[8月29日15:00.天候:雨 東京都江東区森下 ワンスターホテル]
オーナーの予想通り、アナスタシア組の不祥事で発生させてしまった台風により公共交通機関が軒並みストップしてしまった為、宿泊客のキャンセルが相次いでしまっていた。
オーナー:「こりゃ予想通り、然るべき所に苦情申し立てをするしかないかな……」
オーナーは白髪交じりの頭をかきながら困った顔をした。
と、そこへガーッとエントランスの自動ドアが開く。
オーナー:「いらっしゃいま……」
同時に暴風も館内に入ってきた。
風除室はあるので、雨まで吹き込んでくるまでは無かったが……。
オーナー:「って、あれ?」
オーナーが目を丸くしたのは、そこにいたのは鈴木だからだった。
鈴木:「こんにちは」
オーナー:「鈴木さん、いらっしゃい。あれ?今日、予約入れてましたっけ?」
鈴木:「いえ。エレーナに会いたくなったので、飛び込みです。部屋空いてますか?」
オーナー:「この台風で軒並みキャンセルになっているところですよ」
鈴木:「そのうちの一部屋、俺に回してもらえませんか?」
オーナー:「どうぞどうぞ。大歓迎です」
鈴木は近くのマンションに住んでいるはずだが、たまにこうして泊まりに来る。
それも、エレーナが基本的に休みの日を狙ってだ。
オーナー:「本当は今ここにエレーナがいるはずなんですが、この台風でどうせヒマになるだろうからと、休みにしちゃったんです」
鈴木:「ええ。だろうと思いましたよ」
オーナー:「よくお分かりで……」
鈴木:「ニートをナメるなって感じですね」
鈴木は宿泊者カードに、慣れた手つきで自分の名前や住所を書いた。
オーナー:「ありがとうございます。お部屋の場所に御希望はありますか?」
鈴木:「最上階がいい。エレーナがホウキで離着陸する所が見れる部屋」
オーナー:「なるほど。確かにエレーナは屋上から離着陸していますが、今日は台風直撃中なので飛ばないと思いますよ」
鈴木:「それでもいい」
オーナー:「かしこまりました。それでは鈴木様、501号室に一泊ですね。料金前金でお願い致します」
鈴木:「はい」
鈴木は財布の中から現金を取り出した。
いつもは親のクレジットカードだったわけだが……。
オーナー:「1万円お預かりします。……珍しいですね。今日は現金払いですか」
鈴木:「現金が手に入ったんでね。俺の作ったゲームが、イベントで売れたんだ」
オーナー:「それは良かったですね。……それではこちらがお釣りです。鍵、お渡ししますね」
鈴木:「俺はゲーム作りが合っているのかもな……。あっ、エレーナは?」
オーナー:「自室にいらっしゃいますよ。鈴木様の御到着をお知らせしましょうか?」
鈴木:「もちろん、是非!」
オーナー:「かしこまりました。それでは後で伝えておきます。まずはお部屋にどうぞ」
鈴木:「今日もよろしく」
鈴木はエレベーターに乗り込んだ。
それで5階へ向かったことを確認したオーナーは、内線電話でエレーナの部屋に繋いだ。
[同日同時刻 天候:雨 同ホテルB1F エレーナの部屋]
エレーナ:「……つまり、魔法というのはそれが存在することを知ることから始まるわけ。リリィの場合はどういう魔法が使えるかというより、そもそも……」
エレーナは自室で後輩のリリアンヌに魔法の基礎を教えていた。
基礎をマスターしたことが認定されているのがマスターであるわけだから、それを見習に教えることは構わないことになっている。
魔道士と魔道師の違いは、弟子を取れる資格があるかどうか(或いは実際に弟子を取っているかどうか)であるが、ダンテ一門においては『魔道士』という言葉を使うことは殆ど無く、ほぼ全て『魔道師』に統一されている。
これはマスターになれば大抵、後輩の1人くらいはいるものとされ、その後輩に色々と教えるからというのが理由である。
リリアンヌはフランス語でノートにメモを取っていた。
門内の公用語は英語であるが、マルチリンガルのエレーナはフランス語も喋れる為、それでリリアンヌに話している。
リリアンヌの場合は、まず英語を話すことから始めないといけないようだ。
自動通訳魔法具は貸与されているが、これとて魔力を消費する為、節約でエレーナはあえて使っていない。
あと、せっかく外国語を覚えても、話さないと忘れるからという理由もある。
プー!
エレーナ:「ぅおっと!?」
ドア横の壁に掛けられている内線電話が鳴った。
何かのアラームのような音がするので、鳴る時はびっくりする。
まあ、住み込みで働き始めた当初は寝坊ばかりしていたエレーナをオーナーが起こすのには役に立ったようだが。
エレーナ:「何だ何だ?」
リリアンヌ:「フヒヒ……。やっぱり忙しくなりましたかね……」
エレーナ:「まさか!」
エレーナは受話器を取った。
エレーナ:「はい、エレーナです!」
オーナー:「ああ、私だ」
エレーナ:「忙しくなりましたか?」
オーナー:「いや、そういうわけじゃない。ただ、飛び込みのお客様が入ったから知らせておこうと思っただけだ」
エレーナ:「ま、まさかそれって……?」
オーナー:「ああ。鈴木弘明君だよ」
エレーナ:「こ、この台風の中わざわざ……」
オーナー:「それだけキミへの想いが強いということだ。それだけは買ってあげなさい」
エレーナ:「勝手なこと言わないでください。いくらオーナーでも怒りますよ?」
オーナー:「それは怖い。とにかく、501号室にご案内したから」
エレーナ:「私の部屋には案内しないでくださいよ?」
オーナー:「それは鈴木君とキミ、当事者間で解決してもらうよ」
エレーナ:「民事訴訟じゃないんですから……」
オーナー:「顔くらい出してあげたら?」
エレーナ:「冗談!私は今日は休みですからね。お客さんとして泊まる分にはいいですが、私の部屋に呼ぶつもりはありませんから」
そう言ってエレーナは電話を切った。
エレーナ:「全く……」
リリアンヌ:「フヒヒ……。何かありましたか?」
エレーナ:「鈴木が泊まりに来たんだとよ」
リリアンヌ:「フヒッ!?こ、懲りないですねぇ……」
エレーナ:「全く。いっそのこと、マリアンナが大人しく押し倒されりゃ良かったんだよ」
リリアンヌ:「フヒヒ……。いくら何でも、それはあんまりかと……」
エレーナ:「悪かったな。さすがの私も、レイプまではされたことが無い」
リリアンヌ:「ど、どうします?お、お追い出しますか?」
エレーナ:「バーカ。さすがに正式な宿泊客を追い出すわけにはいかねーよ。バレたら、さすがに私はクビだ」
リリアンヌ:「で、では……?」
エレーナ:「私は明日の10時まで、ここに籠城する!絶対に鈴木を入れるな!」
リリアンヌ:「り、了解です!」
プー!
エレーナ:「あーもうっ!何だよ!?」
エレーナはまた鳴り出した内線電話を取った。
オーナー:「ああ、私だ。何度も済まない。鈴木君がね、『夕食奢るから一緒にどうか?』って言うんだけど……」
エレーナ:「えっ、マジですか?奢ってくれるって?」
オーナー:「何でも趣味で作ったゲームがイベントで完売して、大金が入ったらしいんだが……」
エレーナ:「大金ですって!?」(←両目に¥マークを浮かべるエレーナ)
男に二言は無く、例えそんなことを言われても断るのが男というものだが、しかしエレーナは女である。
その為か……。
エレーナ:「ちょっと考えさせてください!」
リリアンヌ:「フヒ!?」
コロッと考えが変わるエレーナに、後輩のリリアンヌは……。
リリアンヌ:(時々、先輩がよく分からない……)
と、思ったという。
オーナーの予想通り、アナスタシア組の不祥事で発生させてしまった台風により公共交通機関が軒並みストップしてしまった為、宿泊客のキャンセルが相次いでしまっていた。
オーナー:「こりゃ予想通り、然るべき所に苦情申し立てをするしかないかな……」
オーナーは白髪交じりの頭をかきながら困った顔をした。
と、そこへガーッとエントランスの自動ドアが開く。
オーナー:「いらっしゃいま……」
同時に暴風も館内に入ってきた。
風除室はあるので、雨まで吹き込んでくるまでは無かったが……。
オーナー:「って、あれ?」
オーナーが目を丸くしたのは、そこにいたのは鈴木だからだった。
鈴木:「こんにちは」
オーナー:「鈴木さん、いらっしゃい。あれ?今日、予約入れてましたっけ?」
鈴木:「いえ。エレーナに会いたくなったので、飛び込みです。部屋空いてますか?」
オーナー:「この台風で軒並みキャンセルになっているところですよ」
鈴木:「そのうちの一部屋、俺に回してもらえませんか?」
オーナー:「どうぞどうぞ。大歓迎です」
鈴木は近くのマンションに住んでいるはずだが、たまにこうして泊まりに来る。
それも、エレーナが基本的に休みの日を狙ってだ。
オーナー:「本当は今ここにエレーナがいるはずなんですが、この台風でどうせヒマになるだろうからと、休みにしちゃったんです」
鈴木:「ええ。だろうと思いましたよ」
オーナー:「よくお分かりで……」
鈴木:「ニートをナメるなって感じですね」
鈴木は宿泊者カードに、慣れた手つきで自分の名前や住所を書いた。
オーナー:「ありがとうございます。お部屋の場所に御希望はありますか?」
鈴木:「最上階がいい。エレーナがホウキで離着陸する所が見れる部屋」
オーナー:「なるほど。確かにエレーナは屋上から離着陸していますが、今日は台風直撃中なので飛ばないと思いますよ」
鈴木:「それでもいい」
オーナー:「かしこまりました。それでは鈴木様、501号室に一泊ですね。料金前金でお願い致します」
鈴木:「はい」
鈴木は財布の中から現金を取り出した。
いつもは親のクレジットカードだったわけだが……。
オーナー:「1万円お預かりします。……珍しいですね。今日は現金払いですか」
鈴木:「現金が手に入ったんでね。俺の作ったゲームが、イベントで売れたんだ」
オーナー:「それは良かったですね。……それではこちらがお釣りです。鍵、お渡ししますね」
鈴木:「俺はゲーム作りが合っているのかもな……。あっ、エレーナは?」
オーナー:「自室にいらっしゃいますよ。鈴木様の御到着をお知らせしましょうか?」
鈴木:「もちろん、是非!」
オーナー:「かしこまりました。それでは後で伝えておきます。まずはお部屋にどうぞ」
鈴木:「今日もよろしく」
鈴木はエレベーターに乗り込んだ。
それで5階へ向かったことを確認したオーナーは、内線電話でエレーナの部屋に繋いだ。
[同日同時刻 天候:雨 同ホテルB1F エレーナの部屋]
エレーナ:「……つまり、魔法というのはそれが存在することを知ることから始まるわけ。リリィの場合はどういう魔法が使えるかというより、そもそも……」
エレーナは自室で後輩のリリアンヌに魔法の基礎を教えていた。
基礎をマスターしたことが認定されているのがマスターであるわけだから、それを見習に教えることは構わないことになっている。
魔道士と魔道師の違いは、弟子を取れる資格があるかどうか(或いは実際に弟子を取っているかどうか)であるが、ダンテ一門においては『魔道士』という言葉を使うことは殆ど無く、ほぼ全て『魔道師』に統一されている。
これはマスターになれば大抵、後輩の1人くらいはいるものとされ、その後輩に色々と教えるからというのが理由である。
リリアンヌはフランス語でノートにメモを取っていた。
門内の公用語は英語であるが、マルチリンガルのエレーナはフランス語も喋れる為、それでリリアンヌに話している。
リリアンヌの場合は、まず英語を話すことから始めないといけないようだ。
自動通訳魔法具は貸与されているが、これとて魔力を消費する為、節約でエレーナはあえて使っていない。
あと、せっかく外国語を覚えても、話さないと忘れるからという理由もある。
プー!
エレーナ:「ぅおっと!?」
ドア横の壁に掛けられている内線電話が鳴った。
何かのアラームのような音がするので、鳴る時はびっくりする。
まあ、住み込みで働き始めた当初は寝坊ばかりしていたエレーナをオーナーが起こすのには役に立ったようだが。
エレーナ:「何だ何だ?」
リリアンヌ:「フヒヒ……。やっぱり忙しくなりましたかね……」
エレーナ:「まさか!」
エレーナは受話器を取った。
エレーナ:「はい、エレーナです!」
オーナー:「ああ、私だ」
エレーナ:「忙しくなりましたか?」
オーナー:「いや、そういうわけじゃない。ただ、飛び込みのお客様が入ったから知らせておこうと思っただけだ」
エレーナ:「ま、まさかそれって……?」
オーナー:「ああ。鈴木弘明君だよ」
エレーナ:「こ、この台風の中わざわざ……」
オーナー:「それだけキミへの想いが強いということだ。それだけは買ってあげなさい」
エレーナ:「勝手なこと言わないでください。いくらオーナーでも怒りますよ?」
オーナー:「それは怖い。とにかく、501号室にご案内したから」
エレーナ:「私の部屋には案内しないでくださいよ?」
オーナー:「それは鈴木君とキミ、当事者間で解決してもらうよ」
エレーナ:「民事訴訟じゃないんですから……」
オーナー:「顔くらい出してあげたら?」
エレーナ:「冗談!私は今日は休みですからね。お客さんとして泊まる分にはいいですが、私の部屋に呼ぶつもりはありませんから」
そう言ってエレーナは電話を切った。
エレーナ:「全く……」
リリアンヌ:「フヒヒ……。何かありましたか?」
エレーナ:「鈴木が泊まりに来たんだとよ」
リリアンヌ:「フヒッ!?こ、懲りないですねぇ……」
エレーナ:「全く。いっそのこと、マリアンナが大人しく押し倒されりゃ良かったんだよ」
リリアンヌ:「フヒヒ……。いくら何でも、それはあんまりかと……」
エレーナ:「悪かったな。さすがの私も、レイプまではされたことが無い」
リリアンヌ:「ど、どうします?お、お追い出しますか?」
エレーナ:「バーカ。さすがに正式な宿泊客を追い出すわけにはいかねーよ。バレたら、さすがに私はクビだ」
リリアンヌ:「で、では……?」
エレーナ:「私は明日の10時まで、ここに籠城する!絶対に鈴木を入れるな!」
リリアンヌ:「り、了解です!」
プー!
エレーナ:「あーもうっ!何だよ!?」
エレーナはまた鳴り出した内線電話を取った。
オーナー:「ああ、私だ。何度も済まない。鈴木君がね、『夕食奢るから一緒にどうか?』って言うんだけど……」
エレーナ:「えっ、マジですか?奢ってくれるって?」
オーナー:「何でも趣味で作ったゲームがイベントで完売して、大金が入ったらしいんだが……」
エレーナ:「大金ですって!?」(←両目に¥マークを浮かべるエレーナ)
男に二言は無く、例えそんなことを言われても断るのが男というものだが、しかしエレーナは女である。
その為か……。
エレーナ:「ちょっと考えさせてください!」
リリアンヌ:「フヒ!?」
コロッと考えが変わるエレーナに、後輩のリリアンヌは……。
リリアンヌ:(時々、先輩がよく分からない……)
と、思ったという。