人の魔法の習熟度の違いが分かるのである。
イリーナ:(魔法陣の残り香がするわ。やはり誰かがここで悪魔の召喚術を行っていたのね)
強い風雨に晒され、魔法陣がそこにあったことなどは殆ど分からない。
イリーナ:(さあ、どういう経緯でこうなったのか教えてもらいましょうか)
イリーナは水晶球を取り出した。
イリーナ:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!」
水晶球に現れたその映像は……。
[同日15:30.天候:雨 さいたま中央高校1F 応接室]
稲生:「やはり悪魔の召喚術式が行われたわけですか」
イリーナ:「ええ。たまたま魔法に興味を持ったコがあの中にいて、色々と研究していたみたいですね。で、仲間に炊き付けられているうちに、実際やってみる流れになったしまったと。で、実際やってみたら、本当に上手く行ったみたいですね。悪魔というのは1度呼び出したら、契約を結ばないと帰ってくれませんから」
マリア:「これ、きっとゴエティア系の誰かですよ?よく呼び出せたものですね。普通、ゴエティア系くらいの強い悪魔なんて、ただの人間の前には滅多に現れないのに……」
イリーナ:「そういうあなただって、ベルフェゴール呼び出せてたじゃない」
マリア:「別に、私はイエス・キリストに祈ったつもりだったんで、呼びたくて呼んだんじゃありません」
稲生:「そのコ、イジメられたりとかしてたのかい?」
中島:「いや、そういう話は聞いてなかったんだが……。ただ、スピリチュアルに興味のある大人しいコだったとは聞いてる」
稲生:「あんまり友達は多い方じゃなかったか」
中島:「多分ね。どちらかというと、休み時間でも教室の片隅で占いの本とかを読んでいるコだったらしいよ」
稲生:「じゃ、先生のことも知ってたかもしれませんね」
イリーナ:「残念ね。生きているうちに会えたら、握手とサインくらいしてあげたのに……」
稲生:「悪魔はどういう契約を結んだんでしょうか?」
イリーナ:「そこまでは水晶球に出てこないわね。ただ、悪魔の方も強かだから、合法的に全員の魂をもらっていくという契約を結ばせたのは確かね」
中島:「これ、警察に……」
稲生:「話せるわけないよね。これでめでたく、事件は迷宮入りということだ」
イリーナ:「取りあえず、あなたができることは、生徒の皆さんに『くれぐれも悪魔の召喚術式を素人が気軽にやってはいけない』ことを呼び掛けることではないでしょうか?」
中島:「それも難しいことですな」
中島は困り果てた顔をした。
稲生:「だよねぇ……。僕達としても、他にできることは、この犯人が誰なのかを突き止めてあげることくらいだけど……」
イリーナ:「都合良くうちの組、全員ゴエティア系の悪魔に縁の無いコばっかりだもんね」
稲生:「そうなってくると、アナスタシア組が怪しいということになりますか?あそこ、全員がゴエティア系悪魔の契約者でしょう?」
イリーナ:「やっぱりナスっち、締め上げるしかないか」
マリア:「でもゴエティア系の悪魔の方でも、全員が誰かと契約しているとは限らないわけでしょう?ヒマなフリーダムが暇つぶしに出て来ただけかも……」
イリーナ:「いずれにせよ、ここでは分からないか。1度引き上げて、天候が回復したら、私達も魔法陣を描いて呼び出してみましょう」
稲生:「魂抜かれたりしませんかね?」
イリーナ:「契約もしないのに、そんなことできるわけないでしょう。それに、イザとなったらうちの悪魔達がケンカしてくれるから」
稲生:「ははは……」
キリスト教系の悪魔とゴエティア系の悪魔は仲が悪いと、ダンテ門内では有名だ。
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